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救世主となるか
家庭用蓄電システム

A私の小エネ住宅と太陽光発電パネル

青山貞一 19 April 2009
独立系メディア「今日のコラム」

 

 私が「小エネ住宅奮戦記〜暮らしに自前の技術を〜」(はる書房)を書いたのは、1983年だった。

 それより5年ほど前から、私は実姉が神奈川県厚木市に所有している100坪ほどの土地を使用貸借で借り、「小エネ住宅」の実験をしていた。

 ※小エネ住宅奮戦記は、友人の古川氏が当時、北斗出版を辞め
   自分の出版社をつくるというので、そのお祝いで執筆したものだ。
   残念ながら現在、絶版となっているが、今から30年近く前に
   家庭用住宅にこの種の自然エネルギーを取り入れる実験をし
   ていたのはそれほど多くない。

 ※アマゾン「小エネ住宅奮戦記〜暮らしに自前の技術を〜」(はる書房)

 小エネ住宅は、今で言うライフサイクルアセスメント、LCA(Life Cycle Assessment)の分析・評価にもとづいて開発された軽量鉄骨構造の家庭用住宅で、開口部の位置・面積、採光、カーテン、断熱材、断熱構造などいわゆるパッシブソーラーを十分に考慮したものであった。

 私の当時の小エネ住宅の実験は、それらパッシブソーラーだけでなく、太陽熱の直接利用、メタンガス発酵、風力発電など、アクティブな自然エネルギー利用も行った。しかも、できるだけ手作り的に自前の技術を暮らしに生かす実験を行った。

 小型の風力発電装置は大手電機会社に勤務していた方が設計、製造に協力してくれた。太陽光の直接利用は簡単に言えば温水器である。さらに深夜の外気を利用して数1000個の空き缶に蓄えた水を冷やし、昼間外気温が熱くなったときに換気用のブロアーで家の中に涼しい空気を取り入れる空き缶冷風装置もつくった。これは大林組研究所の所長が自宅で活用していた技術を生かした。

 はる書房の本のタイトル、すなわちを「小エネ住宅奮戦記〜暮らしに自前の技術を〜」を「省エネ」でなく、敢えて「小エネ」としたのは、単なるエネルギー消費を省くだけでなく、ひとつひとつは小さくともまとまるとそれなりに家庭用に使える太陽光、太陽熱、風力、メタンガスなどを、自前の技術で生み出し、利用したいという私の思いがこめられていたからに他ならない。

 下は小エネ住宅奮戦記などの著作の一部。

小エネ住宅奮戦記 ノーマンの技術文明論 台所からの地球環境

 その後、私は自分の研究や仕事、ボランティア活動が多忙となり、なかなか思うように厚木の小エネ住宅に行けなくなった。

 厚木市の小エネ住宅は娘が旦那と使い、現在は娘らはその隣に同じく使用貸借で土地を使い立派な住宅をたて住んでいるが、LCAに基づき建築した住宅は、妻が週末住宅として使っている。

 私は東京は品川区で60年以上生活しているが、田舎で生まれ育った妻は土のにおいが忘れられず、菜園やクリスマス・ローズなどの花を厚木の家を拠点に週末住宅として使い楽しんでいる。

....

 ところで当時、私が仕上げとしてやりたかったのは「太陽光パネル」による東京電力に頼らず自前で発電し使用する「分散型発電システム」であった。

 1980年代中頃から国は、家庭用太陽光発電システム、すなわち太陽光発電パネルと逆潮流のために直流を交流に変えるインバーター装置に助成をはじめていた。

 しかし、私見ではどうみても当時の国の消費者への助成には多くの疑義を感じた。消費者が国の助成を受け購入可能な、太陽光発電パネルの価格は、非常に高額であった。同時期、国は太陽光発電パネルを製造するメーカにも開発補助を行っていたが、それにもかかわらずどうみても消費者が購入する際の価格は、助成金をもらっても非常に、高額だったのである。

 なぜ、高額であるかといえば、現在でこそ太陽光発電パネルは日本のメーカーの専売特許となっているが、当時は欧米、とくに米国のメーカーがアモルファス系だけでなく結晶系のパネルの技術で先頭を走っていた。

