エントランスへはここをクリック   


がれき特措法は「議員立法」
の顔をした強権的な官僚立法


青山貞一
環境行政改革フォーラム代表幹事
元東京都市大学・大学院教授
早稲田大学理工学部非常勤講師

掲載月日:2012年4月14日
 独立系メディア E−wave Tokyo


 今日本全国でがれきの広域処理が大きな社会問題となっている。
 
 このがれき広域処理の法的根拠は、通称がれき特措法、正式には、東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(平成23年法律110号)である。

 がれき特措法は、1999年のダイオキシン類対策特別措置法同様、既存の個別の行政実体法とは別に、実体法横断的にダイオキシン類や放射線・放射能などの規制、測定、モニタリング、対策などを新たに立法するものである。また既存の実体法、手続法とは別に新たに特別措置を講ずるものと言える。





 本来、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、廃棄物処理法などの個別実体法の政令省令などを改正し、そこに放射線、放射能などを指定物質として含めるべきであるが、ダイオキシンの場合も、今回同様、個別実体法とは別に特別措置法として定めている。

 上記は環境法及びそれに直接関係する法と特措法との関係だが、今回のがれき特措法では、上記以外に権限、財源との関連では地方自治法、地方財政法などの行政法とも関連する。国が地方自治や地方交付金などの地方財政、さらに国と地方の間の権限、総称事務分担などに係わる問題をまさに「どさくさ紛れ」に、その仕組みを国が自分の都合で勝手に変えているといってもよいだろう。

 ひとことでいえば、これら特措法は、本来、先を見越し立法しておかなければならないこと、また先進諸外国の動向から見て、当然立法措置をとっと置くべき事をせず、大きな社会問題や事故が起きた後、泥縄的に立法措置をとるものと言えよう。

 しかも、日本の場合、行政法の圧倒的多くは、議員立法ではなく、内閣法(内閣提案法)であり、官僚独裁となっている日本省庁は、よほどのことがない限り、先を見て、また諸外国の動向を見て内閣法を率先して準備することはないから、どうしても泥縄的そして事後的なものとならざるを得ないのである。

 1999年のダイオキシン類特別措置法の場合も、それ以前、日本は諸外国が当時、10年も前に規制していたダイオキシンを規制するために、急遽、議員立法で制定したのだが、今回もまさに泥縄そのもので、54機も原発を立地、稼働させた後、しかも福島第一原発事故が起きてから放射線、放射能汚染を対象とした法律をつくったことになる。

 私(青山貞一)自身、や自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(平成四年六月三日法律第七十号)やダイオキシン類対策特別措置法(平成十一年七月十六日法律第百五号)に直接かかわった経験があるので、以下、立法過程論的に、今回のがれき特措法の問題点について触れてみたい。

 この法律には地方自治法との関係、廃棄物処理法との関係、果ては憲法との関連などで多くの批判的論点があると思われるが、もっとも注目すべきはこの特措法が議員立法(議員提出法案)されたことである。

 もちろん、議員提出法案は立法府として最も重要な立法行為であるが、ひとつ間違うと国民や外部の専門家に情報開示がなく、不透明な立法プロセスとなる。

 しかも、2011年8月にできたこの特別措置法は、議員立法で制定されたことになっているが、どうみても環境省、経済産業省、内閣府がそのテンプレートをつくり、国会議員を誘導し制定している可能性が高い。

 とくに問題なのは、立法の内容をなす放射性物質で汚染された「がれき」を全国の基礎自治体に押しつける「広域処理」に関連した法律・立法論の観点、また汚染物質を含む「がれき」を全国に敢えて輸送し、焼却処理し、最終処分するという方法はエントロピーの法則など汚染拡散の科学・技術論の観点から大きな疑義がある。

 にもかかわらず、まったく非公開の環境省の検討会で最初から最後まで検討が進められたところに大きな問題がある。もとより昨年8月以前の段階では、焼却や処分によって発生が予想される放射性物質や各種汚染物質、有害化学物質が既存の一般廃棄物焼却炉でどこまで削除され、また削除された高濃度汚染物質をどう管理するのかについて、まともなデータ、証拠がなかった。それは施行後の現在でも同じである。

 私は環境弁護士100人で構成されるゴミ弁連の顧問だが、そのゴミ弁連の会長で、過去全国各地のゴミ裁判の参謀、指揮官でもある会長の梶山正三弁護士(理学博士)は、広域処理については「全国的なごみ紛争に発展しかねない」と危惧する(東京新聞2012年4月5日号)。

 事実、私たちのところに北海道から沖縄まで全国各地から舞い込む講演依頼を見るまでもなく、梶山弁護士の危惧はすでに現実のものとなっている。

 その結果、現場の実態、実情を無視し、永年、現場で苦労してきた基礎自治体と廃棄物周辺施設の住民の意向を無視し、頭ごなしに、本来自治体の固有事務であり、地方自治、住民自治の原点に国が土足で踏み込む大愚をおかしてしまった。

