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 ロシア製イスカンデル
9К720 "Искандер"
出典:Wikipedia
War on Ukraine #6015 9 October 2024


E-wave Tokyo 2024年10月10日

 
「イスカンデルM」ミサイルを搭載した輸送起立発射機 MZKT-7930

本文

イスカンデルM

種類    短距離弾道ミサイル(イスカンデルE/M)
      巡航ミサイル(イスカンデルK)
運用史  配備期間 2006年から[1]
配備先   ロシア連邦軍
開発史  製造業者 機械製作設計局(KBM)
諸元
・重量   3,800 kg[2]
・全長   7,200 mm
・直径   950 mm
・ペイロード 480 kg [2]
・最大射程   イスカンデルM:400 km(推定)
・イスカンデル E:280 km
・イスカンデル K:500 km
・精度  5 - 7 m(イスカンデルM)
・エンジン   単段固体燃料推進式
・誘導方式  慣性誘導(イスカンデルE)
・慣性誘導  + E/O(イスカンデルM)
 9K720「イスカンデル」(ロシア語:9К720 "Искандер"ヂェーヴャチ・カー・セミソート・ドヴァーッツァチ・イスカンデール)はロシア製の短距離弾道ミサイル(SRBM)。固体燃料推進で、車両に搭載される移動式の戦域弾道ミサイル複合(TBM、Оперативно-тактический ракетный комплекс、ОТРК)である。北大西洋条約機構(NATO)の用いたNATOコードネームでは、“SS-26 Stone(「石」の意)”と呼ばれる。「イスカンデル」とは古代マケドニアの英雄アレクサンドロス大王の異称である。

概要

 「イスカンデル」は戦域レベルの紛争用に設計された戦術ミサイルシステムである[3]。ポイントやエリアの標的、例えば敵火力兵器、防空・対ミサイル防衛兵器、司令所や通信ノード、密集地帯の軍隊などに合わせて通常弾頭を使い分けることで、活動中の軍部隊・標的の両方を破壊することにより敵軍の戦闘遂行能力を弱体化させる。

 このシステムは敵の活動妨害環境の中でも高い確率で任務を遂行することができ、ミサイルの発射準備中や飛行中でもほとんど故障しない。ミサイル飛行経路の計算と入力は、発射装置が自動で行う。システム搭載車両は移動可能で、耐用年数の延長や操作の容易さも相まって、高いレベルの戦術的作戦能力および戦略的機動性を有している。

 「イスカンデル」にはクラスター爆弾弾頭、燃料気化爆弾弾頭、威力増大型弾頭、バンカーバスター用の地中貫通弾頭、対レーダー作戦用の電磁パルス弾頭など、いくつかの異なるタイプの通常弾頭が用意されている[4][1]。

 製造企業であるロステック会長セルゲイ・チェメゾフは、国内仕様には核弾頭搭載能力が備わることを明言している[5]。

開発と配備の経緯

 ソ連では、1960年代に大量配備した戦域弾道ミサイル複合9K72「エリブルース」の代替として1980年代初頭より 9K714「オカー」を配備していた。これが1987年のINF条約により制限対象となったため、条約に抵触しない別の代替ミサイルが必要となった。1989年にはより射程の短い9K79-1「トーチカU」が実用化されたが、9K714を代替するためには長射程の非核弾頭型ミサイルが必要であった。

 新しい戦域弾道ミサイル複合は9K720と名付けられ、9K79や9K714の開発で知られるコロムナ機械製作設計局(KBM)によって開発が主導された。ミサイル発射装置はヴォルゴグラードの中央設計局「チターン」、自動誘導装置はモスクワの自動化技術・水理学中央科学研究所(英語版)が受け持った。開発条件としては、特に核弾頭を搭載できないようにすること、その分命中精度を高めること、自動誘導装置を改良することなどが挙げられた。

 ミサイルの開発はソビエト連邦の崩壊を経ても継続され、1996年には「イスカンデル」ミサイル[6]の最初の発射がロシアのテレビで放送された。 西側では1999年にこのシステムがロシア軍で運用段階に入ったと見ていたが、後に時期尚早だったことがわかった[1]。

 2004年9月、ロシア国防省高官らの会合で当時のプーチン大統領に2005年度の防衛予算の草案が報告され、セルゲイ・イワノフ国防相は新しい戦術ミサイルシステム「イスカンデル」の状態テストの完了について発言。2005年にこのシステムの大量生産に入り、年度末頃にはこの兵器を備えた部隊ができているだろうと話した[1]。

