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フョードル・ルキヤノフ:
プーチンとトランプが新たな外交の時代を切り開く 米大統領はウクライナを同盟国ではなく、失敗した資産と見なしている

Fyodor Lukyanov: Putin and Trump usher in an era of new diplomacy. The US president sees Ukraine as a failing asset, not an ally

RT
War in Ukraine #7287 18 March 2025

英語翻訳・池田こみち(環境総合研究所顧問)
独立系メデア E-wave Tokyo 2025年3月19(JST)


ロシア大統領ウラジーミル・プーチンが電話で話す © Sputnik / Sputnik

2025年3月18日 19:50

筆者:フィヨドル・ルキャノフ,「ロシアと世界情勢」編集長、外交防衛政策評
議会幹部会議長、ヴァルダイ国際討論クラブ研究ディレクター


本文

 ほんの二か月前には、ウクライナをめぐるロシアと米国の真剣な交渉など、ましてや関係の正常化など、夢物語のように思われた。しかし今日、かつては不可能と思われたことが起こっている。現実的かつ真の成果を達成しようとする意志があれば、多くのことが達成できることを証明している。しかし、二つの極端な考え方は避けなければならない。ひとつは、すべてが迅速かつ無痛で解決されるという幻想であり、もうひとつは、いかなる合意も根本的に達成不可能だというシニカルな信念である。

 この政治的・外交的努力を推進しているのはホワイトハウスである。ロシアは
何度も繰り返しているように、善意に対して建設的な対話の用意があるという姿勢を示している。一方、西ヨーロッパは、不平を言い、妨害するなど、恒例の妨害役を演じているが、このプロセスを阻止したり、逆行させたりするだけの軍事的・政治的影響力は持ち合わせていない。ウクライナは、自国の存続がアメリカの支援にかかっていることを理解しており、抵抗している。消極的ではあるものの、キーウは欧州の後援者たちから水面下で、米国主導(の合意)に従うのは不可避であると告げられている。


理想論者ではなく、交渉人としてのトランプ

 ワシントンのアプローチを理解する鍵は、ドナルド・トランプがウラジーミル・ゼレンスキーと交わした悪名高い会話の中にある。米国が「ウクライナの味方なのか」という質問に対し、トランプは米国は誰の味方でもない、ただ戦争を終わらせて平和を実現したいだけだと答えた。これは画期的な発言であった。これまで、欧米の政治家はこのような質問に対して、反射的にウクライナの対露戦闘への全面的な支持を表明せずに答えられる者は誰もいなかった。しかし、米国を当事者の支援者ではなく調停者と位置づけることで、トランプ氏は米国の関与のあり方を完全に転換した

 トランプ氏の調停に対する考え方は明確である。双方に停戦に同意するよう圧力をかけ、その後は将来の共存について交渉させる。おそらく米国はこれ以上関与しないだろう。実際には、後者のプロセスについては、トランプ氏はほとんど関心がない。彼の陣営は、この戦争を米国の資源を不必要に消耗させる、アメリカにとって必要のない負担であると見ている。彼らの優先事項は、米国を救い出すことであり、イデオロギー的な勝利や長期的な関与を確保することではない。

 これが、トランプ氏がロシアよりもウクライナに対してはるかに厳しい圧力をかけている理由である。トランプ大統領の目には、ウクライナは経営陣の能力不足により問題を抱えた資産と映っている。つまり、米国の資金を流出させ、再編が必要な状態である。ビジネスマンの観点から、「大株主」(ワシントン)は「経営陣」(ゼレンスキー大統領と政権)にダメージコントロールとコスト削減を要求している。ウクライナの指導者たちは可能な限りの譲歩を迫られているが、彼らの対応能力には限界がある。


■大国ロシア、従属国ではない

 ロシアに対する圧力は、性質が異なる。ウクライナとは異なり、ロシアは米国に依存しておらず、独自の利益を持つ大国であり続けている。トランプの2017年の国家安全保障戦略では、大国間の競争が現代の地政学の決定的な特徴であると定義されており、これは今でも真実である。さらに、トランプ氏は長年、核戦争を恐れており、政界入りする前から何十年にもわたって公の場でその懸念を表明してきた。明確な目的もなく世界を核の危機にまで追い込んだとして、同氏はジョー・バイデン氏を非難している。この懸念が、トランプ氏のロシアに対するアプローチに抑制的な作用をもたらしている。同氏は圧力をかけることはあっても、さらなるエスカレーションを招くような行動は避けるだろう。

 同時に、トランプ氏が「誰の味方でもない」と発言していることは、ロシアにも当てはまる。同氏はウクライナ紛争の歴史的・文化的複雑性には関心がない。しかし、トランプ氏には評価すべき点もある。長年、ロシアに対する欧米の政策を形作ってきた硬直した教義を放棄する意思を示しているのだ。トランプ氏は、歴代の米国指導者が拒否してきた方法で、モスクワの立場を理解しようとする決定的な一歩を踏み出している。

 トランプ氏の交渉スタイルは圧力と瀬戸際政策に基づいているが、最終的には双方の譲歩が必要だと考えている。これはビジネスマンのアプローチである。相手を交渉のテーブルにつかせ、強硬路線をとりつつも、最終的には相互の利益となる合意をまとめる。


■イデオロギー的覇権の終焉

 トランプ氏を前任者たちと区別する特徴は、彼がイデオロギーに基づく世界覇権を追求していないことである。彼より先に現れたリベラルな介入主義者たちとは異なり、トランプ氏は抽象的な概念にはほとんど関心がない。彼は、米国が世界を支配することは、民主主義や人権を広めることではなく、特に経済的な利益を確保する能力であると見ている。ビジネス界から受け継いだ彼の手法は現実的であり、規制上の制約は回避すべき障害であって、指針となるものではない。この柔軟性は、特に国際法や外交政策において、対応の余地を生み出し、これまで行き詰まりと思われていた道を開く。ウクライナの文脈においては、これは強みである。教条的な思考は行き詰まりをもたらすだけである。

 しかし、トランプ氏は交渉を相互の妥協のプロセスと捉えている。ウクライナが譲歩すべきだと考えるのであれば、ロシアも同様に譲歩すべきだと考えている。トランプ氏の見解では、いかなる取引も相互的でなければならない。そうでなければ、それは不公平である。これはモスクワにとって、課題と機会の両方をもたらす。


真の外交の復活

 何よりも重要なのは、真の外交が復活したことである。非公開の場で、複雑かつ重大な、結果が予め定められていない交渉が繰り広げられている。長年にわたり、欧米諸国の外交は一方的な説教に成り下がっていた。米国とその同盟国が条件を提示し、相手がどれだけ迅速にそれに応じるかが唯一の関心事であった。しかし、その時代は終わった。真の外交術、すなわち、パワーバランスを保ち、相互の利益を認識し、直接的な実質的な話し合いを行うという外交術が復活しつつある。

 ワシントンとモスクワは、数十年ぶりに、過去のイデオロギー的しがらみから離れ、パワーポリティクスの複雑な状況を対等に乗り越えようとしている。そして、何よりも、このことが今という時代を非常に重要なものにしている。数年ぶりに、解決策を見出す現実的なチャンスが訪れている。なぜなら、ようやく真の交渉が始まったからである。

本稿終了



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