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王は死んだ:
トランプ次期大統領の「カナダを奪う」発言は、この重要な政治的概念の終焉を浮き彫りにした。カナダ、パナマ、グリーンランドに関する大胆発言は、単なる冗談ではなく、警告である

The king is dead: Trump’s talk on ‘taking Canada’ highlights the demise of this critical political concept The US president-elect’s bold talk on Canada, Panama, and Greenland is more than a joke – it’s a warning
War on Ukraine #6739 28 December 2024

英語翻訳・池田こみち(環境総合研究所顧問)
独立系メディア E-wave Tokyo 2024年12月28日

次期米国大統領ドナルド・トランプ氏。© David Becker/Getty Images

2024年12月27日 14:47

筆者:ティモフェイ・ボルダチョフ(バルダイ・クラブプログラム・ディレクター)

本文

 ドナルド・トランプ氏が米国大統領に再選されて以来、世界政治に最も大きな影響を与えたのは、大胆な発言で物議を醸し出したことである。カナダ併合、グリーンランド購入、パナマ運河再生などである。これらの発言は各国政府からの反発声明やインターネット上のユーモアの嵐を巻き起こし、さらには思慮深い分析さえも引き起こした。

 ほとんどの観察者は、これらの憶測を交わすことは交渉相手を感情的に不安定にさせる試みであると切り捨てている。これは、西欧諸国が米国からエネルギーを購入することに対するトランプ氏の不平不満によって裏付けられている仮説である。しかし、さらに掘り下げてみる価値のある深層がある。娯楽的な価値を超えて(そして、世界的な緊張状態の中で、私たち全員が軽快な見出しを必要としていることを認めざるをえない)、トランプ氏の挑発は、より大きな問題を提起しているのかもしれない。国家の主権は、もはやかつて私たちが信じていたような揺るぎない概念ではない。

 軍事力がますます重要視される世界では、主権は形式的な地位から、実質的な統制の問題へと変化している。今日、カナダ、グリーンランド、メキシコが米国の一部であると想像するのは、馬鹿げているように思える。しかし近い将来、主権を確保できない国家が、なぜ主権を保持し続けなければならないのか、真剣に疑問に思うようになるかもしれない。

 何世紀もの間、領土は国際政治の基盤であり、規則や規範、国際協定よりも実体のあるものだった。実際、「国境の不可侵性」は比較的新しい概念である。歴史の大半において、国家は土地を巡って争ってきた。なぜなら、土地こそが究極の資源であり、戦争や経済発展、人口増加に不可欠だったからだ。20世紀半ばまでのほぼすべての紛争は、国境の再画定によって終結した。

 国家には国家となる固有の権利があるという考え方は、20世紀になって登場した。ロシアのボリシェヴィキと米国大統領ウッドロー・ウィルソンという、一見相容れない二人の同盟者が唱えたものである。両者とも帝国の解体を目指していたが、ロシアはイデオロギー上の理由から、アメリカは自国の影響力を拡大するために解体を目指した。その結果、弱小で他国に依存する国家が急増し、それらの国家はモスクワとワシントンの外交政策の道具となり、主権は外部からの支援に依存するエリート層が駆け引きに利用する材料に過ぎなくなった。

 第二次世界大戦後、ヨーロッパの植民地大国は崩壊した。多くの旧植民地は独立を勝ち取ったものの、自力でその地位を確保することはできず、米国やソ連などの超大国に依存するようになった。中国やインドのような大国でさえ、自国の進むべき道を定めるには、多大な外国からの支援を必要とした。小国にとっては、主権はしばしばパフォーマンス的な儀式にまで低下し、それは世界の大国の利益に役立つ限りにおいてのみ価値がある。

 この力学は新自由主義時代にも継続している。カナダのように、米国との経済関係に予算が大きく依存している国は、このような状況下での主権の不条理を浮き彫りにしている。国の発展が完全に外部との関係に依存している場合、国家機関を維持する意味はあるのだろうか?

 トランプ氏のコメントは、この体制のひび割れを露わにしている。 費用が利益を上回っているのに、なぜ米国はカナダの独立を支え続けなければならないのか? 一度神聖視された主権は、ますます過去の遺物のように見え始めている。それは、エリート層が利権をむさぼり、より強力な権力者に忠誠を誓うためにのみ役立つものだ。

 この変化する世界情勢において、領土と支配が再び国際政治の中心的な柱となりつつある。「ルールに基づく秩序」が世界を公平性と平等性へと導くという考えは、心地よいフィクションではあるが、現実はそうはならないだろう。もともと欧米の支配を確実にするために作られた国連のような国際機関は、新たな勢力が台頭するにつれ、その影響力を失いつつある。

 より公平な世界秩序を構築するには数十年を要するだろう。そして、各国が真に主権を有していることを証明できれば、初めてそれが可能となる。それまでは、主権は単なる儀式として形骸化し続けるだろう。

 トランプ氏は、彼らしい大胆かつ挑発的なやり方で、すでに現在のシステムの不合理性を指摘している。意図的であるにせよないにせよ、彼は21世紀における主権の物質的な現実について疑問を投げかけている。しかも、彼にしかできないやり方で。

この記事は、ロシアの新聞「Vzglyad(ヴズグリアド)』で最初に発表されたもので、RTチームが翻訳・編集したものです。


本稿終了