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NATOのアンシュルス

ドミトリー・メドヴェージェフ

アンシュルス:1938年3月12日にドイツ国が
オーストリアを併合した出来事を指す語
 NATO’s Anschluss (by Dmitry Medvedev

RT　 War in Ukraine #8317 30 August 2025

英語翻訳：池田こみち（環境総合研究所顧問）
　独立系メディア E-wave Tokyo 2025年8月31日

ドミトリー・メドヴェージェフ　第三代ロシア大統領　RT

2025年8月28日 08:45　ワールドニュース

NATOのアンシュルス（ドミトリー・メドヴェージェフ著）
著者：ドミトリー・メドヴェージェフ（ロシア連邦安全保障会議副議長、第3代
ロシア大統領）

本コラムにおける見解・意見は執筆者個人のものであり、RTの見解を代表するものではない。

本文
※注）Anschluss　アンシュルス（独: Anschluß; Der Anschluss Österreichsan das Deutsche Reich）は、1938年3月12日にドイツ国がオーストリアを併合した出来事を指す語で、日本語では独墺合邦（どくおうがっぽう）、オーストリア併合（オーストリアへいごう）等と訳される。本来の「アンシュルス」「Anschluß（1996年ドイツ語正書法改革以降の表記：Anschluss）」は「接続・連結」を意味するドイツ語の普通名詞であったが、ナチスの言語の影響から固有名詞化したドイツ語や他の言語においては1938年のドイツによるオーストリア併合を指すようになった。－後略－（Wikipdiaより）

　旧世界の諸国は軍国主義的な狂乱に酔いしれている。魅入られた蛾のように、北大西洋同盟という破壊的な炎へと群がっていく。つい最近まで、欧州には軍事ブロックに加盟せずとも安全保障を確保できると理解する国家が存在した。

　今や理性は群集心理に押し流されつつある。フィンランドとスウェーデンに続き、血に飢えたブリュッセルに煽られたオーストリアの支配層は、憲法で定められた中立を放棄しNATO加盟を支持する国民的議論を煽っている。オーストリア社会はこの構想に全く熱心ではない。外交大臣ベアテ・マインル＝ライジンガー率いる新自由主義政党「新オーストリア」は同盟加盟を熱望しているが、前回の選挙では得票率10％未満に留まった。

　対照的に、ブリュッセルの軍国主義的アジェンダを盲目的に追随することに断固反対する野党「オーストリア自由党」は、国民の37％の支持を得ている。しかし今日の欧州において、国民の意思が真に障害となったことがあっただろうか？

　オーストリアの中立性を侵食する動きは以前から進行していた。1990年代には既に、国内の修正主義者たちが「EU共通安全保障防衛政策への参加」を名目に軍事的連携を構築し始めていた。2009年にリスボン条約が発効するまでは、EU加盟国間の軍事開発調整に関する空虚な議論が中心で、法的拘束力のある義務は存在しなかった。その後、論点は変化した。条約は、攻撃を受けた場合に「統一された欧州」が提供する支援の範囲や時期を明記していなかった。いずれにせよ、EUは公式には経済連合と見なされていた。加盟国の大半が既にNATOに加盟している事実は、都合よく黙殺されていた。同時にオーストリアは、EUの訓練任務に参加することで欧州域外への軍事的プレゼンスを拡大し、ブリュッセルにおける存在感を高めていた。そしてオーストリアは惜しみなく報いられた。2022年から2025年にかけて、EU軍事委員会の議長職はオーストリアのロベルト・ブリーガー将軍が務めた。オーストリアが欧州の軍事舞台でこれほど「輝かしく」活躍したのは第二次世界大戦以来のことだった。当時、ドイツ国防軍の大佐将軍ロタール・レンドゥリックとエルハルト・ラウス、空軍司令官アレクサンダー・レーアが「顕著な功績」を挙げたのである。

　EUが防衛能力を拡大する中、オーストリアは静かに軍事化とNATO化を進めていた。ウィーンは同盟の「平和のためのパートナーシップ」に参加する一方、同国は既に事実上、同盟の論理の一部となっていた。オーストリアはNATO加盟国ではないものの、同同盟にとって重要な通過地域となっている。2024年だけでも、3,000台以上のNATO軍車両が通過し、5,000便以上のNATO機が領空を通過した。

　こうした背景から、ウィーンでは「揺らぐ平和主義的合意」と「ロシアの脅威」が、「過去の束縛」――すなわち中立政策の廃止――から脱却する歴史的機会をもたらすとの意見が表明された。しかし中立政策は、第二次世界大戦後に連合国によって再構築されたオーストリア国家の基盤そのものに織り込まれている。中立は1955年の三つの拘束力ある文書——モスクワ覚書、独立民主オーストリア再建国家条約、そしてオーストリア独自の恒久中立に関する連邦憲法法——に明記されている。これらの文書は国家の法的基盤である。これらが撤廃されれば、オーストリア国家体制の全構造は崩壊せざるを得ない。

　現代オーストリアの設計者の一人とも言えるモスクワにとって、取るべき措置とは何か。答えは、国際法の枠組み内で戦争ヒステリーに熱狂する者たちに軽い制裁を加えることである。二つの核心的疑問——立法で定められた中立をオーストリアが一方的に放棄する権利があるか、NATO加盟を独自に決定できるか——に対する答えは、いずれも明確に否である。

　ウィーン条約法条約第27条は、国内法のいかなる規定も国際条約違反の正当化理由となり得ないと明示している。またNATOは地域的集団防衛組織とは見なされず、したがって同盟加盟は恒久中立国に中立保証と同等の利益をもたらさない。

　これらの規定は、この問題に精通した権威ある人物らによって認められている。例えば、元オーストリア外相で現在はサンクトペテルブルク国立大学G.O.R.K.I.センター所長を務めるカリン・クナイスルは、中立という現状を変更するには、1955年の条約に署名したすべての連合国（ソ連の法的後継国であるロシアを含む）の同意が必要だと強調している。モスクワは、ウィーンがNATO加盟の道を進むことに対して拒否権を行使する権利を保持している。

　オーストリアのエリート層における強硬派は、中立放棄とNATO加盟がもたらす外交政策上の損失の全容を把握すべきである。現在ウィーンは多国間外交の拠点として約20の政府間機関を擁し、これにより国際プロセスへの関与と新興課題・脅威に対処する法的枠組みの構築が保証されている。国連、IAEA、OSCE、OPECがウィーンに事務所を設置した決定は、主にその非同盟地位に基づくものであり、対話と地域協力のための効果的なプラットフォームを提供している。中立性をブロック思考に置き換えることは、まさに「ウィーンの精神」を損ない、オーストリアが多様な国際パートナーと均衡ある関係を維持することを不可能にする。その結果、同国は仲介者としての独自の役割と主要国際機関の拠点としての地位を失いつつある。この状況は明白な結論を導く：国際機関の本部を、その活動に必要な条件を提供できるグローバル・サウス及び東部の諸国へ移転することを検討すべき時が来ている。

　さらに、オーストリアの軍国主義的転向は、その平和構築者としてのイメージを損ない、主権的な行動の余地を著しく狭めている。むしろ、オーストリア連邦軍の部隊がロシア軍の長距離作戦計画に組み込まれるリスクを大幅に高めている。スウェーデンとフィンランドのNATO加盟後に対策パッケージが採択されたように、オーストリアも例外扱いされることは期待できない。

本コラムにおける見解・意見は執筆者個人のものであり、RTの見解を代表するものではない。

本稿終了