米国なしで、欧州のNATO諸国は、ロシアと戦うのに必要な主要な能力を欠いている
Without the US, NATO allies in Europe largely
lack a key capability needed to fight Russia
Business Insider / TCN
War on Ukraine #6758 30 December 2024
英語翻訳・池田こみち(環境総合研究所顧問、TCN会員)
独立系メディア E-wave Tokyo 2024年12月31日
ロシアのS-400防空システム。ロシア国防省/ロシア国防省/
配布資料/アナドル通信社、ゲッティイメージズ経由
2024年12月29日(日)午前7時48分GMT+9
※注:TCNはタッカーカールソン・ネットワーク(Tucker Carlson)の略。池田こみちはTCNの会員
リード文
・欧州は、ロシアがウクライナ以外の国々を攻撃する可能性を懸念している。
・同時に、トランプ氏は米国がNATO同盟国への支援にあまり関与しなくなる可能性を示唆している
・米国の支援がなければ、欧州はロシアとの紛争に必要な重要な能力を欠くことになると専門家はBIに語った。
シニード・ベイカー
本文
ドナルド・トランプ次期大統領が欧州との軍事協力関係を削減した場合、NATO加盟国はロシアの侵略に抵抗するために必要な重要な能力を失うことになる。
欧州は、SEAD(Suppression of Enemy Air Defenses:敵防空制圧)として知られる防空システムを標的とする航空機や兵器の使用に関して、米国に大きく依存している。
軍がこの重要な任務を遂行できない場合、航空機は妨害され脆弱な状態となり、攻撃も防御もできず、地上部隊はより危険にさらされ、その効果も低下する。
「ヨーロッパが最も欠如しているもののひとつがSEADだ。」、と英国王立航空協会の軍事航空専門家であるティム・ロビンソン氏はBIに語った。同氏はSEADを
「重要な役割」と表現したが、ヨーロッパはそれを「衰退させてしまった」と述
べているた。
米国への依存
欧州大陸にはSEAD専用機はほとんどない。ドイツとイタリアのトーネード戦闘機は、レーダー照準用にAGM-88 HARMミサイルを搭載しており、必要なエミッター・ロケーション・システムも装備しているが、それらは来年退役する予定である。
他のNATO加盟国はSEADの役割を果たすことができるF-16を運用しているが、SEADをより効果的に行うためのHARMターゲティング・システムを搭載しているのは米国空軍のファルコン戦闘機だけである。
欧州の米国同盟国は、旧式の航空機をF-35に置き換えることを積極的に検討しているが、AGM-88ミサイルを導入している国は少数である。
(これらのミサイルはSEAD任務に非常に適しており、この目的でウクライナ空軍に納入されたが、敵防空システムの破壊、すなわちDEAD任務にはあまり適していない。)
「F-35は、貫通攻撃とSEAD/DEADの役割の両方において、最新のSAMシステムに対抗できる能力を持つよう、特に設計された。」、と英国王立統合防衛研究所の航空戦力専門家であるジャスティン・ブロンク氏は昨年始めに記している。
彼は、この第5世代ジェット機の高度なステルス性能、電子戦能力、そして敵の地対空ミサイルシステムを検出するための能動・受動センサー群を強調した。
また、「これらの非常に優れた性能にもかかわらず、F-35を配備するだけでは、欧州NATOのSEAD/DEAD問題に対する答えとしては不十分である。」とも述べている。
この状況により、ヨーロッパは米国に大きく依存することとなり、米国の信頼性に疑問が投げかけられている中、理想的な状況とは言えない。また、ウクライナにおけるロシアの戦争は、現代の紛争において敵の防空部隊を撃破することがいかに重要であるかを示している。
ウクライナでは、どちらの側もSEAD作戦を成功させることができず、両空軍は大きな打撃を受け、地上部隊は多大な犠牲を伴う激しい戦闘を強いられることになった。
ランド研究所のミサイル防衛専門家、マティアス・エケン氏は、ウクライナ戦争から得られた重要な教訓は、「中程度の装備しか持たない国家を相手にしても」航空優勢を達成するために、機動性のある地対空ミサイルを「発見、抑制、破壊」できる能力を空軍が備えるべきである、というものであると述べた。
アメリカのパトリオット防空システムがミサイルを発射する。
Source:SAM YEH/AFP via Getty Images
また、Eken氏は、アメリカ以外の西側諸国の空軍には、SEAD能力がほとんどないと付け加えた。他のすべてのNATO軍は、「限られた突撃能力、弾薬の備蓄、大型の混合攻撃パッケージの運用経験しか持ち合わせていない」、と。
アメリカのSEAD能力とヨーロッパの能力不足
