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格差社会と内部告発
〜不二家問題に思う〜

青山貞一


2007年1月16日
、27日拡充

青山貞一ブログ

 

 不二家問題では、パートとして再雇用された六十代の元社員が、シュークリームに使うカスタードクリームの原料として、前日で消費期限が切れた牛乳六十リットルを使ったと証言し、さらに同元社員は「捨てると怒られる。においをかいで品質的に問題ないと判断したら使っている」と述べ、社内規定が以前から守られていなかったことを証言している。

 この不二家問題を見ていて直感したのは、不二家工場でパートとして働いてきた労働者の「内部告発」である。そして、ここ数年のこの種の不祥事や事件の多くが、「内部告発」がきっかけとなっているということだ。

 大銀行、大メディア、大手製造業など、格差社会で暴利を謳歌している大企業などの経営者は、この現実を直視する必要がある。

 この問題は何も雪印や不二家だけの問題ではない。製造業からIT企業、金融業に至る現代の企業、さらに言えば国、自治体を含め日本型の組織が抱える共通の問題であるとさえ言える。

 直近には、フジテレビ系の関西テレビがあらゆる意味で信じられない「発掘:あるある大辞典」と言う前代未聞の捏造事件がある。これはフジテレビの幹部がつくったとされる下請け番組制作会社、さらにその孫請け番組制作会社との間での社員相互の格差化が一因となっていることは言を待たない。

 テレビの番組作りほど、ほぼ同一の内容をしていながら、キー局の社員と下受け、孫受け会社の社員との待遇が雲泥の差となっている業種もめずらしい。

 もちろん、いかに待遇、処遇、給与に格差があったとしても、あのような総じて捏造が家庭のゴールデンタイムに持ち込まれている日本の現実は末期的だ。

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 ところで小泉政権はそれ以前から日本に萌芽していた格差社会を過去6年間で著しく拡大したが、他方、小泉政権の下では結果的に「内部告発」を奨励する法律も制定されていた。この法律は、組織の不正を知り、正すためには内部告発が非常に重要な働きを果たすと、制定の目的に記されている。

 具体的には、平成16年(2004年)に組織から告発者を保護する「公益通報者保護法」という法案が成立したことを意味する。

 もちろん、この法律は、あくまで「内部告発者を守る法」であって、組織の不正行為を摘発することを主目的としていない。しかし、上述のように、結果として上述のように永年隠蔽体質となっていた日本型組織内で行われていることを外部に情報開示する内部告発奨励の役割を果たしている。

 現状の法では組織の不正行為を摘発することに関連し告発者の保護については、まだまだ不充分であると言える。とはいえ、過去、組織に忠誠心をもち帰属してきた多くの純朴な日本人にとって、「内部告発」はけっして裏切りではなく、社会的な必要行為であることを知らしめた意義は大きいと思う。

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 格差社会は、言うまでもなく本来必要とされる社会経済的な規制までとっぱらい、何でも市場にゆだねる市場原理主義の下、いわば弱肉強食の経済社会を増長している。とくに、製造業では大企業の多くが日本の伝統的な終身雇用や正規雇用からパート、アルバイト労働に切り替えることで大きな経常利益を上げてきた。

 その背景には、仮に製造業で日本がデザインセンターとなっていたとしても、実際のものづくり、製造が人件費や地代等が日本の1/5〜1/10と低いアジア諸国にもってゆかざるを得ない現実もある。これはかつて日本自身が欧米との関係でそうあったことからも分かる。

 だが、ちょっと考えれば分かることだが、ほぼ同じ内容の仕事をしながらボーナスやさまざまな保証もない、日雇い労働者として差別されている今日のひとびとには、会社への帰属意識も従来のようになく、眼前で起こっている今回の不祥事に見て見ぬふりをして辞めてゆくひとも多い。同時に、今回の不二家の高齢パートのように、正義感や怒りを持って外部に内部告発するひともでてくるのは自然の成り行きであるとも言える。

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 今回の事件は雪印乳業事件の二の舞というだけでなく、いわば格差社会で虐げられ低賃金と悪条件で労働を強いられてきたひとびとの怒りの声、告発であるとも言えるのではないかとも思える。

 その意味で、40年以上も前の水俣病がかくも甚大な被害者をもたらし、その修復に膨大な時間と金がかかったかについて、日本の企業経営者はもっと学ぶ必要がある。

 当時、工場長は苛性ソーダ製造過程で必要となった有機水銀がいわゆる水俣病の原因であることを比較的早期段階で知っていながら、企業の上層部が本気で対応することなく、結果的にあの水俣病を招来させてしまったことだ。

 時代は変わり、企業組織だけでなく行政組織でさえ、従業員、労働者の組織内社会関係の在り方は大きく変わりつつある。まして、企業組織内部で低賃金で過重、過酷な労働を強いられているひとびとにとって、今や内部告発はそれほど決死の覚悟を要することにはならない。

 これからの時代は、「格差社会」が「内部告発」を助長し、まさに一部上場の大企業といえど、「蜂の一差し」で倒壊、倒産する可能性が高まるだろう。それこそ因果応報というべきものであろう。

 世の中そう甘くない。

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 今こそ、全国各地のパート労働者諸氏、眼前にある大企業の横暴、不正義、不法行為を怒りを込めて内部告発して欲しい!