公共工事の諸問題 その9(1) 『この一年の「随意契約」を総括する』 阿部 賢一 2006年12月20日 |
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目 次 1.NHK報道が端緒 2.財務省の緊急点検 3.国交省の随意契約報告 4.随意契約の法的根拠 5.中央競馬会の巨額の随意契約 6.国土交通省の随意契約に対する取り組み 7.建設弘済会及び建設協会の実態 8.公益法人は天下り待機所 9.公益法人改革関連3法案の可決、成立 10.役人天国をなくそう 今年は公共調達の「随意契約」問題が年初から年末まで大きく取り上げられた。 年初の防衛施設庁発注工事の「官製談合」事件を機に、中央から地方の自治体にわたり全国的に蔓延している「随意契約」問題が表面化した。今年一年間の「随意契約」問題を総括する。 1.NHK報道が端緒 NHK テレビ4月4日の番組「ニュースウオッチ9」で、「税金の無駄遣いを追う 中央官庁で徹底調査」で、情報公開制度を利用してNHKが独自に調査した環境省の随意契約の実態を報道した。 同報道によれば、環境省の平成16年度までの五年間に行った、公共調達(工事の発注や物品の購入)のうち、500万円以上の契約約3,000件について調査した結果、全体の93%が随意契約、競争入札は7%に過ぎないことが明らかになった。年度別に見ても91〜98%と、毎年大半が随意契約であった。しかも、その随意契約の相手先は半数が公益法人、その6割に環境省OBが天下っていた。 さらに、その2週間後のNHKニュース(4月18日)で、NHKは、「中央の20省庁が、平成16年度までの5年間に行った工事の発注や物品の購入など500万円以上の契約一覧を4月18日に開かれた衆議院の行政改革特別委員会に提出した」ことを報じた。NHKの分析によれば、平成16年度では、20省庁で7,800件余の契約が結ばれ、このうち70%にあたる5,500件余が、特定の業者と結ぶ随意契約だったことがわかり、競争入札は30%であった。随意契約の割合は、環境省の92%が最も高く、次いで国土交通省が90%、金融庁が84%、内閣府と経済産業省が82%と、5つの省庁で80%を超えていた。 2.財務省の緊急点検 随意契約についての財務省緊急点検報告が、本年6月13日開催された政府の「公共調達の適正化に関する関係省庁連絡会議」に報告された。小泉首相は「公共調達の透明化に努力して ほしい」などと指示し、連絡会議は不適切な随意契約を競争入札などに移行する方針を決めた。 同報告書によれば、調査は内閣官房と財務省が行った。17年度に各省庁が所管公益法人や独立行政 法人、特殊法人、官庁からの再就職者のいる民間法人との間で結んだ100万円以上の随意契約を対象とした。 不透明な契約関係を指摘されてきた所管公益法人との随意契約に限ると、全件数11,520件の うち随意契約を適当とされたのはわずか659件(金額は3,918億円のうち282億円(7.2%))、9割以上の随意契約は 不適当と判定された。 本サイト『今日のコラム』でも「全国市民オンブズマン連絡会議:都道府県・政令指定都市の随意契約率は9割以上/外郭団体への業務委託」(2006年9月17日)が掲載されている。 中央官庁から都道府県、政令指定都市に至るまで、本来例外であるべき「随意契約」が全国で大手を振って蔓延している実態が明らかになった。 3.国交省の随意契約報告 財務省の緊急点検で二番目に「随意契約」が多いと指摘された国土交通省は、実はNHKニュース報道の直前に「建設弘済会への委託契約の適正化について」(H18 .3 .31)を発表してHP*で公開している。 *http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/00/000331_4_.html 国土交通省(旧建設省)の各地方整備局及び北海道開発局(以下「地方整備局等」という。)において、委託契約の内容の精査や随意契約理由の適否、再委託の状況等について、総点検の結果をまとめたものである。 建設弘済会及び建設協会は、各地方整備局に対応して(下請けとして)、建設事業の円滑な推進に資し、国土開発の発展に寄与することを目的として設立された公益法人である。昭和38年から43年にかけて設立されている。 「中立性・公平性を確保しつつ、社会資本整備や関連法令等の専門的な知識や豊富な現場経験をもって、河川・道路等の工事の監督や施設管理の補助等を行っている」という。 なぜこれら公益法人の設置に至ったかについては、「各地方整備局においては、業務のスリム化・効率化が求められている中、業務の増大と人員不足に対応して、円滑な業務執行を行うため、河川・道路等の工事の監督や施設管理などの業務のうち補助的業務については、外部委託を活用している。」のだという。 公共工事の拡大傾向の中で職員増強は公務員削減政策の中で困難なため、「補助的業務」という業務を創設して外部委託を始めたということである。 「その際、外部への業務委託を行うに当たっては、業務の性格上、 @社会資本整備や関連法令等の専門的な知識及び豊富な現場経験を必要とし、 A特定の企業・個人に偏しない中立性・公平性が求められ、 Bまたは、個人情報、入札関係情報等の秘密の保持を図ることが必要である ことから、建設弘済会に随意契約で業務を委託してきたところである。」と報告書は「随意契約」や「業務委託」の正当性を強調している。 *「」内は「建設弘済会への委託契約の適正化について」(H18 .3 .31)報告書 国土交通省所管の公益法人の概要*
