横浜市栄区の栄清掃工場

横浜南部地域を中心とした焼却炉等からの広域的・累積的な重金属汚染の実態把握

−原子吸光法とスプライン法による土壌中重金属濃度の解析−

青山 貞一 環境総合研究所所長
池田こみち 同副所長
鷹取 敦 同主任研究員
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1.調査の目的

 一般廃棄物、産業廃棄物を問わず廃棄物の焼却に伴い発生する有害化学物質のうち、鉛、水銀など、いわゆる重金属が地域環境や人間の健康に与えるリスクがここ数年、ダイオキシン類などとともに大きな社会問題となりつつある。重金属の多くは、発ガン性や催奇形性、アレルギー性などの健康リスクを有することはひろく知られているところであるが、廃棄物の焼却から地域環境に排出され土壌に蓄積される重金属濃度の広域的、累積的な影響、それも実証的な影響調査はそれほど多いとは言えない。

 本調査の目的は、横浜市南部及びそれに隣接する横須賀市、鎌倉市、逗子市、葉山町等、三浦地域一帯の土壌に含まれる重金属(鉛、水銀)の汚染実態について、約100地点の土壌を現地試料採取し、原子吸光法を用い濃度分析するとともに、分析地点の個別濃度をもとに、対象地域全体の面的な濃度分布を2次元スプライン法を用い解析することにより、対象地域に多数立地する廃棄物焼却炉等からの重金属汚染の実態を実証的に把握、解明することにある。


2.分析対象地域と対象地点

2−1分析の対象地域

 本調査の対象地域は、一般廃棄物焼却施設が集中立地している横浜市南部の港南区・栄区・磯子区・金沢区及びそれに隣接する横須賀市、鎌倉市、逗子市、葉山町等三浦地域一帯としている。

2−2分析の対象地点

 本調査の対象地点は、鉛については96地点、水銀は鉛の結果が高かった地点と栄区内を中心に28地点にを対象とした。土壌試料採取の市区別地点数を表2−1に示す。また、採取地点は、次頁の図2−1に示す通りである。

表2−1 市区別土壌試料採取地点数
水銀 水銀
横浜市 栄区
港南区
金沢区
磯子区
戸塚区
南 区
23
16



12




鎌倉市
葉山町
逗子市
横須賀市

11
17



横浜市内合計 53 18 三浦地区合計 43 10

 なお、本調査範囲に含まれる一般廃棄物焼却施設は次の通りである。

表2−2 地区内の一般廃棄物焼却施設の概要
地 区 工場名 住 所 築年数 年間焼却規模 炉数 平均排ガス濃度
@横浜市栄区 栄工場 上郷町1570-1 築25年 約36万t 1〜3号炉 0.8 ng-TEQ/mN
A横浜市港南区 港南工場 港南台8-4-41 築27年 約22万t 1〜3号炉 0.6
B鎌倉市 今泉クリーンセンター 今泉4-1-1 築28年 約2.3万t 1〜2号炉 12.3
C鎌倉市 名越クリーンセンター 大町5-11-16 築19年 約3.0万t 1〜2号炉 12.0
D逗子市 清掃センター 池子4-956 築20年 約2.3万t 1〜2号炉 16.5
E葉山町 クリーンセンター 堀内2293 築24年 約1.2万t 1〜4号炉 15.0

注)平均排ガス濃度は、1998年11月時点の濃度


図2−1 土壌試料採取地点図


3.測定分析の対象物質

3−1分析対象となる重金属の選定

 環境総合研究所では、2000年4月、横浜市栄区の住民団体からの依頼により同区にある横浜市の一般廃棄物の清掃施設(通称、栄工場)からの排ガス、排水の環境影響を重金属類を対象として調査した。具体的には、栄工場敷地近くを源流とするいたち川流域の土壌及び底質の含有濃度分析を行った。調査では、鉛、水銀、ヒ素、カドミの4種類を分析の対象とした。その調査から、土壌中の鉛及び水銀濃度が工場からの距離に対応して濃度が排ガスの拡散現象との関連で有為に減衰している結果を得ている。

 本調査では、鉛と水銀を環境指標として、横浜市栄工場のみでなく表2−2に示す工場を対象に、それらの広域的、累積的な環境影響の実態把握を試みている。

参考:環境総合研究所、いたち川流域の土壌・底質中の重金属測定分析結果報告書、2000年5月31日


3−2重金属の生体に対する為害性について

 一般廃棄物、産業廃棄物を問わず廃棄物の焼却に伴い発生する有害化学物質のうち、鉛、水銀など、いわゆる重金属が地域環境や人間の健康に与えるリスクがここ数年、ダイオキシン類同様社会問題となりつつある。表3−1に示すように重金属の多くは、発ガン性や催奇形性、アレルギー性などの健康リスクを有することはひろく知られているところであるが、廃棄物の焼却から地域環境に排出され土壌に蓄積される重金属濃度の広域的、累積的な影響、それも実証的な影響調査はそれほど多いとは言えない。

