ヘンリー・キッシンジャー 西側諸国がロシアとの戦い で時間切れになることを 警告しようとしている。 Timofei Bordachev: Henry Kissinger is trying to warn Westerners that they are running out of time in the fight for Russia If the acute phase of the conflict in Ukraine turns out to be lengthy, which now seems likely, then basic survival will force Russia to cutties with Western-aligned Europe RT War in Ukraine-#912 May 31 2022 翻訳・池田こみち(E-wave Tokyo共同代表) 独立系メディア E-wave Tokyo 2022年6月1日 |
ヘンリーキッシンジャーの横顔 元米国国務長官 ヘンリー・キッシンジャー氏 Former US secretary of state Henry Kissinger. © AFP / JOHANNES EISELE リード文 副題-ウクライナ紛争の急性期が長引くことが判明した場合(現在その可能性が高い)、基本的な生存のために、ロシアは西側と連携するヨーロッパとの関係を断ち切らざるを得なくなるだろう。-ヴァルダイ・クラブ ・プログラム・ディレクター ティモフェイ・ボルダチェフ 記 本文 ウクライナとその周辺での紛争の激化が、近い将来、世界的な規模で取り返しのつかない事態を招かないとも限らないが、その最も重要な結果は、ロシアとヨーロッパの西側諸国との間の根本的な分断であろう。 これによって、小さな中立地帯すら維持できなくなり、貿易・経済関係の大幅な縮小を余儀なくされることになる。ウクライナの支配権を回復することは、ロシアの外交政策の長期目標になる可能性が高いが、それは地域の安全保障の主要問題である「グレーゾーン」の存在を解決することになる。その管理は必然的に対立の対象となり、エスカレーションの観点からも危険であった。 その意味で、地域の主要国間の協力に基づくものではないにせよ、長期的には一定の安定化が期待できる。しかし、平和への道のりは十分に長く、極めて危険な状況を伴うことはすでに明らかである。 国際政治学の大家であるヘンリー・キッシンジャーは、ダボス会議の参加者に対するスピーチで、まさにそのような見通しを、彼の立場から最も望ましくないものとして指摘した。なぜなら、その場合ロシアは「ヨーロッパから完全に疎外され、他の場所に永久的な同盟を求めることができる」、冷戦時代のような規模の外交分裂が発生することになるのである。 これを防ぐには、当事者(モスクワとキーウ)間の和平交渉が最も効果的であり、その結果、ロシアの利益が考慮されることになる、というのが彼の意見である。キッシンジャーにとって、ロシアの欧州「協調」参加はある意味で無条件の価値であり、その喪失は可能性が残っている限り防がなければならない、ということである。 しかし、この政治家、学者の功績と知恵には敬意を表するが、キッシンジャーの非の打ちどころのない論理は、パワーバランスが定まり、国家間の関係がすでに軍事衝突の段階を過ぎている場合にのみ通用するのである。 その意味で、キッシンジャーは、オーストリア帝国のメッテルニヒ宰相やイギリスのキャッスルレーグ外相といった偉大な先達の足跡を確実にたどっている。この二人は、フランスでナポレオン時代が終わった後、新しいヨーロッパ秩序を作り上げ、それが微調整されながら一世紀近く国際政治に影響を及ぼした人物として歴史に名を残している。 これらの輝かしい人物と同様に、キッシンジャーもまた、最も重要なプレーヤー間のパワーバランスがすでに 「鉄と血」によって決定されつつある時代に世界の舞台に登場したのである。彼が最も大きな功績を残した時期は、1970年代前半の比較的安定した時期である。 しかし、当時の国家がそのような振る舞いができたのは、国家の知恵や後世への責任ではなく、もっと平凡な要因によるものであることを無視するわけにはいかない。第一は、第二次世界大戦の結果、秩序の「収縮」が完了し、その輪郭の特徴を獲得したことである。