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グリーンピース・ジャパン
「クジラ肉裁判」初公判
直前イベント参加記


青山貞一 池田こみち

14 Jan. 2010
独立系メディア「今日のコラム」


 2008年グリーンピース・ジャパンの職員、佐藤潤一氏と鈴木徹氏が調査捕鯨におけるクジラ肉の横領疑惑を調査し、公的機関に告発するために横流しの証拠としてダンボール箱入りのクジラ肉を確保したが、同年7月11日、両氏は窃盗・建造物侵入罪で青森地裁に起訴された。

 すなわち、グリーンピースジャパンが国策“調査捕鯨”の不正を暴こうとしたら、その告発の証拠としたクジラ肉23.5kg入りの段ボール箱を「建造物侵入」して「窃盗」したとの容疑で佐藤潤一氏と鈴木徹氏が青森県警に逮捕・起訴されたのである。

 この「クジラ肉裁判」が、いよいよ2月15日に青森地方裁判所で開廷する。

 この「クジラ肉裁判」は、政府や企業を監視することが大きな仕事であるNGO(グリーンピース)と、国際社会からも国内でも多くの疑問を投げられる国営事業の不正を、所轄官庁の農林水産省(水産庁)はもちろん検察や裁判所まで一緒になって隠そうとする国とが、真正面から国民・市民の「知る権利」を争う日本ではじめての裁判でもある。

 検察側はクジラ肉の組織的横領疑惑に踏み込むのを恐れて、ダンボール箱の送り主である船員の所有権も主張せず、ただ宅配業者の「占有権」(集配所での保管権限)だけを争うという奇妙な裁判であるが、改正刑事事件訴訟法による公判前整理手続きを通じ「クジラ肉裁判」の裁判官は最終的に、

1) クジラ肉の送り主である船員、

2) その船員にクジラ肉を追加で提供したとされる他の船員2人、

3) 宅配業者の集配所責任者、

4) 捕鯨船団の傭船を受託し、“調査捕鯨”クジラ肉の流通も行う共同船舶(株)のクジラ肉販売責任者、

5) グリーンピースに捕鯨船団におけるクジラ肉横領の情報を寄せてくれた内部通報者の一人、

6) そして海外から国際人権法上の「表現の自由」や「知る権利」の専門家一人、

の合計7人を証人として採用した。6)は欧州の人権法に詳しいベルギー人大学教授である。

 ほぼ1年におよんだ公判前整理手続きで、問題を単に一箱だけの窃盗で片づけたい検察側に対し、弁護側が長期的かつ組織的な業務上横領疑惑の全容解明と、NGOの「表現の自由」とを論点に含めるよう粘り強く主張した成果であると言える。

 とくに、刑事裁判で海外の人権専門家が証人に立つのは画期的である。

 この裁判の結果は、国民・市民が政府の行為をしっかりチェックし、問題があれば変えられる社会に脱皮するか、それとも国策なら政府三権やメディアまで一体となって押し通す戦前・戦中と大差ない社会が続くのか、日本の民主主義の未来を左右するものだ!


出典:グリーンピース・ジャパン 上の図を押すと拡大

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 2010年2月上旬、渦中のグリーンピースジャパンの「クジラ肉裁判」第一回公判にあわせ、まさしく環境問題と公正・公平な裁判がかかわる初公判を傍聴するため、2009年11月、新しくグリーンピース・インターナショナルの事務局長に就任したクミ・ナイドゥ氏が来日した。

 クミ・ナイドゥ氏は、アフリカ出身者としてははじめてのGPインターナショナル事務局長である。

 そして、クミ・ナイドゥ氏の来日に合わせて、東京渋谷の国連大学地下にあるアン・カフェ(UN Cafe)で公判直前に、「平和・公正・環境のために立ち上がろう ―― クミ・ナイドゥ氏を囲む夕べ」が開催された。

 筆者と池田こみち氏が事務局長より招待を受けたこともあり、「独立系メディア」の取材を兼ねて会合に参加した。

 クミ・ナイドゥ氏は、生まれ育った南アフリカで反アパルトヘイト運動に身を投じて以来、社会的公正や貧困、民主化の問題に取り組んできたひとで、グリーンピースは、このナイドゥをトップ(国際事務局長)に迎え、これまで以上に環境と社会的公正とのつながり(environmental justice)を重視していくとのこと。


