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オハイオ州脱線事故現場付近

発がん性化学物質の濃度は、

安全基準をはるかに超過。

米EPAの科学者は2010年にダイオキシン

発がんリスクの閾値を評価したが、連邦政府

の浄化ははるかに高レベルでしか発動されない

The Guradian:Ohio train Derailment Levels of carcinogenic chemical near Ohio derailment site far above safe limit EPA scientists assessed a dioxin cancer risks threshold in 2010, but a federal cleanup is only triggered at far higher level
  The Guardian  #3049  17 March 2023

翻訳:池田こみち(E-wave Tokyo 共同代表、環境総合研究所顧問)
独立系メディア E-wave Tokyo 2023年3月18日

脱線事故後の塩化ビニールの制御焼却により、オハイオ州イーストパレスチンの近くで、がんを引き起こすダイオキシンが空気中や地上に放出された。写真: タネン・モーリー/EPA

筆者:トム・パーキンス(Tom Perkins) 2023年3月17日(金)16:27 GMT

本文
 新たに発表されたデータによると、オハイオ州の町イースト・パレスティンの土壌は、最近起きた列車事故と化学物質の流出事故の現場であり、2010年に環境保護庁(EPA)の科学者が発がんリスクがあるとした暴露基準値の数百倍のダイオキシンが含まれていることがわかった。

 EPAは当時、この猛毒の化学物質をめぐる科学的知見を反映させるために浄化基準値を引き下げることを提案したが、オバマ政権はこの規則を廃止し、より高い連邦行動基準値が現在もそのまま適用されている。

 イースト・パレスティンのダイオキシン濃度は連邦政府の行動基準値以下であり、先週、EPAの管理者は議会で「非常に低い」と述べたものの、ガーディアン紙のためにデータを見直した元EPA職員を含む化学専門家は「懸念材料」とした。

 また、2つの土壌サンプルから検出されたレベルは、複数の州のダイオキシン土壌規制値の最大14倍であり、この数値はより広範囲な汚染を示唆していると、米国国家毒性プログラムの元責任者でEPA科学者のリンダ・バーンバウム(LindaBirnbaum)氏は述べた。

 「測定結果は悲鳴を上げるほど高くはないが、ダイオキシンがイースト・パレスティンの土壌に含まれていることは確認された。EPAはこの地域の土壌をもっと広範囲に検査しなければならない。」と彼女は述べている。

 このデータは、おそらく、この町での列車事故の数日後に行われた塩化ビニルの制御下での燃焼がダイオキシンを発生させ、地域全体に拡散させたという恐れを裏付けるものだと専門家は言うが、2検体の土壌サンプルしかチェックしなかったので、新しいデータの価値は限られていると彼らは強調した。

 イースト・パレスティンの列車事故とその有毒物質による余波は、政府と列車運行会社のノーフォーク・サザン社による対策の欠如を非難する地元や活動家の間で、米国で大きな問題になっている。オハイオ州は、この脱線事故について、同社が関与した「一連の長い事件」の1つであるとし、大手鉄道会社を提訴した。

 ダイオキシン類は化学物質の一種で、PVCなどの製品を製造する際に一般的な工業プロセスである塩素を燃焼させた際に発生する副産物である。

 この化学物質は非常に難分解性で、環境や人体の中に何年も蓄積して留まることがある。他の健康問題の中でも、この化合物は、がん、糖尿病、心臓病、神経系障害やその他の深刻な健康問題に関連している。土壌や食品の汚染は、最も一般的な暴露経路のひとつと考えられている。

 EPAは、ダイオキシン類の検査を求める声に何週間も抵抗していたが、3月3日、ノーフォーク・サザン社に検査を命じることを発表した。これとは別に、インディアナ州は先週、同州の埋立地の1つがイースト・パレスティンの土壌を保管していることから、その検査を依頼した。この検査は、バーンバウム氏が信頼できる研究所に依頼したものである。

<写真キャプション:EPAの業者によるサンプリング>
 3月9日、脱線事故現場から土壌と空気のサンプルを採取するEPAの業者。
写真 マイケル・スウェンセン/ゲッティイメージズ

 インディアナ州のエリック・ホルコム(Eric Holcomb)知事は、土壌から検出された濃度は「有害ではない」と述べた。一方、EPAの地域行政官であるデブラ・ショア(Debra Shore)は、3月9日の議会証言で、インディアナ州で見つかったダイオキシン濃度を「非常に低い」「良いニュース」と評した。

 しかし、EPAは法的には「低レベル」だと主張できるが、EPA自身の科学的見地からは安全ではないことを示唆しており、ガーディアンの取材に応じたダイオキシン専門家は、ショアとホルカムの評価に疑問を投げかけた。

