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義務づけ行政訴訟で

福岡県逆転敗訴(福岡高裁)

〜飯塚市の産廃訴訟〜

青山貞一 Teiichi Aoyama
東京都市大学教授


掲載月日:2011年2月19日

独立系メディア E-wave Tokyo

無断転載禁

 もう今から7年も前になりますが、福岡県筑穂町(現在飯塚市)の炭坑跡地にあった安定型の産廃処分場に安定型5品目以外の産廃が多数、違法に搬入され、浸出水からダイオキシンはじめ各種重金属類などが検出されたことで民事の操業差し止め事件となりました。


旧筑穂町の産廃処分場
提供:環境総合研究所(東京都目黒区)




産廃処分場から浸出する汚染水のサンプリングポイント
提供:環境総合研究所(東京都目黒区)

 民事裁判は住民側が勝訴になりましたが、その後、行政事件訴訟法が改正され差し止め訴訟などの抗告訴訟とともに義務づけ訴訟が新類型に加わったことを受け、産廃を全量撤去するなどを福岡県に義務づける訴訟を住民側が提訴しました。
 
 産廃業者が倒産し、当事者能力がなくなったとして福岡県を相手取った行政訴訟です。

 実は民事裁判で九州の馬奈木弁護士、高橋弁護士、紫藤弁護士に依頼を受け、浸出水や安定型処分場内の土壌などを環境総合研究所で現地試料採取し、分析を行った関係もありこの行政訴訟に大いに注目しておりました。

 行政事業訴訟法改正の公聴会にも私が呼ばれ官邸主導の委員会に政策提言していたこともあったからです。

 残念ながら初審(福岡地裁)で2〜3年も審理したにもかかわらず、福岡県が住民側に立ちはだかり、結果的に敗訴しました。福岡県と県の研究所はべったりと産廃業者側をディフェンスし、執拗に住民側が出した汚染などの証拠を批判していました。

 先ほど読売新聞福岡本社のデスクから自宅に電話があり、本日、福岡高裁で控訴審の判決があり、住民側が逆転勝訴したとのことです。大変懐かしい訴訟であり、30分ほど話し、コメントを出しました。

福岡県旧筑穂町産廃関連義務づけ訴訟逆転勝訴(判決文)

 ただし、福岡高裁で逆転勝訴したとはいえ、この種の原状回復にの代執行には巨額の公金が使われることになり、その原資も底をつきつつあるので、仮に最高裁で勝訴したとしても、すんなり巨大安定型最終処分場に不法投棄された産廃を原状回復させる、具体的は掘削し管理型処分場に運び入れることが実現するかどうかは分かりません。

 全国各地の類似事例、たとえば滋賀県栗東などの例を見ても、なかなか容易ではないようです。とはいえ、おそらく全国的に見てもこの種の行政訴訟での高裁勝訴ははじめてのことであり、画期的なことです。

 福岡県のことですから上告する可能性が高いと思いますが、最後まで戦い抜いて欲しいと考えます。

産廃撤去:県に命令義務 処分場で有害物質流出 福岡高裁
 読売新聞 2011.2.7

 福岡県飯塚市(旧筑穂町)の操業を停止した産業廃棄物最終処分場の周辺で有害物質が流出したとして、周辺住民が県に廃棄物の撤去を求めた訴訟の控訴審で、福岡高裁は7日、訴えを却下した1審福岡地裁判決を取り消し、産廃の撤去など環境保全に必要な措置を講ずるよう業者に命じることを県に義務付ける判決を言い渡した。古賀寛裁判長は「行政代執行や措置命令をしないことで、重大な損害を生じる恐れがある」と指摘した。

 業者は現在倒産状態にあるため、判決は実質的に県に対し代執行まで迫る内容となった。原告側の弁護団によると、産廃を巡り行政に対応を義務付けた判決は全国初で、都道府県の産廃行政に影響を与えそうだ。

 判決は、控訴審期間中に処分場内の地下水から基準値を上回る鉛が検出されたことなどから、汚染を認定。周辺で井戸水が使われていることを踏まえ「周辺住民の生命、健康に損害を生ずる恐れがある」と述べた。また、県が措置命令を出していない点について「合理性を欠き、裁量権の乱用だ」と批判した。

 処分場は県の許可を受け85年に操業を始めた。汚染の可能性が低い廃プラスチックなど、安定5品目を処理していたが、01年に汚水が近くの川に流れ込むなどし、県は02年に処分場管理業者に対し処分場から5品目以外の廃棄物を除去するよう改善命令を出した。

 一方、近隣住民は03年、操業停止と産廃の搬出を求める仮処分を申請。04年に操業停止決定を得たが、産廃搬出については却下された。業者はその後事実上倒産し、廃棄物が放置されたため、05年に県に産廃の撤去などを求める義務付け訴訟を福岡地裁に起こした。

 08年の1審は、処分場内の水質汚濁や5品目以外の産廃が埋め立てられたことを認めたが、「直ちに住民の生命や健康に被害を生じさせる恐れはない」と訴えを却下していた。

 原告側が控訴し、控訴審では現地のボーリング調査が行われ、地下水などから基準値を2・7倍上回る鉛が検出された。原告側は「違法な産廃処理は明らか」
と主張、県側は「水質検査結果は信用できない」と反論していた。【岸達也】