* 出典:国土交通省「建設弘済会への委託契約の適正化について」(H18.3.31) ** 各協会HPより当期収入合計(事業収入には前年度繰越金が付加されるので除外した) ***報告書には北海道関係については提示されていないが、北海道開発局(旧北海道開発庁が国土交通省に統合) 関係の同様な公益法人があるはずであるが、なぜか抜け落ちている。 上記公益法人の事業収入と我が国の代表的な建設コンサルタント会社の直近年度の売り上げ(不動産その他の収入、海外分は含まない----国内事業分のみ)、社員数を比較してみると、中央官庁所管公益法人の事業収入の大きさ、職員数の多さが際立っている。 日本工営(建設コンサルタント事業収入) 364.4億円 (H16.4.1〜H17.3.31) 社員数1,479 パシフィックコンサルタンツ350億円(2005.10.1〜2006.9.30実績見込) 社員数 1,304 建設技術研究所 290億円(予想 平成18年1月1日〜平成18年12月31日)社員数 1,102 (これら三社の事業収入は北海道も含まれている) しかも、公共事業縮減傾向が続く中で、民間コンサルタントの売り上げは右肩下がりであるのに比べて、公益法人の事業収入は、反対に、むしろ上昇傾向にある。 小泉内閣の施政方針は「民間にできるものは民間に委ねる」が、大きく掲げられた。 しかし、財務省の緊急点検結果を見れば、所管公益法人との随意契約の9割以上は不適当との判定に、今年度は中央官庁側がどのように対処してゆくのか、今後の継続的な監視が必要である。 4.随意契約の法的根拠 中央省庁所管公益法人に「随意契約」が多いという現実は何を意味するのか、考察する。 公共調達において「随意契約」が認められるのは、建設関係は、会計法第29条の3の第4項と5項、及び予算決算及び会計令(予決令)第102条の4第3号の規定を適用することである。
【会計法】と【予算決算及び会計令(予決令)】の規定によれば、我が国の公共調達の大原則は、一般競争入札方式で調達しなければならない。一時期、一般競争の弊害がでたことを機に、加えて、不適格業者が参入する可能性があるとか、応札者が多くなり費用が掛かりすぎるという理由付けで、いつの間にか官庁発注者側の裁量で「指名競争入札方式」が一般化して最近に至っている。しかしながら、指名競争入札方式が、談合の温床となっているとの指摘、さらに談合の蔓延で、最近は原則である「一般競争方式」に戻っている。 「随意契約方式」も会計法および予決令の規定を素直に解釈すれば、あくまで例外的な処置であることが一目瞭然である。官庁側発注者の裁量で、「随意契約」が多用されている実態が、財務省緊急点検で明らかになった。 戦後繰り返されてきた公共工事の入札不祥事をなくす為に、建設省時代から中央建設審議会において入札改革が討議され、「指名競争方式」から「一般競争方式」への原点回帰と、「随意契約」の慎重な取り扱いについての提議が繰り返し出されてきたが、発注者側の対応は極めて遅い。 その理由は、いたって簡単である。いつまでも「裁量権限」を手放したくない官庁発注者側と、指名競争入札で、少数者による談合を容易にして契約するという既得権を確保しようと、発注者側に擦り寄り癒着する業者側、天下り先の業界、所管公益法人を維持しようとする官庁側発注者側の思惑、その結果としての「官製談合」などの構造が、中央官庁から地方自治体に至るまで蔓延、東京地検でしが摘発できなかった「談合」が、全国の地検で摘発できるようになり、既得権に安住していた公共調達の枠組みが白日の下に次々と曝さけ出されている。 指名競争方式では、落札率が95%以上が常態であった。一般競争方式になった結果、落札率は70%台になっている落札が多くなった。さらに、昨年度から発注者側がいうダンピング(過度な安値受注)入札が多発し、本年4月の日本土木工業協会(土公協) の談合決別宣言以来、大型工事でも落札率50%以下という異常な事態の発生である。国土交通省は、その対策に大童で、工事の品質が問題だと監視を強め、自民党も動き出すという事態になっている。 ダンピング入札の実態については、すでに事例を本シリーズその1で紹介した。この問題のその後の動きと分析については別途論じることにする。 (つづく) |