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中国からの日本への
大気汚染拡散シミュレーション
Version 0.5
青山貞一・鷹取敦・池田こみち
環境総合研究所(東京都目黒区)
掲載月日:2013年1月31月
 独立系メディア E−wave Tokyo

無断転載禁


 周知のように中国では深刻な大気汚染が続いており、市民生活にも甚大な影響が出ている。とりわけ大型バスやトラックなど、大型の直噴ディーゼル自動車の走行が多い北京では有害化学物質を含む粒子状物質やばい煙がまちを覆っている。

 6年ほど前、青山貞一研究室に中国から留学していた学生が北京、上海の大気汚染を卒業研究のテーマにし、現地調査を行ったときの写真を思い起こす。昼なお北京の街は薄暗く自動車がヘッドライトを付けて走っていた。

 以下のパワーポイントは、9年前、中国、韓国からの留学生(大学院生)らに大気汚染の拡散シミュレーションを実習しているところの写真である。実習では東京23区、また東京湾岸地域を対象としていた。実習で使用していたシミュレーションソフトは、環境総合研究所(東京都目黒区)のSuper AiSuper Hiwayのアカデミック版である。

 
 出典:青山貞一 東京都市大学環境情報学研究科(大学院)  

 発生源には工場事業所などの固定発生源と自動車などの移動発生源がある。北京などの大都市の場合は、冒頭に述べたNOx(窒素酸化物)やSPM、PM2.5などの粒子状物質を多く排出する直噴ディーゼル車が多く走行しており、それが原因となっている可能性が高い。

 以下は、中国から日本へこの時期に多い北西系の風向の場合、風速を2m/s、大気安定度をD,有効煙突高を10mと設定した場合の大気拡散シミュレーションの一例である。使用した拡散シミュレーションモデルは、地形を考慮しない環境総合研究所のSuper Air(正規プリュームモデル, Gaussian Plume Model)という解析解モデルであり、広域を対象とした大気汚染のシミュレーションに威力を発揮する。

 今回のシミュレーションでは、移動発生源のみを対象とし、工場、事業所、発電所、廃棄物清掃工場、個々の建物で使用される暖房・厨房などの個性発生源、それに船舶、航空機などの移動発生源は対象外としている。

 北京など中国各地にある自治体の道路を走行する自動車の交通量、車種構成、1台の自動車が1km走行して排出する実走行モードの排出係数(emisson factor)や渋滞時の排出係数などのデータが手元にないため正確ではない。しかし、日本に向け拡散する汚染の相対的な濃度比が見て取れる。

 以下は日本の昭和60年度及び平成12年度の自動車の実走行速度と窒素酸化物大気汚染の排出係数変化を示す表とグラフである。

 実走行速度が20km/hを切る当たりから、排出係数が極端に悪く(値が高く)なることが分かる。おそらく中国の大都市では、大型直噴ジーゼル車を含む自動車の渋滞が発生している場合、一気に排出係数が高くなり、汚染の負荷そして環境中の大気汚染濃度が高まることが推定される。


9車種の年度別、車種別、速度別、走行モード別の排出係数の変化の例(表)
出典:環境総合研究所(東京都目黒区)


8車種の年度別、車種別、速度別、走行モード別の排出係数の変化の例(グラフ)
出典:環境総合研究所(東京都目黒区)

 九州では、何と発生源近くの大気汚染濃度(赤色)の25分の1、また比較的高い大気汚染濃度(黄色)の5分の1の濃度が推計された。もちろん、実際にはNOxのようなガス状の大気汚染とSPM、PM2.5のような粒子状大気汚染とでは、拡散の仕方が異なるが、おおよその目安はつかめるはずだ。

 今後、各種データを入手後、より精度の高いシミュレーションを行う予定である。 



中国から日本への大気汚染物質の移流・拡散シミュレーションの例
出典:環境総合研究所(東京都目黒区)
 

 なお、大気汚染は気象条件以外に上述のように自動車の交通量、その車種構成、
車速などにより時々刻々変化する。通常、朝、夕の通勤時に交通量が増え、また
大型物流は夜間に多くなる。

 以下は東京で最も自動車による窒素大気汚染が酷かった板橋区の一日における
汚染の時刻変化を実測値とシミュレーションを組み合わせ表示する Super Monitor
(大気汚染リアルタイムモニター)によりWeb表示した例である。

大気汚染濃度分布の時間変化の表示実例(東京都板橋区)

 例として、1994年12月1日の午前0時から4時間ごとの大気汚染の濃度分布の変化を表示しています。
 時間を経るにつれて幹線道路から排出された大気の濃度が広がっていく様子がよく分かります。
 午前4〜5時の1時間平均濃度です。まだ自動車交通量も少なく大気汚染濃度が低いのが分かります。
 1日の交通が動き出して、幹線道路を中心に大気汚染濃度が高くなりはじめているのが分かります。
 幹線道路から細街路へと大気汚染の高濃度地域が広がりつつあるのが分かります。
 大気汚染高濃度地域が道路沿道だけでなく、住宅地にまで広がっているのが分かります。
 高濃度の大気汚染が板橋区全体を覆っています。このような日は大気汚染の環境基準(NO2濃度日平均値0.06ppm)を超過しやすい日です。

出典:環境総合研究所(東京都目黒区)、東京都板橋区