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沖縄県が抱える
在日米軍基地の諸課題

〜課題リストを中心に〜

青山貞一宇都宮朗
武藏工業大学大学院 環境情報学研究科

2007年12月3日


無断転載禁


 2007年11月29日より12月2日まで沖縄県にでかけた。沖縄行きの主たる目的は武蔵工大環境情報学部青山ゼミの大学院生の修士論文研究のための現地調査であるが、今回はおおくの地元関係者と会い議論を行い、また行政担当者らの意見を聞くことができた。これについては、先のブログに記した。
 
 今回の現地調査では、幸運にも12月1日午後に嘉手納町中央公民館において「米軍再編とどう向かい合うか〜沖縄中部地区の課題〜 」と題するシンポジウムが「沖縄の基地と行政を考える大学人の会」の主催で開かれ、それに参加することができた。

 同シンポジウムには、沖縄県の中部地区の基地を抱える市町村長として、東門沖縄県市長、宮城嘉手納町長、野国北谷町長、伊波宜野湾市長、儀間浦添市長、それに我部琉球大教授、仲地琉球大琉球大教授、桜井沖縄大学学長、照屋沖縄国際大学教授らが講者として参加していた。ただし、東門市長と儀間市長は体調不良などの理由でシンポジウムを欠席された。

  米軍再編とどう向かい合うか〜沖縄中部地区の課題〜シンポジウム
  開催パンフ


米軍再編とどう向かう合うかのシンポジウム

 このように今回の現地調査では、はからずも行政の責任者、学者・研究者、専門家・NPOと3つの関係当事者から話を聞くことができた。
 
 シンポジウム概要(PDF)

 米軍基地が抱える問題は多くある。巻末に私が今回のインタビュー調査で得た課題、項目をランダムに列記しいるので参照して欲しい。

 とりわけここ数年は米軍の再編問題との関連での問題が大きなテーマとなっている。米軍再編問題は何も沖縄県だけの問題ではなく、神奈川県、山口県、東京都などにも関連する問題であるが、当然のこととして沖縄県の今後の基地問題に大きく関係するものと思われる。

 米軍再編では、沖縄在日米軍・海兵隊施設のグアム島への移設が具体的問題として遡上にあがっており、施設建設の約60%、8000億円を日本政府が負担すると言う情報もある。もちろん、これにより将来的に沖縄県の基地家負担軽減が進めばよいが、逆に基地の長期固定化さらには機能強化などを憂慮する声もある。

 県内で特に大きな問題となっているのは、連日の報道にあるように、返還予定の普天間基地が同じ沖縄県の名護市辺野古に移設されることである。普天間基地のヘリ基地がそのまま海兵隊ともどもそっくりグアムに移転されるならまだしも、巨大な基地がジュゴンが来る珊瑚礁の海を埋め立て建設されるのでは、基地負担の軽減どころから実質的な強化となる。

 事実、ここ50年以上、沖縄では基地施設の新設はなかったことからしても、名護の辺野古へのヘリ基地の移設はいかに中心市街地にある普天間基地が宜野湾市に返還され、跡地が再生利用されるとしても、簡単に首肯できない問題であるといえる。

 シンポジウムで伊波宜野湾市長が述べていたが、中心市街地にある普天間基地が他に移設されるのはよいとしても、名護市の辺野古地区など県内の他の場所に移設されることに反対であり、海兵隊ともどもグアムに移転されるのが本筋であるはずである。

 しかし、現実には日本政府は、県内他所である名護市辺野古・大浦湾地区にヘリ基地を移設することに奔走し、寒漁村の辺野古地区へのさまざまな経済誘導策により、実質的にその基盤を構築してきた。

 しかし、今回の調査では、名護市を含む北部地域に住む人々は、日本政府による県民相互を向かい合わせるやり方に心底憂慮し、怒っていることもわかった。地元では、これを南北問題といっている。沖縄県の南北、東西のなかで、辺野古地区は北であり東に位置している。