表3−1 周期表からみた元素の生体に対する為害性(詳細)
元素記号 原子番号 元素名 元素の生体に対する為害性(該当する項目に○を表示)
非特異的催腫瘍性 発癌性 発癌性の疑い 特殊化合物で発癌 その他刺激性 催奇形性 催奇形性の疑い アレルギー性 必須元素 放射性
As 33 ヒ素
Cd 48 カドミウム
Hg 80 水銀
Pb 82

中央環境審議会資料より作成


3−3分析対象重金属の特性・有害性等

(1)鉛(Pb)

@物質の同定
元素記号
原子番号
原子量
CAS登録番号
Pb
82
207.19
7439-92-1
A物理的・化学的特性         融点
沸点(1気圧)
比重
327.5℃
1,740℃
11.34

 鉛は青みを帯びたあるいは銀白色の柔らかい金属である。その硝酸塩、塩素酸塩、及びはるかに少ない量の塩化物を除き、その塩類は水にわずかにしか溶けない。また、鉛の安定した有機化合物をも生成する。テトラエチル鉛(四エチル鉛)、テトラメチル鉛(四メチル鉛)は、燃料添加剤として広く用いられている。両者とも揮発性で、水への溶解性は低い。トリアルキル化合物は、テトラアルキル鉛の分解産物として環境中で生成される。これらのトリアルキル化合物の揮発性はより低く、水に容易に溶ける。鉛は、通常は、その大部分が硫化物の方鉛鉱(galena)として採鉱される。その環境汚染は、鉛の精錬及び精製、鉛添加物を含む石油燃料の燃焼、またその量は少ないが、他の金属の溶解、石炭及びオイルの燃焼を通じて発生する。猟銃の弾薬に含まれる金属鉛あるいは環境中で紛失された釣り錘は、しばしば生物体内に残存する。

出典:化学物質の安全性評価−国連IPCS環境保健クライテリア抄訳− 第1集、
   編集 国立衛生試験所化学物質情報部、化学工業日報社発行、1995年12月27日発行

B有害性情報 急性毒性 :ラット、腹腔内、最小致死投与量(LDLo) 1g/kg
女性、経口、TDLo、450mg/kg/6年
IARC発癌性評価 :2B(人に対して発癌性の可能性がある))
EPA発癌性評価 :B2(動物試験では十分証拠があるが疫学調査が不十分)

出典:化学物質安全性データブック、上原陽一監修、化学物質安全情報研究会編 平成8年9月10日


(2)水銀(Hg)

@物質の同定
元素記号
原子番号
原子量
CAS登録番号
Hg
80
200.59
7439-97-6
A物理的・化学的特性         融点
沸点(1気圧)
比重
-38.87℃
356.72℃
13.534

水銀は、常温常圧において流動体の金属である。二種類のイオン状態で塩類を生成する。2価の第二水銀塩類は、1価水銀塩類よりもはるかに一般的である。また、水銀は有機金属化合物類も生成し、その一部は、工業的な使用だけでなく、農業にも用いられている。有機金属化合物の一部は、生物により容易に分解されるものもあるが、多くは容易には分解されず安定している。水銀元素は水にはごくわずか溶け、蒸気を発生する。

 工業生産から発生する大気汚染の程度は低いが、鉱山の選鉱くずによる水の汚染は重要である。また、化石燃料の燃焼も水銀の汚染源の一つである。塩素アルカリ工業及び旧来の西方による木材パルプ工業も大量の水銀を放出した。水銀の使用量は減少しつつあるが、高濃度の水銀は工業的利用に関連した堆積物中に現在でも存在している。一部の水銀化合物は農業において主として殺菌剤として用いられてきた。

 一般に排出された無機水銀蒸気は、溶解性の構造に変換され、雨水により土壌及び水中に蓄積される。大気中における水銀蒸気の残留期間は3年までで、一方、溶解性の構造の水銀の残留期間はわずか数週間である。

出典  化学物質の安全性評価−国連IPCS環境保健クライテリア抄訳− 第2集、
    編集 国立衛生試験所化学物質情報部、化学工業日報社発行、1996年9月30日発行

B有害性情報 急性毒性 :ウサギ、経気道、最小致死濃度(LCLo) 29mg/m3/30h
女性、経気道、TCLo、150μg/m3/46d
男性、経気道、TCLo、44300μg/m3/8h
EPA発癌性評価 :D(人に対する発癌性の分類ができない)

出典  化学物質安全性データブック、上原陽一監修、化学物質安全情報研究会編 平成8年9月10日


4.現地試料採取の方法

4−1採取指針

 100地点に及ぶ土壌の現地試料採取は、環境総合研究所が作成した指針にそい市民参加で実施した。指針では、できるだけ踏み固めや踏み荒らしのない場所を選び、土壌の表土(5cm以内)を約50g採取することとしている。


