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<検証・八ツ場ダムC>
「官僚社会主義」
で財政破綻


青山貞一

掲載月日:2008年5月11日
無断転載禁



官僚社会主義による土建公共事業天国、ニッポン!
 
  日本がいかに異常な土木系公共事業天国であるかを示す数値がある。

  経済開発協力機構(OECD)が1990年代後半に行った調査である。それによると、日本は@総額、A対GDP比、B対面積比のいずれにおいてもOECD諸国で土木系の公共事業費がダントツに多いとされていた。

 当時、日本の土木系公共事業額全体の約1/3が道路(第1番目)で、2番目がダム・堰事業であった。

 20年も前から、米国やカナダに比べて1/40以下と狭い日本は、道路やダムばかりを造っていたのである。図1はGDPに対比した当時の日本の公共事業費である。


図1 主要先進国の公共事業費総額
出典:ナショナル・アカウント(1996)、OECD


 図2は、政府支出に占める公共投資(主に土木系公共事業)の割合を示したものである。図より明らかなように、わが国の公共投資の比率は欧米諸国と較べ突出して高い。こんな土建国家は、世界広しといえど先進国では日本以外にはない。


図2 政府支出に占める公共投資の割合の推移
出典:アニュアル・ナショナル・アカウント、OECD


 なぜ、日本がかくも土建公共事業地獄の国になったのか?

 それにはいくつかの理由があるだろうが、筆者は日本が「官僚社会主義」、すなわち表向きは先進民主主義国家でありながら、その実、霞ヶ関の官僚によって一般会計、特別会計ともに国の財政がねじ曲げられてきた実態があると思っている。

 永田町の政治は、あらゆる意味で政治の本来の役割である行政のコントロールができず、特に突出する「官僚社会主義」をコントロールできない。そればかりか、保守政治は「政」「官」「業」癒着のトライアングル(三角形)の一角として土建利権や既得権益の拡大に奔走してきた現実がある。


図3 従来の利権構造

 さらに、言えば「政」「官」「業」癒着のトライアングルは、1990年代はじめから政治、行政、業界の利権的癒着、ネットワークだけでなく、学者、報道機関を組み入れた利権と現状追認、既得権益拡大ののペンタゴン(五角形)のなかに組みいれたと言える。
              ↓

図4 現在の利権構造

 ダムや道路事業の推進過程を見ると、いかに土木工学分野の学者、研究者が図4のペンタゴンに駆り出され、結果的に巨大なダムや道路事業にお墨付きを与えているかが分かる。

 近年では土木系だけでなく環境分野の学者、研究者もいいように利用されている。一方、御用メディアについては、以下を参照して欲しい。

◆青山貞一:日本のメディアの本質を考えるJ巨大公共事業推進の先兵

青山貞一:<検証>八ツ場ダム事業にみるメディアの腐敗と堕落


 その結果、従来にも増して、日本の土建系公共事業国家化を強固なものになっているとさえ思えるのである。まさに、御用学者、御用メディアが「政」「官」「業」に組み込まれ、一体となることで、世界的に見ても異常な土建的公共事業大国ニッポンが国土を蔓延することになった。

 その中核的な司令塔であり現場指揮舞台が、いうまでもない旧建設省、現在の国土交通省であると云える。霞ヶ関の「官僚社会主義」は今も道路、ダムなどの事業費が減らないようにありとあらゆる手段を労している。


土建国家の象徴、ダム・道路事業

 2007年8月30日の日本経済新聞はその一面でダム建設費膨張9兆円・149基調査、当初計画比1.4倍という記事を大きく掲載した。それによれば、日本各地で建設中のダム事業、149基の建設費の総額は約9兆1000億円にのぼるという。

 日本ではいわゆる行革によって、建設省が国土交通省に看板を変えたあとも、河川系、道路系ともに世界に冠たる日本の土木公共事業(工事)天国は変わらない。

 国土交通省はその後も、「政」、「官」、「業」に「学」(誤用学者)、「報」(御用メディア)を加え、中国顔負けの官僚主導で日夜、国費、公費、税金の消費にひたすら走っているのである。
 
 先の日経新聞の記事では、全国で建設中のダム149基の建設費が約9兆100000億円と、当初見積もりの約1.4倍に膨らんでいることを明らかにしている

 理由は工期の延長や設計変更などが主因である。見積もりの約16倍の建設費を計上しているダムもあるという。さらに公共事業評価監視委員会などにより無駄な公共事業の見直しで、一端建設を凍結したダムでも、建設再開の動きがあり、さらに建設費が膨らむ可能性が大きいという。