 同地域は歴史的に沖縄県で最も経済的に貧しい地域にある。そこに日本政府は敢えて普天間基地の移転先としたのだが、それは結果的に米軍基地県として固定化させ、沖縄県を経済的・財政的にに自立させなくさせるための筋書きがあると指摘する有識者もいた。同地域には最終処分場はじめ各種の迷惑施設が集中立地されているとも言う。

 反戦、反基地で一枚岩であった沖縄は、各種の補助金、特別交付金などの権益によって分担統治され、貧しい北部地域に中南部から基地を移転させることにより、永続的に沖縄県を分断統治してゆくというシナリオである。

 ところで名護市辺野古へのヘリ生地移設に関連しては現在、環境アセスメントの方法書(スコーピング)が大きな問題となっている。具体的にはヘリ基地の建設に関連し、東村、高江に6カ所のヘリパッドの建設がもちあがっていることである。

 しかも、そのヘリパッドには、米軍側でも使用を差し控えるほど技術的に未熟なオスプレーなる双発ヘリ飛行機を配備することが市民側の執念の調査で発覚したにもかかわらず、日本政府はそれをひた隠しにするという問題が起きている。

 そもそも辺野古地区では環境アセスの方法書段階で現地調査を防衛施設庁がコンサルタントに指示し現況調査を強行しており、環境影響評価法との関連でも手続き上違法な行為が現地で大きな問題となっている。

 普天間基地の名護市辺野古への移設問題同様、今の沖縄県で火急の問題がある。それは沖縄市にある泡瀬通信所の返還との関連で地域活性化を目的に進められている巨大沖合人工島建設事業である。

 いうまでもなく当該計画予定地は、日本有数、それも諫早湾が消滅した後、藤前干潟同様、非常に重要な干潟、それも珊瑚礁とパッチワーク場に広がる希有な海洋生物生態系を保持する海域が広がっている。

 そもそもこの計画には、京都大学教員等による各アンケート調査で沖縄市民の70%近くが反対の意向を示しているものの、市議会及び行政がそれらを知りながら、あるいは無視して、計画を進めてきたといえる。

 東門沖縄市長、泡瀬干潟埋め立て容認へ
 琉球新報 2007.11.23

 その背景には尾見衆議院議員(元北海道・沖縄開発庁長長官)の強い意向があるとされている。

 問題はそのような希少な生態資源を有する海を埋め立て、どうみても不要な施設を多数立地させようというのが中域湾開発事業であると言える。まず公有水面埋め立て事業だけでも今後、沖縄市の財政に大きな負担となる債務が発生する可能性が大であることだ。

 そこには、極度な公共事業依存体質、すなわち公金を用いて行なう「開発工事」がある。

 そんななか昨年、東門市長(女性)が誕生した。彼女はみなの意見を聞くと言って当選したものの、市議会、行政幹部はみな開発推進のなかで、非常に厳しい舵取りを迫られている。

 現地調査直前の2007年11月23日の琉球新報一面には「東門沖縄市長、泡瀬埋め立て容認へ、来週にも計画見直し」という大きな見出しの記事が踊っていた。
12月1日、嘉手納町で開催された「シンポジウム、米軍再編とどう向き合うか〜沖縄中部地区の課題〜」に出席を予定しながら、直前に声がでないなど体調不良を理由に欠席した。

