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自壊の道をひた走る大メディアC

〜貧すれば鈍するテレビ朝日〜

青山貞一

掲載日:2008.12.24


 過日、青山ゼミである学生が、今の日本のテレビ局や新聞社などの大メディアが、広告主、スポンサーの意向ばかりに気を遣い、報道機関としての社会的役割を果たしていないかについて、すばらしい研究発表をしてくれた。

 私の大学では、卒業研究より一年前に事例研究といって、それまでの単位が70単位以上あると、3学年で研究室に配属され、卒業研究の前哨戦が行えることになっている。私の学部(環境情報学部)では90%以上の学生が3年で研究室に配属となる。

 ところで彼(3年生)の研究テーマは、「報道と広告」である。

 その学生は、日本の上場など巨大企業の広告費を調べ、ランキング化し、上位20社をリスト化した。さらに、個別具体に自動車のリコール事件をとりあげ、大メディアがスポンサーとの関係でどのようにその事件を扱ったかについて調べた。

 すなわち同じようなリコール事故を起こした自動車メーカーに、大マスコミがM自動車については大きく取り上げながら、T自動車についてはリコール数がMよりはるかに大きいのに、あまり記事として取り上げていない実態を調べゼミで報告したのである。

 もちろん、この種のこと、すなわち大メディアの収入源である一大広告主に対し、やたら気遣う大メディアの姿勢は、なにも自動車(たとえばトヨタ)に限ったものではない。電力会社(たとえば東京電力)、家電(パナソニック)、タバコ(JT)などの分野で以前から顕著である。

 たとえば、スウェーデンの原発事故やイギリスのセラフィールド核燃料再処理工場でのプルトニウム流出などの巨大事故を日本の報道機関がほとんど報道しないことは有名である。

 http://eritokyo.jp/independent/today-column-nuclear.htm


 以下は筆者が調査した2003年度から2006年度の有力企業の広告宣伝費ランキングである。トヨタ、松下電器産業(現、パナソニック)、本田技研、KDDI、花王、東京電力、キャノンなどが上位の常連であることが分かる。

 なお、トヨタ自動車の年間広告宣伝費は、2005年以降、実に1000億円を超えていることが分かる。これらの広告宣伝費は、電通、博報堂などの広告宣伝会社を通じて、テレビ、新聞各社にばらまかれることになる。ちなみに2006年度の上位10社の広告宣伝費の合計は6600億円にも達する。

2006年度の有力企業の広告宣伝費

出典:日経広告研究所資料より

2005年度の有力企業の広告宣伝費

出典:日経広告手帳より

2004年度の有力企業の広告宣伝費

出典:日経広告手帳より

2003年度の有力企業の広告宣伝費

出典:日経広告手帳より


 次に私が実際に経験した具体例について、広告収入が激減し、ご承知のように赤字を計上しているテレビ朝日を例に示してみたい。


その1 東京湾アクアライン開通時の事例

 今から11年前の1997年、川崎から木更津まで東京湾を横断する史上最大の土木系公共事業、東京湾アクアラインなる道路・橋梁・トンネル事業が竣工、開通したときのことである。

 テレビ朝日スーパーJチャンネルから、アクアラインの開通により、どんな影響・効果があるのか、について専門的な取材が舞い込んだ。

 当時、私が代表を務める研究所が環境庁(現在、環境省)からの委託事業で「東京湾岸地域大気環境の将来予測」などの調査研究をしていたこともあり、私以下の主旨のコメントをした。

 すなわち、東京湾アクアラインが開通すると首都圏の骨格が大きくなり、千葉に大気汚染がスプロール(拡大)する可能性が大きいという主旨のコメントを出したのでる。

 しかし、夕方の番組をみて仰天、私が結構長くコメントした内容の一部分だけを切り出して、東京湾アクアラインの開通により、東京都の大気汚染が改善するというコメントとなって放映されたのである。私にとってはまさに「情報操作による世論誘導」以外の何物でもない。

 そのニュースを見た研究所の同僚だけでなく、何人かの友人がわざわざ電話してきたほどであった。

 後日談として分かったのは、史上最大の公共事業費(約1兆4,409億円 )を投入し竣工した東京湾アクアラインの事業主である日本道路公団(当時)への気遣いでコメントがねじ曲げられた可能性を局の知り合いから聞かされた。
 
 当然のこととして、私はテレビ朝日に猛烈に抗議し、テレビ朝日から謝罪も来たが、私のコメントが勝手に編集され、180度ことなった主旨に替えられ大きなショックを受けた。

 テレビ、新聞の取材を受けた場合、この種のことは多かれ少なかれ、結構あるのだが、180度発言の主旨が曲げられたのはない。


その2 長野県の事例

 2002年、現在参議院議員をしている田中康夫氏が、長野県知事に再選されたときのことである。(ちなみに田中氏が最初に長野県知事に当選したのは2000年)

 当時、知人のテレビ朝日の幹部が長野朝日放送(ABN)のC氏が幹部として着任した。

 私は研究所の同僚である池田こみちさんが長野県環境審議会の委員に就任したこと、それに別件で県庁に行く用事があったこともあり長野に池田さんと一緒に出向くことになった。

 せっかく長野まで行くのならと、田中知事(当時)とC氏を田中氏に引き合わせることを画策した。というのも、田中氏の大メディア嫌いは有名だったので、ここはひとつ両者をあわせ議論をしてもらおうと考えたのである。