 まさに私も参加した長野県の浅川水系のダムなどその典型であろう。

 日経の記事には、当初予算がその後大きく修正されたダム事業のリストがあった。以下は、修正後の額で並べた主なダムの建設費の当初見積もりと実際の費用である。

表1 当初予算がその後大きく修正された事業のリスト
ダム名 県名 当初見積額
億円
(A)
実際の
建設費額
億円(B)
倍率
B/A
計画
策定時期
八ッ場 群馬県 2,110 4,600 2.1 1986年
大滝 奈良県 230 3,640 15.8 1972年
徳山 岐阜県 330 3,500 10.6 1976年
川辺川 熊本県 350 2,650 7.5 1976年
滝沢 埼玉県 610 2,320 3.8 1976年
湯西川 栃木県 880 1,849 2.0 1986年
志津見 島根県 660 1,450 2.1 1988年
出典:2007年8月30日の日本経済新聞一面記事より。赤色の強調は筆者

 表1を見ると、「日本の土木系公共事業がいかに小さく生んで大きく育てる」ことがよく分かる。

 日本の将来、とくに財政面での将来は、防衛省と国土交通省を政治がいかにコントロールするか、できるかにかかっていることは間違いない。その意味で防衛省は「旧陸軍」、国土交通省は「関東軍」であると云える。

 以下は平成18年度の公共事業関連予算である。国費が6兆2545億円、もうすぐ期限が切れる財政投融資が3兆6576億円などである。土木系公共事業の年度予算額からみても、上記のダム関連予算(複数年にまたがっている)がいかに大きなものであるかが分かる。

表2 国土交通省の予算(平成18年度)

出典:国土交通省関係予算のポイント、国土交通省
http://www.mlit.go.jp/yosan/yosan06/yosan/03.pdf

 なお、平成19年度の国費総額は6兆588億円とほんのすこし減少しているが、、財政投融資額は逆に3兆9808億円と増加している。

 平成19年度の国土交通省予算内示額


延期につぐ延期で巨額化する八ツ場ダム予算

 八ツ場ダムの総事業費は、1986年当初、2110億円であった。2004年、国土交通省はそれを2倍以上の4600億円に増額した。

 しかし、八ツ場ダム事業では、@国道145号線の4車線の高規格道路化と全面的な付け替え、A新設の一般県道、BJR東日本の吾妻線の全面的な付け替えに伴う、橋梁工事、トンネル工事、道路工事、軌道工事にかかる費用と各種移転補償費が膨大に膨らんだことで、ダム本体工事がまったく行われる前に、2倍に増やした4600億円を食い潰す可能性がでてきた。

 以下は、それを報ずる毎日新聞の記事である。

八ッ場ダム建設:
膨らむ事業費 本体工事費、わずか9%/群馬


◇「堤体」スリム化や補償増 安全性懸念の声も

 長野原町で建設が進む八ッ場ダムの総事業費に占める本体工事費の割合が、当初の23%から2度の計画変更を経て、9%に低下していることが分かった。

 もともと付け替え道路などの付帯工事や水没地区の住民に対する補償が膨らんだうえ、計画の見直しに伴い水をせき止める「堤体」をスリム化したことなどが要因だ。他のダムに比べて際だって低く、関係者からは付帯工事の異様な膨張と同時に安全性を問題視する声も出ている。【伊澤拓也】

 1986年度の当初計画では総事業費は2110億円。内訳の「ダム費」からダム本体と直接関係のない護岸工事や地滑対策費を除いた本体工事費は495億円で、総事業費に占める割合は23%だった。

 04年度に総事業費を2倍以上の4600億円に増やしたため、全国一総事業費が高くなったが、本体工事費は613億円と1・2倍にとどまり、この時点で13%に低下した。

 さらに、工期を5年延長し15年度完成とした今回の計画変更で、本体工事費を429億円にまで圧縮。最も大きな減額の対象となったのは本体のコンクリート工事を示す「堤体工」で、124億円も減らした。

 一方で「測量・試験費」は80億円、「付替鉄道費」は60億円増額し、総事業費は据え置きとなった。このため、本体工事費は総事業費のわずか9%に。法政大の五十嵐敬喜教授(公共事業論)は「全国的に見ても異常な低さだ。付帯工事が極端に多い八ッ場の特殊性に加え、公共事業への目が厳しくなったことで総事業費を上げられなかったのでは」と指摘する。

 全国的にみても総事業費が2番目に高い宮ケ瀬ダム(神奈川県、00年度完成)は総事業費3993億円に対し、本体工事は30%に当たる1180億円を投じた。国土交通省相模川水系広域ダム管理事務所は「必要な工事を最小限行った結果で、宮ケ瀬の割合が特別に高いわけではない」と話す。

