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霞沢ダム現場見学と
沢歩き体験報告

田口康夫
渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える会代表

22 August 2010
独立系メディア「今日のコラム」

 
 今年の見学会と沢歩きの日程は、雨が多く沢水量が減らなかったため見通しが立たず、ぎりぎりに決まったためか参加者が少なかった。

 沢歩きは6人前後が理想的なので4人はちょうど良い数ではあった。ただ例年に比べれば若干水量は多いようだった。それでも京都からの1人と初心者2人、ベテラン2人で楽しい沢歩きができた。

 今年は梅雨から夏にかけて雨が多く、谷の中でも洪水や山腹崩壊などの土砂流出が多く出た痕跡がいたるところに残っていた。先ずは入り口からの工事用道路の崩落で土砂が出たらしく、道路を浚渫した廃土がゲート上の道端に盛られていた(写真1)。


写真1 道路浚渫土の捨盛土

 写真2は工事用道路に押し出した土砂で、今回の大雨で道路全体にこの様な押し出しがあったと思われる。雨が多い年は退かしても直ぐに土砂が出てしまうため道路メンテナンスだけでも十分にお金を使える。


写真2 道路への崩れ

 写真3と写真4は、工事用道路が川に合流する所の去年までの風景と今年の風景である。去年の写真の盛土部の一部が残っているのが分る。洪水が発生すればこの位の(1万立米)土砂でも簡単に運ばれてしまう。

 ちなみにコンテナ型事務所2個も流されていた。写真5は同じ場所を下流側から撮ったもので、盛土の一部が小山状に残っているのがはっきり見てとれる。


写真3 去年の状況(2009年)


写真4 今年の状況(2010年)

写真5の奥右側からの土砂押し出し(沖積錐)の拡大が写真6であるが、この現象は大洪水が出た後に山腹から押し出したものであることが分る。


写真5 写真4を下流から見たもの


写真6 写真4奥右側からの崩れの拡大

 大洪水中に出たものであれば下部が削られているのだが、この場合は押し出した形がそのまま残っている。つまり降雨時に崩れたのではなく、雨が治まってから時間差を持って流出したことを示している。谷の中は雨が治まってからでも危険は継続していると言うことを示している。用心して欲しい。

 写真7はダムサイトだが、去年の松本砂防事務所側の説明だと、今年中にここまでの道路と右岸岸壁の補強工事をやることになっていたのだが、道路の寸断でできないようである。ダムなどの予算が当初のものより膨らむ原因は、この様なことが度々起こり加算されていくからである。

 今回もこのダムサイト左岸も含め30m以内に大きな土砂のせり出しが3箇所も確認できた。仮にダムができたとしても一気に土砂に埋没することは目に見えている場所である。ダムサイトから上流の狭窄部までの500mほどの間には、大きな崩れれが幾つも確認できた。事務所側はこの事が分っているのであろうか?


写真7 ダムサイトと左岸側崩れ

去年の見学会と沢歩きの報告にもあるように、狭窄部内の土砂調節量の効力を確認するため上流に向かったが、狭窄部に入って直ぐに参加者がイワナを釣り上げた(写真8)。大きな土石流が出たにもかかわらず生きていたことに彼等の生命力の強さを感じる。観察してから大きくなってくれよと放流した。


写真8 イワナ

 ここから更に上流へと遡行するが、岸壁のコケの中に滴る水の流れや花が咲いている場所などきれいな光景にもお目にかかれた(写真9)。


写真9 コケと花

 こんな景観は一層涼しさを感じるところである。狭窄部に入って3分の1くらいのところで大岩が落ちて川をせき止めている所に出っくわした(写真10)。


写真10 崩れでせき止められた滝

 ここの落差は末端から10m以上はある。正に高さ10mのダムの出現である。これを何とか左岸に渡り乗り越えると、またもや大きな崩れが出現(写真11)する。


写真11 二つ目の崩れ

 今度は右岸をトラバスしなくてはならず危険が伴うため、初心者がいることを考え先に進むことを止めた。石が積み重なった滝の場合、万が一流された時その間にはまり込むと抜けなくなる可能性があるので無理をしてはならない。

 今年の大雨から考えるとこの先にも大きな土砂ダムができている可能性が高い。この二つのせき止めダムの高さは20mを超える。まさに天然の砂防ダムの出現である。水量が落ちたら再度この狭窄部の調査をしてみたい。

ここから引き返し、安全な所での記念写真(写真12)を収め昼食をとった。下界の暑さを全く感じさせない快適なランチタイムであった。


写真12 記念写真

 昼食後は釣りをしたり、深みにはまる経験をしながら沢下りを楽しんだ。一番深い所は胸くらいまで浸かり冷や汗をかいた人もいたようだが、安全なところでのこの様な体験は沢歩きの恐怖感を取り去り、歩きの自然な動きができるための安全性を身につける練習になる。遠慮せずにたっぷり水に浸かり楽しむことをお勧めしたい。

 この沢歩きのメイン目的は、狭窄部中の自然ダムの働きと人工ダムの機能とは全く同じであることを確かめることであった。また今計画されている砂防ダム建設の無意味さを実感してもらい、谷の持つ土砂調節機能の教科書に載せたくなるような適地がここに存在していることを見てもらうことだった。

 この天然ダムはできたり壊れたり、つまりスリット型砂防ダムの機能と同じ効果が生じていることが再度確かめられた。去年と大分違う変化が生じていたことをここに報告したい。

 原稿受け(2010/8/25)