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長野県の審議会事情(3)
〜公共事業評価監視委員会騒動〜

青山貞一

2007年8月13日, 14日拡充



 長野県土木部が所管する公共事業評価監視委員会が大揺れに揺れている。以下は2006年3月末における公共事業監視評価委員会の委員名簿である。

長野県公共事業評価監視委員会 委員名簿
2007年3月31日現在

 氏    名        役  職  等
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 青山 貞一   武工業大学環境情報学部教授
 宇沢 弘文   日本学士院会員 東京大学名誉教授
 内山 卓郎   フリーライター
 岡本 雅美   日本大学大学院法務研究科非常勤講師
 梶山 正三   弁護士
 金子 勝     慶応義塾大学経済学部教授
 塩原 俊    「環境会議・諏訪」会長
 田口 康夫   渓流保護ネットワーク代表
 中村 i    信州新町長
 平野 稔     兜ス安堂 代表取締役会長
 福田 志乃    地域政策プランニング代表
 保母 武彦    島根大学 名誉教授
 母袋 創一    上田市長

13人(敬称略 五十音順) 

 ことの起こりは、以下の新聞記事にあるように、就任以来一度も委員会に出席していなかった慶応大学の金子教授と、高額の旅費がかかるとして島根大学名誉教授の保母名誉教授に長野県土木部が辞任勧告を要求したことにある。

 公共事業評価監視委員会は、北海道企画調整局がその昔、提起したいわゆる「時のアセス」、すなわち一定時間経って進捗しない公共事業を取りやめを含め検討、進言する組織をもとに、国土交通省主導で全国都道府県に設置されている委員会である。

 通常なら、よほどのことがない限り、一端就任した委員を行政が勝手な都合で辞職勧告などできようもない。よほどのこととして想定されるのは、委員が刑事被告人となり公判で有罪判決となったとか、委員会で明白な公序良俗にもとる行為をしたなどである。
 

長野県、脱ダム2委員に辞職勧告 「同意なき解任」騒然
朝日新聞 2007年08月06日

 長野県公共事業評価監視委員会の委員を務める金子勝・慶応大学教授と保母武彦・前島根大学副学長らに対し、県が任期半ばでの辞職を勧告したことから、委員会がもめにもめている。

 2人は田中康夫・前知事時代に任命され、公共事業には批判的。共に「多忙」「家が遠い」という勧告理由に反発、保母氏は勧告拒否で留任が決まったが、金子氏は意思確認のないまま名簿から削除された。金子氏は6日開催の委員会に乗り込み、会場は一時、騒然となった。

 2人は田中参議院議員(新党日本)が県知事時代に委員に就任。任期は来年3月末までの2年間だった。田中前知事の「脱ダム宣言」でいったん工事が中止された浅川ダムの建設に反対している。同ダムについては、1年前の8月6日、田中氏を破って当選した村井仁・現知事が工事再開を決めている。

 今年3月末、県は2人に土木部長名で「大変お忙しい」「大変遠路よりわざわざ時間をかけ(出席)」を理由に「ご厚意にこれ以上甘えることは本意ではありません。ご辞退についてお考えいただければ幸い」などとする文書を送った。県によれば、保母氏には電話で意向が確認できたが、金子氏は連絡が取れず、返信もなかったため、「辞意」と判断、今年度の委員リストから削除した。

 一方の金子氏は「同意もなしに解任するのは手続き違反。県に批判的な委員を辞めさせたいのではないか」と納得していない。6日の委員会では「解任されたことをメディアの取材などで初めて知った。県からは通告もない」と述べ、「県の独断で委員を辞めさせられるのなら、委員会の独立性は損なわれるのではないか」などとする5項目の質問状を読み上げた。 


 金子教授の場合、結果的に今まで委員会を欠席していたとしても、それを理由に、知事であれ土木部長名で辞職勧告をするのはもってのほかである。

 そもそも2007年8月6日に開催された年度第1回目の委員会の開催以前は、現地視察を別とすると委員会は2回しか開催されていない。2回委員会を欠席したことで「依頼者」である行政当局から辞任勧告を受けることは考えられない。 

 他方、保母名誉授だが、辞任勧告の理由が遠距離で旅費がかさむ、だとすれば、これまたトンデモないことだ。

 数1000億円規模の公共事業由来の債務がある長野県にあって、カネを湯水につかう不要・不急の公共事業を監視、評価するための委員の旅費を問題にすること自体、笑止ではないだろうか?

