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高濃度ダイオキシンを含む
田子の浦浚渫土砂の
海浜埋め立て問題について


青山 貞一

東京都市大学大学院 環境情報学研究科教授
初出:環境行政改革フォーラム論文集
Vol.2 No.2(2010.2)から転載
17 April 2010
独立系メディア「今日のコラム」
無断転載禁


本稿は、環境行政改革フォーラム論文集 Vol.2 No.2(2010.2)の転載である。


1.田子の浦地区におけるダイオキシン汚染の概要

 田子の浦港がある富士市(新幹線の駅では新富士駅)は、昔から製紙が盛んで多数の製紙関連企業が集中している。

 図1は田子の浦港を中心とした富士市の沿岸部であるが、ここには日本を代表する製紙業が多数立地している。その昔は外から富士市に入っただけで、新富士駅に着くと鼻にツーンとくるガスの臭いがした。現在はかなり改善したが、それでも風向きによっては臭いがする。


図1 田子の浦港とその周辺地域

 富士市内には図2にあるように大小多数の河川がある。比較的大きな河川だけをとっても田子江川、潤井川、小潤井川、和田川、沼川の5つある。これらの河川はいずれも田子の浦港に注ぎ込んでいる。

 それら河川の周辺に表1に示す大小多くの製紙工場が立地しており、排水がそれらの大小河川に流れ込み、最終的に田子の浦港に流入する。製糸業では使用する用水の原単位が大きい。結果的に排水量も膨大となる。現在はかなり改善されたとはいえ、製紙業では紙の漂白などに塩素系化合物を使用している関係から有機塩素系化合物の中でも特に毒性の強い非意図性生成物であるダイオキシン類が工場廃液に含まれている。


図2  田子の浦港への流入河川位置図

表1 富士市内の主な製紙工場と本社


 事実、製紙企業の公式Webにも、廃水や廃棄物にダイオキシン類が含まれていたことを示す記述が多数ある。たとえば、「我々が日常使用する廃棄物の焼却に伴って生成するダイオキシンが大きな社会問題になっています。クラフトパルプの塩素漂白工程においても同様にダイオキシンが生成し環境中へ排出されます。その絶対量は焼却の場合と比較して少ないもののそのいくらかは紙に残留している可能性もあります。このダイオキシン生成を抑制するには、漂白工程で使用される塩素を無塩素系の漂白剤に代替する必要があります。弊社の紙は無塩素漂白すなわち塩素で漂白していないのでダイオキシンは発生しません。又、紙にも残留していません」とか「漂白に塩素を大量使用するとダイオキシンを発生させるおそれがあるため、日本製紙連合会では、AOX(ダイオキシン発生の指標)を1.5kg/パルプt以内に抑える自主基準を決めている。

 このレベルですでにダイオキシンは発生しないと考えられており、当社の従来設備はすべて基準内を達成しているが、今後オゾン漂白導入を含むECF化で、さらにAOXの低減を目指す」など、おそらく現状ではかなり改善されたとは言え、ダイオキシン類が廃水あるいは廃棄物に含まれていたことは間違いない。製紙業界では脱塩素処理などに向かっているとWebなどで書いているが、それでも以前の汚染が酷いときに比べれば、半分あるいは三分の一の排出量あるいは濃度となったというだけであり、今でも市内に張り巡らされた河川からダイオキシン類はじめ有害な化学物質が廃水として田子の浦港に流入していることは想像に難くないと思える。

 ちなみに日本でダイオキシン問題が最初に顕在化したのは、愛媛県の川之江地区だが、原因が製糸工場からの廃水だったことはよく知られている。


2.底質及び浚渫土砂中のダイオキシン汚染の概要

 田子の浦港は掘込み港だが、上述のように、そこに製紙工場や化学系工場からまざまな化学物質を含む廃水が永年にわたり流れ込んでおり、田子の浦港には他に類を見ないほどのヘドロ状態の底泥が堆積している。その結果、もともと百人一首にも詠まれた美しい自然景観をもった田子の浦は、現在、ダイオキシン類などを含むヘドロの港と化している。