 その道の関係者に聞いたり、調べると、日本で国(通産省関係団体)から補助をもらって買う場合よりも、米国では補助なしの消費者の元金で補助金を含めた発電能力を持つパネルを買えることが分かった。

 そこで私は思い切って、米国の太陽光発電パネルを6KW分、並行輸入で購入することを考えた。当時、6KW分と言えば相当な発電量である。日本では補助金を受けてもこの半分のKWのパネルしか買えないということだ。

 当時、静岡県にあった電気製品の輸入代理店まで東京から鷹取敦氏と車で行き、代理店の社長に私の意向を伝えた。いろいろあったが、最終的に米国の太陽光発電パネルを並行輸入してくれることを了承してくれた。

 そのとき、社長から聞いた話では、日本の太陽光パネル製造メーカーは、国から補助を受ける条件として、決められた販売価格でしか消費者に売ってはいけないと指示を受けているという。今流に言えば、メーカーやパネルの代理店は「官製談合」を承諾せざるを得ない状態にあったわけだ。信じられないことだが本当の話だ。
 
 これについて環境総合研究所主任研究員(当時)の鷹取 敦氏は、「環境にやさしい太陽光発電−その期待と課題−」という論考の中で次のように述べてる。


    環境にやさしい太陽光発電−その期待と課題−


                鷹取 敦 環境総合研究所主任研究員

 昨年秋に募集された通産省の住宅用太陽光発電への補助金交付対象システムの設置工事がこの3月上旬に全て完了し、実際に稼動を始める。環境、資源問題の立場から大きな注目と期待を集めている太陽光発電に対する補助制度だが、その意義と問題点を考察してみたい。

太陽光発電の意義

 太陽光発電は

 @地球上のほとんどどこでも利用可能で将来の枯渇の心配もない、
 A使用時に大気汚染、温暖化物質を生じない、
 B大規模な発電施設が必要無い、
 C供給源が分散することにより災害・事故時の影響を最小限にとどめることができるなどの特長がある。

 しかし日照時間の短い地域では発電量が少なく、また曇天・雨天・日影により発電量が減り、夜間は全く発電しないなどの問題がある。後者の問題については、バッテリで余剰電力を蓄え不足時に使用する、逆潮流システムで余剰電力を電力会社に売電し不足時に買電する、というふた通りの方法によって解決することが出来る。

 バッテリを使用する方法では電力会社から完全に自立したシステムが可能だが、バッテリの設置場所の確保、保守管理の手間がかかる、寿命が短いなどの問題がある。

 これに対し逆潮流では、電力消費のピーク時の最大電力消費量を減らすだけでなく、逆に電力を供給することができるので、新たな大規模発電施設の代替としての役割を担うことができる。通産省の補助事業ではこの逆潮流システムを採用しているが、現在のシステムでは電力の自給を行っているにもかかわらず、商用電源の停電時には太陽光パネルを回路から切り離して停電しなければならず自立性は低い。

普及を妨げるもの

 以上のようにいくつかの利点がある太陽光発電だが、いまだ本格的な普及の兆しを見せない。その理由は2点ある。

 一点目は設置場所である。現状では発電効率が低く広い設置場所が必要となる(家庭用の標準規模の3kWシステムで約30平米)ため、集合住宅ての設置が困難のみならず一戸建ても屋根の形状・向きによっては自給可能な発電容量を得られない。

 もう一点、普及を妨げている最大の理由は導入時のコストである。

 通産の補助対象システムでは3kWシステムの工事・機器を含む初期費用が600万円である。1kWあたり90万円の補助を受けても300万円の自己負担となる。

 発電パネルは設計耐用年数が約25年であり、その間の売電料金で設置費用をまかなうには、試算では3kWのシステムで初期費用が200万円を下回らなければならず、現状では全く採算がとれない。通産省は補助制度を実売価格がこの価格に達するまで続けるつもりのようだ。

