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自壊の道をひた走る大メディア@

〜朝日新聞が大赤字転落〜

青山貞一

掲載日:2008.12.11


 私が「日本のメディアの本質を現場から考える」という連載をはじめたのは、2007年1月28日であった。以降、16回にわたり日本の大メディアを多面的に現場から批判した。

 理由はいうまでもなく、日本の大メディアが本分を忘れ、権力にすり寄り、スポンサーに気を遣いすぎ、まともな報道、記事を書けなくなったことにある。

 以下に、連載16回目となった、「第16回目 自壊の道をひた走る大手マスコミ」を再掲する。
 
 私はそこで大メディア、とくに大新聞は早晩、自壊すると結論づけた。

 それは新聞社が不動産業、住宅産業はじめ、およそ新聞と無関係な事業の多角化したこと、株や証券・債権などリスクが大きい資産運用に走っていること、自壊する理由はさまざまある。

 その他、より現場的な自壊の理由としては、異常な販拡活動に膨大な経費がかかるだけなく、販拡そのものが読者の新聞離れを加速化していること、分不相応に高額の給与を支払ってきたこと、金融危機で資産運用上の損失がでていること、悪化し続ける実体経済の延長で広告費が激減していることがある。

 さらに言えば、インターネットはじめすさまじい情報通信技術の革新によって、メディア自体に大きな変化、すなわち若者を中心に新聞メディアにそっぽを向いていることもある。もちろん、その背景には、日本自体の知性の著しい退化もあるだろう。

 ところで、Sakura Financial Newsの2008年11月21日号に以下の記事がある。一般紙や夕刊紙にも掲載されたので多くの人が見ているだろう。

朝日新聞:08年9月中間期の純損益103億円の赤字、
特損に投資有価証券売却損44億円など計上、
大幅に赤字転落

 テレビ朝日(東:9409)や朝日放送(大:9405)の親会社である朝日新聞社(大阪府大阪市北区) は21日、2008年9月中間期の連結決算を発表した。それによると純損益は103億2500万円の赤字だった。

 前年同期は47億6300万円の黒字で、大幅な赤字に転落した。発行部数の減少、 広告収入の減少に加え、持分法による投資利益や営業外収益その他が大幅に減少。

 子会社3社が連結から外れたことや、特別損失として投資有価証券売却損を44億 6900万円、 固定資産除却損を5億9600万円など、合計52億8000万円計上したことが響く。

 売上高は前年同期比4%減の2698億7100万円、営業損益は5億400万円の赤字(前年同期は74億4800万円の黒字)、経常損益は34億8100万円の赤字(同100億9600万円の黒字)だった。

 また同社は同時に個別決算も発表しており、それによると純利益は前年同期比93%減の2億5300万円だった。売上高は同8%減の1715億3200万円、営業損益は32億3000万円の赤字(前年同期は42億1800万円の黒字)、経常損益は28億7100万円の赤字(同57億2400万円の黒字) だった。

 新聞産業が以前から構造不況業種となっていることは周知の事実だが、新聞大手の朝日新聞が大幅赤字に転落したのは、まさに「自壊の道をひた走る大手マスコミ」を象徴する出来事である。

 ....

 赤字転落に先駆け、朝日新聞の秋山社長は、数年前以下のように述べていた。

 朝日新聞を取り巻く環境は厳しい状況です。販売部数は頭打ちで、広告収入がかなり大きく減ってきています。

 今の傾向が続くと、07年度は大丈夫ですが、09年度はかなりあやしく、10年度には新聞事業も赤字になりかねません。

 この1、2年で方向を見定め、大波に備えて大きく舵を切る必要があります。消費税の税率引き上げの可能性や再販制度の見直し期論再燃も予想されます。


...
そんな中で朝日新聞が生き残るには、やはり我々が一番得意な分野、一番強い分野の新聞事業を強化していくことです。紙の市場が縮小することはあっても、見通せる限り、無くなることはありません。

  その朝日新聞はここ数年、広告収入が前年度比で7−8%と激落していた。朝日新聞は経営改善に際して、新聞事業を重視しているが、すでに出版部門を赤字部門として2008年4月に分離している。しかし、仮に出版部門を切り離しても、異常に高い新聞部門の給与を下げているわけではないので、発行部数の減少、広告収入の激減はおさまりそうもない。

 いずれにせよ、大新聞社は、N.チョムスキーが的確に指摘しているように、マスメディアの設立維持には資本が必要であって、そのために広告主への依存が大きくなり、グローバル企業、政治家と密接な関係となる。その結果、スポンサーに不利なことは報道せず、本来、徹底批判すべき権力と裏で利権的に癒着していることは間違いないところだ。