4−2現地試料採取年月日

 2000年8月27日及び9月3日


4−3現地試料採取採取者

 西岡政子(横浜市栄区在住)、松本真知子(逗子市在住)他


5.測定分析の方法

5−1分析方法の選択

 本調査では、土壌中の重金属濃度についていわゆる溶出濃度分析ではなく、全含有濃度分析を適用した。

 廃棄物焼却施設の排ガスとして移流、拡散した重金属類は、土壌に降り注ぎ、沈降する。沈降した重金属は土壌粒子に付着し再浮遊することにより最終的に人間の体内に摂取される可能性が高い。また炭酸同化作用により農作物の組織内に蓄積される重金属類は食物として最終的に人間の体内に摂取される。この場合、農作物中の重金属濃度は、ガス状、粒子状を問わず大気中の重金属の濃度と相関を持つとことが想定されるが、同時に大気濃度と土壌濃度は高い相関を有すると想定される。これらの理由から本調査では、溶出分析ではなく、含有濃度分析を行うこととした。これについては図5−1を参照のこと。

 一方、土壌中の重金属は降雨などにより水路、河川に流れ込み、飲料水などを通じて体内に摂取される可能性がある。そのため、土壌中の重金属の含有濃度だけでなく、いわゆる溶出濃度を分析することも重要である。しかし、わが国の環境庁告示方式の溶出分析法は、溶出溶液が欧米諸国で用いられている酸性溶液ではなく、真水に近い中性溶液となっていることなどから、国際標準の分析法に比べ、著しく分析濃度が低くなる可能性が高いことが指摘されていることもある。土壌中の重金属汚染については、分析結果を評価するための指針、基準値がわが国に存在していないと言う課題があるため、本調査においては、巻末に掲げたように欧米諸外国で用いられている土壌中の重金属の含有濃度に関する指針、基準を用いることとした。

(注)重金属汚染の測定分析方法に係わる課題

 日本の重金属の測定分析は、いわゆる溶出分析に対してしか基準がない。また日本の溶出分析も、環境庁告示では「試料液をpH5.6から6.3に調整し」とあるように、アメリカ(pH4)、オランダ(pH4及びpH7)、ドイツ(pH4)、スイス(pH4.0〜4.5)のように、酸性液による調整でないため、溶出率がきわめて低いことが専門家により指摘されている。
 要約すれば、アメリカ、オランダ、ドイツ、スイスの重金属の溶出分析に比べ、日本の環境庁告示の溶出分析では重金属類が原理的にほとんど検出されず、実際、多くの場合、NDとなっている。この点についてゴミ弁護士連合会の梶山正三氏(弁護士、理学博士)は以下のように述べている。

 「日本の溶出分析は非常に問題があるということを私はどこでも言っている。日本の溶出分析は、要するに、土壌なり底質から重金属がどのように溶け出してくるのか、試料を乾かし、細かくし、それをpH(ペーハー)5.8〜6.3溶液のなかにいれ、それを6時間振るわけです。通常は酸性でやらなくてはいけません。というのは、重金属はアルカリ性では溶け出ないからです。だから酸性で溶け出してくるかどうかが重要なのですが、環境庁告示第13号、第46号ではpHが酸性でないため原理的に溶出しないのです。環境庁告示第13号は土壌環境基準で、第46号が廃棄物をそのまま埋めていいかどうか、有害性があるかどうかというのをみるときに使います。どちらも液pH(ペーハー)は5.8〜6.3です。それに対してTCLPはアメリカの方法、Total Availabilityはオランダの方法です。オランダではpH7と4で行い両方合わせ何も出なくなるまで分析するという、しつこい方法となっています。またスイスは、だいたい4で行っています。日本はだいたい6です。pHが2違うとだいたい100倍違います。それで、この上のグラフですが、だいたいpHペーハーが2違うと溶け出してくる濃度が100倍違います。そういうデータなんです。」

 一方、先進各国での重金属の分析は含有分析が主流となっている。その理由は、溶出の方法以外に、土壌、底質などサンプルの種類、性質により溶出濃度が著しく異なることがある。 市街地土壌汚染分野の先進国では、土壌について含有濃度分析の結果をもとに環境リスクや健康リスクを評価するガイドラインが作成され利用されている。たとえばドイツでは連邦土壌保護法において含有濃度を対象とした重金属類の評価ガイドライン、予防ガイドラインが設定されている。


図5−1 重金属が発生源から環境を経由して人間に摂取されるまでの経路

上記はダイオキシン類を想定し作成したものであるので、重金属類については、一部異なる部分もある。

出典:環境庁検討会資料をもとに環境総合研究所が作成


5−2 重金属類の測定分析方法

 重金属類の含有濃度を分析する具体的手法として高い精度が期待できる以下の原子吸光法を用いた。

(1)共通手法    原子吸光法:Atomic Absorption Method 
(2)米国環境保護庁 EPA Method 7000A シリーズ


5−3 個別手法

(1) 鉛(Lead) GRAPHITE FURNACE(原子吸光法)
米国環境保護庁(EPA) Method 7420A, Method 7421A
(2) 水銀(Mercury) Cold Vapor AA(冷却蒸気原子吸光法)
米国環境保護庁(EPA) Method 7470A, Method 7471A


