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思考停止による司法の機能不全

圏央道:民事差し止め裁判判決


青山貞一
 
掲載日:2007.6.15


 東京で最も豊かな自然が残る奥高尾の山をトンネルで抜き、中央道とのジャンクションを建設するのが圏央道事業だ。すでに事業者側はなし崩し的に大部分の建設を強行してきた。

 本裁判は、地元住民や自然・環境保護団体などによる自然・環境破壊を食い止めるための民事の建設差し止め訴訟である。本訴訟には全国各地137名の弁護士が参加しており、戦後環境裁判史上でも有数のものといえる。

 原告側は所有権はじめ人格権、環境権、景観権、自然享有権など、環境破壊を未然に防ぐたうえであらゆる権利をもとに訴訟を提起し、建設工事差止めの司法救済を東京地裁に求めてきた。だが、現実には裁判中も工事による自然環境破壊が進行していた。

 判決では、未だ事業者が主張する道路事業の「必要性」と「公共性」が優先され、未だ首都圏では「道路が通れば道理が引っ込む」状況が変わっていない状況にあることが分かる。国、事業者による既成事実の積み上げを、司法が追認した形となっている、といってもよいだろう。



 21世紀は環境の時代と言われて久しい。だが、自然環境を破壊する巨額、大規模な道路事業が、科学・客観性に乏しい環境アセスをもとに進められている。環境アセスへの国民の信頼性がますます低下することを危惧する。

 同時期に行われている東京大気汚染裁判では国と住民との間で和解が進んでいるが、本事件においても影響緩和策などで、和解の道が得られないものかと考える。

 上記の大気汚染裁判では、すでに起こった幹線道路上を走行する自動車からの排ガスによる健康被害が民事の損害賠償及び国家賠償が争われている。この種の健康や環境の事後救済訴訟はまだしも、差し止め請求など未然防止は、民事、行政を問わず極めて勝訴率が低いだけでなく、事実上の却下状態が続いている。

 国は一方で環境保全の重要性をいいながら、他方では国土交通省、旧道路公団などによる不要不急な幹線道路に数兆円を投入し、結果的に環境破壊のスプロールを起こしている。これは圏央道、東京外郭環状道路、首都高速中央環状道路などがひしめく首都圏で顕著だ。

 過去10年の環境訴訟をつぶさにみると、相変わらず差し止め訴訟や国相手の訴訟はきわめて門戸が狭く、実質的に却下状態となっている。

 その理由は、裁判官がヒラメ(上ばかり見ていること)になっていることであり、結果的に過渡に国、行政の言い分をそのままみとめていること、また環境など科学技術が係わる理数系の訴訟に判事がまともに対応していないことがある。

 であるなら今後は、環境問題、科学技術問題、医療過誤問題など、科学的な事件、行政訴訟などを別途、科学技術裁判所、行政裁判所などを設置して司法救済を図る必要があると思う。ドイツなどではそれらが一部であれ実現しているようだ。

 筆者らが昨年秋から国(総務省)相手に行っているPLC差し止め請求(行政訴訟)でも、ほぼ同じ構造の思考停止による司法の機能不全が起きている。

 ちなみに米国の環境アセスでは99%完成した巨大ダムが希少種の魚が見つかったことにより使用停止となった例がある。