 チョムスキーによれば、インターネットが民主主義の新しい未来を切り拓くことも可能であり、その意味でも独立メディアの存在が重要な鍵を握っているといえる。

 まさに、その通りである。異常な発行部数をもち、結果的に情報操作による世論誘導のもととなっている日本の巨大新聞は、その意味で早く自壊すべきであろう。


◆青山貞一:日本のメディアの本質を現場から考える 
  バックナンバー

N先祖返りは自民だけでない、大マスコミも同罪
M省庁によるWikipedia改竄
L行政と近すぎる報道の危うさ
K欽ちゃん70kmマラソンの非常識
J巨大公共事業推進の先兵
I政権政党ともちつもたれつ
H政治番組による世論誘導
G民主主義を壊す大メディア
F意見の部分選択
E原発事故と報道自粛
D戦争報道と独立系メディア
C環境庁記者クラブ事件
B記者クラブと世論誘導
A地方紙と世論誘導
@発行部数と世論誘導


日本のメディアの本質を考えるO
〜自壊の道をひた走る大手マスコミ〜

青山貞一


掲載日:2007.9.30


  インターネット全盛の現在、新聞離れが急速に進んでいる。

 現在発売されている週刊文春(2007年10月4日号)は、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞と発行部数で日本を代表する3大新聞が、販売店の統合化へ向けて動いていると報じている。

 3大新聞による販売店統合化の理由だが、インターネット全盛のなかで発行部数が減少していることがある。しかし、最大の理由は販売経費が売り上げの40%〜50%に達すると推測されていることにある。また発行部数の低下は同時に広告収入減にも通ずる。

 世界的に見て異常なほど大量の発行部数となっている日本の新聞が、販売経費をいかに削減するかは業界の生き残りを賭けた問題である。

 日常的な感覚として分かることは、新聞業界の異常なまでの拡張競争である。押し売り、ストーカーまがいのしつこい勧誘、果ては脅し、恫喝的言動もあるという。販売店は、販売拡大とともに集金を新聞社からまかされている。この場合、「まかされている」ことがキーポイントとなる。

 「まかされている」ことで、今や販売店の【発言力】は全国的規模で強大なものとなっており、新聞社本体の経営の根幹をゆさぶるところにまできている、というのが実態のようだ。

販売店経費の増大と広告費の減少

 冒頭に示した週刊文春の記事は、「発行部数減、広告収入減など新聞業界を取り巻く状況は深刻で、これまでは『聖域』といわれた販売店にまでメスを入れざるを得なくなった」としている。

 新聞社は記事の<速報版>としてどこでもインターネット版を競って拡充してきた。だが、各社が競ってWeb版を拡充すればするほど、若者を中心に国民は紙媒体の新聞離れが進むという二律背反に陥っていることがわかる。

 インターネット版を見ればすぐに分かることだが、新聞社のWeb版は広告の割合が異常に大きい。しかも、記事の中にも大きくけばけばしい広告が入っていることもある。

 一体、どれが記事でどれが広告かが峻別できなくなるほどだ。しかも、大手新聞社の情報メディア担当者に寄れば、企業などからのWeb広告は単価が安くなっているという。


一体どこに記事があるか分からない。 asahi.comより

 新聞社は、Web版新聞記事を拡充すればするほど、紙媒体の新聞を読むひとが減り、広告収入も減るという、いわゆるいたちごっことなっている。

 このように大手新聞3社は現在、経営上存亡にかかわる深刻な事態に陥っている。これはもともと発行部数が少なく、経営基盤が脆弱な毎日新聞、産経新聞にとっても上記の問題はまさに死活な問題となっているという。

 大手3社は現在、くだんのインターネットニュースに関し共同でポータルサイトを設置する計画を進めているようだが、毎日、産経はここでも参加呼びかけを受けていないという。

 以上、大手3社の販売店統合について述べてきた。

 本特集の趣旨からすれば、週刊文春がスクープした内容は、いわば「
発行部数拡大に走った大手3社の自業自得」であるといえるだろう。

 発行部数の拡大だけをひたすら競争してきた日本の新聞が販売店への支払いなど、日本の新聞宅配の基幹をなす「販売店の反乱」で経営の足下がゆらいでいるわけだ。


一層広告主に気をつかうようになる新聞

 ところで、私たち読者、国民にとって大手新聞社の経営の自業自得以上に重要なことがある。

 それは、もともと発行部数が異常に大きくなることで、読者よりも広告主に顔を向けがちだった新聞社が、さらに広告主の意向に気を遣うことになる、ということだ。

 さらに、私たちにとってもっと大きな問題がある。それは何か?
 
