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「原発推進で温暖化対策」
が見え隠れ
地球温暖化対策基本法案

青山貞一
 

5 March 2010
独立系メディア「今日のコラム」

 日本の大メディアはまったく報道しなかったが、2010年3月2日に議員会館で政府が立法準備している地球温暖化対策基本法案に対する緊急集会が開催された。

 会合のタイトルは、「ゆがめられる地球温暖化対策基本法―密室の官僚主導でマニフェスト違反を許していいのか―」である。

 この緊急集会には、約80人の衆参国会議員や政策秘書も参加したという。

 独立系メディアでは何度となく指摘してきたが、デンマークのコペンハーゲンで開催された国連環境特別総会で鳩山総理が1990年対比で2020年までに、二酸化炭素の排出量を25%削減するという画期的な目標を提示し、EU諸国を中心に世界各国から絶賛された。

 それを受け日本では内閣法として地球温暖化防止基本法案の制定が進行しているが、そこでの最大の課題は言うまでもなく、地球温暖化防止基本対策法の中に原子力発電(原発)が大きく位置づけられようとしていることだ。

 就任間もなく、小沢環境大臣が鹿児島県川内の原発の増設を地球温暖化対策としても容認する旨の発言をしている。

  そもそも、2009年9月時点で世界銀行ですら原発が温暖化対策にならないことを次のように述べている。

 「原子力には相当の資本と高度の熟練職員が必要であり、運転開始までのリードタイムが長く、短期の炭酸ガス排出削減の効果は限られている。一基の原子力発電所の計画・許認可・建設には、普通、10年かそれ以上の時間がかかる。また、近年は発注が減っていることから、原発の数多くの重要部品の製造能力も世界中で縮小してきており、この製造能力を回復するだけでも少なくとも10年はかかるであろう。」 出典:World Development Report 2010: Development and Climate Change By World Bank, World Bank Group 2009 October(日本語訳:グリーン・アクション)

 また原子力資料情報室の伴英幸氏は、次のように述べている。

 「電力各社は原子力を利用してキロワット時あたりの二酸化炭素排出量(原単位)を減らすことを目標に掲げていますが、同時に販売電力量を積極的に増やそうとしています。これでは二酸化炭素の削減にはつながりません。

 総量を減らすことが求められているときに原単位で減らすことでは対応できません。原子力が基本法の中に位置付けられれば、こうした流れが確定してしまい、2020年までに25%削減を達成することは出来なくなるでしょう。

 また、原子力に依存した二酸化炭素削減は省エネや新エネルギーを立ち枯れさせてしまうでしょう。この間、風力や太陽光、そして省エネとしては燃料電池など熱電併給システムが広がりつつあります。原子力はこの流れに冷や水を浴びせ、結局は育てていくことができなくなるでしょう。

 原子力の扱いがどうなるのか、密室で話し合われているようで委員会等にも出てこないとのことです。そして来週中にも閣議決定がなされるとのことです。基本法の中に原子力を入れることは、25%目標達成を諦めることを意味しています」

 独立系メディアで何度も指摘してきたことだが、民主党には以前から原発推進を公言する大畠章宏衆議院議員(日立労組出身、7期)がおり、政権マニフェスト、INDEXでも、こと原発問題について民主党は明確な対応をしていないことが、問題の背景にあることは言を待たない。民主党を支援する連合も基本的に原発推進の立場をとっていることもある。

温暖化基本法案:首相「ボコボコに」検討難航に不満

 政府が今国会に提出する「地球温暖化対策基本法案」について、鳩山由紀夫首相は4日の参院予算委員会で「法案がボコボコにされそうになっている」と、難航する検討状況に不満をあらわにした。産業界だけでなく、労働組合からも異論が出る一方、環境NGO(非政府組織)は民主党のマニフェストに反する可能性があると批判。政府内でも迷走状態が続いている。

 法案では、温室効果ガスを20年までに90年比25%減、50年までに80%減とする目標を明記している。政府は基本的施策として▽国内排出量取引制度の創設▽地球温暖化対策税(環境税)の検討−−などを盛り込む方針を固めている。

 しかし、排出量取引の具体的方法、温暖化対策としての原発の取り扱いを巡り政府内で対立があり、当初目指していた5日の閣議決定は、9日以降にずれ込む見通しだ。中でも排出量取引は、マニフェストが参加事業所に排出総量の上限を設定すると明記しているのに対し、「生産活動の規制につながる」と産業界が反対。別の方法も併記することも検討されている。

 鳩山首相は4日、「基本法案が決して骨抜きにならないよう力を入れていく」と述べた。【大場あい】

 他方、日本の産業界9団体は、違った角度から地球温暖化対策基本法案に反対している。

 反対している9団体には、石油連盟、社団法人セメント協会、電気事業連合会、社団法人電子情報技術産業協会、社団法人日本化学工業協会、社団法人日本ガス協会、社団法人日本自動車工業会、日本製紙連合会、社団法人日本鉄鋼連盟が含まれる。このうち電気事業連合会には、原発事業を推進している東京電力など9電力が含まれるが、地球温暖化対策で原発推進することには賛成しつつも、鳩山総理の25%削減の目標設定そのものに反対しており、呉越同舟の感がある。

地球温暖化対策:基本法案、業界9団体が反対 「民主的プロセスない」

 日本鉄鋼連盟など業界9団体は26日、政府が策定中の地球温暖化対策基本法案に関する提言を発表した。「国民の理解と納得を得るための民主的なプロセス」を取るよう政府に求め、現時点では産業界として法案に反対する姿勢を示した。

 提言は「国民にとって十分な判断材料も、意見を反映する手段も与えられないまま、法案が提出されるのであれば、民主的プロセスとは言えない」と、政府を批判。「ただ高い中期目標を掲げることは、地球温暖化問題の真の解決にはつながらない」として、国民生活や産業界への影響の検証が不十分と指摘した。

 会見では「企業の負担が大きく、国内で事業を続けるか否かの問題」(セメント協会)、「新政権は我々とコミュニケーションをほとんどしていない」(日本製紙連合会)などの不満が相次いだ。【後藤逸郎】

毎日新聞 2010年2月27日 東京朝刊


 いずれにせよ、こと原発問題に対しては上述のような理由から明確なビジョンが示せないのが、民主党である。普天間代替施設問題同様、民主党の大きなアキレス腱となっている。

 もとはといえば、1990年対比でマイナス6%削減を京都会議(COP3)で世界に約束しながら、現在マイナス6%どころか、実際には1990年対比でプラス6%、目標値対比でプラス約13%と二酸化炭素を増やしている日本が、見通しなく、また党内事情を整理することなく大言壮語したことが問題であるとも言えるだろう。