 2005年3月、ロシア防衛産業の情報筋はインテルファクスAVNに既存の「イスカンデルE」戦術ミサイルシステムに基づいた500 - 600kmの範囲への新しいミサイルの開発が可能であると話した。しかしながら、彼はそれには「最大で5、6年かかるかもしれない」と話した[1]。

 2006年には「イスカンデルM」戦域弾道ミサイル複合の量産が開始された。「イスカンデルM」は「イスカンデル」のロシア連邦軍向けの派生型で、最大500 kmの射程と480 kgの弾頭を持っている[1]。

 2007年には新しいミサイルシステム(発射装置も)であるR-500「イスカンデルK」[7]巡航ミサイルの発射試験が行われた[8]。

 2008年11月、ロシアのメドヴェージェフ大統領は大統領就任後初となる年次教書演説で、NATOミサイル防衛システムを中和するために、もし必要なら、ロシアはNATO加盟国であるリトアニアとポーランドの間にあるロシア最西端の飛地カリーニングラード州に「イスカンデル」複合を配備するだろうと述べた[9]。リトアニア政府は、少なくとも軍事演習時にはイスカンデルがカリーニングラードに持ち込まれており、最大射程が700kmに延伸された改良型はドイツのベルリン付近まで攻撃可能との見解を公表している[10]。

構成

 「イスカンデル」の使用するミサイルは、前任の9K714の使用する9M714ミサイルよりも優れている。「イスカンデルM」システムは2つの固体推進燃料単段式誘導ミサイル、モデル9M723K1を備えている。各々は全飛行経路中ずっと制御されていて、分離しないタイプの弾頭を備えている。発射台輸送車両に備えられた各々のミサイルは独自に、ものの数秒の間に標的を狙うことができる。「イスカンデル」発射砲座の機動性はミサイル発射の妨害を困難にする[4]。

 ミサイル運搬車輛には、ベラルーシの国営企業ミンスク・ホイール・トラクター工場製のMZKT-7930と、ロシア・ブリャンスク自動車工場製のBAZ-6909(英語版)が使用できる。これらの車輛は、従来の9K79や9K714が各車輛ごとに1発のミサイルしか搭載できなかったのに対し、2 発のミサイルを搭載できるようになっている。

 「イスカンデル」は精度、射程、信頼性(敵の防衛を回避する能力)を獲得している。それは優秀な戦闘機や防空に直面し、空軍の爆撃や巡航ミサイルの発射任務があまり期待できない時に精密爆撃の代替手段をなしている。衛星や航空機だけではなく、従来の諜報センター、または発射を指示する兵士も標的を見つけることができる。コンピュータースキャンされた航空写真から見つけることもできる。

 標的の移動に合わせて飛行中のミサイルの狙いを修正することもできる[4]。「イスカンデルM」(Eではない)は光学式誘導弾頭で、AWACSやUAVからの暗号化された無線通信によっても制御できる。電子光学誘導システムは自律追尾能を与える。ミサイルに内蔵されたコンピューターは標的の画像を受信し、標的に自動的に照準を合わせて追尾し、超音速で標的に向かって降下する。

 飛行中、ミサイルは弾道ミサイルより低い軌道を取り、飛行最終段階には回避行動を行い、ミサイル防衛システムをかいくぐるために電子妨害と赤外線センサの幻惑を行う9B899デコイ弾を放出する[11]。このミサイルは決して大気圏を離れることはなく、比較的平坦な軌道を取る。

各型

イスカンデルM
 ロシア軍向け。射程:400km(INF条約違反である500km以上に伸ばせるだけの潜在能力を有する)[12][13]

イスカンデルE
 輸出向けで、ミサイル関連技術輸出規制(MTCR)に合わせて設計された。射程:280km以下

使用国

ロシア

 2006年にロシア軍に採用された。ロシアは2016年までに少なくとも5部隊の「イスカンデルM」ミサイル複合部隊を備える計画をしている[1]。

 2020年ナゴルノ・カラバフ紛争に実戦投入されたが、(ロシアが支援する)アルメニア軍側が発射したイスカンデルミサイルをアゼルバイジャン軍が迎撃した[14]。

 2022年ロシアのウクライナ侵攻で実戦投入されたと見られている[15]。

 アルメニア
 アルジェリア
 将来 ベラルーシ

 初期のレポートでは、ベラルーシは中央ヨーロッパで提案されたNATOミサイル防衛に対抗するため、ロシア防衛兵器として「イスカンデルE」部隊を購入することを計画していた[16][17]。後にベラルーシはアメリカミサイル防衛計画に対抗するため、国境内へのミサイルシステムの配置についてロシアと協議していることについて否定したが[18]、それにもかかわらずベラルーシのルカシェンコ大統領は「ベラルーシ共和国軍のために兵器の購入を計画している」と発言した[19]。