 元毎日新聞社常務取締役の河内孝氏は、ビデオニュース社のインタビューのなかで
「新聞ビジネスはすでに破綻している」と話している。

 詳しくはマル激トーク・オン・ディマンド 第321回(2007年05月25日)「新聞ビジネスはすでに破綻している」ゲスト:河内孝氏(元毎日新聞社常務取締役)をお読みいただきたい。

 河内孝氏はビデオニュース社のインタビューのなかでいくつか重要なことを述べている。

 以下、それについて言及してみたい。まずは新聞を核とした大手マスコミが巨大化し、現在の地位を獲得した経路を振り返る。

 
「免許事業のテレビ局のような監督官庁の干渉を受けることもない新聞は、まさに独立した言論の府として確たる地位を築いているかに見える。しかも、この5大紙は全国ネットの放送局を始め、日本中のテレビ局やラジオ局に資本参加し、その多くを実質的な支配下に置いている。今日若者の活字離れやインターネットの急進に牙城を脅かされているとはいえ、日本の新聞ほど強力な言論機関は世界でも他に類を見ない

 だが、
「ところが、その新聞王国が、外からの脅威によってではなく、自らの足下から崩れ始めている。(中略) すでに「新聞ビジネスは破綻している」と言い切って憚らない」と述べている。その自壊に至理由はいくつかある。そのひとつは、筆者が本論の冒頭で述べた販売代理店問題である。

 「部数至上主義に走った結果、販売経費が売り上げの4割を超える超高コスト構造に陥っている」
にもかかわらず

 
「販売経費を節約しようにも、戸別配達制度を支える専売店を切り捨てることは簡単ではない。その異常な収益体質を支えるのは広告費だが、バブル期以降、広告効果によりシビアになった広告主は、新聞の選別を進めている」と、
まさに筆者が指摘した点を明言している。


 
さらに氏は続ける。「広告費は減少し、若者の活字離れで1日の新聞の閲覧時間も既にラジオを下回り、インターネットの半分にも満たないところまで落ち込んでいる」と。

 
その結果、「朝日、読売、日経の3強以外の新聞社は、ビジネスとしてすでに破綻しており、このままでは近い将来、市場から退場せざるをえなくなるだろう」と言い切っている。

 ここで氏の分析は終わらない。「
新聞社はもう一つ深刻な問題を抱えている。それは、現在の新聞ビジネスが数々の法的な特権の上の成り立っており、その特権を失えば新聞社の大半は経営が成り立たなくなるという問題だ」。

 
これは言うまでもなくこれは、いわゆる再販制度である。独立系メディアでも公正取引委員会と新聞協会との間での新聞の再販制度廃止論議について触れてきた。たとえば以下を参照。

◆青山貞一:公取委への意見〜新聞特殊指定見直し断念に関連し

 「新聞社の特権の多くは、自分たちがその実態を報じないために一般社会に知られていないが、一度それが市民の知るところとなれば、とてもではないが社会的正当性を持たないものばかりなのだ」。
その通りである。再販制度がそのさえたるものであることはいうまでもない。

 
河内氏はインタビューの中で「そもそも、再販制度自体が、戦前の統制経済の残滓であり、それに依存した経営体質自体が、現在の自由化の波の中ではもはや通用しないビジネスモデルであることの証左となっている」と厳しく指摘している。


情報商社化する大手マスコミの将来はあるのか?

 では、今後新聞業界はどうなるのだろうか?ここからが核心である。

 
「新聞社は東京のキー局から地方局にいたるまでのテレビに、BS、CS、ラジオ、地方紙らを、資本関係と人的交流で強固な支配構造を作り上げた。このマスコミ同士のズブズブな関係が、メディア間の相互批判を妨げ、結果的に新聞の自浄能力を失わせている」 

 そして新聞にとってはメディアのにとって力の源泉となっているかに見える地上派、BSなどテレビ局との系列化も、
「新聞が牙を抜かれる原因となったと指摘する。(中略)本来政府から何の干渉も受けない立場にあったはずの新聞が、免許事業のテレビを抱えたことで、政府に対する批判能力はいやがおうにも低下した」

 最後に
「新聞が再販制度や幾多もの法律上の恩恵を受けるのであれば、自ら情報開示を行い、合理化努力をすべきだ」とし、「新聞社内部の危機意識は、恐ろしいほど低い」と結論づけている。

 つい最近まで大新聞社の常務取締役に在籍した氏のいわば「告発」には真に迫るものがあり、指摘の多くは筆者の日常的な日本の大メディアに感じているところと一致する。

 総じて、日本の大手新聞社は、自らの巨大化系列化の故に、マンモス同様、自壊に道をたどっていると言える。

 それにつけても、日本において圧倒的な発行部数をもつがゆえに、日本の世論形成に大きな影響力を行使してきた新聞社が、今後、テレビ、ラジオなどを含めたマルチメディア戦略を強化することにより、さらに広告主に気を遣うことになるのは、問題である。

 同時に、テレビ、ラジオなど放送局の許認可、免許主体である総務省など国に、一層、気を遣うことになれば、なにおかいわんやである。

 そして、戦前の統制経済下で行われたに類する「再販制度」の恩恵を得ている新聞業界が、制度撤廃を主張する公正取引委員会との関連で、国などに借りを作ることにより、今まで以上に政府・与党を気遣う紙面構成、記事となる可能性も強い。

 大手マスコミが、自壊に道をたどるのはまだしも、政府、与党、大手事業者の意向で国民の知る権利が危機に瀕し、情報操作による世論誘導に一層拍車がかかることがないよう、私たちはしっかりと大メディアの行く末を監視しなければならい。