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国民は民主政治を否定したのか

日刊ゲンダイ
14  July 2010
独立系メディア「今日のコラム」


◆証明された「脱小沢では無力」な民主党

 参院選で世紀の大惨敗を喫した菅民主党は、執行部の責任回避に躍起だ。しかし、今度の選挙でハッキリしたのは、「脱小沢路線」が大失敗だったということだ。

 「小沢さんにはしばらく休んでもらう」と言い、クーデターのごとく、小沢切りを断行した菅政権。その主役は菅であり、知恵を授けたのが仙谷官房長官や枝野幹事長であるのは言うまでもないが、その結果が、このザマだ。脱小沢でいい気になったのは一瞬で、あとは国民も呆れ返る迷走の連続だった。

 しょせん、小沢がいなければ何もできないじゃないか。菅らの“幼稚さ”をまざまざと見せ付けられた選挙戦だったのである。

 政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。「就任後、菅首相がやったのは、唐突な消費税増税論議と、昨年、国民と約束したマニフェストを骨抜きにすること。さらに民主党の売り物だった透明性に逆行する取材拒否と、選挙終盤にはメッセージを伝えるために取材に応じるという自分勝手でした。これだけ裏切りを続ければ、この選挙結果になりますよ。総理は改めてスタートラインに立ちたいとか言っていましたが、スタートからズッコケ、この結果を招いたのです」

 菅が打ち出したことは消費税を筆頭にすべて、小沢流の逆張りだ。この間、小沢は「国民との約束は果たさなければいけない」と再三、メッセージを発したが無視された。

 その結果が比例で1845万票、選挙区で2275万票と、自民党をはるかにしのぐ票を集めながら、第1党の座を自民に譲るという世紀のマヌケ選挙だったのである。

 「1人区でなぜ、これだけ負けたのか。私は菅首相や枝野幹事長の物言いが、野党やその支持者を怒らせ、燃え上がらせたのだと思います。与党なのに野党の過去の失政の揚げ足を取り、バカにするような言動です。これで自公の選挙協力がかつてないほど強固になった。菅首相や枝野幹事長を見ていると、その言葉が議論ではなく、相手を傷つける武器になっている。それが有権者の拒否反応を招く。私は小沢切りにも共通の怖さ、冷たさを感じました」(元参院議員・平野貞夫氏)

 頭デッカチで、人の痛みも分からず衝突ばかりしている子供がいるが、よく似ている。それをいさめる小沢がいなければ、民主党はどうにもならない。

菅、枝野、仙谷たちの青二才体質

「50議席を割ることはないよ」

 朝日や読売が民主党の50議席割れの可能性を伝えた日。番記者の前でこう言い放ったのが、安住選対委員長だ。
「枝野幹事長も同じように楽観的でした。さすがに『大丈夫か』と騒ぎになりましたよ」(全国紙記者)

 根拠なき楽観論に支配されていた民主党執行部。これぞ、ダメな組織の典型だが、それ以外でも、民主党は負けるべくして負けた。菅、枝野、仙谷の3人は、脱小沢で世論の支持率がV字回復したことで、すっかりテングになったのである。

 いい気になっている3人は、シロウト感覚で小沢から引き継いだ選挙体制をことごとく壊した。これが傷口を広げていく。

 「例えば、選挙資金の配り方ひとつとっても、小沢は緻密でした。選挙区によって、渡す相手を本人、選対、県連と変える。常におカネを効果的に流す方法を考えていました。しかし、菅体制になって、選挙資金は公平配分が原則。あと一歩で通りそうなのも、てんでダメなのも一緒にしたのです。揚げ句が1人区の大惨敗。カネの使い方を知らなすぎる」(小沢に近い関係者)

 組織票もみすみす逃した。小沢は、連合幹部と一緒に全国行脚して、組織を固めた。頭を下げ、酒を酌み交わし、血の通った人間関係を築くことで、組織票を一票一票積み上げてきたのである。枝野は連合任せでほったらかし。それじゃあ下部組織は動かない。

 その一方で、連日、激戦が続く選挙区に大勢の幹部が入り、駅前で応援演説をやる空中戦が目立った。代表、幹事長、政調会長、選対委員長、財務委員長、組織委員長、大臣、副大臣、政務官……と、じゅうたん爆撃みたいだが、「受け入れ体制づくりに人手を取られたり、動員疲れで逆効果のところもあった」(県連関係者)という。これでは勝てない。選挙のイロハも知らない青二才が選挙を仕切ったことが、大間違いだったのである。

◆民主党は自民党化している

 民主党惨敗の大きな要因のひとつが、菅政権になって“民主党らしさ”が急速に失われたことだ。限りなく自民党に近づいたのである。

 普天間問題では辺野古案での合意をオバマ米政府と約束。「生活第一」は後退し、法人税の引き下げなど大企業優遇が鮮明になり、マニフェストは骨抜きにされた。その結果、財務官僚の言いなりで消費税増税に突っ走ったのだ。