その後25年間(1945年から1970年まで)、朝鮮戦争、アメリカのベトナム介入、ソ連のハンガリーとチェコスロバキアへの軍事行動、中東でのソ連とアメリカの間接戦争、ヨーロッパの植民地帝国の崩壊プロセスの完了、さらに多くの小さいが劇的な出来事によって、この状況は「完成」されたのである。 したがって、現時点では、外交が世界情勢の中で主導権を握ることができると期待するのは難しい。 キッシンジャー外交、ソ連との「デタント」政策、1972年の中国との和解によって最後の磨きがかけられたその秩序の物質的基盤は、20世紀前半の2度の世界大戦の結果、ヨーロッパの大部分が戦略的に敗北したことであった。ヨーロッパの植民地帝国の崩壊と、世界情勢の中心に立とうとしたドイツの歴史的敗北は、米国を前面に押し出し、政治を真にグローバルなものにすることを可能にしたのである。 しかし、ソ連が自滅した結果、この秩序は短命に終わった。このような状況は、力の均衡を失い、一国の支配を招くという大きな悲劇であったことが、今になってわかるのである。 今、私たちは、西洋の支配からの人類の解放が中心的な重要性を持ち、そのための最も重要な要因は、中国の経済的、政治的パワーの成長であると考えることができる。中国自身、そしてインドやその他の西側以外の主要国が、歴史から託された課題に取り組むならば、今後数十年の間に、国際システムはこれまで全く特徴的でなかった様相を呈し始めるだろう。 現在、世界と地域の両方で起こっている重要な出来事のほとんどは、中国とそれに続く他のアジアの大国の重要性の増大という客観的な過程と関連している。ロシアが近年、特に数カ月間に示した決意もまた、世界の変化と関連している。モスクワが自国の利益と価値を守るために意図的に立ち上がったのは、重要ではあるが、ロシア国内の理由だけによるものではない。また、西側との対立の急性期における損失を補うことができる中国からの直接的な物質的援助への期待も前提となっていたわけでもない。 ロシアの自信の主な外部的源泉は、国際的な政治・経済環境の状態を客観的に評価することであり、その中では、西側との完全な断絶でさえ、主要な開発目標を追求する観点から、ロシアにとって致命的な危険とはならないからであった。さらに、ロシアが最近まで経験してこなかった、他のパートナーとのより積極的な和解の必要性こそが、変化する環境の中で生き残るためのはるかに信頼できる方法であることが判明するかもしれないのだ。 このことは、アメリカやヨーロッパが最も懸念していることとして理解されている。ロシアがヨーロッパの他の地域から離脱しつつある数年間に、南と東において、貿易、経済、政治、文化、人間関係において同等のシステムを構築した場合、この国が西側の領域に戻ることは技術的に難しくなり、おそらく不可能になるだろう。 これまでのところ、そのような事態の経過は、極めて多くの要因によって妨げられている。その中で、まず第一に、他のヨーロッパ諸国との密接な交流と過去300年間に蓄積された相互取引の受け身的な安定がある。また、ロシアが国際協力の場に登場して以来、唯一不変のパートナーであったのは、他のヨーロッパの国々であった。 しかし、ウクライナ紛争の急性期が長期化するようなことがあれば、ロシアは生存のためにヨーロッパとの結びつきを断ち切らざるを得なくなるだろう。これこそ、ロシアの学者や公人が求めていることであり、彼らはあらゆる方法で、西側国境で起きている対立の本質を強調しているのである。 したがって、新しい世界秩序に向けた動きが強固な基盤の上にあることを米国とその同盟国が理解していることが、ロシアとの闘争の最も重要な原因となっているのである。 地球規模での資源と権力の再分配が完全に平和的に行われることはありえないが、核抑止力を考えれば、大国間の攻撃的な戦争の非合理性は、人類の維持に多少の希望を与えてくれる。 このような闘争の中で、ロシアは他のヨーロッパ諸国と同様、その軍事力にもかかわらず、主たる戦争当事者である中国と米国に戦力的に劣る参加者である。したがって、ロシアには闘争があり、西側には勝利する機会が少なくなっている。これをヘンリー・キッシンジャーは明確に表現しようとしているのである。 この記事はValdai clubに掲載されたものである。 |