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日本人の言行不一致を直そう!
中高生対象のISO講演から


青山貞一

掲載月日:2007年6月24日

無断転載禁


 私はめったに中高生に講義や講演をすることはないが、ここ数年、高校生から直接ご指名を頂き、環境問題の話しをすることが多くなっている。

 なかでも、ISO14001環境管理システム(EMS)の認証を取得しているか、これから取得したい高校や大学などの教育機関かららのリクエストが多い。

 理由は簡単、私がここ3年間、責任者(環境管理責任者)をしていた武藏工業大学環境情報学部(横浜キャンパス)が日本の大学で最初にISOの認証を受け、すでに8年近く運用しているからである。



 ISO14001EMS活動は、もともと企業の工場、事業所などを対象に行われてきた経緯がある。



 しかし、武蔵工大横浜キャンパスでは、認証取得時に通常のゴミ、電力、水、紙などの使用量、排出量を継続的改善、すなわち減らすことにとどまらず、より積極的に、環境教育活動、環境研究活動とISO活動を連携させようということで、事実、トップランナーとして多くの実績をあげてきた。

 武藏工大環境情報学部のISOの主な特徴は以下の通りである。

 @環境教育活動と有機的に連携していること
 A環境研究活動と有機的に連携していること
 B構成員、全員参加であること
 Cキャンパスの施設づくりと連動していること
 D周辺の住宅地と地域密着型であること
 Eトップランナーとしての自覚と役割

 たとえば、@の「環境教育」との関連では、正課教育の中に以下の授業(主なもの)があり、学生は誰で授業を受けることができる。

 環境改善のライフスタイル、環境と消費(中原)、
 環境保全教育、保全生物学、生態学(小堀)、
 環境と法、環境政策論、公共政策論(青山)、
 環境アセスメント論(吉崎)、
 環境思想史(北村)、
 環境マネジメント、環境監査(福島)、
 エコマテリアル、エコデザイン(伊坪)、
 地域づくりと環境改善(宮本)、
 環境ロジスティクス(増井)、
 環境志向型経営分析(野田)、
 環境社会学、食糧問題と環境、社会調査(大塚)、
 住環境システム(宿谷)、
 環境経済学(西嶋)、
 環境と化学(高砂子)、
 環境モニタリング技術(史)
 その他多数 

 環境情報フィールド演習(岩村、宿谷、小堀、田中、吉崎)などのキャンパス及びその周辺での演習もある。



 また学生が参加できる次のような海外環境研修があり、ほぼ毎年夏休みに行っている。

 @中国共同砂漠緑化(吉崎)
 Aオーストラリア熱帯雨林保全(小堀)
 Bネパール環境教育(ブッシェル、後藤))
 Cカナダ循環型社会構築(青山)

 以下は、青山が行っているカナダ・ノヴァスコシア州の循環型社会づくりの海外フィールド研修。


 武蔵工大横浜キャンパスのISO活動の大きな特徴は、全員参加、すなわち教員、職員、学生、大学院生、清掃作業員、食堂作業員、物品販売者など、全員が構成員となっていることだ。

 以下は学生が中心となって行っている活動の一例。エコキャンパス・ツアーとISOフォーラムである。



 さらに、大学のISO14001EMSの認証を取得する時期がキャンパスづくりと重なったこともあり、キャンパスづくりのハード面でも、数々の環境配慮が行われた。

 まず、土地利用面では、周辺が低層の住宅地であることもあって、以下の空中撮影写真にあるように、30%近い緑地をとり、周辺の住宅地域への影響緩和、環境配慮を図っている。



 さらに以下の図にあるように、省エネ、小エネ、省資源など徹底した低環境負荷の低減を行ってきた。







 キャンパス周辺は港北ニュータウンといい、閑静な戸建ての住宅が広がっている。ISO活動の一環として周辺地域の住民も参加可能な行事がいくつかある。以下は、春のタケノコ堀り。



 他大学などからの講演などの依頼は、その経験、実績とノウハウをお話しいただきたいと言うものが多い。

 今回、工学院大学附属高校の生徒からの依頼は、ISO活動をやっているが、先生(教諭)が中心で生徒はISO活動は難しいもの、参加しにくいもの思っている。そこでぜひ、教職員、生徒など全員参加の活動をどうやったらできるか、を話して欲しいと言うものも多い。

 2年前、東京都立つばさ総合高等学校で開催された高校生「環境サミット」の基調講演を高校生に依頼され、東京都大田区の羽田空港近くにある都立高校で講演した。

 そのときは首都圏にある公立、私立の高校生が一堂に集まり、ISO活動だけでなく、高校での環境活動についての意見交流を行っていた。

 ....