平和・公正・環境のために立ち上がろうで挨拶するクミ・ナイドゥ氏


▼クミ・ナイドゥ(Kumi Naidoo)プロフィール

 南アフリカ出身。15歳で反アパルトヘイト運動に身を投じ、人材育成や人種の壁の撤廃など、草の根の活動を展開する。オックスフォード大学で政治社会学の博士号を取得。教育や開発、女性や子どもの人権問題など、さまざまな分野で南アフリカ社会の民主化に尽力してきた。NGOや市民社会などに関する論文多数。

 1998〜2008年にはCIVICUS(World Alliance for Citizen Participation *)事務局長を、2003年には、コフィ・アナン国連事務総長(当時)によって国連市民社会委員会の著名人委員に任命され、世界経済フォーラムのグローバル・ガバナンス・イニシアティヴの運営委員を務める。貧困撲滅のためのグローバル・アクション(Global Call to Action Against Poverty)の共同議長として、日本でも「ほっとけない 世界のまずしさ」に参加。グリーンピースも加盟する気候アクションのためのグローバル・キャンペーン(Global Campaign for ClimateAction)議長を務める。2009年11月より現職。

* CIVICUSは、世界の市民社会と市民活動の強化をめざす550以上の団体や個人が102カ国から参加する国際組織(本部:南アフリカ)。


▼クミ・ナイドゥ氏就任あいさつ
http://www.greenpeace.or.jp/info/staff/inted_2009_html

 当日は、グリーンピースジャパンの星川淳事務局長、インターナショナルの新事務局長、クミ・ナイドゥ氏の挨拶の後、青森県警に不法逮捕され、地検に起訴されたグリーンピースジャパン職員の佐藤潤一氏からこの間の報告があった。

 開会の挨拶をする星川淳グリーンピースジャパン事務局長。


左から星川氏、司会者、通訳者

 下の写真の右端が佐藤潤一氏。

 佐藤さんは非常に元気で、この公判を戦い抜く決意を表明された。


報告するGPJ職員の佐藤潤一氏

 公判直前のこのイベントには全世界からグリーンピース関係者が駆けつけた。

 俳優の山本太郎氏も急遽駆けつけ、挨拶を行った。

 山本氏は過去、GPJの呼びかけによる「米国の対イラク攻撃不支持と、国連に『平和のための結集』を働きかけることを求める要請書」などにも意見を寄せている社会派俳優である。


挨拶する俳優の山本太郎氏

 下の写真は左から世古一穂さん(金沢大学大学院人間社会環境研究科教授、特定非営利活動法人NPO研修・情報センター代表理事)、GPJの佐藤潤一さん、池田こみちさん(環境総合研究所副所長、環境行政改革フォーラム副代表)である。



 下の写真は、イギリスから駆けつけた人権弁護士のラナ・レファヒ氏さんと議論中の池田こみちさん。ラナ・レファヒ氏は、昨年10月に原宿の表参道で行われたグリーンピース・ジャパン20周年記念イベントにも参加している。
 


 下の写真は左から青山貞一(東京都市大学教授、環境総合研究所所長)、佐藤潤一氏、グリーンピースジャパン事務局長の星川淳氏。



 下の写真は、左から星川淳氏、海渡雄一弁護士(東京共同法律事務所)、青山貞一である。海渡弁護士は、「くじら肉裁判」の主任弁護人を担当しており、この後、青森地裁の公判にでかけた。

 なお、海渡主任弁護人によれば、第一回公判では検察側の冒頭陳述の後、海渡弁護士がパワーポイントを使い数時間に及ぶ陳述を行うとのことで、当日は午前から夕方まで一日かけての審理となるようだ。

 弁護人には海渡弁護士以外に、東京共同法律事務所の只野仁弁護士、日隅一雄弁護士もいる。海渡弁護士は、人権問題では日本を代表する弁護士でもある。



■画期的な結果で初公判へ―クジラ肉裁判で調査捕鯨にメス!

【2010年1月15日 青森】 グリーンピースジャパン、プレスリリース

 本日、青森地方裁判所にて行われたクジラ肉裁判(注1)の第7回公判前整理手続きの協議で、公判の行方を左右する証拠や証人採用について画期的な決定がなされた。

 調査捕鯨を実施する共同船舶株式会社の幹部、さらに捕鯨母船日新丸の船員3名、そして海外の国際人権法の専門家などが証人として尋問されることが決定し、調査捕鯨の不正、そして被告人佐藤潤一と鈴木徹の行為の正当性に大きくかかわるNGOやジャーナリストの権利についても審議が及ぶことになった。

