松葉杖はもはや不要:
ロシアの隣国は自立
しなければならない
帝国も慈善もなし:モスクワはユーラシアに
おける役割を再定義する
No more crutches: Russia’s neighbors must now stand on their own. No empire, no charity: Moscow redefines its role in Eurasia
RT War on UKRAINE #8091 7 August 2025
英語翻訳:池田こみち(環境総合研究所顧問)
独立系メデア E-wave Tokyo 2025年8月8日(JST)

集団安全保障条約機構(CSTO)の集団安全保障理事会(CSC)の
拡大形式会議。© Sputnik / Gavriil Grigorov
2025年8月7日 13時07分 ロシアと旧ソ連諸国 分析
著者:ティモフェイ・ボルダチェフ、ヴァルダイ国際討論クラブ プログラムディレクター
本文
世界的な不安定化が進む中、ユーラシアにおけるロシアの役割、そして近隣諸国との関係の性質が再び注目されている。モスクワは、近隣諸国を支配したり、それらに対して特権的な立場を強制したりするという使命に駆られているわけではない。しかし、経済、政治、安全保障など、将来の依存関係が自国の国益を犠牲にして成立することのないよう、確実に防止しなければならない。
この微妙なバランスは、今、試練の段階にある。
2025年の夏は、ユーラシアに新たな緊張をもたらした。イランをめぐる危機は深刻化しており、その影響は容易に波及し、この地域全体の国際協力や安全保障に影響を及ぼすおそれがある。一方、ロシアと、正式な軍事・経済同盟国であるアルメニアなどの長年のパートナーとの関係は、目に見える緊張が見られる。アゼルバイジャンとの摩擦はそれほど深刻ではないが、南ユーラシアの地政学的構造が変化していることを示している。
こうした混乱の中で、ロシアの近隣諸国は新たな選択を迫られている。ロシアと西側諸国間の対立が続き、世界経済が不安定な状況にあることは、リスクであると同時にチャンスでもある。これらの小国は、伝統的な同盟関係が不安定になり、新たな影響力を持つ国々が台頭する、急速に変化がすすむ状況の中で、その道筋を見出さなければならない。
こうした圧力にもかかわらず、ロシアの影響力は依然としてはっきりしている。7月、モスクワはアフガニスタンのタリバン政権を正式に承認した。この動きは、現実主義と戦略的計算の両方を反映したものだ。米国は、特に西側軍事同盟や中東での存在感を通じて、依然として世界的に大きな影響力を有している、ロシア、中国、インドは、ユーラシアの地域動態を形作っている。
これは、南コーカサスと中央アジアで特に顕著である。すでに独立主権国家としての地位を確立しているこれらの国々は、経済統合、人口動態の変化、環境圧力といった新たな現実に適応しつつある。その顕著な例が、中央アジア5カ国の結束力の強化だ。これらの国の協力は、今後、この地域の主体性を高めることになるだろう。ロシアは、この動きを前向きに評価している。自らの課題解決能力を備えた、より強靭な中央アジアは、地域全体の安定に貢献し、協力の効率化を促進するからだ。
しかし、新たな課題も浮上している。
まず、中東は不安定な状況が続く。イスラエルとイランの対立の行方は依然と
して不透明だが、その不安定化の影響はすでに波及している。しばしば予測不可能なトルコ外交は、状況をさらに複雑化している。アルメニアやアゼルバイジャンといった国々にとっては、こうした動向は絶えず戦略上の試練となるだろう。
第二に、アゼルバイジャンとカザフスタンのエネルギー経済は、世界市場の変動に対して依然として脆弱である。石油・ガス価格の持続的な下落、あるいは埋蔵量の枯渇は、両国に国内混乱をもたらすおそれがある。このリスクを管理するには、慎重な経済計画と多角化が必要である。
第三に、気候変動は中央アジアに深刻な打撃を与えるだろう。気温の上昇と水不足は、人口圧力と相まって、今後10年以内に深刻な危機に発展する可能性がある。
第四に、そしておそらく最も根本的な点だが、深刻化する世界政治経済の不安定化から逃れられないということだ。大国は備蓄や制度的強固さにより変動を乗り切れるかもしれない。しかし小国はそう幸運ではないだろう。彼らはこれらの脆弱性を認識しており、対応を準備している。
これらの課題は、こうした国々がロシアとどのような関係を築くべきかという問いを提起する。
地理、歴史、共有インフラにより、ロシアは旧ソ連圏の中心的な勢力であり続けている。しかし、この「圏」の性質は変化している。過去30年間に、独自の政治の軌道を歩む、独立した主権国家が次々と誕生した。統一された「ポストソ連」地域という概念は薄れつつある。協力は、もはや共通のイデオロギーや過去の構造よりも、現実的な利益に左右されるようになっている。
ロシアは、これらの国々に自らの意志を押し付けるつもりはない。しかし、経済、安全保障、政治など、ロシアの支援を他国が一方的に享受できるような取り決めは避けなければならない。それは不公平であるだけでなく、戦略的にも危険である。
この観点から、近隣諸国の政治体制はそれほど重要ではない。重要なのは、ロシアとのパートナーシップが、ロシアの主権や長期的な安定を損なうものではないことである。モスクワは相互利益と平等に基づく真の協力を歓迎するが、国内問題を管理する能力や意欲のない政府の支えになることはできない。
この原則は、南コーカサス、中央アジア、東ヨーロッパなど、あらゆる地域に適用される。必要なのは、地域政策に対する一貫した、堅固で将来志向のアプローチである。可能な場合は統合を促進しつつ、必要な場合はロシアの利益を守ることを躊躇しないアプローチである。
もちろん、古い習慣や思い込みから脱却することは容易ではない。ソ連の遺産は、依然として双方の期待に影響を与えている。この地域の多くの政府は、他の大国と緊密な関係を築き上げているにもかかわらず、ロシアを安全保障と経済支援のデフォルトの供給者としての扱いを続けている。この二重の姿勢は持続可能ではない。
今こそ、ロシアが地域バランスを保証する存在ではなく、対等な利害関係者のひとつとして位置付けられる、新しいモデルが必要だ。後援者ではなく、パートナーである。このようなシステムでは、協力はもはや感情や歴史的慣性に基づくものではなく、明確に定義された相互の利益に基づくものとなる。
これを成功させるためには、ロシアは戦略的な忍耐と明確な目的を持って行動しなければならない。相互の目標に資する場合、隣国を支援しなければならない。しかし、その一方で、明確な境界線を引いて、自国の資源、威信、地政学的立場を、見返りの少ない取り決めに浪費しないよう慎重に行動しなければならない。
不確実性が高まり、多極化が進む世界において、ロシアは近隣諸国に対して依
然として重要な役割を担っている。しかし、その役割は、懐古主義や慈善心ではなく現実主義、慎重さ、そして国益の堅固な擁護によって形作られるものでなければならないのだ。
そうして初めて、広大で変化の激しいユーラシアの地域において、永続的でバランスの取れたパートナーシップが築かれるのである。
この記事は、Valdai Discussion Clubによって最初に公開され、RT チームによって翻訳、編集されました。
本稿終了
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