 しかし同省の目標とする西暦2000年に6万棟の普及は現在の補助率、対象件数(約700件相当)では到底期待できない。

 コストが下がらない理由には技術的な問題以外に、メーカー間の適正な競争が行われていないという要因もあるようだ。例えば通産省の補助対象となっている発電システムは、発電規模にかかわらずメーカー各社でまったく同じ価格である。メーカー間には技術力の差もあることから価格差がないのは不自然であり、価格調整、行政指導などが想像される。

 個人購入を前提としてパネル単体の見額を小規模な小売業者からとったところ、京セラ製のものが800円/ピークワットだった。

 しかしメーカーである京セラの担当者によると(個人向けにバラ売りはしないが)パネル単体で1000円/ピークワットと2割も高かった。

 「個人がソーラーパネルを調達する場合はメーカーの場合よりもはるかに高くつくはず」(家庭用発電システムを販売している三洋電機の担当者)であるにもかかわらず現実はその逆になっている。

 また逆潮流システムに使用する機器は、電力会社の認可を受けたものでなければならない。実際に認可を受けるのは難しく、現在認可を受けたインバータ(直流から交流への変換装置)は数機種しかないという寡占状態も高価格の一因だろう。

普及への課題

 以上の実態を踏まえ太陽光発電普及目標を達成するためには、次のようなより積極的な施策の展開が不可欠である。

●普及を促すために、設置費用の補助率を採算がとれる程度まで上げ、補助対象件数も増やさなければならない。その際、海外メーカーも含めて適正な競争が行われるようにしなければならない。

●消費電力のピーク時に消費電力を減らし、さらには電力を供給することにより個々の家庭が新たな発電施設を肩代わりしていることになるので、電力料金や税制上のなんらかの優遇措置を設けるべきである。

●耐震基準に適合するためのコスト負担がやむを得ないものであるように、エネルギーについても同様な基準を定め、自然エネルギーの効率的な利用に適した条件の整備が必要である。例えば発電した電力を有効に使用するための省エネ(断熱構造、太陽光の採光、風の通り道の確保など)基準、施設や用途に応じた太陽光発電システムの設置義務づけ等である。

 こうした基準に適合するためのコストは新築費用に含めて考えれば必ずしも大きくなく、消費エネルギーコストの低下としてある程度回収することも出来るはずである。また他のコスト上昇の要因(地価水準、建築コストの水準)の適正化が行えれば十分に補える。

 手始めに公共の施設への設置が有効ではないだろうか。普及啓発と同時に、災害時の拠点となる公共施設で災害時に電力が供給されていることの重要性は、神戸の状況をみれば明らかである。

 ※黄色字部分は青山

 出典:晨(あした)、出版社:ぎょうせい、1995年5月号

 本来、もっと安くパネルを消費者に提供できるメーカーもあったのだが、当時の通産省側からの行政指導で高い販売価格とならざるをえないと話してくれたのである。

 事実、当時、米国から輸入した太陽光パネルの価格は、国から補助を受けて買うパネルの約半分の値段であった。したがって、消費者は元金と補助金があれば、日本のメーカーから購入する2倍の太陽光パネルを米国から購入できたのである。信じられないだろうが事実である。しかも、メーカーは別途、国から開発費補助を得ていた。

 鷹取氏の論考にもあるが、当時、国は逆潮流、すなわち太陽光発電パネルで得た直流の電気を家庭用の交流100Vに変換し、電力会社の系統ネットワークに売れる制度をはじめていた。

 だが、私が太陽光パネルとは別の会社から購入した米国のインバーターは約50万円で、PC制御の本格的なインバーターであり当然のこととして逆潮流は技術的に可能であった。しかし、当時、変換される交流の質が悪いとされ逆潮流で電力会社ることを断られた。

 国のお墨付きを得てインバーターを開発して高額で売っていた会社のシステムは装置が大きく、見るからに古めかしいシステムであったが、米国製のシステムは小型、大部分のことが内蔵しているコンピュータから制御が可能であった。しかも、発生する交流電気は、日本製より遙かに高品質のはずだった。しかし、上述のように国策に反するからか、米国から並行輸入したパネルとインバーターでは逆潮流システムを通じて日本の電力会社の系統電力ネットワークに買電することはできなかったのである。


つづく