 八ッ場ダムは水没地区の住民らへの補償が1236億円とかさんだ上、ダム建設では珍しい鉄道の付け替えなど付帯工事が他ダムと比べて多い。これらのコスト高に対し、本体工事費を切り詰めたのが現状だ。

 同省八ッ場ダム工事事務所は、本体工事費の減額について「付帯工事と同時に進めてきた地質調査で、当初の想定よりも地盤が強固なことが判明した。その結果、コンクリート量を減らし、堤体をスリム化しても安全性が確保できると判断した」と説明する。

 だが、その安全性を不安視する声もある。ダム建設の見直しを求めている「八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会」の嶋津暉之代表は「もともと地質が良くない場所だけに、コンクリート減は危険だ。総事業費の帳尻合わせに本体工事費が使われたのだろう。最も重視されるべき安全性が二の次になっている」と指摘している。

毎日新聞 2008年4月18日 地方版

 筆者の八ツ場ダムに関連する論考では、幾度となく八ツ場ダムに関連する道路事業の実態を報告してきたが、八ツ場ダム事業では社会経済的観点、環境保全の観点など、いずれの観点からもほんど不要と思える道路事業を国土交通省は長野原町で展開してきた。

 以下はそれを報ずる毎日新聞の記事である。記事によれば八ツ場ダムの完成までに、水資源特別会計と道路特別会計を含め少なくとも約1000億円が道路の付け替えに投入される見込みであるという。

 しかも増額された4600億円には道路特別会計分の約170億円は含まれていないから、八ツ場ダムの総事業費は現状でも約4800億円が投入されていることになる。

 すなわち、冒頭に記した日本の土木系公共事業の第1位の道路事業と第2位のダム・堰事業が吾妻川の渓谷で財政破壊、財政破綻と無関係に行われている。

 実際、現地を視察すれば一目瞭然のように、群馬県の長野原町の吾妻川流域地域では、日本で有数の渓谷美をもつ景勝地で、これでもかと云えるほどの道路、橋梁、トンネル事業が連日行われているのである。

 まさに官僚社会主義によって、巨額な国費を浪費し、やりたい放題の土木工事が行われているのである。

道路特会:ダムはできねど道できる 群馬・八ッ場
http://mainichi.jp/photo/news/20080412k0000e040052000c.html

 完成の見通しが立たない国営「八ッ場(やんば)ダム」(群馬県長野原町)で、道路特定財源を原資とする「道路整備特別会計」(道路特会)から07年度までに、水没予定地の付け替え道路建設に約170億円が支出されていることが分かった。

 この資金は、公表されているダム総事業費には含まれていない。肝心のダムが姿を見せないまま、付け替え道路は既に約5割が完成しており、潤沢な道路特会による周辺整備だけが進む奇妙な状況が進んでいる。
 

 八ッ場ダム建設費は「治水特別会計」(治水特会)からの補助金。国土交通省八ッ場ダム工事事務所によると、付け替え道路の工事は95年に始まり、治水特会から約430億円を支出。一方、道路特会からの投入は約170億円に上っている。

 工事の対象は国道145号のほか県道、町道も含まれ、ダムが完成すると水没する国道145号は現状の2車線から4車線の「八ッ場バイパス」に生まれ変わる。昨年10月時点の進ちょく率は国道51%、県道は52%。完成までに、治水特会と道路特会から少なくとも約1000億円が付け替え道路に投入される見込みという。

 しかし、公表されている八ッ場ダムの総事業費約4600億円は治水特会分のみで、道路特会からのものは含まれていない。道路特会からの支出について同事務所は「水没地から移転する住民の生活再建が第一と考えており、移転先となる代替地を整備しなければならない。代替地には当然、道路が必要」と説明する。

 一方、肝心の代替地の整備は遅れている。分譲は昨年6月に始まったばかりで、全体の2割程度にとどまる。このため、ダム本体の着工のめどさえ立っていない。86年の基本計画では00年度とされた完成年度は2回の延期で、現在は15年度にずれ込んでいる。

 ダム建設の見直しを求める市民グループ「八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会」の嶋津暉之(てるゆき)代表は「ダム見直しの声がある中、不要となりかねない道路を造ろうとしている。予算を消化するために、ダムに便乗しただけではないか」と批判している。【伊澤拓也】

 ◇ことば 八ッ場ダム
 治水、利水を兼ねた多目的ダムとして1952年、群馬県長野原町の利根川水系吾妻川中流に計画。半世紀にわたる反対運動の末、01年に国と水没地区住民が土地の補償基準で合意したが、代替地整備が進まず、住民の転居などで移転希望世帯は当初の3分の1の134世帯に減少。規模は総貯水量1億750万立方メートル。総事業費は当初の2110億円から4600億円に増額した。

毎日新聞 2008年4月12日 15時00分(最終更新 4月12日 16時43分)