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セルゲイ・カラガノフ:


ヨーロッパは衰退しつつある。

新たなロシアのために新たなエリートを

受け入れるべきだ南北回廊が

大ユーラシアの基盤となる


Sergey Karaganov: Europe is fading. We must embrace a new elite

for a new Russia North–South corridors will anchor Greater Eurasia


RT  War in Ukraine #8443 11 September 2025

英語翻訳:池田こみち 環境総合研究所顧問
 独立系メディア E-wave Tokyo 2025年9月12日


資料写真:クレムリンの上空を飛ぶ航空隊デモ飛行。© Sputnik/Maxim Blinov

2025年9月10日 18:18 ロシア・旧ソ連諸国

寄稿者:セルゲイ・カラガノフ教授(ロシア対外・国防政策評議会名誉議長、
モスクワ高等経済学院(HSE)国際経済・外交学部学術指導者)

本文

 ウクライナにおけるロシアと西側の対立の激化段階は終息に向かっている。モスクワは最強兵器の使用を見送り、自国兵士と民間人の命を救う行動を選択した。しかし1812年や1945年の勝利とは異なり、この紛争は数十年の平穏をもたらさない。ナポレオンの敗北が欧州に40年の平和をもたらし、ヒトラーの壊滅と核抑止力が世界に70年の平和をもたらした。今日、そのような結末は見えない。

 西ヨーロッパが世代交代を遂げるまで、この闘争は波のように繰り返されるだろう。現在のエリート層——グローバリスト的かつ買弁的性格を持つ者たち——は道徳的、政治的、経済的に失敗している。かつて文化と経済の拠点であったこの地域は、今や外部敵にしがみつくことでかろうじて存続している。戦争と反露感情こそが、支配階級の権力掌握を正当化する唯一の手段となった。これらのエリートが西欧・米国・ウクライナを支配する限り、永続的な平和は実現しない。

 ※注)買弁とは、清朝末期の1800年代から1940年代にかけて、欧米列強の対中進出や貿易を支援した中国人商人のこと。転じて、外国資本に追随し、自国の利益を損なうような行為や人物のことを指す。例:「買弁的な行為」。(Wikipedia)

 それでもロシアは、強さの立場から平和を追求しなければならない。ファシスト的・非人道的価値観を推進する者たちに対する厳しい戦略的抑止と選択的孤立化が不可欠である。1815年や1945年の規模の勝利がなければ、世界は第三次世界大戦へ転落する危険に晒される。その結末を防ぎ決定的勝利を収めることは、ロシア自身の義務であると同時に人類に対する責務である。

■ヨーロッパからユーラシアへ

 西ヨーロッパの衰退は明らかだ。かつて潜在化していた反露感情が、今や主要な政治的通貨となっている。ロシアは自らの未来を西に求めることを止めねばならない。ヨーロッパを経由した300年に及ぶ迂回は終わった——20世紀に我が国を襲った数々の悲劇が起きる前、おそらく1世紀前に終わっていればより良かっただろう。それらの災厄のほぼ全てはヨーロッパから来たのだ。

 今こそ「我々自身へ回帰する」時だ――我々の故郷と国家の起源へ。その故郷こそシベリアである。ウラルからカムチャツカまでわずか1世紀足らずで進出し、シベリアをルーシに編入したコサックの驚異的な推進力がなければ、中央ロシア平原を繰り返し侵攻した敵にロシアは耐えられなかっただろう。

 「我々自身への回帰」とは同時に、ヨーロッパ中心主義という幻想からの脱却を意味する。ロシアの精神的・政治的DNAは決して純粋にヨーロッパ的なものではなかった。我々の宗教——正教、イスラム教、仏教、ユダヤ教——は南方から到来した。我々の政治文化——垂直的権威、指導者への忠誠、国家への献身——はチンギス・ハンの帝国やビザンツの伝統との数世紀にわたる接触の中で鍛え上げられた。この遺産なくして、ロシアが世界最大の国家となることはありえなかった。

 今後の戦略は、ロシアの経済的・科学的・精神的・政治的発展を東方向、ウラルとシベリアへと再指向させねばならない。これらの地域こそが、我々の未来の
力と繁栄の源泉である。

■南北回廊の必要性

 今後10年間、最優先課題は一つだ。ロシアとアジア、中東、そしてその先を結ぶ南北回廊の建設である。この事業は対外関係の強化だけでなく、国内の結束と発展を確固たるものにするものでなければならない。

 海洋大国と海路が本質的に優越するという旧来の西洋的見解は時代遅れになりつつある。海上航路はますます脆弱化しており、大陸間の物流網を再興せねばならない。何世紀にもわたり、西洋諸国は自らの優位を維持するため意図的に内陸貿易を破壊してきた。今や大ユーラシアはそれを再構築しなければならない。