 思い返せば昨年の政権交代、国民が熱狂したのは、民主党の理念に対してだった。政治主導、対等な日米関係、国民の生活が第一――。50年続いた自民党のデタラメ政治にホトホト嫌気がさした有権者は、民主党が掲げる理念に熱狂し、政権を託したのだ。それが、ことごとく裏切られてしまった。

 「民主党政権が支持されてきたのは、戦後ずっと続く官僚支配、対米従属関係を政治主導で改革すると訴えてきたからです。鳩山政権には稚拙な面もあったが、志はあった。挑戦もしてきました。しかし、菅首相はその理念をアッサリ捨て去ったように見えます。消費税増税は、どう釈明しようが、官僚や財界、大マスコミに媚(こ)びようとしたのは明らか。財源問題をつつかれた鳩山失脚を目の当たりにし、保身のためにスリ寄ったのでしょうが、民主党らしさの喪失に有権者は敏感に反応した。それがこの選挙結果です」(筑波大名誉教授・小林弥六氏=経済学)

 こうなると、民主党が支持を取り戻すのは難しい。苦しい生活を強いられている国民が政治に期待するものは何なのか、もう一度、じっくり考えることだ。自民党と変わらない政治なら、本家に一日の長がある。自民党に任せておけば済む話だ。民主党はもう一度、原点に立ち戻るしかない。

◆小沢をなぜ切ったのかが問題になる

 今度の選挙の敗因について、前出の平野貞夫氏はハッキリこう言う。

 「大きな理由のひとつは挙党体制を敷かなかったことです。小沢氏を選挙対策の責任者にすれば、何の問題もなかった。排除するから、こういうことになったのです」

 鳩山が首相を辞した以上、小沢の幹事長辞任まではしようがない。問題なのは、その後の処遇だ。小沢を遠ざけ、排除し、小沢色の一掃をもくろんだことが、さまざまな軋轢(あつれき)や混乱を生んだのだ。

 それにしても、不可解なのはなぜ、「選挙の神様」を切らなければならなかったのか、ということだ。ふつうは考えにくいから、「脱小沢はポーズだろう。本当は菅と小沢はつながっているんじゃないか」なんていわれたものだ。

 しかし、消費税増税、マニフェスト見直しと、菅が次々と小沢路線を否定、それも神経を逆なでするような方向に進みだしたことで、ハッキリとした答えが出た。本当に小沢排除に動きだしていたのである。

 「こうなると、全国に散らばり、新人候補の選挙の手伝いをしている小沢の秘書軍団だって、力が入りません。しかも、菅政権が脱小沢路線をあからさまにしたものだから、自分が小沢系であることを隠そうとする候補者まで現れた。小沢流の選挙をやるのかやらないのか。現場では指揮系統も混乱し、本来の選挙戦術が徹底できなかったのです」(政界関係者)

 これじゃあ、勝てる選挙も勝てないのだ。

 恐らく、今後、菅の小沢切りは問題になる。なぜ、こんなバカをやったのか。小沢批判に血道を上げるメディアにおもねり、気取りを狙った側面もあるだろうし、一説には財務相時代に「小沢が次は脱税でやられる」みたいな怪情報をかがされたのではないか、と言う人もいる。真偽のほどは分からないが、菅は浅はかの一語である。

◆政界再編成の動きはどうなる

 今回獲得した「44」という議席数は、民主党にとって酷な数字だ。与党の議席数は、非改選と合わせても110議席。過半数の122議席に「12」も足りない。

 惨敗したのだから政権運営に苦労するのは当然としても、10人当選で11議席となったみんなの党を取り込んでも参院を押さえられない。

 過半数の確保には、さらに別の党を抱き込むか、自民党にでも手を突っ込んでハグレガラスを引っこ抜くか……。いずれにしても、二の矢三の矢をつぐ必要がある。
政治評論家の浅川博忠氏が言う。

 「渡辺喜美代表に行政改革や公務員改革を担当する大臣ポストを与え、みんなの党を抱き込んでも、与党はギリギリで半数です。最終的に公明党の閣外協力を取り付けることになるでしょう。もうひとつ考えられるのが、民主党が自民党に抱きつく連立です。例えば菅代表は、2000年の加藤の乱のとき、自民党の加藤紘一元幹事長を支援して倒閣に動いていた。彼を窓口にするパターンが想定されます。確かに、いまの加藤さんは党内に仲間が少ない。しかし、与党なら大臣になってもおかしくない中堅議員とか、野党暮らしにシビレを切らした議員とかが行動を共にする可能性はある。自民党は股裂き状態になり、分裂含みの展開になります」

 民主党だって、そのままではいられない。

 小沢前幹事長は3年前に森喜朗元首相と一度は大連立で合意した。たちあがれ日本の与謝野馨共同代表とも近い。自民党には菅を「左翼」と決めつけている連中も多いし、小沢が100人を超えるシンパを引き連れて党を割れば、喜んで連携するのも出てくる。