5−4測定分析機関

 測定分析実務は、以下の第三者機関に委託し実施した。
  Maxxam Analytics Inc.(カナダ・オンタリオ州)


6.解析方法の概要

6−1解析の目的

 本自主研究では、鉛及び水銀の測定地点データをもとに、対象地域全域の面的な濃度分布を推定するために補間法を用いた。


6−2解析の方法

 少数の点データから対象地域全域の面的な濃度分布を推定するいわゆる補間法には、過去さまざまな手法が研究、開発され提案されている。本自主研究では、2次元スプライン法(SP)を地域濃度分布推定のための補間法として採用した。2次元スプライン補間法の具体的なコンピュータアルゴリズムへの展開は、大西行雄(現在、環境総合研究所)が京都大学理学研究科在籍時に開発したものを用いた。

 なお、2次元スプライン補間法については、大西行雄による「スプライン法をもちいた2次元補間について」(J.Oceanogr. Soc. Jpn. 31, 259-264)を参照のこと。


7.測定分析結果

7−1精度管理データ

 以下に本分析における精度管理に関連する諸データを示す(実績データ)。

(1)鉛(Pb)

表7−1 本分析における精度管理関連データ
1〜55 60〜100
定量下限値 1 μg/g 1 μg/g
METHOD BLANK <1 μg/g <1 μg/g
SPIKED BLANK 回収率 99 % 98 %
MATRIX BLANK 回収率 98 % 96 %
QC Standard 回収率 107 % 109 %


(2)水銀(Hg)

表7−2  本分析における精度管理関連データ
4〜80 81〜100
定量下限値 0.05 μg/g
METHOD BLANK <0.05 μg/g
SPIKED BLANK 回収率 88 % 101 %
MATRIX BLANK 回収率 91 % 94 %
QC Standard 回収率 100 %


7−2鉛含有濃度分析結果(96地点)

(1)分析結果

 96地点の土壌中の鉛の分析結果は、最大309.0μg/g、最小4.0μg/g、平均23.7μg/gとなった。濃度レベル別に地点数をみると、図7−1に示すように、10〜20μg/gが40地点を超え最も多く、次いで20〜50μg/gが22地点となった。

図7−1 土壌中鉛含有濃度分析結果(濃度レベル別地点数)

 各地点別の含有濃度は、表7−3及び図7−2に示した。


表7−3 鉛の分析結果
地点番号・地域名 鉛含有量
[μg/g]
地点番号・地域名 鉛含有量
[μg/g]
1.港南台南公園(港南台6丁目) 11.9 51.鎌倉第二小学校(二階堂) 53.2
2.港南台榎戸公園(港南台6丁目) 6 52.今泉清掃工場(今泉5丁目) 168
3.洋光台駅前公園 11.5 53.北鎌倉台脇公園(今泉4丁目バス停) 10.6
4.大谷団地(杉田7丁目) 46.6 54.夏梅宅(日限山1丁目) 24.1
5.久良岐公園(上大岡東3丁目) 5 55.古屋宅(日野南2丁目) 16.8
6.明ヶ沢公園(笹下6丁目) 10 60.桂台南2丁目 309
7.大久保2丁目 42 61.上郷市民の森(尾月自治会館付近) 17.4
8.南ヶ丘中学校(別所2丁目) 14 62.いたち川源流(源氏ヶ丘バス停) 11.4
9.上永谷中学校(上永谷4丁目) 21.1 63.庄戸第二公園(庄戸2丁目) 11.4
10.丸山台中学校(丸山台4丁目) 10 64.光明寺(上之町) 21.7
11.日限山中学校(日限山4丁目) 4 65.上郷高校(上郷町) 13
12.桜井宅(日野南6丁目) 42.8 66.長慶寺(中野町) 14.2
13.日野中央公園(日野中央2丁目) 19.2 67.本郷中学校(桂町) 17.4
14.洋光台第三小学校 9 68.鍛冶ヶ谷カトリック教会(柏陽) 23.1
15.磯子南平台住宅内(笹下3丁目) 21.9 69.本郷台中央公園(本郷台1丁目) 14.7
16.吉原小学校(日野2丁目) 30.2 70.小山台小学校(小山台2丁目) 17.8
17.四ツ切り公園(港南台2丁目) 13.6 71.豊田小学校(長沼町) 24.5
18.西公園(港南台4丁目) 22 72.飯島保育園(飯島町) 14.9
19.虻名公園(上郷町プリンスハイツ) 10 73.いたち川公園(笠間町) 26.4
20.逗子清掃センター(池子4丁目) 10 74.長尾台公園(長尾台町) 30.3
21.逗子高校(池子4丁目) 9 75.鹿島神社(笠間町) 34.4
22.逗子中学校(池子4丁目) 15.5 76.笠間小学校(笠間町) 6
23.池子小学校隣の公園 15.7 77.公田小学校(公田町) 12.7
24.アザリエ団地南公園(池子2丁目) 8 78.桂台第四公園(桂台南) 11.3
25.アーデンヒル(沼間3丁目) 8 79.小野宅(中野台稲荷公園付近) 13.2
26.第一運動公園自由運動広場(池子1丁目) 20.1 80.西岡宅(北桂台バス停付近) 13.3
27.池子米軍住宅(入り口付近) 23.2 81.菱川宅(東上郷町22) 18.9
28.久木小・中学校共同グラウンド(久木2丁目) 12.9 82.今泉小学校(今泉2丁目) 8
29.久木ハイランドロータリー公園(久木8丁目) 16.6 83.十二所神社(十二所稲荷小路) 9
30.つつじヶ丘公園(久木8丁目) 5 84.明王院(十二所稲荷小路) 16
31.浄明寺公園(浄明寺6丁目) 6 85.鎌倉霊園(北西端) 11.7
32.小坪南ヶ丘西公園(小坪7丁目) 17.8 86.朝比奈小学校(東朝比奈2丁目) 12
33.通称ハゲ山(小坪2丁目) 9 87.六浦小学校(六浦3丁目) 10
34.小坪漁協付近(小坪5丁目) 15.7 88.西柴小学校(西柴4丁目) 23.5
35.久木こども広場(久木4丁目) 16.9 89.二村宅(並木2丁目) 21.3
36.逗子小学校(逗子4丁目) 4 90.長浜公園(長浜2丁目) 31.5
37.神明社(桜山6丁目雑木林) 36.3 91.小田小学校(富岡西1丁目) 13.4
38.鷹取小学校(鷹取町4丁目) 11 92.釜利谷東小学校(釜利谷東2丁目) 24.9
39.追浜小学校(鷹取町6丁目) 11.4 93.西富岡小学校(富岡西5丁目) 34.6
40.イートピア団地内ジャングル公園(長柄1601) 8 94.西金沢中学校(釜利谷西4丁目) 74.4
41.富士見児童公園(長柄705) 17.1 95.追浜行政センター(追浜本町1丁目) 14.9
42.南郷上ノ山公園(長柄1888) 20.4 96.貝山緑地(浦郷町下水処理場付近) 26.4
43.葉山中学校(堀内2247) 41.8 97.長願寺(長浦町3丁目) 36
44.葉山町清掃センター(堀内2290) 13.6 98.横須賀市役所(諏訪小学校) 71
45.東伏見台団地西北公園内(堀内1950) 11.5 99.湘南国際村(クラブハウス付近) 10.5
46.東伏見団地東公園内(堀内2100) 14.2 100.丸茂宅(戸塚町3639) 83.7
47.パークド葉山四季内中央公園(一色116) 10.6 平均 23.7
48.一色小学校(一色1060) 6 最小 4
49.花の木公園(堀内1060) 10 最大 309
50.京浜団地内つつじヶ丘児童公園(堀内1735) 20.3