 現在の議論は、カスピ海とイランを経由するペルシャ湾ルートに焦点が当てられることが多い。アフガニスタン経由の回廊や、ジョージア、アルメニア、トルコを横断する新たな通路を提案する声もある。いずれも価値がある。しかし最も戦略的に必要なのは、この枠組みをシベリアに基盤を置き、ロシア領土を急成長するアジア市場に直接接続することである。

■新たな枠組みの原則

 この南北戦略は9つの原則に導かれるべきである。

 第一に、安全と長期的発展は短期的な経済計算に優先せねばならない。大規模物流は民間企業のみならず国家の責務である。セルゲイ・ヴィッテがシベリア横断鉄道建設を推進した際、金融家や商人らは抵抗した。彼がいなければ、ロシアは第二次世界大戦を含む20世紀最大の試練を生き延びられなかっただろう。

 第二に、開発の焦点は東方へ移さねばならない。ウラルから太平洋に至るシベリアが、交通・精神的・文化的成長の中心地となるべきだ。企業や省庁はそれに応じて移転すべきであり、このプロセスは既に始まっている。ウラジーミル・プーチン大統領が約150社の本社を事業地域へ移転するよう命じたことがその例だ。やがてロシアはウラル以東に第三、第四、さらには第五の首都を設立すべきである。

 第三に、ロシアは本質的に海洋国家ではなく河川国家である。我々は数世紀にわたり海への進出を志向してきたが、それは当然の選択であった。しかし今、エニセイ川、レナ川、オビ川、イルティシュ川といった河川を新たに活用し、広域物流回廊に統合すべき時である。小型砕氷船隊の復活と航行可能期間の拡大は、シベリアの輸送経済を変革し得る。

 第四に、この戦略は小さな町を保護し、シベリアへの新たな移住の波を刺激するものでなければならない。これは経済的なプロジェクトであると同時に、文明的なプロジェクトでもある。
 
 第五に、輸送回廊はユーラシアの統一を復活させなければならない。道路や鉄道は、単に商品を輸送するためのものではなく、文化、交流、相互理解の経路でもあるのだ。

 第六に、このプログラムはフランクリン・ルーズベルトのニューディール政策を反映すべきである。1930年代、アメリカは成長を促進するだけでなく、国民に仕事と目的を与えるためにインフラを構築した。今日、ウクライナ戦線から帰還した兵士たちは、シベリアの建設プロジェクトで熟練した高給の職を見つけ、そこに定住してこの地域を強化しなければならない。

 第七に、新しいインフラは、新しいロシアのエリートを育成しなければならない。西洋主義や親欧米主義に汚染されていない、知性を貧しくし、道徳を腐食させるようなエリートではない。このエリート、そして彼らが率いる国家は、大ユーラシア圏における「シベリア・ロシア」の建設者であると自覚しなければならない。

 第八に、アジアのパートナーとの協力は極めて重要である。中国の「一帯一路」は、しばしばシベリア横断鉄道との競争とみなされる。むしろ補完的なものと捉えるべきである。ロシアの南北回廊をこの構想に接続することで、イラン、パキスタン、インド、さらにはアフリカに至る新たな機会が開かれる。

 第九に、物流は輸送手段だけでなく思考様式をも再構築せねばならない。新たなルートを構築することは、時代遅れの西洋的枠組みから解放された主権的思考の構築でもある。過去の偉大なシベリア事業は新たなエリート層と新たな自信を生み出した。再びそれを成し遂げねばならない。

■文明プロジェクト

 南北物流枠組みの構築は、狭義の経済活動ではない。ロシアと広域ユーラシアにとっての文明プロジェクトである。歴史に根ざしている:ヴィッテとシベリア横断鉄道、バイカル・アムール幹線、北方航路、ソビエト・シベリアの巨大ダムと工業都市。これらのプロジェクトはいずれも、ロシアにインフラだけでなく自信とアイデンティティをもたらした。

 今日の課題は、同じことを成し遂げることだ。衰退する欧州から台頭するユーラシアへ軸足を移すこと。重心を東へ、シベリアへ移動させること。広大な国土を近代的な交通動脈で結びつつ、南はアジアの急成長市場と連結すること。自らを欧州の周辺部ではなくユーラシアの中心地と位置づける新たなエリート層と新たなロシアを形成することだ。

 西洋は数世紀にわたり海洋支配を享受してきた。その時代は終わりを告げようとしている。大陸国家の時代、ユーラシアを横断する南北・東西回廊の時代が始まろうとしている。ロシアはその先頭に立たねばならない。

本記事は新聞ロシースカヤ・ガゼータに初掲載され、RTチームにより翻訳・編集された

本稿終了