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御嶽山噴火災害、
高裁判決は全面「棄却」

一審判決からの著しい後退判決
に傍聴席は唖然


 池田こみち(Komichi Ikeda)
環境総合研究所顧問
E-wave Tokyo 2024年10月21日
 


写真:横断幕をもって並び高裁入廷前の控訴人一行


本文

              
 2024年10月21日(月)午後2時、控訴人らは、「御嶽山の噴火事故を検証し、火山防災体制を問う」という横断幕をもって、東京高裁前を行進し、控訴審判決に臨んだ。

 午後2時30分、東京高等裁判所第101法定は、控訴人側弁護人5名、控訴人代表12名が廷内に着席し、控訴人側傍聴席は記者席も含めて満席となった。被控訴人側(気象庁等)の席には代理人弁護士など6名が着席していた。

 定刻となり、法定中央のドアが開いて、筒井健夫裁判長他二名の裁判官が入廷し一礼した後開廷された。冒頭2分間のTV撮影がおこなわれ、その後すぐに筒井裁判長は判決の主文を読み上げた。「控訴人の申し立てをすべて棄却する。訴訟費用は控訴人の負担とする。」、と。その上で、判決理由の骨子についておよそ2分程度説明がおこなわれ、全体で5分以内に閉廷となった。

 骨子は以下の通りである。

 1.火山性微動が続いたとしても、それをもって火山警報のレベルを上げ なかったことが過失とは言えない。

 2.その他、低周波振動や山体膨張などがあったとの指摘があったが、当時、  火山噴火予知についての知見の蓄積が十分に進んでおらず、過去の事例を  参考にしても判断を逸脱して著しく合理性を欠いたとまでは言い切れない。

 3.長野県の測定器が稼働していれば参考になったとの主張があるが、それを もって、測定義務違反とまでは言えない。 
    
   以上
                     
 松本地方裁判所での一審では、御嶽山噴火までの経過についてひとつひとつ丁寧に審理をおこない、判決では、気象庁が警報レベルを上げることについて責任をもっていること、上げる/下げるの義務違反があったかについては、原審ではあった、とし、その上で気象庁職員は漫然と時を過ごし、地殻変動と断定できないとの結論をだしたことは、注意義務を尽くしたとは言えず、違法である、と結論づけた。

 それに対して、控訴審では、主として、三つの事象;

 ①火山性地震の頻発、

 ②低周波振動の観測と火山性微動の増加、

 ③山体膨張を示すわずかな地殻変動

のそれぞれについて、実際に起こっていたことは認めながら、「だからといって当時の知見は十分ではなく、それをもって警報レベルをあげなかったことは違法とまでは言えない。」と切り捨て一審を大きく後退した判決となった。

 また、骨子の三つ目に指摘された、最も山頂近くにあって、本来、適正に稼働しデータを送り続けているべき測定器が長期間故障したまま放置されていた事実についても何らの責任をとわなかったことは驚きとしか言いようがない。

 控訴してから丸一年が経過していた。この間、高裁ではわずか1回の期日しか開かれなかったが、一審で問題となっていた、警報レベルが上げられた場合にはどのくらいの時間で木曽町・大滝村から登山口規制が可能かについて調査嘱託がおこなわれ、「所要時間は1時間25分から1時間50分」となっており、噴火当日朝の警報発出でも災害防止が可能となることが明らかとなっていた。

 それにもかかわらず、警報発令の一切の権限を持ち責任を持っていた気象庁の行政としての責任を過度に庇い、63名もの尊い命が失われた事実に真摯に向き合おうとしない高裁裁判官の冷酷な判決には憤りを覚えざるを得なかった。 まさに、63名もの小学生の子供から高齢者までの一般の登山者が楽しく登山していていきなりの噴火によって著しい体の損傷を負って逃げるところもなく亡くなっていったその事実をあまりにも軽く見過ぎていて、今後になんら教訓を残していない判決と言われても仕方が無い。

 被害者遺族の一部は、今後の火山噴火に伴う災害を減らしていくため、さらなる検証を求め活動を続けていくことを明らかにしている。知見の積み重ねは常に必要なことであるが、それを言い訳にして防災の立場から判断を誤ったり、逃げたりすることは許されない。気象庁にそれができないなら、警報レベル引き上げの権限について、誰がどう判断していくべきなのか、抜本的に考え直す必要があるだろう。万一、警報レベルを上げたことが、後から過剰判断と言われても、それで多くの命が救われることを思えばだれも責める人は居ないだろう。

本稿終了