 シリア

 バッシャール・アル=アサド大統領はロシアの新聞に、スカッドミサイルより優れたターゲッティング能力を持っているロシアの「イスカンデル」弾道ミサイルの輸入取引を再開したいと話した。ロシアはシリアへの兵器販売を検討すると発言したが、その要求に同意するまでには至らなかった[20]。

 ロシア国営兵器貿易企業ロソボロンエクスポルト社のNikolai Dimidyuk取締役によると、アラブ首長国連邦、マレーシア、インドが「イスカンデルE」の保有に強い関心を持っているという[21]。また彼は、ロシアがクウェート、シンガポール、ベトナム、大韓民国に「イスカンデルE」を輸出しようとするだろうとも付け加えた[22]。

 朝鮮民主主義人民共和国の旗 北朝鮮

 2018年2月8日の軍事パレードで公開したKN-23新型短距離弾道ミサイルについて、38ノースは「イスカンデルを土台に開発された」と分析している[23]。専門家や韓国軍によれば、2019年5月4日、同月9日、7月25日、8月6日に発射されたミサイルとみられる飛翔体は、イスカンデルをもとにしているとも[24][25][26]飛行特性が似ているともされる[27]。2024年、ウクライナに着弾した北朝鮮製ミサイルは、9K720に類似するものの配線や直径が10mm異なる特徴を有していたと報じられたが[28]、9K720には施されている対電子戦防護がなされていないなどの差異が見られた[11]。なお、その後の調査で直径については9K720より15cm大きい1.1mであることが判明している[29]。

詳細仕様

製造者: 機械製作設計局(KBM、コロムナ)

射程: 最大500km(「イスカンデルM」、非公式)、280km(輸出用) 最小50km[30]

精度: 1–30m(追尾機能のない輸出用「イスカンデルE」)
 5 - 7m 最終段階での光電子工学追尾システム付き(「イスカンデルM」)[30]
 発射にかかる時間: 最も準備した状態からだと4分、行進の状態からだと16分[30]

発射間の休憩: 少なくとも1分以上[30]

動作温度範囲: -50℃ - +50℃

燃焼完了速度: 2,100 m/s以下

重量: ミサイル: 3,800kg(「イスカンデルE」)

弾頭: 480kg(「イスカンデルE」)

発射台: 40,000kg

全長: 7,200mm

最大直径:

 ガイドラインによると950mm
 エンジンによると920mm

弾頭: 通常(クラスター弾頭、HE破片弾頭、貫通弾頭など全10種類)

誘導システム: 慣性、GPS/GLONASS、光電子工学追尾

シャーシ: 車輪付きでクロスカントリー性能を持つ

ミサイル数:

 9P78E発射台上: 2発(輸出用)[30]

 9T250E輸送・再装填機: 2発

設計寿命: 10年(「イスカンデルE」)[30]

乗務員: 3名(発射台搭載車両)

システム構成
 全ての「イスカンデル」複合を含む[30]

9M723K-E ミサイル
 9P78-1輸送起立発射機(8×8 MAZ-79306のシャーシのASTROLOGトラック)
 9T250-1輸送・再装填車(8×8 MAZ-79306のシャーシのASTROLOGトラック)
 9S552指揮官・幕僚車(KAMAZのシャーシの6輪トラック)
 情報準備所車(KAMAZのシャーシの6輪トラック)
 整備・修理車(KAMAZのシャーシの6輪トラック)
 医療支援車(KAMAZのシャーシの6輪トラック)
 訓練所備え付けのセット
 TEL訓練生のための備品セット
 SV訓練生のための備品セット

訓練用ポスター

訓練用ミサイル実物模型

標的
 このシステムはポイントやエリアに合わせて通常弾頭を使い分けることになっている
 敵火力兵器(ミサイルシステム、多連装ロケットシステム、長距離砲)
 防空・対ミサイル防衛兵器、特に駐留軍
 飛行場にある固定翼・回転翼の航空機
 司令所や通信ノード
 密集地帯の軍隊
 重要民間インフラ施設

