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格差を助長し不幸をもたらす

現代資本主義

青山貞一 Teiichi Aoyama 
October 29 2016
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁


 2016年10月29日の早朝NHKの「マネー・ワールド、資本主義の未来3」の再放送をしていました。このNHKの「マネー・ワールド、資本主義の未来3」は、欧米日本などの資本主義が米国を中心に金融資本主義化、IT化、グローバル化などでに変容し、いわば限界に達していることを受け、今後、資本主義はどう変わってゆくのかについて考察するという番組です。


出典:NHKの「マネー・ワールド、資本主義の未来3」


出典:NHKの「マネー・ワールド、資本主義の未来3」

 3回目のテーマは、主に資本主義がもたらす経済格差についてです。示された年代別のジニ係数(格差係数)です。本来、トリクルダウンなどにより、格差は補正されると言われてきましたが、その実態は補正されるどころか、米国、日本では格差が補正されず、大きな社会問題となっています。

 かといって、物財バランスなどの社会主義の計画経済にもどるわけにも行かないというのが、番組の趣旨です。
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 ところで、格差は下の画面にあるように、歴史的に見ると、それが大きくなると補正され小さくなり、時間がたつとまた大きくなり、さらにそれらは累進課税などで補正されてきました。


出典:NHKの「マネー・ワールド、資本主義の未来3」

 1980年代に格差が歴史的見て最も低くなった後、1950年代〜2000年代を通じ、ほぼ補正されてきました。しかし、2000年代以降、格差は補正されることなく拡大する一方となってきたのです。


出典:NHKの「マネー・ワールド、資本主義の未来3」

 格差の拡大はG7諸国、とりわけ米国、日本で顕著なものとなっています。日本は1990年代以降、現在まで格差は是正されることなく、どんどん拡大してきたのです。

 その理由として、番組では本来、社会的格差を是正するはずの社会主義が1990年代に崩壊し、その結果、資本主義国に格差を補正する動機が減り、格差が一段と大きくなっていると指摘しています。
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 事実、米国ではレーガン大統領以降、大企業への減税が次々に行われますが、労働者賃金はほとんど据え置かれることになり、しかも経済成長がなくなり、限界に達していることから、本来あるべき、また期待されるトリクルダウンもないまま、格差がさらに拡大し、現在に至っていると説明されています。

◆トリクルダウン理論(trickle-down effect)とは

 トリクルダウン理論とは、、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる(トリクルダウンする)」とする経済理論または経済思想である。均霑理論とも訳される。サプライサイド経済学における中心的な思想となっている。

 しかし、実証性の観点からは、富裕層をさらに富ませれば貧困層の経済状況が改善することを裏付ける有力な研究は存在しない。OECDによる実証研究では貧富の格差の拡大が経済成長を大幅に抑制することが結論づけられている。




 トリクルダウン理論は、新自由主義の代表的な主張の一つであり、この学説を忠実に実行したアメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンの経済政策、いわゆるレーガノミクス(Reaganomics)について、その批判者と支持者がともに用いた言葉でもある。「トリクルダウン理論」という名前はアメリカのコメディアンであるウィル・ロジャースの"money was all appropriated for the top in hopes that it would trickle down to the needy."[5]という発言に由来する言葉であるとされる。

出典:Wikipedia

 以下は、G7諸国の2009年と2015年の平均ジニ係数です。欧州諸国のジニ係数がさして変わらないのに対し、日本と米国のジニ係数が大きく増加、すなわち格差が拡大していることが分かります。

G7諸国のジニ係数の推移(2009年〜2011年と2015年の比較)

  ドイツ 28 → 28
  フランス 30 → 31
  イタリア 32 → 32
  カナダ 32 → 32
  日本 34 → 38
  英国 34 → 32
  米国 38 → 45

 注:ジニ係数は大きい方が格差が大きいことを意味します。

 以下は2008年〜2012年のOECD+ロシアのジニ係数です。


 以下は後述する「幸福度(Happiness Index)」で世界で1位〜10位常連のスカンジナビア諸国のジニ係数です。

参考 スカンジナビア諸国のジニ係数の推移
(2009年〜2011年と2015年の比較)

  アイスランド   24 → 28 
  ノルウェー   25 → 25
  デンマーク   25 → 25
  フィンランド   25 → 27
  スウェーデン   27 → 23