 保母名誉教授といえば、諫早湾干拓とならぶ日本の巨大公共事業である中海宍道湖の淡水湖化・干拓事業を工事中止に追い込んだひとりである。

 そもそも、年数回開催される委員会の旅費実費をとやかく問題にすること自体いやがらせとしかいいようもないことだ。

.....

 上の朝日新聞の記事のタイトルは、「脱ダム2委員に辞職勧告」とあるが、私自身を含め冒頭に掲げた委員のうち、自治体の首長で委員となっている2名の委員以外は、おそらく大部分は脱ダム系であるはずだ。

 たとえば、内山卓郎委員は村井新知事に何度も浅川水系にいわゆるダムが不要なことを説いており、新知事を現地に案内までしている。実際、委員会の席上で私は内山委員からご自身の脱ダムの考えを詳細に書いた知事への嘆願書をいただいている。

 また他のある委員は、公共事業評価監視委員会に後述するように、土木部が本委員会にかけることなく、国土交通省に設置許可の届出をしたことに抗議する文書を送っている。

 田中康夫知事当時、評価監視委員会の委員は土木系公共事業に対し厳しい考えを持つ研究者やNPO代表としていたことからも、これは当然のこととして県民にも世間にも映っていたはずだ。、

 その意味で、脱ダム派だから辞任勧告という朝日新聞の見出しは、不正確である。

 私が委員会での議論で感じた限りではあるが、委員リストにある信州新町長と上田市長以外の委員は大部分は脱ダム派のはずなのである。

 実は8月6日に今年度の第一回目の公共事業評価監視委員会があった。私は教え子があやうく冤罪となる刑事事件に巻き込まれ、その事件を献身的に弁護し、結果として完全勝訴を勝ち取ってくれた弁護士が大学に来られることが6日に決まっていて、学部長らとお礼を述べることとなっており、あらかじめ長野県土木部には欠席を連絡していた(これについては、巻末を参照のこと)。

 委員会の翌日、以下の信濃毎日と朝日の記事が出た。朝日はえらい入れこみようである。全国紙にも掲載されたことから、一気に大きな問題となった。

◆県公共事業評価監視委 県と金子氏の進退協議へ
信濃毎日新聞8月7日(火)

 県公共事業評価監視委員会(16人)は6日、県庁で本年度初会合を開いた。県側が本人の同意を得ないで委員から外した金子勝・慶大教授が傍聴人として出席、県側を批判したのに対し、原悟志・県土木部長は手続きの不備を認めて陳謝。金子氏との間であらためて進退について協議することになった。

 金子氏はこの日、福田志乃委員長の許可を得て発言。「気に入らない委員を辞めさせることが許されるなら、監視委の独立性も権威も失われる」と県側を批判した。県側は、同氏は前知事退任直前の昨年8月に委員委嘱されたものの、その後の会議などをすべて欠席し、委員辞退を促す県側の郵送文書にも返答がなかった−と反論。委員から外すことは問題なかったとの認識を示した。

 ただ、原土木部長は「返答いただけなかったが、再度、本人の意向を確認するべきだったと反省している」と陳謝。席上、県側が手続きの瑕疵(かし)を認めれば正式に委員辞退する考えを示した金子氏は、原部長の発言について「前進したと受け止める」と述べた。

 この日の監視委は、県が国に認可申請している「穴あきダム」を柱とする浅川(長野市−上高井郡小布施町)の河川整備計画をめぐっても論議。監視委が2003年に浅川ダムの中止を承認した経過があることや、原部長が1月の会合で計画が具体化した段階で「監視委にかける」と発言したことを踏まえ、ダム建設に反対する内山卓郎、塩原俊両委員らが議論の対象とするよう求めた。

 これに対し県側は「要綱上、監視委にかける必要はない」とし、原部長の発言も「監視委に報告する意味だった」と説明。福田委員長は「審議するかしないか、個別に委員に諮ってどうするか考えたい」と述べ、結論を先送りした。

◆脱ダム派金子氏「解任」
朝日新聞長野県版8月7日(火)