 当然、放射性物質汚染問題など廃棄物焼却にともなう汚染負荷の増大や風評被害による農作物、魚類、食品、観光などでの風評被害の発生という問題もある。

 本来、議員立法では、私たちがかかわって参議院発、野党発で成立したダイオキシン類対策特措法のように、国会議員と政策秘書が外部の専門家らと連携し、その骨子及び法案の中身を詰め、その後、衆議院法制局あるいは参議院法制局との間で立法準備をするのが本道である。私と池田こみちは当時、数10回国会の議員会館で党派を超えた議員と議論し、その骨子と肉付け作業を行っている。

 しかし、今回の特措法では、会期や時間との関係からか、また放射性物質汚染という専門的な問題があったからか、通常の内閣法まがいの「災害廃棄物安全評価検討」、それも非公開で議事録すら満足に公開しない環境省の検討会に立法事務の前提となる科学論、立法論の大部分を任せたためことが致命的な裏目に出ている。

 環境省の検討会がいかに常軌を逸したものであるかは、東京新聞2012年4月5日号のこちら特報部の右半分にある鷹取敦氏のインタビューに赤裸々に語られている。私は永年この分野に関わってきたが、これほどずさんで透明性のない検討会は見たことがない。

 しかし、昨年夏、上記の一連の経緯と事情を知らない衆参国会議員は、まさに東北地方の市町村が困っているのだからとか、復旧、復興の一助となればという単純な気持ちから、本会議で全員一致の立法となっただろう(下の新聞記事参照)。

◆がれき処理特措法が成立 参院本会議で全会一致
2011.8.12 21:04 産経新聞

 東日本大震災で発生したがれきの処理を被災自治体の要請に応じて、国が代行できるよう定めた「がれき処理特別措置法」が12日、参院本会議で全会一致で可決、成立した。

 特措法はがれき処理の迅速化が目的で、財政力の弱い被災自治体を支援するため、地域の環境対策支援基金を活用し、がれき処理費の国庫補助率を最大90%から平均95%に引き上げる。被災自治体の実態によって最大99%まで補助は可能だ。地方負担分は地方交付税で手当てし、費用は最終的に全額国負担となる。

 環境省によると、がれき処理進(しん)捗(ちょく)状況(2日時点)は被災地の岩手、宮城、福島3県で平均45%。これは仮置き場に搬入した割合で、焼却など最終処分が済むにはなお時間がかかる。

 また、がれきを県外に運んで処理する「広域処理」については、放射性物質が含まれている懸念から、受け入れに難色を示す自治体がある。江田五月環境相は9日の衆院東日本大震災復興特別委員会で「広域処理しなければ対応できない。放射能への心配を払拭するため、環境省も前面に立って調整したい」と述べた。

 しかし、表向きは議員立法でも、この特措法は今までになく、すべて官僚主導、それも審議会などの御用学者を中心に秘密裏に行われ、立法後は環境省が巨額の税金を使い、広告代理店経由で新聞、テレビの情報操作による世論誘導が多くの基礎自治体や国民の批判を呼んだと思える。

 ひとことで言えば、全議員が省庁の官僚にいいようにまるめこまれたと言うことである。日本の立法府が本来の機能を失ってから久しいが、これほどずさんで民主主義を破壊する行政法は未だ見たことがない。

◆青山貞一:立法府が本来の機能を取り戻すために Eforum論文集2011 Vol4. No.1

<参考>

法律名:東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(平成23年法律110号)


関連法名: 東日本大震災復興基本法

目的: 放射性物質で汚染されたがれきの処理

平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法、平成23年8月30日法律第110号、略称放射性物質汚染対処特措法は、2011年3月に発生した東日本大震災による東京電力の福島第一原子力発電所事故による放射性物質で汚染されたがれきや土壌などの処理のための法律。2011年8月30日に公布され、一部を除き同日施行された。福島原発事故が原因の環境汚染に対処する初めての法律。 民主党、菅直人政権下で公布された最後の法律(法律第百十号)である。

その第一章 総則の第一条(目的)には「事故由来放射性物質による環境の汚染への対処に関し、国、地方公共団体、原子力事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、国、地方公共団体、関係原子力事業者等が講ずべき措置について定めること等により、事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的とする。」とあり、個々の日本国民にも一定の責務(第六条 国民の責務)を付与している。

第一章 総則(第一条―第六条)
第二章 基本方針(第七条)
第三章 監視及び測定の実施(第八条)
第四章 事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理及び除染等の措置等
第一節 関係原子力事業者の措置等(第九条・第十条)
第二節 事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理(第十一条―第二十四条)
第三節 除染等の措置等(第二十五条―第四十二条)
第五章 費用(第四十三条―第四十五条)
第六章 雑則(第四十六条―第五十九条)
第七章 罰則(第六十条―第六十三条