 今回は、東京都八王子市にある工学院大学の付属中学、高等学校の生徒が相手である。2007年6月16日の土曜日、授業が終わった午後に中学生と高校生が大きな教室に集まり、約1時間の講演を聴いてくれた。終了後、中学の生徒会長さんからインタビューを受けた。




熱心に講演を聴く工学院大学付属の中学生と高校生

 ところで、この6月19日、大学で新入教職員や学生相手にISO研修会を行ったが、私がこの種の講演で強調する点はいくつかある。そのなかには環境問題に関する日本人の言行不一致がある。

 たとえば、日本人はとかく、環境問題を勉強したり、研究することには熱心だが、日々の活動でそれを具体的に実践しているかというと、けっしてそうでないことがある。

 その昔、筑波にある国立環境研究所の女性研究員が行った環境問題の理解と行動に関する先進各国の比較調査では、日本人は知識としてもち、理解はするものの、それを実際に行っているか、すなわち実践しているかというと、していないことが多いそうだ。

 この調査はかなり前のものだが、おそらく現在でもそれほど大きく変わっているとも思えない。

 私の研究室(青山研究室)の卒論生が、この一年かけて大学の教職員を対象に自宅からキャンパスまでの交通手段に関する調査を行った。この調査は全員を対象とした悉皆調査である。

 その結果、かなりの数の教員が乗用車を毎日使っていることが分かった。重い荷物を運ぶときとか学生を連れて現地調査に行く場合などでなく、毎日の通勤に乗用車をひとりで使っている実態が浮き彫りになった。 

 しかも、結果をよく見ると、毎日一人で使っている先生に限って、学生の上記のアンケートに答えていないことも分かったのである。

 最寄りの駅とキャンパスとの間は、歩いて5〜6分だが、卒論生はそれを含め大学のキャンパスと駅との距離感についても聞いている。

 その結果、大変に興味深いことが分かった。 車を使っていない先生は、駅とキャンパスが近いと感じており、逆に毎日、車を使っている先生は、遠いと感じていたのである。

 もちろん、体調や年齢など、理由があってやむなく自動車を使っている場合はいたしかたない。

 しかし、問題は、喫煙の場合と同様、一度使い出すと、まさにそれが「麻薬」となって、隣のスーパーに行くにも自動車を使うとようなライフスタイルとなっていることがこの調査で分かった。

 周知のように日本は、CO2の総排出で1990年に対比し、2008年〜2012年までにマイナス6%に削減することを世界に公言している。しかし実際はどうなっているかといえば、1990年に比べマイナス6%どころか、プラス13%にもなっている。上記の調査結果はそれを裏付けているようだ。

 総理大臣はドイツのサミットで排出量を50%削減すると述べたが、もし、1990年に対比し2050年に50%削減するとなると、ありとあらゆる面で豊かで便利な生活を私たちは大幅に切りつめなければならなくなる。その昔、深夜のテレビの放映は止め、夜のネオンサインを消すと言ったことがあったが、おそらくそんなことは序の口で、さらに厳しい切りつめが必要になるだろう。

 罪滅ぼしかどうかわからないが、ハイブリッド車を使っている人が増えている。 しかし、周知のように市街地の実走行モードでは、それらハイブリッド車はさしてCO2排出量が高燃費のガソリン車と比べ優れているとは言えない。単なるファッション、みせかけでは意味がないだろう。

 ....

 日本人の言行不一致は、何も自動車利用ばかりではない。

 平成15年に健康増進法が改正され、第25条のなかに受動喫煙(間接喫煙)の有害性が明記された。

第二節 受動喫煙の防止

第二十五条 学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。
 この規定には刑事罰はないものの、この第25条がきっかけとなり、公共の場における喫煙を止めようという動きが全国各地的に広まっている。



 私の大学のキャンパスでは、当時、すぐさま「分煙コーナー」を各所に設置したものの、完全禁煙(敷地禁煙)に至っておらず、分煙コーナーから漏れ出る紫煙や臭いが以前から問題となっていた。


卒業研究の一環としてデジタル粉塵計であちこちを
学生が計測している

 私はISO14001の環境管理責任者として、何度も全面禁煙を環境委員会で提案してきた。しかし、喫煙している教職員の抵抗を受け、未だ完全禁煙が実現していない。それら教職員の言い訳は、「完全禁煙にすると学生達がキャンパスに来るまでの道路や住宅地とキャンパスで吸い殻を捨てる」と言うものである。

 教員の中には、自分の研究室の中で吸っている者もいるという学生からの通報もあった。いずれにしても、環境教育を専門とする大学のキャンパスでの言行の不一致は大問題である。

 以上、日本人の言行不一致問題を具体的に書いてきた。今回の中高校生相手の講演でも日本人の現行不一致問題を織り交ぜ話した。中学生や高校生は当然、喫煙や自動車の運転は先の話しだが、学生は先生の言行不一致をよく見ている。こんなところに、日本のモラルハザードの原点があるのかも知れないと、思っている。

 .......

 最後に、もうひとつ、この種の講演で必ず話すことがある。

 それは、テレビ、新聞などでよく、このまま行くと地球が大変な事になる!などと言っている。

 だが、実際に大変になるのは、私たち先進国の豊かで便利な生活であって、地球は温暖化が来ようと厳然と雨中に存在することだ。

 地球そのものは、衛星や星でもぶつかってこない物理的にどおってことはないが、私たちの今の豊かで便利な生活は、CO2が今の2倍の濃度となるだけで、それこそ大変なことになるのである。

 CO2の空気中の濃度は、現状でわずか0.037%程度、地球規模での大きな影響がでて、大変なことになるという場合でも0.056%程度である。

 私たちが毎日吸っている空気の99%はチッソと酸素であることから見ても、地球全体のCO2の濃度の平均がほんのちょっと変化しただけで、私たちの豊かで便利な生活が大きな影響を受けることを私たちは知らなければならない。

 にもかかわらず、「茹でカエル」のたとえの通り、人間はなかなかその変化に気づかない。気づいたときには時すでに遅い、のである。