 反小沢と親小沢。政界は再び小沢を軸にして再編に向かう公算が大きいのだ。

◆ねじれ国会どころか連日が大混乱

 転載未了

◆政権と民主党は崩壊へ向かっているか

 無事、国会までたどり着いたとしても、混乱は続く。菅政権は奈落の底に向かって突き進むことになる。

 何よりも、野党に議長ポストを奪われたら、民主党の国会運営は立ち行かなくなる。「政治とカネ」の問題で証人喚問だってあり得るし、問責決議案を連発されるかもしれない。

 現在、民主党は議長だけでなく議院運営委員長や予算委員長も握っているが、委員長ポストを持っていかれたら、民主党ペースでの国会運営は難しくなる。強行採決なんてハナからできないが、十分に時間を割いて結論が出ていても、質疑応答に形を借りた政権批判に延々とさらされる局面も出てくる。最初に血祭りに上げられるのが郵政法案だ。民主党は国民新党に臨時国会での成立を約束しているが、数の上ではムリになった。これに反発して国民新党まで騒ぎ出せば、社民党に潰された鳩山政権そっくりになる。

 安倍、福田、麻生という自民党末期トリオも、衆参のねじれで国会運営が立ち往生し、にっちもさっちもいかなくなった。ただ、当時はまだ衆院で3分の2を握っていたからいい。参院から差し戻されても、衆院で再可決する道があった。3分の2を押さえていない菅民主党の現状は、さらに険しい。政治ジャーナリストの泉宏氏も、こう言う。

 「菅政権はもはや八方ふさがり。出口が見えません。選挙期間中に枝野幹事長がみんなの党などに秋波を送ったことも致命傷です。あんな形で連立を持ちかけられたら、突っぱねるしかない。窓口が枝野幹事長である限り、どこも組もうとはしません。民主党は四分五裂。瓦解していくしかないでしょう」

 臨時国会をなんとか乗り切れたとしても、来年の通常国会で予算が組めなければ、即アウトだ。来年は統一地方選もある。「これじゃ戦えない」という声が大きくなれば党内はグチャグチャ。なにしろ組む相手もいないのだ。民主党政権は夏の夜の夢で終わりかねない。

◆結局小沢一郎は悪魔なのか魔物なのか

 今、永田町の注目は小沢一郎が今後、どう出るのか、という一点だ。選挙後、雲隠れしている小沢は一切のコメントを出していない。しかし、小沢周辺議員は騒ぎ出している。

 高嶋良充参院幹事長は「落選議員を含めて意見を聞き、総括しないといけない」と言い、執行部のつるし上げを狙う姿勢をあからさまにした。

 小沢側近のひとりは、「参院選敗北の責任は首相にある。代表選には誰か立てないといけない」と言い、公然と菅降ろしにノロシを上げた。

 こうした党内の不満を封じ込めるために菅執行部はシャカリキだ。とりあえず、代表選まで現行体制を維持する方針を表明。時間稼ぎをして、ガス抜きを狙っている。しかし、それも代表選まで。その後の政局は波乱含みだ。小沢は何を考えているのか。

 「今後の政局の中で自分が主導権を握るためにはどうしたらいいのか。おそらく、考えを巡らせていると思います。ねじれを受けて、まず、菅執行部がどうするのか。小沢サイドと和解するのか、脱小沢を貫くのか。検察審査会の結論も影響する。それを待って人事や責任問題を考えようとしている菅執行部に小沢サイドはイラ立っています。審査会の結論や菅執行部の出方次第では小沢グループは動く。当然、政界再編をにらんだ仕掛けを考えているはずです」(小沢に近い議員)

◇周囲が勝手に小沢を悪魔にする

 永田町には、こうした政局の絵図を描ける政治家が目下のところ、小沢しかいない。だからこそ、畏怖され、警戒され、小沢像が肥大化するのである。政界をかき回し続ける小沢は悪魔なのか、魔物なのか。いつも、こんなふうに見られてしまう。

 「小沢を悪魔にしているのは周囲だと思いますよ。これほど有能な男はいないのに、周囲が勝手に畏怖し、恐れる。だから、反小沢や脱小沢みたいな議論が出てくる。松下政経塾上がりの頭でっかちの若い議員には小沢の実力が煙たいのです。それが小沢排除というとんでもない議論を生み、党内の亀裂を深め、選挙に負けた。角福戦争だって終わればノーサイドで協力したのに、民主党は幼い。こうした考え方が小沢を悪魔化しているのです」(政治ジャーナリスト・野上忠興氏)

 むしろ魔物の小沢を積極的に取り込まない限り、追い詰められた民主党に明日はない。菅が小沢排除に動けば、小沢の悪魔の側面を思い知らされることになる。

(日刊ゲンダイ 2010/07/13 掲載)