 「こんなめちゃくちゃな手続きで委員を辞めさせられるのか」。知らない間に、県公共事業評価監視委員を県から「解任」された金子勝・慶応大学教授が6日、5項目の質問状を携えて、委員会の今年度の初会合に乗り込んだ。会合は手続き論をきっかけに、委員会の存在意義をめぐる議論に発展し、1時間余り紛糾した。

 午後1時半から県庁3階の特別会議室で始まった同委員会。金子氏は開始5分ほど前に突然、現れた。あっけに取られる県職員の前を通り、「傍聴席」に。こわばった表情の原悟志・土木部長が近づいてあいさつしたが金子氏は憮然とし、険悪なムードに。

 冒頭、金子氏は原部長宛の「質問状」を出席者らに自ら配ったうえ、読み上げた。質問は、本人の同意なく委員を任期途中で辞めさせるのは非常識ではないか▽監視される側の県が勝手に委員をやめさせることができるのなら、委員会の独立性や権威が損なわれるのではないかなど5項目で、「同時に辞職勧告された委員は浅川ダムに反対の立場の人ばかり。長野県が独裁制に陥ってしまうことを懸念する」としている。

 原部長は金子氏と連絡が取れなかったこと、金子氏が昨年度の委員会に一度も出席しなかったことを挙げ、「1回も出席しないで、意思も表示されないのは異常なこと」と非難した。

 金子氏は「定期試験などで委員会に出席できなかったことは申し訳ない」と認めたものの、「社会通念に反する対応により、著しく名誉を傷つけられた。法的措置を含めて考えざるを得ない」と県に謝罪を求めた。

 委員の間からも県の対応を疑問視する声が出た。

 「居住地が遠いから」という理由で「辞職」を暗にうながす文書を県から受け取った保母武彦委員(前島根大学副学長)は「正式な手続きに基づかずに委員が解任されたり、決まったりする。この会議の正統性に関わる問題だ」と指摘。福田志乃委員長も「連絡がつかないという理由で名前を削除されては納得がいかない」と批判。田口康夫委員は公共事業を審議する同委員会は「県から独立していないと意味がない」とし、今回の解任問題は「県が委員会の独立に介入したととられても仕方がない」と述べた。

 原部長は「再度確認をする努力を怠ったのは申し訳ない」と謝罪。近く金子氏との話し合いの場を設け、質問状に正式に回答したいという。

 金子氏は取材に対し、「納得のいく説明が得られれば辞表を出したい」と述べた。

 公共事業をチェックする公共事業評価監視委員会の位置づけは、県政トップの姿勢に影響されてきた。

 故・吉村午良元知事時代の98年度の設置から4年間は、審議対象となったほぼすべてが県の方針通り「継続」。しかし、田中康夫前知事就任以後の02年度からは「見直し」や「計画変更」「中止(または休止)」が増加した。

 田中前知事は同年度、委員の顔ぶれを一新。作家の井出孫六氏や建築家の磯崎新氏、東大名誉教授の宇沢弘文氏ら著名人を多数加え、県側が示す事業のチェックだけでなく「自発的、自立的に、すべての公共事業をチェックする」(02年9月の会見)第三者委員会と位置づけた。03年度には、浅川ダムなど八つのダムも審議対象になり、県は委員会の意見を受けて八つのダムすべての「中止」を決定した。

 一方、村井知事は同委員会について田中前知事とは異なる見解を示す。今年7月19日の会見では「第三者機関に持っていけば、何でも公正中立だなんてのは大間違い。(県が)公正中立な姿勢できちんとやればいい」と述べている。

 06年度、委員を務めた大手書店チェーン「平安堂」会長の平野稔氏は、同委員会について「公共事業のストップも修正もできない単なるセレモニー。県の行う事業を追認するだけ」と話し、チェック機能を果たせぬ委員会の形骸(けい・がい)化を指摘。今後は、公共事業の再評価だけではなく、計画段階からの監視機能を委員会に持たせるべきではないかと提言している。

 私はといえば、長野県の公共事業評価監視委員会や委員となっている環境審議会で、ズバズバ発言してきた。私は前知事の田中康夫氏の政策アドバイザーをしてきた経緯からして、いわば脱ダム派である。