類似システム
 MGM-52
 MGM-140 ATACMS
 Kh-47M2_キンジャール - 本装備をもとに開発されたと分析されている空中発射弾道ミサイル[31]。


出典

^ a b c d e f g “9K720 Iskander-M (SS-26 Stone) - Program”. GlobalSecurity. (2008年11月6日) 2009年2月2日閲覧。

^ a b “Iskander / SS-26 specs”. GlobalSecurity. (2008年11月6日) 2009年2月2日閲覧。


^ “Missiles of the world - SS-26”. missilethreat.com. (2003年12月11日) 2009年2月2日閲覧。
^ a b c “9K720 Iskander-M (SS-26 Stone)”. GlobalSecurity. (2008年11月9日) 2009年2月2日

閲覧。

^ “Чемезов: ракетные комплексы "Искандер" не пойдут на экспорт”. タス通信 (2016年6月6日). 2022年3月28日閲覧。

^ まだ実用化されていなかったので、NATOではSS-X-26と呼んでいた。
^ 「K」は「有翼の」という意味のロシア語形容詞の略号である。

^ “Iskander Missile System” 2009年2月2日閲覧。

^ “Russia to deploy short-range missiles near Poland”. Associated Press. (2008年11月5日) 2009年2月2日閲覧。

^ “ロシア、カリーニングラードに弾道ミサイル NATO諸国反発”. フランス通信社. (2016年10月9日)

^ a b 【画像検証】ロシア軍が北朝鮮製KN-23弾道ミサイルをウクライナで使用、ハルキウで残骸を回収(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース(2024年1月6日)、2024年3月3日閲覧

^ “INF (Intermediate-Range Nuclear Forces) INF Treaty”. U.S. Department of State 2009年2月2日閲覧。

^ “Russia to compensate for INF losses with Iskander missile system”. RIA Novosti. (2007年11月14日) 2009年2月2日閲覧。

^ “ロシアがウクライナに発射した極超音速ミサイルについて知っておくべきこと”. CNN (2022年3月23日). 2023年1月6日閲覧。

^ “ロシアにヘルソン撤退要求 ウクライナ高官、拒否すれば「ハイマース」の恐怖に”. 産経新聞 (2022年7月22日). 2022年8月8日閲覧。

^ “Belarus buys missile systems Iskander”. Charter'97. (2007年11月14日) 2009年2月2日閲覧。

^ “Russia to deliver Iskander missile systems to Belarus”. interfax.com. (2007年11月14日) 2009年2月2日閲覧。

^ “Belarus Not Planning to Deploy Russian Missiles to Counter U.S.”. Bloomberg. (2008年11月17日) 2009年2月2日閲覧。

^ “Belarus puts Russian missiles on shopping list”. Russia Today. (2008年11月14日) 2009年2月2日閲覧。

^ “Kremlin balks at missiles for Syria”. Financial Times. (2008年8月22日) 2009年2月2日閲覧。

^ “Russia May Deliver Missiles to India, Syria, Interfax Reports”. Bloomberg. (2008年10月1日) 2009年2月2日閲覧。

^ “Iskander-E (SS-26 Stone)”. GlobalSecurity. (2008年11月6日) 2009年2月2日閲覧。

^ “North Korea’s Army Day Military Parade: One New Missile System Unveiled”. 38 NORTH. (2018年2月8日)

^ 「飛翔体、1発目420km飛ぶ…弾道ミサイルか」『読売新聞』2019年5月10日。2019年8月9日閲覧。

^ 「「金委員長が長距離攻撃手段の訓練指導」北報道」『読売新聞』2019年5月10日。2019年8月9日閲覧。

^ 「北の飛翔体は「ミサイル」、防衛相「極めて遺憾」」『読売新聞』2019年7月29日。2019年8月9日閲覧。

^ 「北、ミサイル2発発射…米朝交渉決裂におわせる」『読売新聞』2019年8月6日。2019年8月9日閲覧。

^ “ウクライナに着弾のミサイル、北朝鮮製か…過去の軍事パレードに登場したものと酷似”. 読売新聞 (2024年1月8日). 2024年1月8日閲覧。

^ Documenting a North Korean missile in Ukraine - 紛争兵器研究所(2024年1月)、2024年3月3日閲覧

^ a b c d e f g promotional CD of KBM

^ “ロシアがウクライナに発射した極超音速ミサイルについて知っておくべきこと”. CNN (2022年3月23日). 2023年1月6日閲覧。

Russia's Arms Catalog 2004

以下略

本稿終了