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全員一致で起訴相当を
議決した「市民感覚」の愚!?

青山貞一
28 April 2010
独立系メディア「今日のコラム」
無断転載禁


 第五検察審査会は、小沢一郎・民主党幹事長に対し2010年4月28日以下に示すように、起訴相当と議決した。東京地検特捜部は、小沢氏の複数の秘書を逮捕し、家宅捜査を連発し、小沢氏当人に対しても数度取り調べを行った前代未聞の捜査で、証拠不十分で起訴を見送った案件である。

 刑事事件訴訟法、刑法、公職選挙法の法理や実務など関連する司法のいわばド素人が、わずか実質2ヶ月の審理で起訴相当と議決したのである。

 きっかけとなった東京地検に訴え出た団体だが、大マスコミは一貫して「市民団体」と報じているが、その「市民団体」がいかなるものなのか、もとより東京地検特捜部の小沢氏への異常なまでの執拗な捜査そのものが問われてきた本件だが、ド素人の集まりが全員一致で「起訴相当」と議決したこと自体に大いに疑義を感じる。

 下にある議決要旨を見れば分かることだが、この議決は、「市民感覚」で感じた疑義をもとに、すべての判断を東京地検特捜部ではなく裁判所の審理に任せるという安易なものであると言える。

 しかも今まで東京地検特捜部が行った捜査によって得た各種証拠で公判が維持できるかどうかの司法判断もないままに「市民感覚」で起訴相当を全員一致で行ったのである。

 我が国では欧米のように、警察、検察の取り調べが可視化されておらず、上杉隆氏の論考にあるように、戦前の公安警察まがいの人権を無視した取り調べ、強要が行われている可能性も大きい。いったいどのような情報が審査員に提供されているのか、誰がどう解説、説明しているのかも不明である。もともと権力や大メディアに誘導を受けやすい日本人がどうそれらに対応するかも重要だ。

 これを情報操作と世論誘導という視点から見ると、日本固有の重要な問題がある。それは、日本国民は新聞など活字メディアに対する信頼性が異常に高いと言うことである。

 もとより、日本国民の「市民感覚」の圧倒的多くは、新聞、テレビなど大マスコミ情報の影響を受けているからだ。

 日本では数社の新聞や数局のテレビ、しかも圧倒的シェアを持つ大メディアの「情報操作による世論誘導」が以前か大きな問題となっている。これほど酷い世論誘導は、米国を含め他の先進国ではないだろう。


出典:青山貞一、情報公開と市民参加、公共政策論(東京都市大学)

 元々日本社会では、読売、朝日、毎日、日経など数社の全国を対象とした大新聞それに全国ネットのテレビ局数社など大メディアが、記者クラブの存在とともに、この種の情報操作による世論誘導の先兵となってきた経緯がある。日本のメディアは、その意味で「社会の木鐸」からはほど遠い存在となっているいるだけでなく、とくに政権交代前後からは、大メディアによる情報操作による世論誘導が日常茶飯事に行われている現実、実態がある。

 下のグラフは、世界各国の国民の組織・制度への信頼度調査の結果である。これを見ると、日本国民が新聞・雑誌などの活字メディアに寄せる信頼は、70.2%と先進国では突出して高いことが分かる。

 ちなみにG7諸国、たとえば英国が14.2%、米国が26.3%、イタリア34.4%、ドイツ35.6%、フランス35.2%、またロシアが29.4%、中国でも64.3%である。

 これは一体何を意味するのであろうか? 日本人は新聞・雑誌などの活字メディア(おそらくテレビ報道という項目があればテレビも)への信頼度が異常に高いということを意味する。 内容のいかんにかかわらず、かも知れない。
 
 逆説すれば、情報操作による世論誘導にひっかかりやすい国民性といえるのである。 

 さらに、わずか2ヶ月の審理で全会一致の議決となった背景には、政権交代を歓迎しない法曹関係者、地検関係者による事情説明の名の下での情報操作による世論誘導が見えも隠れする。

 その道のプロなら、ド素人集団に対し情報操作による世論誘導はいとも簡単なことだろう。東京地検特捜部というプロ中のプロだと、公判が維持できない案件でも、検察審査会なるド素人集団が行った議決であれば、公判で完全無罪となっても責任を問われないと考えることは容易に推察できる。

 完全無罪となっても、東京地検特捜部の小沢氏への怨念に似た執着心は十分果たせるのである。それはすでに、鳩山内閣や民主党に対する支持率の低下に象徴的に現れている。大マスコミと東京地検特捜部の合作、連携によって国民の圧倒的多くが、すでに小沢氏に対し、グレーというより黒という印象を徹底的に植え付けているからである。

 今回の全員一致の起訴相当という議決そのものが、情報操作による国民の世論誘導、審査員への世論誘導の成果となっている。

 参議院議員選挙を控えたこの時期に、全員一致で起訴相当と判断したことの政治的意味もきわめて大きい。その意味で、裁判員制度以上に、大メディアが国民、世論に依然として圧倒的な影響力を持つこの日本で、この検察審査会の新制度は、実は「○○に刃物」を渡す、末恐ろしいものであることを知る必要がある。

