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臨界状態に達した
「日本郵政問題」
青山貞一 4 June 2009

独立系メディア「今日のコラム」


 鳩山(弟)総務大臣はこの間、日本郵政の「かんぽの宿」売却疑惑などの諸問題について厳しく批判し、日本郵政株式会社法にもとづく行政指導(勧告、公表、命令)を行ってきた。

 周知のように、日本郵政の「かんぽの宿」売却に係わる疑惑は増すばかりである。「かんぽの宿」問題の本質は、もともと2400億円の巨費を投じ、現在の固定資産税の評価額が856億円もあるる国民の資産ともいえる「かんぽの宿」が、不透明な手続きを経て政府の規制改革会議の議長である宮内氏が係わるオリックス不動産に109億円で売却されそうになったことに端を発している。

 その後、鳩山大臣は東京駅前にある日本郵政の東京中央郵便局の建て替えに関連し歴史的建造物として保存すべしと真っ向批判してきた。

  <参考>

 さらに、ここに来て日本郵政グループが同社のPR活動を一括契約している大手広告代理店の子会社の執行役員が郵便法違反事件で起訴されたにもかかわらず、その大手広告代理店と契約を続けている問題で、鳩山総務大臣は噛みつき、法律に基づき事実関係を報告するよう日本郵政に求めている。

 民営化後、まさに続々噴出する疑惑に鳩山大臣は国民の立場に立って、孤軍奮闘で噛み付いている。

 しかし、日本郵政はといえば社内に設置した委員会は売却に特段の疑義はないとする茶番の報告を出した。もちろん、社内委員会が問題ないという結論を出したからといって鳩山大臣を納得させられるわけがなく、鳩山大臣と西川善文社長更との軋轢は頂点に達しつつあり、緊迫した局面を迎えている。

 鳩山総務相は「日本郵政株式会社法」にある日本郵政への監督権限、すなわち以下にある取締役等の選任に係わる権限などをもとに、西川氏を更迭する意志を明確にしている。

日本郵政株式会社法
(取締役等の選任等の決議)
第九条
 会社の取締役の選任及び解任並びに監査役の選任及び解任の決議は、総務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。

 鳩山大臣は「西川氏に責任がないことを認めれば、私の正義感や信念を全部すてさることとなる」と公言、西川社長を更迭させることが自分の正義であると言い切っている。大臣の職を賭してでも西川社長の更迭を実現すると公言しだした。

 さらに鳩山大臣は仮に6月29日の株主総会で西川続投が可決されたとしても上記の第九条に基づき選任を許可しないと息巻いている。

 ところで、これら鳩山大臣の「正義の闘い」を見て見ぬふりしてきた麻生総理はじめ閣僚や自民党の幹部は、ここに来て新たな展開を見せている。

 具体的には政府・与党では「西川氏に辞任の意思がない限り、交代させるべきではない」との声が次第に大きくなっている。政府・与党は鳩山大臣が強権を発動すれば、政府・自民党が大混乱に陥りかねず、さもなくとも支持率が低下している麻生内閣や自民党にとって大きな痛手となると政局化を懸念している。

 その結果、麻生首相は河村官房長官らに鳩山氏の説得を指示し、事態収拾に乗り出したものの、鳩山大臣の意志は固く、調整は難航を極めている。それは鳩山、西川のどちらを立てても政府・与党内に大きな遺恨を残す可能性が高いからだ。

........

 麻生首相は本来、盟友である鳩山大臣の意志を支持したいところだが、そこには大きな問題が横たわっている。

 例によって大メディアはほとんど報じていないが、小泉純一郎元首相、竹中元総務大臣はじめ郵政民営化を推進してきた中川元幹事長、武部元幹事長、さらにはいわゆる小泉チルドレンを含む現役の郵政民営化を推進してきた自民党衆参議員は、この間、陰に陽に麻生首相に西川社長を更迭させないよう揺さぶりを掛けている。

 鳩山大臣はもともと<太郎会>をつくり麻生首相の生みの親といえる存在であったが、ここに来て麻生首相は、小泉元首相はじめそのシンパである郵政民営化推進派グループの揺さぶりに抗しきれず、西川社長続投支持に回り、逆に鳩山大臣の更迭さらには解任に傾きつつあった。

総務相、郵政社長人事に強気 首相は苦境、政権運営の火種に

 日本郵政の西川善文社長の再任問題が、麻生太郎首相を苦境に追い込んでいる。鳩山邦夫総務相は3日、西川氏の続投を認可しない方針を言明し、自らの進退もかける強硬姿勢を示唆した。重要閣僚の辞任は避けたいが、西川氏を更迭すれば自民党内の民営化推進派が反発するのは必至。首相の対応次第で政権運営に大きな打撃となる可能性が出てきた。

 「私は信念を曲げることはしない。それで察してほしい」。総務相は3日、記者団に西川氏が続投なら辞任するかと問われ、こう答えた。その後も西川氏の続投について「権限を行使して認可しない」「閣内で留任を言っている人は聞いていない」と強気だった。

日本経済新聞 2009.6.4(08:08)


 そして6月3日になって麻生首相は、西川社長続投を容認する意向を固めたようだ。理由は上述した西川社長を抜擢した小泉元首相やそれを支持する衆参議員、さらにここにきて鳩山大臣と日本郵政との確執が衆議院議員選挙にマイナスとなると考えたからだ。郵政民営化勢力の圧力に屈して、西川続投を決めたといえる。

 だが、連日のメディア報道で分かるように鳩山総務大臣は依然として西川社長更迭するという態度を崩さず、麻生首相が西川社長続投を容認すれば、麻生首相は盟友、鳩山大臣を更迭するしかなくなる。事実、鳩山大臣は自分は辞職する意志はなく、されるとすれば首相による解職だと息巻いている。

 事実、鳩山大臣は、「正義と不正義の判断基準を失ったとき政治家は存在理由を失う」とさえ述べている。

 もし、そうなれば鳩山大臣は政府・自民党内で行き場がなくなるだけでなく、総選挙にからみ政権交代にからむ政党再編で側近とともに自民党を飛び出す可能性も出てきた。