 証人採用となった船員の3名とは、裁判の焦点である佐藤と鈴木が確保した23.5キロのクジラ肉入り箱の持ち主と、他2名は土産として配布されたとされるクジラ肉の一部をその船員に譲り渡したと証言する同僚。クジラ肉の譲渡に関わった船員らと共同船舶の幹部が証人として召喚されることで、この裁判が単なる窃盗事件ではなく、調査捕鯨関係者による組織的なクジラ肉の横領の有無についても争われるものとなった。現在、南極海で行われている調査捕鯨が、税金を注ぎ込む国策事業であるにもかかわらず、一部の関係者の利益となっている疑惑にメスが入ることになる。

 主任弁護人の海渡雄一は、「焦点を本筋に戻して、被告人の二人が証明したかった調査捕鯨の不正を法廷でしっかり証明したい」とした上で、「外国人であるヨーロッパ人権法の専門家が日本の裁判で採用されたのは画期的」と述べた。

 採用された国際人権法の専門家デレク・フォルホーフ教授は、社会の健全なチェック機能を守るため政府の不正を明らかにするNGOやジャーナリストの行為を保障してきたヨーロッパ人権裁判所の判例を研究してきた第一人者であり、「表現の自由」に関わる世界各国の裁判で証言している。

 起訴から18カ月間と異例の長期にわたる公判前整理手続きはこれで終了し、2月15日に初公判が行われる。また、それ以降の公判は3月8日から11日まで連続4日間の日程で開廷される予定。 このたびの決定を受けてグリーンピース・ジャパン事務局長の星川淳は、「本日の証人採用でグリーンピースが訴えたかった材料がそろった。日本の民主主義とNGOの未来のためにしっかりと法廷で闘っていきたい」と語り、クジラ肉裁判の重要性を訴えながら公平な審理に期待を寄せた。グリーンピース・ジャパンのホームページ上では近日、この裁判に注目する市民からの声を紹介していく新企画「the ウォッチ!」をスタートする。

 以下は、初公判を伝える読売新聞の記事。

行為の正当性争点に 鯨肉窃盗事件15日初公判
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/aomori/news/20100212-OYT8T01431.htm

 青森市内の運送会社から鯨肉入りの段ボールを盗んだとして、建造物侵入と窃盗の罪に問われた環境保護団体「グリーンピース・ジャパン」のメンバー2人の初公判が15日、青森地裁(小川賢司裁判長)で開かれる。弁護側は「調査捕鯨における鯨肉横領を告発するためで違法性はない」として無罪を主張する構えで、「正当な手段ではなかった」とする検察側との間で公判は全面対決が予想される。

 起訴状などでは、グリーンピース・ジャパンのメンバー、佐藤潤一(33)=東京都八王子市=、鈴木徹(43)=横浜市=の両被告は2008年4月16日、青森市野内の運送会社に侵入、鯨肉23・1キロ・グラム(約5万8905円相当)の入った段ボールを盗んだ、としている。鯨肉は、調査捕鯨船の船員が土産名目で自宅あてに送ったものだった。

 青森地裁によると、昨年2月から計7回にわたる公判前整理手続きの結果、主な争点は、〈1〉鯨肉を自らのものとする「不法領得の意思」があったか〈2〉「鯨肉持ち出し」が正当な行為だったか〈3〉憲法の「表現の自由」に照らして無罪か〈4〉両被告の行為が国際人権規約で保障されているか――の4点に絞られた。

 検察側は、たとえ正当な目的があったとしても、法を犯す手段は認められないとの立場だ。公判では、被害に遭った運送会社幹部らの証人尋問などを通し、立証を進めることになる。

 これに対し弁護側は、両被告が鯨肉を持ち出した事実そのものは争わず、実行行為の正当性立証に集中する戦術を取る方針。証人にも、欧州の人権法に詳しいベルギー人大学教授や、「鯨肉横領」の内部告発者らをそろえた。

 鯨肉横領の有無は直接の争点にはなっていないが、内部告発者の証言内容次第では、再び注目が集まる可能性がある。初公判の後、3月8〜11日には、証人尋問や被告人質問など集中審理が予定されている。

 グリーンピース側は08年5月15日、両被告が持ち出した鯨肉などを「横領の証拠」として、調査捕鯨船の船員12人を業務上横領容疑で東京地検に告発。しかし、同地検は約1か月後の同年6月20日、不起訴処分(嫌疑なし)とした。

 一方、両被告は同日、運送会社の被害届を受けた県警と警視庁公安部に窃盗容疑などで逮捕された。

(2010年2月13日 読売新聞)