 田子の浦港に永年堆積したヘドロは国土交通省の地方事務所と静岡県土木部が定期的に浚渫しているが、問題は浚渫した土砂を港の臨港地区の一画に積み上げ、粒径規模などで分別したあと、田子の浦の海浜沿いに埋め立てたり、延々と積み上げていることにある。
 さらに田子の浦港の突端部では、高濃度の有害物質を多量に含む土砂を埋め立てた上うず高く盛り上げて、その上を覆土し、富士市の市民公園にしている。これも大きな問題である。ちなみにドイツでは、子供の遊び場の土壌は100pg-TEQ/g未満でなければならないという指針がある。

 ところで独自に入手したデータによると国土交通省が平成17年度から平成19年度にかけて採取し、測定分析した田子の浦港のヘドロ(底質)中のダイオキシン類濃度は実に200〜2200pg-TEQ/gに及んでいた。詳細を次頁に濃度地図としてを掲載した。

 また浚渫後土砂にも200pg-TEQ/gを超す高濃度のダイオキシン類が含まれていることも分かった。ちなみに底質中のダイオキシン類の環境基準は、150pg-TEQ/gであるから、明らかに底質中の濃度は環境基準を超過していたことになる。さらに地元市民らが静岡県田子の浦管理事務所から入手した鈴川海岸道路南側既設盛土中のダイオキシン類濃度も125〜240pg-TEQ/gと高濃度であることが2009年10月22日に判明している。

表2 ドイツにおける土壌中ダイオキシンの勧告値

出典:欧州WHO会議、1998年

 静岡県土木部の調査によると、汚染底質の濃度別の量は、以下の通り膨大な量に上る。

150〜1,000pg-TEQ/g  :約47.1 万m3
1,000〜3,000pg-TEQ/g :約 7.0 万m3
3,000pg-TEQ/g 超過   :約 0.1 万m3
出典:田子の浦港 底質(ダイオキシン類)浄化対策事業計画 概要版、平成16年6月 静岡県土木部
http://doboku.pref.shizuoka.jp/desaki3/tagonoura/jigyo/files/tago-dxns-plan-new.pdf

3.膨大な汚染土砂の不法投棄の可能性

 ここで事実関係として外形上言えることは、国(国土交通省)と静岡県、富士市は永年にわたり高度に汚染された田子の浦港のヘドロに含まれる底質を浚渫土砂として臨港地域に一旦陸揚げし、ダイオキシン無害化などの処理をせず粒径分別した後、粒径に応じて海中、海浜そして海岸線に仮置してきたと言える。これは紛れもなく、膨大な量の汚染された浚渫土砂を海中、海浜そして海岸線に不法投棄していることになると推察出来る。

 周知のように廃棄物処理法では、浚渫土砂は産業廃棄物の範疇に含まれないが、昭和45年の公害国会の後、東京都で工場跡地の高濃度土壌土砂を産業廃棄物に準ずる扱いとする決議をしている。以来、工場廃水や廃棄物などにより高濃度に汚染された土砂は、法的に産業廃棄物に準ずるものとして扱うこととなり、海浜や海岸線などの公共空間にみだりに投棄してはならないとされている。



図4 田子の浦港におけるダイオキシン濃度測定値  国土交通省

 高度に汚染された膨大な量の浚渫土砂を港湾区域や臨港区域などの公共空間に勝手に積み上げること、また海洋、海浜そして海岸線に埋め立てたり投棄する行為は、間違いなく実質的な不法投棄であると考えることができる。

 なぜ永年、このような不法投棄が行われてきたかは今のところ分からない。しかし、想像するに産業廃棄物の所管(業としての許可、施設の許可)はいずれも都道府県、すなわち静岡県であるが、その静岡県自らが不法投棄という違法行為を数10年に渡り継続して来たことがその背景にあるのではないかと考えられる。