 会場に参加した一部の人からは「登校拒否」と揶揄されていた。もし、

 なお、今回の現地インタビュー調査により判明した在日米軍を取り巻く諸課題を順不同で以下に示す。

・日米安保条約と米軍再編
・沖縄県米軍・海兵隊施設のグアム島への移設問題
・再編実施のための日米ロードマップ
・グアム統合軍事開発計画による基地強化問題
・岩国基地からF18ジェット機等30機、600人が来沖縄問題
・SACO(The Special Action Committee on Okinwa )
・返還後の軍用地地主の生活再建問題
・安全基準のダブルスタンダード問題
・米軍再編特措法の課題
・沖縄県の基地負担軽減問題
・普天間基地の移設
・普天間基地ヘリ事故問題
・普天間基地のキャンプシュワブ移設問題
・同環境アセスメント問題
・嘉手納基地F15ジェット戦闘機事故
・SACO合意と嘉手納基地の長期固定化問題
・F15未明離陸問題
・日米地位協定の見直し問題
・沖縄県南部の米軍・海兵隊施設の返還問題
・同跡地利用問題
・泡瀬干潟開発問題
・同中域港湾泡瀬地区人工島事業問題
・北谷町変換跡地の利用
・キャンプキンザー返還後の跡地に利用の課題
・辺野古・大浦湾沖のV字型海上滑走路建設問題
・高江などやんばるの森におけるヘリパッド建設問題
・ジュゴン訴訟と情報公開

 他方、沖縄県の経済・財政的諸指標を以下に示す。最大の問題は自立的あるいは自律的な経済を構築する上で、基地依存と公共事業依存の体質が麻薬中毒のように重く県全体にのしかかっていることである。

・公共事業依存体質 80−90%の高い国庫補助率、離島はさらに
・高い失業率  11%
・低い県民所得 年収200万円、全国平均の半分
・偏った産業構造、土建業の多さ
・大学生の就職希望ナンバーワンは公務員
・今後、米軍再編交付金などのアメも
・軍用地使用料は一世帯年平均200万円、約四万人の地主がおり、全体で800億円が支払われている現実もある。
・滋賀県と沖縄県の財政、財務比較により明確な違いが明らかに

 
跡利用へ法整備指摘/嘉手納で米軍再編シンポ
琉球タイムズ
 【嘉手納】「米軍再編とどう向き合うか」をテーマにしたシンポジウム(主催・沖縄の「基地と行政」を考える大学人の会)が一日、嘉手納町中央公民館であり、米軍基地を抱える宜野湾、嘉手納、北谷の三市町首長らが基地返還後の跡地利用などで意見交換した。

 宮城篤実嘉手納町長は、未明離陸の強行など周辺住民の意思に反して嘉手納基地が運用されるのは、施設管理権が米軍にあるからだと指摘。「管理権が自衛隊に代わることで、問題解決が実現可能になるのではないか」と問題提起した。

 しかし、地元自治体だけでは問題解決できないとして、「抜本的な解決策を持たない私たちができることは抗議行動だ」などと述べた。

 野国昌春北谷町長は、同町が跡地利用の成功自治体と評価される一方で、キャンプ桑江北側部分から米軍が廃棄した銃弾や油送管が相次いで発見されるなど、環境問題が跡地利用の障害になっている現状を報告。三年以内とされる返還給付金の期限延長も国は考慮するべきだ―と訴えた。

 伊波洋一宜野湾市長は米軍の資料を基に、普天間飛行場の航空機と海兵隊員はグアムに移転すると主張。名護市キャンプ・シュワブ沿岸部への移設がなくても「普天間」は撤去可能だとの見解を示した。

 パネルディスカッションでは桜井国俊沖大学長が、一九九〇年代にフィリピンで米軍基地の跡地利用にかかわった経験を基に「米軍の情報提供がなければ、どこに何が埋まっているのか分からず、手も足も出ない」と報告。日米地位協定の改定などを通して「嘉手納以南」の大規模返還に備えるべきだと指摘した。

 仲地博琉大教授は、普天間飛行場やキャンプ・キンザーなどの大規模返還を実現するためにも「新たな法整備が必要だ」として、市町村から強力に働き掛けることを呼び掛けた。

 「跡地開発によっては軍用地料よりも高額な経済効果が得られる」と指摘したのは照屋寛之沖国大教授。また、我部政明琉大教授は日本のねじれ国会、米大統領選、イラク戦争の泥沼化で「米軍再編の先行きは不透明だ」と現状を分析した。

 シンポジウムには、本島中部の自治体職員や議会議員、市民らが多数参加した