  また田中康夫氏知事選挙で落選する前後に任期が切れる審議会、委員会で田中前知事によって委員に任命されたのは、金子教授と福田さんそして青山であって、なぜ、金子教授に辞任勧告を出したのか理解できない。

 友人、知人の弁護士と金子委員、保母委員への行政からの辞任勧告問題について議論してみた。その結果、両委員に対する辞職勧告は、どうみても行政の裁量権の乱用であり、場合によっては不法行為が成立するのではないか、ということになった。場合によっては、両委員に対する名誉毀損となる可能性もある。

 金子教授が昨年末からの委員会に欠席していたとしても、それを理由に辞任勧告をするというのは、間違いなく裁量権の乱用であろう。

 たとえば、宇沢名誉教授なども参加していた長野県総合計画審議会では、ここ1年、いや2年近く一度も審議会に出席していなかった東大の藤森照信教授(東京大学生産技術研究所)はずっと委員となっていた。この春任期切れで委員からはずれている。

 地方自治法に根拠を置く審議会と公共事業評価監視委員会とは違うといえるが、こと公共事業評価監視委員会は進行中の公共事業の是非を議論する委員会であるという点からして、当人の承諾を得て一端就任した委員に、新知事の意向の有無にかかわらず辞職勧告をするなど聞いたこともない。

 もし、田中康夫前知事が任期切れ前に行ったことが違法であるというのなら、長野県はまずそれを問えばよい。それをせず、委員となった者に、あれこれ難癖をつけ、いきなり辞任勧告を出すのは間違いである。もちろん、違法であるわけはないし、新知事も任期切れ前に田中前知事が任命した委員の存在を認めている。

 .....

 さらに、私が他の委員と電話で話ところでは、環境審議会などと同様、公共事業評価監視委員会でも今年度第1回目の委員会から、新たに7名の委員を加えたという。

 これは今の長野県行政がとくいのまさに水増し戦術ではないか。委員会は議決する場、すなわち議決機関ではないとしても、土木部は委員を増やす、それも公共事業推進などの委員を増やすことにより、議論内容の「中和」を狙っているのではないか。

 ところで、上記の行政機関の裁量権の乱用による不法行為は大問題であるが、とりわけ問題なのは、以下のことである。

 すなわち、長野県発の脱ダムのきっかけとなった浅川に長野県土木部長が、いわゆる穴あきダムを公共事業監視評価委員会に一切かけることなく、国土交通省に許可申請を出したことである。

 具体的には長野県が「穴あきダム」建設を盛り込んだ河川整備計画原案を発表し、かつ国土交通省関東地方整備局(さいたま市)に計画を認可申請した。これこそ、しっかり取材し記事にすべきである。


<参考>2007年度第1回委員会出欠確認のメール

長野県公共事業評価監視委員会
青山 貞一 委員 様


長野県公共事業評価監視委員会 事務局
(長野県土木部土木政策課技術管理室)


本委員会につきましては、大変御多忙のところお世話になりますが、よろしくお願い申し上げます。

先日、第1回委員会開催(8月6日開催)の委員長通知をお送りいたしました。あわせまして、出欠席の御予定(と交通手段)につきまして照会させていただいたところです。

青山委員様からは、まだ出欠のお返事を頂いていないと存じますので、御多忙のところ恐縮ですが、メール又はFAXにより別紙にてお送り頂きますようお願いいたします。

以上お手数をおかけしますが、よろしくお願い申し上げます。

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事務局
長野県土木部土木政策課
技術管理室企画指導班
矢花久則 正村信一(担当)
TEL:026−235−7294
FAX:026−235−7482
Email:gijukan@pref.nagano.jp
shomura-shinichi@pref.nagano.jp
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<参考> 以下は、出欠に関する青山から事務局への返事

事務局御中

 青山貞一です。

 第一回委員会ですが、大学院の教え子が刑事事件に巻き込まれ過日、無罪の判決が横浜地裁でだされ、この度、横浜地検が控訴断念したことで完全無罪が確定しました。

 8月6日は当該裁判に尽力されました弁護団との会合が大学であり、責任者(全学リスク管理委員長)として参加せざるをえなく、以下の委員会は欠席させていただきます。

 ご理解の程、よろしくお願いいたします。