図7−2 土壌中鉛含有量分析結果(濃度順:その1)


7−3含有分析濃度結果の評価

(1)総 合

 我が国には、土壌中の鉛の含有濃度についての環境基準は存在していないが、この分野の法制度整備が進んでいるドイツ(詳細は巻末参照)では、土地利用や地質に応じてきめ細かい規制値やガイドライン値が設定されている。今回の鉛の分析値をドイツ連邦土壌保護法に規定された予防値(この値を超過している場合、地質上、あるいは広域的に生活圏から生じる有害物質を勘案して、通常、有害な土壌変更の恐れがあるとみとめられる基準)に照らしてみると、その範囲は40〜100μg/gとなっており、調査地点のうち10地点が40μg/gを超え、公園や住宅地としては高い濃度が検出されていることに着目する必要がある。

 諸外国の基準値の中でもカナダの暫定評価基準(1991)では土壌中の鉛の評価基準値が2.5μg/gと厳しい値となっており、今回の調査対象の全地点がこの評価値を上回っている。その他、オランダの土壌汚染ガイドラインであるダッチリストでは、さらなるリスク評価が必要な値として50μg/g、スウェーデンでは土壌汚染に関する一般ガイドライン値として住宅、児童公園、農業地などの汚染に敏感な土地について80μg/g、ダッチリストを踏まえて設定されたイギリスの指針値では、遊び場、庭園、運動場が200μg/g(これを超える場合には人体へのハザードの可能性が考えられるとしている。)となっており、これらの各国の指針値やガイドライン値との比較も考慮する必要がある。なお、アメリカではEPAの基準値として子供の遊び場で400μg/gが設定されている。


(2)地点別

@第1位濃度地点[60.桂台南2丁目](309μg/g)

 今回最も濃度が高かった [60.桂台南2丁目]は、金属製品解体などを行う廃棄物業者の敷地内で採取したサンプルということで、同事業所の操業に伴う影響が大きいと考えられる。日常的に回収した金属廃棄物の分解・解体とともに、解体した金属類を敷地内でドラム缶を用いて焼却しており、周辺住宅地では悪臭や煙などの影響を受けているという。こうした事業所が住宅地内に立地していることは極めて問題であり、詳細な調査とともに、事業者への適切な行政指導など早急な対策が必要である。

A第2位濃度地点[52. 今泉清掃工場](168μg/g)