NATOの防衛投資部門の副事務次長を務めた退役米陸軍少将ゴードン・"スキップ"・デイビス氏は、「侵略が発生した場合、SEAD機の大部分は米国が提供することになるだろう」と述べた。
デイビス氏はBIに対し、ロシアの防空システムを探知し破壊するために必要なステルス機(浸透爆撃機を含む)を米国は保有しており、米国の航空機は「NATOが代替するのは非常に困難」な情報収集能力を有していると語った。
デイビス氏は、SEAD能力の向上や米国の支援がなければ、NATOは「ロシアの大規模な侵略に対して有効な対応を取るのは難しい」と警告した。
米国の戦略国際問題研究所(CSIS)の戦争専門家は2023年4月、「NATOは現在、SEAD能力において完全に米国に依存している」と記している。
その好例が、2011年のリビアにおけるNATOの大規模な空爆作戦である。米国は、その状況では支援的な役割しか果たさない予定であったにもかかわらず、NATOのSEAD能力のほぼすべてを提供した。
ロシア南部のアシュルク軍事基地のS-400ミサイルシステムから発射されるロケット。写真:DIMITAR DILKOFF/AFP via Getty
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今後、ヨーロッパは米国を当てにできなくなる可能性がある。トランプ氏はNATOの強力な批判者であり、他の国々が防衛費を増額しなければ、1期目には軍事同盟からの撤退をほのめかしていた。
欧州諸国は、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、国防費を大幅に増額しており、GDPに占める国防費の割合が米国を上回る国も出てきている。(戦争の専門家は、これはロシアの侵略に対する対応であり、トランプ大統領の圧力によるものではないと指摘している。)
しかし、ヨーロッパはトランプ大統領の脅威を痛感しており、軍事専門家は、ヨーロッパの支出増額だけではウクライナを支援し、ロシアの脅威に備えるには不十分だと警告している。やはり米国の支援が必要だ。
ロシアの脅威について考える
ロシアは繰り返し、ヨーロッパの他の地域を攻撃すると威嚇しており、多くの国々が、特にモスクワがウクライナで勝利を収めた場合、今後数年のうちにそれが起こる可能性があると警告している。
米国が、特にすでに防衛に多額の費用を投じている同盟国に対する支援を撤回するかどうか、また撤回できるかどうかは不明である。
米軍は現在、欧州に深く組み込まれているため、米国が軍を本国に帰還させるという大幅な政策転換を行わない限り、何かがすぐに起こった場合、「自動的に関与することになる」とゴードン氏は述べた。
それでも欧州は、欧州全域の防衛企業が現在、新型のSPEAR-EWミサイルを開発中であるように、その欠陥に対処するための行動を起こしている。
シリアのロシア軍基地に配備されたPantsir-S1とS-400。ロシア国防省報道部
「ようやく事態の深刻さに気づいた」とロビンソン氏は言うが、しかし、まだ十分な対応がなされていないとも付け加えた。「欧州の首都や多国籍組織が動き出すには、まだ時間がかかりそうだ」と。
ランド研究所の戦争専門家マイケル・ボーナート氏は、必要なミサイルのサプライチェーンを再構築するには何年もかかる可能性があると述べた。つまり、米国が撤退した場合、短期的に不足分を補うための「本当に良い選択肢は存在しない」ということだ。
ロビンソン氏は、欧州には高度な産業基盤があるものの、「問題はそれがすべて断片化されていることだ」と述べた。
4カ国の欧州諸国が自国のジェット機を1つの艦隊として運用することに合意するなど、いくつかの協力関係は構築されている。
欧州政策分析センターの上級研究員であり、陸軍サイバー研究所(ウェストポイント)の研究員でもあるヤン・カルバーグ氏は、「調達、協力、連携が不可欠である」と述べた。
特にヨーロッパの広大さと防衛すべき陸地の広さを考慮すると、各国は資産を共同購入し、「多国籍軍として共同運用」すべきであると彼は述べている。
ヨーロッパのSEAD能力の不足を補うには時間がかかり、その間、攻撃に対してより脆弱な状態が続くことになる。しかし、ロシアは自国の資産を効果的に使用できないことを実証しており、この欠陥は最終的にヨーロッパを助けることになるかもしれない。
「ヨーロッパは今後10年から15年はSEAD能力が十分ではないだろう。」とカルバーグ氏は述べたが、「ロシア空軍と防空軍は、情報、指揮、統制を連携させることができず、広範囲にわたる近代化のためのリソースも不足している。
戦争が起こった場合、ヨーロッパの能力が事態を救うわけではない。ロシアの能力不足が原因だ。」と彼は述べた。
本稿終了
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