 総じて「市民感覚」という名のもとで検察とメディアが誘導した結論が公正な司法制度を歪めるという実態を国民は知るべきだと思う。

<参考>
 検察審査員の選任は、事務局が選挙人名簿からくじ引きで選び、その後、選ばれた候補者に封書に入れた調書を送り、受諾の可能性を聞いた上で最終的に審査会毎に審査員及びその補欠審査員を選定している。その場合、事務局側が事件の関係者及び公務員、弁護士、政治家などを除外する。さらに司法関係の専門家、たとえば大学で法律を教えている人も除外されている。その意味で言えば選ばれた審査員は、当該分野のまさにド素人となっているのである。

小沢一郎・民主党幹事長に対する東京第5検察審査会の議決の要旨

 被疑者 小沢一郎
 不起訴処分をした検察官 東京地検検事 木村匡良
 議決書の作成を補助した審査補助員 弁護士 米沢敏雄

 2010年2月4日に検察官がした不起訴処分(嫌疑不十分)の当否に関し、当検察審査会は次の通り議決する。

 【議決の趣旨】

 不起訴処分は不当であり、起訴を相当とする。

 【議決の理由】

 第1 被疑事実の要旨

 被疑者は、資金管理団体である陸山会の代表者であるが、真実は陸山会において04年10月に代金合計3億4264万円を支払い、東京都世田谷区深沢所在の土地2筆を取得したのに、

 1 陸山会会計責任者A及びその職務を補佐するBと共謀の上、05年3月ころ、04年分の陸山会の収支報告書に、土地代金の支払いを支出として、土地を資産として、それぞれ記載しないまま総務大臣に提出した。

 2 A及びその職務を補佐するCと共謀の上、06年3月ころ、05年分の陸山会の収支報告書に、土地代金分が過大の4億1525万4243円を事務所費として支出した旨、資産として土地を05年1月7日に取得した旨を、それぞれ虚偽の記入をした上で総務大臣に提出した。

 第2 検察審査会の判断

 1 直接的証拠

 (1)04年分の収支報告書を提出する前に、被疑者に報告・相談等した旨のBの供述

 (2)05年分の収支報告書を提出する前に、被疑者に説明し、了承を得ている旨のCの供述

 2 被疑者は、いずれの年の収支報告書についても、その提出前に確認することなく、担当者において収入も支出も全て真実ありのまま記載していると信じて、了承していた旨の供述をしているが、きわめて不合理、不自然で信用できない。
 3 被疑者が否認していても、以下の状況証拠が認められる。

 (1)被疑者からの4億円を原資として土地を購入した事実を隠蔽(いんぺい)するため、銀行への融資申込書や約束手形に被疑者自らが署名、押印をし、陸山会の定期預金を担保に金利(年額約450万円)を支払ってまで銀行融資を受けている等の執拗(しつよう)な偽装工作をしている。

 (2)土地代金を全額支払っているのに、土地の売主との間で不動産引渡し完了確認書(04年10月29日完了)や05年度分の固定資産税を陸山会で負担するとの合意書を取り交わしてまで本登記を翌年にずらしている。

 (3)上記の諸工作は被疑者が多額の資金を有していると周囲に疑われ、マスコミ等に騒がれないための手段と推測される。

 (4)絶対権力者である被疑者に無断で、A、B、Cらが本件のような資金の流れの隠蔽(いんぺい)工作等をする必要も理由もない。

 これらを総合すれば、被疑者とA、B、Cらとの共謀を認定することは可能である。

 4 更に、共謀に関する諸判例に照らしても、絶大な指揮命令権限を有する被疑者の地位とA、B、Cらの立場や上記の状況証拠を総合考慮すれば、被疑者に共謀共同正犯が成立するとの認定が可能である。

 5 政治資金規正法の趣旨・目的は、政治資金の流れを広く国民に公開し、その是非についての判断を国民に任せ、これによって民主政治の健全な発展に寄与することにある。

 (1)「秘書に任せていた」と言えば、政治家本人の責任は問われなくて良いのか。
 (2)近時、「政治家とカネ」にまつわる政治不信が高まっている状況下にもあり、市民目線からは許し難い。

 6 上記1ないし3のような直接的証拠と状況証拠があって、被疑者の共謀共同正犯の成立が強く推認され、上記5の政治資金規正法の趣旨・目的・世情等に照らして、本件事案については、被疑者を起訴して公開の場(裁判所)で真実の事実関係と責任の所在を明らかにすべきである。これこそが善良な市民としての感覚である。よって、上記趣旨の通り議決する。

    ◇

 要旨中のAは小沢氏の元公設第1秘書・大久保隆規被告、Bは陸山会元事務担当者で衆院議員の石川知裕被告、Cは同会元事務担当者の池田光智被告