 2000年5月に横浜市の栄工場を起点として、いたち川流域(北北東方向約2.3km)に土壌を採取し鉛を分析した際には、栄工場の足下が最も濃度が高く、距離が遠くなるに従って濃度が低くなるという結果を得ていることから、今泉工場も栄工場同様に丘陵地に立地していることもあり、ダウンドラフトによって足下に高濃度が出ている可能性もある。

B第3位濃度地点[100.横浜市戸塚区丸茂氏宅](83.7μg/g)

 丸茂氏宅は、戸塚駅からおよそ700m程度南西に位置し、近くに横浜新道(自動車専用道路)が通っている。周辺には主だった焼却施設などの固定発生源は存在していないが、戸塚周辺では野焼きなども目撃されており、今後、発生源についての調査を行う必要がある。以下に、沿道の鉛の濃度について文献より引用する。

 『一般に、鉛濃度は、交通量の多い道路に近い土壌及び生物中において最高値を示している。こうした地域で測定された鉛は無機鉛で、そのほとんどすべては石油に添加されたアルキル鉛より派生している。
 土壌中及び植生中の鉛は、道路からの距離によって指数的に減少する。鉛は、ハイウェイ近くの河川の堆積物からも発見されている。
 植物中及び動物中の鉛汚染のレベルは、道路に近い地域において増加している。これらのレベルは、交通量と道路との距離に強い関連性を有している。
 鉛蓄積の大部分は、道路の500メートル以内で、土壌の上部数センチ内で検出されている。土壌中及び生物相内の鉛濃度は、道路からの距離がこれ以上の場合には、交通により影響されないと推測される。』
−中略−
 『テトラエチル鉛やテトラメチル鉛はガソリンなどの燃料のオクタン価を上げるために添加剤として広く使われていた。これらの有機鉛は揮発性があり、ガソリンなどの燃料を燃焼することで大気中に放散される。大気中に放散された鉛は、土壌や河川の底質に強く吸着され、土壌中の鉛は交通量の多い道路に近い土壌の表土(上部数センチ以内)や生物中において高い濃度を有している。例えば、土壌中の鉛の正常な濃度の範囲は15〜30mg/kg(μg/g)を示し、道端の土壌では5,000mg/kgに達することああり、工業地帯の土壌は、30,000mg/kg(μg/g)を超えることがある。この鉛は無機鉛でその全ては、ガソリンなどの燃料に添加されたアルキル鉛から派生したものである。』
 (出典:化学物質の安全性評価−国連IPCS環境保健クライテリア抄訳− 第1集、
     編集 国立衛生試験所化学物質情報部、化学工業日報社発行、1995年12月27日発行)

C第4位濃度地点[94.西金沢中学校(釜利谷西4丁目)](74.4μg/g)

 西金沢中学校の西側には主要幹線道路の横浜横須賀道路が通っている。また、南西方向2kmほどの所には栄工場が、南南西1kmほどのところには南部斎場が、北西方向2.5kmには港南工場があるが主原因がどこにあるかはにわかに判断することはできない。周辺には丘陵地も多いことから、煙源との距離だけでなく、地形も考慮した分析を行う必要がある。

D第5位濃度地点[98.横須賀市役所(諏訪小学校)](71.0μg/g)

 諏訪小学校は横須賀市役所の裏手に位置し、横須賀市の官庁街であるとともに、常葉中学校や朝鮮初級学校など学校が多い文教地区の中にある。横須賀新港に突き出した埋立地である新港町の埠頭一帯には工業地域が広がっている。移動発生源としては、よこすか海岸通りと国道16号線に挟まれている。横須賀市の一般廃棄物焼却施設である南処理工場(神明町2187)からはかなり離れている。

E第6位濃度地点[51.鎌倉第二小学校(二階堂)](53.2μg/g)

 鎌倉女子大学に隣接し、南側に金沢鎌倉線(県道204号線)が通っている。固定発生源としては、北方向2.5kmの地点に今泉クリーンセンター、北東方向2.5kmの地点に栄工場、南方向2kmの地点に名越クリーンセンターが立地しており、この地域の主風向の風下、風上に鎌倉市の一般廃棄物焼却施設が立地していることとなる。地形的には複雑で、各焼却施設と学校との間には丘陵地が広がっているが、3つの焼却施設からほぼ等距離にあるこの付近は累積的な影響を受けている可能性もある。

F第7位濃度地点[4.大谷団地(杉田7丁目)](46.6μg/g)

 磯子区杉田7丁目に広がる住宅地の一角に位置する団地であり、周辺に発生源はない。西方向に3km以上離れた地点に港南工場がある。東側2kmほどで金沢区の臨海工業地帯が広がっている。隣接する[91.小田小学校]は13.4μg/gと低く、原因は特定できない。

G第8位濃度地点[12.港南区桜井氏宅(日野南6丁目)](42.8μg/g)