  アイスランドは2009年、世界一格差が少ない国、
  スウェーデンは2015年、世界一格差が少ない国

◆ジニ係数 Gini coefficient

 所得や資産の不平等あるいは格差をはかるための尺度の一つ。名称は,これを提案したイタリアの統計学者コラド・ジニにちなむ。ジニ係数の算出にはローレンツ曲線が用いられる。ローレンツ曲線は,所得の場合,対象者を低所得者から高所得者へ順に並べ,それを累積分布として表したものである。





出典:Wikipediaなど

◆進む上場大企業の内部留保

 ちなみに、以下は日本の上場企業の内部留保額です。2014年ごろから上場大企業は本来、従業員などに払うべき税引後の営業利益を内部留保しています。

 2016年3月期(一部2014年度)です。財務省の2015年10〜12月期の法人企業統計によると、利益剰余金は356兆円(金融・保険除く)に達しています。


出典:日刊ゲンダイ 総額550兆円…膨らみ続ける上場企業「内部留保」上位45社 2016年3月26日

 一方、以下は、2016年3月期の過去累積の上場企業の内部留保額です。内部留保の累積総額は、2016年3月末時点で366兆円に及んでいます。ところが、従業員への給与はほとんど横ばいであることが分かります。


出典:法人企業統計


◆資本主義の「新自由主義経済化」と格差のさらなる助長

 ところで、NHKの番組では最初から最後まで一言も出てこなかった重要な用語があります。それは「新自由主義経済」です。

 新自由主義経済は、資本主義に課せられたさまざまな規制、制約をとりはずしたレッセフェーレに近い経済システムを意味します。

 その大きな特徴を以下に示します。

 以下は、青山による政策学校一新塾の講義で用いたパワーポイントですが、新自由主義経済は、まさに弱肉強食を助長します。同時に、グローバル化することにより、巨大多国籍企業が先進国だけでなく、発展途上国の経済にも浸透します。
 
 その結果、歯止めのきかない新自由主義経済の進展は、格差社会のより大きな原因となっており、TPP、TTIP、FTAなどにより、地域社会、国家を超え、世界全体に経済格差をもたらす原因、それも主因となっているといえます。


出典:青山貞一による政策学校一新塾の講義で用いたパワーポイントの一部

 資本主義による格差社会化は、金融資本主義、新自由主義経済化により、とくに米国、それに追随する日本、そして中南米、東南アジア、アジア太平洋などの国々で顕著なものとなっています。

 以下はNHKのインタビューにこたえるウルグアイの世界一貧しい大統領、ホセ・ムヒカ氏。


出典:NHKの「マネー・ワールド、資本主義の未来3」

◆ホセ・アルベルト・ムヒカ・コルダノ( Jose Alberto Mujica Cordano, 1935年5月20日 - )

 ムヒカ氏はウルグアイの政治家。2009年11月の大統領選挙に当選し、2010年3月1日より2015年2月末までウルグアイの第40代大統領を務めた。バスク系ウルグアイ人。愛称はエル・ペペ。報酬の大部分を財団に寄付し、月1000ドル強で生活している。

 その質素な暮らしから「世界で最も貧しい大統領」としても知られている。大統領や国会議員としての報酬や寄付をもとに農業学校を設立し、子どもたちに農業を教える取り組みをしている。

出典:Wikipediaなど



 以下は新自由主義についての解説です。
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◆新自由主義経済とは

 1930年以降、社会的市場経済に対し個人の自由や市場原理を再評価し、政府による個人や市場への介入は最低限とすべきと提唱する。日本では、新自由主義(経済)はこの意味で用いられることが多い。

 米国において1970年代のスタグフレーションを契機に物価上昇を抑える金融経済政策の重視が世界規模で起き、レーガノミックスに代表されるような市場原理主義への回帰が起きた。自己責任を基本に小さな政府を推進し、均衡財政、福祉・公共サービスなどの縮小、公営事業の民営化、グローバル化を前提とした経済政策、規制緩和による競争促進、労働者保護廃止などの経済政策の体系。競争志向の正統化するための市場原理主義からなる、資本主義経済体制をいう。

 新自由主義を信奉した主な学者・評論家・エコノミストにはミルトン・フリードマン、フリードリヒ・ハイエクなどがいる。また新自由主義に基づく諸政策を実行した主な政治家にはロナルド・レーガン、マーガレット・サッチャー、中曽根康弘、小泉純一郎などがいる。