 当該分野の所管はもともとは厚生省にあったが、のちに厚生労働省となった際に環境省に移管され現在に至る。筆者の経験では他の類似事例でも、環境省は明確な判断を示さず、問題の先送りをしてきた経緯がある。

 工場跡地の土壌汚染対策については、2002年に土壌汚染対策法が制定されたが、同法は、@ダイオキシン類を指定物質としていないこと、A主に工場跡地の汚染土壌を対象としているか、B工場跡地以外で当該地域を指定する場合には、県知事等が調査し、その結果、基準を超過している場合にはじめて対策をすることになるが、本件では重金属類などダイオキシン類以外の有害化学物質について静岡県や富士市は調査していないこともあり、土壌汚染対策法での対応は困難であった。

 ちなみに、同法では「都道府県知事が土壌汚染により人の健康被害が生ずるおそれがある土地があると認めるときは、当該土地の土壌汚染の状況について、当該土地の所有者等に対し、指定調査機関に調査させて、その結果を報告すべきことを命ずることができる」とされているが、もとより、産廃業者ではなく、静岡県自身が産廃に準ずる汚染土壌の不法投棄を永年繰り返していることが、最も問題の解決を困難にしていると考えるべきであろう。


4.現地視察報告

 筆者(青山貞一、東京都市大学環境情報学部教授)は2009年4月に東京都市大学環境情報学科の吉崎教授の依頼で現地を視察した。

 2回目は2009年7月に環境行政改革フォーラム(代表 青山貞一)が視察した。調査に参加したのは池田こみち氏(副代表)、鷹取敦氏(事務局長)、坂本博之弁護士(幹事)の4名である。

 吉崎教授は、当初、鈴川地区の海岸沿いのクロマツの保安林を伐採し、そこにダイオキシンに汚染された土砂を埋め立てるという静岡県の計画に地元住民が一貫して反対しているので一度、現地を視察して欲しいと依頼してきた。

 現地では地元住民が「今では誰も泳がず、地元の人は釣りもしない」と述べ、さらに地元の経済が製紙業で成り立っていることから、汚染発生源である製紙業に対して国、県、富士市などは腰が引けまともな対応をしないとのことであった。

 実際、現場を見て唖然とた。田子の浦港は漁港でもあり、マスコミが取材に来ても風評被害になるなど、結果的に今までまともに地域の重大な汚染問題が報道されてこなかったことも指摘された。

 さらに鈴川地区でも海岸を汚染土砂で埋め立て、その上に覆土して市民公園とする計画が進行しており、また汚染土砂で海岸線を高く埋め立てる計画も進行していた。海浜側に投棄された土砂は、少し高い波が来れば波で洗われる。また積み上げられた浚渫土砂は台風や海風などにより住宅地側に飛散する可能性もある。

 以下は、現地調査時の写真である。


高濃度汚染物質を含む浚渫土砂の前で


高濃度汚染物質を含む浚渫土砂の前の坂本博之
弁護士(環境行政改革フォーラム司法担当幹事、
100名の弁護士で組織するゴミ弁連の事務局長)


国土交通省と静岡県の管理境界


高濃度汚染物質を含む浚渫土砂の粒径分別施設


汚染浚渫土砂が不法投棄されている田子の浦海岸


汚染された浚渫土砂上につくられた富士市の公園


田子の浦鈴川地区の海浜、海岸に高く積まれた汚染浚渫土砂

<参考・引用文献>

1)青山貞一、富士市田子の浦港浚渫土砂に含まれるダイオキシン類の海浜処理・処分に係わる基礎調査資料、2009年4月
2)環境行政改革フォーラム、環境政策 現地視察(静岡県・愛知県)概要報告、2009年7月
3)国土交通省、田子の浦港におけるダイオキシン測定値、平成17年度〜平成19年度
4)静岡県田子の浦港管理事務所、鈴川海岸道路南側既設盛土中のダイオキシン分析データ、2009年10月22日
5)静岡県土木部、田子の浦港 底質(ダイオキシン類)浄化対策事業計画 概要版、平成16年6月