 日野南6丁目の桜井氏宅は、栄区との区境に近く東側400mには鎌倉街道が通っている。固定発生源は近傍にはなく、東南方向2.5kmに港南工場、南南東4.5kmに栄工場、南方向3.5kmに今泉クリーンセンターが立地しているが、北側には近くに主要な発生源は立地していない。主因は定かではない。

H第9位濃度地点[7.大久保2丁目](42.0μg/g)

 港南区大久保2丁目は、南区との区境に位置し、大久保3丁目から2丁目にかけて、旭化成、日本石油化学、花王、などの化学工場が立地している。港南工場からは5km以上北に離れており、直接的な影響は考えにくい。

I第10位濃度地点[43.葉山中学校(堀内2247)](41.8μg/g)

 葉山中学校は、葉山町の一般廃棄物焼却施設であるクリーンセンターの北北西450mのところに位置している。周辺は里山が連なっていて地形が複雑であるため、焼却炉の排ガスの影響が近傍に出ることも想定できる。44,45,46のクリーンセンターの西側の地点及び南側の47の地点では、10.6〜14.2μg/gの範囲となっており、北北西の中学校が特に高い点が気がかりである。


(3)濃度分布

@濃度分布図1:[60.桂台南2丁目]の309μg/gを除く濃度分布

 96地点の測定分析データから特異地点である[60.桂台南2丁目]のデータを除き、一方、2000年5月に実施した栄工場の北側のいたち川流域で実施した土壌中の鉛の濃度を加えて、95地点+7地点(土壌のみ)のデータによるスプライン補間分析を行ったものを図7−5に示した。鎌倉市の今泉クリーンセンター周辺が南方向に濃度勾配が見られ影響を受けていることが見て取れる。

 一方、戸塚区の丸茂氏宅を中心に、80μg/gからの等濃度メッシュが表示されているが、戸塚区内の調査地点が1ヶ所と少ないため、必ずしも地域の濃度分布を反映したものとはなっていない点に留意する必要がある。
 金沢区の西金沢中学校周辺と磯子区杉田7丁目大谷団地を結ぶ地域には50〜70μg/gの濃度分布が出現しているが、調査対象地域の中心部に位置する尾根沿いの高台には高煙突の大規模焼却施設が複数立地していることからそれらの累積的な影響も考えられる。

表7−4 <参考>いたち川流域での土壌調査結果
採取日:2000年5月11日
採取地点 試料種類 ヒ素
(As)
μg/g
カドミウム
(Cd)
μg/g

(Pb)
μg/g
水銀
(Hg)
μg/g
A 桂山公園 土壌 3 0.2 23.2 1.53
B 犬山小学校 土壌 2 0.2 13.4 <0.05
C 西ケ谷団地 土壌 2 0.1 11.0 <0.05
D 長倉町 土壌 2 0.3 24.6 0.12
E 栄工場敷地近辺 土壌 2 0.2 39.3 0.06
F いたち川源流 底質 17.6 <0.1 5 0.08
G 庄戸中学校 土壌 2 0.2 22.2 0.13
H 東上郷第2公園 土壌 4 0.2 13.4 0.06
I 警察学校橋 底質 <1 <0.1 9 <0.05
J いたち川橋 底質 1 0.1 13.9 <0.05

注)ABCは図2−1中の地点記号を示す。

図7−3 いたち川流域での鉛濃度

図7−4 いたち川流域での水銀濃度

 出典: 株式会社 環境総合研究所、いたいち川流域の土壌・底質中の重金属測定分析結果報告書
     2000年5月31日

 [横須賀市の諏訪中学校]を中心とした高濃度コンターについては、横須賀市南部地域のデータがないために、原因の解明が難しいが、横須賀港一帯の工業地帯や港湾に集積する大規模船舶からの影響もないとは言えない。

A濃度分布図2:上記からさらに[52.今泉清掃工場](168.0μg/g)を除いた濃度分布

 濃度分布図1から第2位の今泉清掃工場のデータを除き、戸塚の83.7μg/gを最高値とするスプライン補間分析をおこなったものを図7−6に示した。これは、1地点だけが168μg/gと高濃度のため、他の地点の濃度分布が見えにくくなるためである。
 これを見ると、周辺のデータが少ない戸塚区の丸茂氏宅と横須賀市の諏訪小学校を除けば、横浜市の栄工場を挟んで南西方向の[鎌倉市の第二小学校周辺]と、北東方向の[金沢区西金沢中学校(釜利谷西4丁目)]にかけての地域が高濃度地域として浮かび上がる。同地域には、高台に港南工場、今泉クリーンセンターが集中していることも一因と考えられる。高台よりは低い地域で高濃度が見られる点に注目する必要がある。

