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「却下」と「棄却」
〜PLC行政訴訟第一審判決〜

青山貞一

掲載日:2007年5月26日

 ここ半年、国(総務省)相手に提起してきたPLC行政訴訟の第一審判決が昨日(2007念5月25日)、東京地裁決であった。


 ●この行政訴訟そのものについては、以下の訴状を参照のこと。
 訴状(PDF) PLC行政訴訟記事一覧 PLC訴訟関連情報リンク

 ●PLC行政訴訟全体は以下。
 http://plcsuit.jp/


昨年末、東京地方裁判所に提訴したあとに開いた記者会見



 判決は、わずか10秒、裁判長による「却下」のひとことで終わった。しかも、被告である国(総務省)は、草野利一団長(JA1ELY)が言われたように、当日、誰ひとり、席にいないという不見識なものだった。

 私は原告への概要報告で、「今回の判決は『棄却』」ではなく『却下』です。」と伝えた。両者の違いはいうまでもなく非常に大きい。

 すなわち「棄却」は実質審理を行なった上で退けることだが、「却下」は訴訟要件を具備していない訴えだとして、実質審理を行なわずに門前払いで退けることだ。事実、PLC行政訴訟では、今まで実質審議を裁判所で一切できなかった。

 東京地方裁判所の判事は、次のような被告である国(総務省)の言い分にそった判決を行ったといえよう。

 今回のPLC行政訴訟(事件)は、本来、国(総務省)の電波監理審議会に異議申し立てを行うべきであり、その結果に不服がある場合、東京高等裁判所で実質審議を行うものである、という判決となっている。

 行政訴訟における「却下」は、通常、「原告適格」がない、すなわち提起された裁判には原告側に訴えの利益がないとする場合、また「処分性」、すなわちまだ行政庁はまだ行政決定、免許などの処分をしていないから、青写真段階の政策は裁判になじまないとして却下することが圧倒的であった。

 今回の却下もいわば手続論上の却下となる。

 このような状況を改正すべく、官邸主導で司法改革本部行政事件訴訟法改正の検討会が開催され、一昨年春、改正行政事件訴訟法が施行された。

 ここではまでになかった「差し止め請求」及び同「仮処分」を訴訟類型として認めており、さらに事件が重大であり緊要性がある場合は、今回のような電波監理審議会審理ではなく、裁判所(今回の場合は東京地方裁判所)に裁判が提起できるとしている。まだ判決の詳細を検討していないが、今回の判決は東京地裁判決は以下のような背景のもとでなされたと推定できる。

 なお、私が官邸の司法改革本部行政事件訴訟法改正のための検討会で述べた内容は以下 にある。


 ◆青山貞一:
行政事件訴訟法改正に際しての課題について
  〜環境NPOからの政策提言〜

 http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/aoyama-col3025.html

 ◆関連Web(公述依頼文書等)
 http://eritokyo.jp/independent/etc/prtr/gyuseisosyou.html


 それは東京医地裁の判事が、国(総務省)が出した答弁書(原告への反論)を全面的に首肯、取り入れ、また非常に面倒な行政訴訟、それも差し止め請求、さらにはきわめて科学技術など専門性が高い裁判に係わりたくない実務的に判断し、却下したものと推察できる。明らかなる裁判所の不作為である。単なる不作為でなく、本来自分たちが行うべきことを、こともあろうか国行政に丸投げしたことになる。

 今後だが、おそらく次のような道筋となるだろう。

(1)PLC行政訴訟の今後

 今回、東京地裁が却下判決を行ったが、それを不服として、東京高等裁判所に控訴する。その理由は、本件はきわめて重大かつ緊要性を要する行政事件であり、もともと電波法省令改正を主導した総務省の電波監理審議会で審議しても、先が見えている。そこで高裁に対し、地裁で実質審議をさせるよう控訴することである。

(2)電波監理審議会への異議申し立ての今後

 5/24の総務省電波監理審議会の審理では、裁 判における裁判長に相当する行司役に西本主任審理官が着くことを以下のように忌避申立した。

 ■電波監理審議会付議第1号事件主任審理官 西本修一氏の忌避申立
  (2007年5月24日)
  http://plcsuit.jp/denpakanrisingi1-070524.htm

 理由は言うまでもなく西本氏は昨年、電波法省令改正において中心的立場にあった者であること、改正を肯定した意見書を5名の審議会委員に送った張本人であること、しかも意見書を読むと改正を推進する立場が明確である。

 とはいえ、私たちは同時に、この行政不服審査、すなわち省庁所管の審議会への異議申し立てで実質審議をすべできであると考える。

 もちろん、結果は見えている。比喩的に言えば、二審に行ったら一審と同じ裁判長だったということであるからだ。またその裁判長が総務省の役人では、まさに猫に勝つ節の番をさせる、あるいは泥棒に金庫番ををさせるようなものであるからだ。

 実際、私は5月24日に総務省で開催された電波監理新議会審査の場でそう言った。

 それでもこの間、原告や研究者がPLC実験をしてきた結果を基に、省令改正の内容に問題があるかについて公の場で審議すべきであると思う。事実は総務省の小説(=御用学者主導のいい加減なシミュレーション)より奇なりであるからである。

 この審議会審査で国側妥当という結果が出た場合は、(1)とは別に東京高裁で実質審議をすることになる。これは (1)と異なる。

 なお、私たちは行政にいわば文句を言っても問題解決できないから、司法に救済をもとめてきたわけだが、今回の判決は、司法と行政が一緒になって私たちの訴えを却下したことになる。きわめて不当な判決であるといる。
 
 要約的に言えば、司法、裁判が本来の役割、機能を失っている、機能不全となっていることろに本件の本質的問題があると言える。先の行政事件訴訟法改正は一体何だったのか、と考えざるを得ない。
 
 司法の行政への丸投げ問題に関連し、総務省が非常に興味深い資料を公表している。

 ■総務省参考資料:行政不服審査制度検討中間
  とりまとめに関する意見(2007年4月)

http://www.soumu.go.jp/gyoukan/kanri/gyouseifufuku/pdf/070425_s2.pdf

 本資料では、総務省自身が現行の電波審理審議会等、行政不服審査制度が簡易迅速に留意するあまり、客観性、公正な審理というもっとも重要な観点からみて多くの課題があることを認めているとも言える。その通りである。