 規制当局は、土壌サンプル中のダイオキシン類の毒性を、土壌中のすべてのダイオキシン類と2,3,7,8 TCDDという最も毒性の強いダイオキシン化合物との「毒性等量濃度」を計算することで判定する。イースト・パレスティンの土壌は、「2,3,7,8 TCDD毒性等価」のレベルが700ppt(1兆分の1)であることを示していた。EPAが住宅地で浄化措置を開始するレベルは1,000pptとなっている。

 しかし、多くの州では浄化の判断基準はもっと低く、ミシガン州では90ppt、カリフォルニア州では50pptである。

 ジョンズ・ホプキンス大学の有機化学者で、SimpleLab研究所の科学顧問を務めるカーステン・プラッセ(Carsten Prasse)は、「この濃度からすると、実際に懸念される濃度だ。」と述べている。しかし、オハイオ州では、1,000pptの連邦浄化基準が適用されている。

 さらに、EPAの科学者は2010年、住宅用土壌に含まれるダイオキシンの発がんリスク基準値を3.7pptとし、浄化の判断の目安を72pptに引き下げるよう勧告した。

 40年にわたりダイオキシン類を研究してきた毒物学者で、Center for Health,Environment and Justiceのサイエンスディレクターであるステファン・レスター(Stephen Lester)氏は、「最新のリスク計算をすると、発がんリスクはこの数字になる。ダイオキシン類が史上最も毒性の強い化学物質のひとつと言われる所以だ。」と述べている。

 この規則は最終的に「政治的な理由で」つぶされた、とレスターは言う。このレベルのダイオキシンへの暴露はおそらく広範囲に及んでいるはずであり、この変更を行うことは、政府にとって管理が極めて困難な結果を生み出すことになると、彼は付け加えた。

 レスターは、「これらの化学物質がもたらす高いリスクに対して調整を行う代わりに、彼らはそれをやめて、ただ逃げた。その結果として、EPAは、たとえ科学的に安全でないことが示唆されていたとしても、イースト・パレスティンの濃度が安全であると合法的に主張できるようになった。」と述べている。

 EPAはガーディアン紙の具体的な質問には答えなかったが、声明の中で、EPAはその評価を二転三転させている。

 「独立した研究所によって分析され、検証された利用可能なデータは、インディアナ州に送られたイーストパレスティンの廃棄物が有害なレベルのダイオキシンを含まないことを示している。」と広報担当者は書いている。

 また、専門家は、インディアナ州の目的である有毒廃棄物の埋立地での保管には安全でも、事故現場周辺の化学物質への公衆の暴露という観点からは安全でないレベルかもしれないと警告している。

 また、サンプルの採取場所や深さも不明であり、これらはすべてイースト・パレスティンの潜在的な健康リスクに影響を及ぼすとプラッセ氏は指摘する。化学物質は、特に埃の中や庭、あるいは外で遊ぶ子供たちに危険をもたらすだろう、と彼は付け加えた。多くの家は、脱線現場から数メートルしか離れていない。

 「私の最大の関心事は、これがイースト・パレスティンの地域のレベルを反映しているのか、そして鉄道の近くに住む人々がさらされるレベルを反映しているのか、ということだ。」、とプラッセは語った。「私なら、そこに住むのは嫌だ。」と思う。

 さらに、もしインディアナ州で検査された土壌がトラックや列車で運ばれたのであれば、他の土壌と混合され、おそらく希釈されているはずで、そのため土壌が実際よりも安全に見え、地上のホットスポットを隠すことになると、バーンバウムは言う。

 その結果、さまざまな種類のダイオキシンが検出され、この化学物質が塩化ビニールの燃焼で生成されたことを示唆していると指摘した。ダイオキシン類は、特にイースト・パレスティンのような工業地帯では、環境中に低レベルで存在することが多いが、背景濃度のダイオキシン特性(プロファイル)は、通常、より少ない種類のダイオキシンに限定されるとバーンバウム氏は言う。

 1980年、ミズーリ州タイムズビーチでは、粉塵の拡散を防ぐために町の道路に化学物質を散布したところ、土壌から1,000pptを超えるダイオキシンが検出され、EPAは避難を強制した。

 ノーフォーク・サザン社のダイオキシン検査計画の見直しを始めた専門家たちは、すでにその分析のやり方に懸念を示しており、EPAはタイムズ・ビーチの再来を恐れているのかもしれないと述べている。

 「この地域の人々が安全に暮らすために本当に知る必要があるのは、ダイオキシンがどこから来たのか、風に乗ってどこへ運ばれたのか、どこに堆積したのか、そして濃度の高い地域はどこなのかということだ。」とバーンバウム氏は述べている。



 EPA科学者の推奨値:土壌中ダイオキシン類の発がんリスク基準値を
           3.7pptとし、浄化の判断の目安を72pptにする
           ことを推奨している。