 場所は長野朝日放送近くの蕎麦屋、C氏と私それに池田さんで田中氏を待った。しかし結局、その場に田中氏は来なかった。

 問題は、そのときC氏が私と池田さんに話した内容である。

 C氏は田中知事(当時)のことをボロクソ話し出したのである。とりわけ驚いたのは、「田中氏が知事になって以来、長野朝日放送のスポット広告が減った」という下りであった。

 こともあろうか、日本を代表する大テレビであるテレビ朝日の幹部のであるC氏が着任先で、「土建・はこもの行政」に徹底的にメスを入れ、巨大な累積債務を減らすために全力を挙げていた田中県政についてボロクソ批判を展開しだしたのである。

 しかも、田中になってから広告収入、なかんづくスポット広告が減っている、と。およそそこには見識も知性も感じられない。

 田中氏は、当時、有名な「脱ダム」宣言とともに、「脱記者クラブ」宣言をしたのだが、C氏が長野朝日放送に着任直後に、その「脱記者クラブ」宣言時、県庁クラブの幹事会社であったそうだ。

 着任後、いきなり長野県3階にある内政記者クラブを辞める、すなわち脱記者クラブを宣言された怒りもあるのだろうが、当時、地方から日本を改革するとして当選した田中県政を、自分の会社の広告収入が減ることばかりで激しい口調批判するC氏に私たちは唖然としたのである。


その3 著名な番組企画者の事例
 
 今年(2008年)の秋のことである。

 テレビ朝日サンデープロジェクトの後半の特番でも有名なTプロデューサが、私にメールをよこし、愛知県とUR(都市開発機構)が愛知県内で起こしている巨大宅地の汚染土壌、汚染産廃に帰因する問題をとりあげ、番組を制作したいので協力して欲しいと言ってきた。

 問題そのものについては、以下を参照いただきたい。
 
◆住民激怒!地盤沈下で消えた住宅 TBS噂の東京マガジン
◆丸山直希:愛知県知事に公開質問状(桃花台ニュータウンの軟弱地層及び産業廃棄物による沈下問題に関する愛知県知事への公開質問状提出について)
◆丸山直希:記者会見資料

 T氏は現在、テレビ制作会社の代表をしている。いつものことだが、当初30分の予定が2時間半にも及んだ。

 話しは、当初T氏が話を聞きたいとした上記の愛知県とURがおこした桃花台ニュータウン問題から他の具体的事例にどんどん発展した。そのなかには、日本を代表する企業がかかわる問題もあった。

 T氏は、その問題に大いに関心を示したのだが、その問題を引き起こしている企業がテレビ朝日の一大広告主であることを告げると、すぐさま「スポンサーとの関係で企画は通らない」と明言したのである。

 これには私も同席した池田さんもびっくりした。なぜなら、問題の所在を理解しながら、早期段階でスポンサーとの関係で断念する旨の発言を私たちに話したからである。


その4 公務員勤務時間中の喫煙による損失の事例

 これはごく最近の事例である。

 2008年12月20日、東京新聞は朝刊で私が独立系メディアに掲載した以下の論考をもとに3面の記事にした。

◆青山貞一:<独自試算>公務員の勤務中禁煙の損害額は年間2兆円超 

 12月22日(月)の午前中、テレビ朝日のN氏から電話があり、ぜひそれを23日朝の情報番組である「スーパーモーニング」で扱いたいので承諾して欲しいと大学の研究室に連絡してきた。

 私としては、公務員の喫煙が甚大な甚大な経済損失、それも税金の無駄遣いをもたらしていることを数字で示した調査結果が、より多くの国民に知らされるのは良いことなので、当然のこととしてOKを出した。

 12月22日は、ある産業廃棄物事件に関連し、出張していたが、N氏に連絡していた私の携帯電話に連絡が4回あった。たまたま携帯を別の場所においていたこともあって、午後11時近くになってテレビ朝日に電話を入れた。

 すると、N氏は当初の企画を神奈川県と大阪府で行っている公務員の時間中の喫煙問題に切り替えたいという。N氏は、明確に差し替え理由を言わなかったが、N氏の口吻から伝わるのは、どう見ても何らかの圧力を受けたことだった。

 圧力がデスクなど局内上部からのものなのか、自主規制なのかはN氏との電話のやりとりでは分からない。

 しかし、何しろ広告収入が激減し赤字となっていることから分かるように、大手の広告主(JT)を気遣ってのものであることや想像に難くない。

 いずれにせよ、放映直前になって独自調査をもとにした公務員の喫煙による甚大な損害問題を、既存の記事に安直に切り替える姿勢は、何とも日本を代表するテレビ局として、不見識きわまりなく、はずかしいものである。

 
 以上、4つの事例を具体的に述べてきた。貧すれば鈍するとはよく言ったものである。こんなメディアが行う報道や特番が日夜流れているかと思うと、おぞましい。

 ぞっとするのは私だけではあるまい。

 金融危機に端を発した日本の製造業企業の経営悪化は、当然のことながら広告宣伝費にも大きな影響をもたらすであろう。そうなれば、テレビ朝日だけでなく、すべての大メディアの経営を直撃することになるのは火を見るより明らかだ!

 湯水のように宣伝広告費を使い、環境重視、資源エネルギー問題が緊迫となっている現代、過剰な消費を煽り立てる企業、広告代理店、大メディアのトライアングルにも暗雲がたれ込めてきた。これは当然のことだ。

 金融資本、広告宣伝費...G7や資本主義の根幹が大きくぐらついているのだ!