 高度経済成長期の経済体制(フォーディズム)に続く資本主義経済の体制であり、国家による富の再分配を主張する社会民主主義(英:Democratic Socialism)、国家が資本主義経済を直接に管理する開発主義の経済政策などと対立する。計画経済で企業のすべてが、事実上、国家の管理下である国家社会主義とは極対にある経済思想である。



 以下は新自由主義経済に対する批判。

・デヴィッド・ハーヴェイは著書『ネオリベラリズムとは何か』で、ネオリベラリズムとはグローバル化する新自由主義であり、国際格差や階級格差を激化させ、世界システムを危機に陥れようとしていると批判した。また著書『新自由主義:その歴史的展開と現在』で、新自由主義は世界を支配し再編しようとしていると記した。

・宇沢弘文は「新自由主義は、企業の自由が最大限に保証されてはじめて、個人の能力が最大限に発揮され、さまざまな生産要素が効率的に利用できるという一種の信念に基づいており、そのためにすべての資源、生産要素を私有化し、すべてのものを市場を通じて取り引きするような制度をつくるという考え方である。新自由主義は、水や大気、教育や医療、公共的交通機関といった分野については、新しく市場をつくって、自由市場・自由貿易を追求していくものであり、社会的共通資本を根本から否定するものである」と指摘している。

・中谷巌は「新自由主義が、市場で『値段がつかないもの』の価値をゼロと見なしている。これこそが21世紀における人類社会に最大の困難をもたらした原因である」と指摘している。

・森永卓郎は「新古典派経済学を勉強したのが、新自由主義者たちである」と指摘している。森永は「新古典派経済学を極解した新自由主義者が構造改革を行い、アメリカをモノ作りの国から金融・情報・エンターテインメントの国に変えてしまった」と指摘している。

・中野剛志は日本で1990年代から流行した新自由主義に対しては違和感を覚えており、その理由として日本的経営が急に批判対象となったことや、人間は歴史的に形成されたルールに強く拘束されていることを挙げている。個人とは共同体の一員で、歴史・伝統・慣習に束縛された存在であり、そのような人々が活動して初めて安定的な市場秩序が成立すること
人間関係・歴史・伝統・共同体から切り離された個人は全体主義的なリーダーに集まり、国家の言いなりになること。共同体・文化を破壊したり、強引に作り替えようとすると必ず全体主義に辿りつく

というハイエクによる指摘に特にショックを受けたと述べている。日本型経営も歴史や文化の流れで少しずつ形成されたものであり、ハイエクも日本型経営こそが自生的な秩序(スポンテニアス・オーダー)であり、真の個人主義の基礎であると言ったに違いないとしている。日本の新自由主義者たちはそれを破壊することを明言しており、ハイエクに言わせれば彼らは偽りの自由主義者であり、全体主義者であるとし、小泉政権時の政治は見事に全体主義であったと述べている。

出典:主にWikipedia



G7諸国民は決して幸福でない?

 青山は、政策学校一新塾の講義のなかで、このような新主義の変容は、いずれも最終的に不幸に陥れるものであると指摘します。

 そもそも、資本主義、金融資本主義、新自由主義経済は、国民を幸せにしません。

 以下は最新の国連による世界幸福度報告書(2016 Worl Happines Report)ですが、主要先進国(G7)の7カ国のうち、幸福度で10位以内に入っているのはわずかカナダ(7位)だけです。世界の7種の幸福度ランキングでも、同様にG7諸国はカナダ以外、ほとんど10位以内にはいっていないのです。

 「幸福度」ランキングで上位の常連国は、デンマーク、アイスランド、ノルウェー、フィンランドなどスカンジナビア諸国です。これらの国々の多くは市場経済ではあっても、過度な資本主義や金融資本主義、新自由主義経済をとらず、どちらかと言えば、社会民主主義に近い国々と言えます。


出典:青山貞一 政策学校一新塾講義スライド

出典:青山貞一 政策学校一新塾講義スライド

 以下は主な幸福度ランキングで用いている指標ですが、もとより経済的指標は含まれていますが、それはワン・オブ・ゼムです。もちろん、雇用、家計は重要ですが、GDPについて言えば、重要なのはGDPの大きさでは無く、一人当たりGDPの大きさです。

 新自由主義は、上述したように、以下のさまざまな指標を悪化させる可能性が高いのです。地域社会、個人の自由、社会支援、社会の寛大さ、生活満足度、環境、安全などに大きな影響を与えます。それもマイナスの影響です。


出典:青山貞一 政策学校一新塾講義スライド