B濃度分布図3:50μg/g以下の濃度分布

 さらに、周辺にデータのない[戸塚町の丸茂氏宅]と[横須賀市の諏訪小学校]の2地点を除去し、96地点の内の90地点が含まれる50μg/g以下の地点のみに絞ったスプライン補間分析を行った結果を図7−7に示した。これを見ると、データ数の多い栄工場周辺では、南風の風下地域で濃度勾配が見られる。
 金沢区の海沿いから磯子区の杉田7丁目大谷団地にかけての地域は、金沢区の臨海工業地域からの影響を東からの海風によって受けていることが想定できる。
 栄区の西端の[74.長尾台公園(長尾台町)]、[75.鹿島神社(笠間町)]、[76.笠間小学校(笠間町)]の一帯は三井化学の工場を囲む位置にあり、26.4から34.4μg/gの濃度となっている。3地点は大船駅から500mから700mの範囲にあり、中央には横須賀線、根岸線、東海道本線の鉄道が柏尾川と並行して走っている。三井化学の影響によるものかどうかは不明である。
 また、逗子市と葉山町についてみると、横浜市金沢区と逗子市の市境の丘陵に立地している逗子市清掃センターの影響が池子弾薬庫と沼間の丘陵部に挟まれた市街地にそって濃度が出ており、葉山町では、葉山町役場の奥の丘陵中腹に位置するクリーンセンターの影響が西からの海風の影響を受けて周辺に広がっている様子が見える。

図7−5 2次元スプライン補間法を用いた濃度分布図1:桂台南2丁目、横須賀市役所、丸茂宅地点を除いた濃度分布

図7−6 2次元スプライン補間法を用いた濃度分布図2:さらに今泉清掃工場を除いた濃度分布

図7−7 2次元スプライン補間法を用いた濃度分布図3:50μg/g以下の濃度分布


7−4水銀含有量分析結果(28地点)

(1)分析結果

 鉛96地点の分析結果のうち、30μg/gを超える17地点から15地点、それ以下の地点から13地点を選び全28地点について水銀の全含有量分析を行った。その結果は表7−5、及び図7−8に示す。
 28地点のうちの最高値は0.36μg/g、最低値が定量下限値の0.05μg/g未満となり、定量下限値未満となった地点について仮に定量下限値の1/2を想定した場合、平均値は0.088μg/gとなった。図7−9に示すように、28地点のうち、定量下限値以下となった地点は全体の39%にあたる11地点であり、相対的にはそれほど高濃度となった地点はなかった。

表7−5 土壌中の水銀含有量結果(含む同地域の鉛含有量)
地点番号・地域名 水銀含有量
[μg/g]
定量下限値
[μg/g]
鉛含有量
[μg/g]
4.大谷団地(杉田7丁目) <0.05 0.05 46.6
7.大久保2丁目 0.09 0.05 42
12.桜井宅(日野南6丁目) 0.09 0.05 42.8
27.池子米軍住宅(入り口付近) <0.05 0.05 23.2
32.小坪南ヶ丘西公園(小坪7丁目) <0.05 0.05 17.8
37.神明社(桜山6丁目雑木林) <0.05 0.05 36.3
42.南郷上ノ山公園(長柄1888) <0.05 0.05 20.4
43.葉山中学校(堀内2247) <0.05 0.05 41.8
51.鎌倉第二小学校(二階堂) 0.21 0.05 53.2
52.今泉清掃工場(今泉5丁目) 0.29 0.05 168
60.桂台南2丁目 0.08 0.05 309
61.上郷市民の森(尾月自治会館付近) 0.13 0.05 17.4
62.いたち川源流(源氏ヶ丘バス停) <0.05 0.05 11.4
66.長慶寺(中野町) <0.05 0.05 14.2
73.いたち川公園(笠間町) 0.36 0.05 26.4
74.長尾台公園(長尾台町) 0.07 0.05 30.3
75.鹿島神社(笠間町) 0.18 0.05 34.4
76.笠間小学校(笠間町) <0.05 0.05 6
77.公田小学校(公田町) <0.05 0.05 12.7
78.桂台第四公園(桂台南) 0.07 0.05 11.3
80.西岡宅(北桂台バス停付近) 0.08 0.05 13.3
81.菱川宅(東上郷町22) 0.1 0.05 18.9
84.明王院(十二所稲荷小路) 0.18 0.05 16
93.西富岡小学校(富岡西5丁目) <0.05 0.05 34.6
94.西金沢中学校(釜利谷西4丁目) 0.05 0.05 74.4
97.長願寺(長浦町3丁目) 0.07 0.05 36
98.横須賀市役所(諏訪小学校) 0.07 0.05 71
100.丸茂宅(戸塚町3639) 0.07 0.05 83.7
平均 0.088※
最小 <0.05
最大 0.36
   ※:定量下限値以下は定量下限値÷2として計算した

 上記の結果より、水銀濃度と鉛濃度の間には明確な相関関係は認められないが、調査地点のなかで、鉛・水銀ともに高い濃度となったのは、今泉清掃工場及びその風下に位置する鎌倉第二小学校である。

図7−8 土壌中水銀含有量分析結果(濃度順)

図7−9 土壌中水銀含有量分析結果(濃度レベル別地点数)

図7−10 いたち川流域の土壌及び底質に含まれる水銀濃度(再掲)

注:いたち川源流、警察学校、いたち川橋は、底質中の濃度

7−5濃度分析結果の評価

(1)総 合

 鉛の場合と同様に今回の分析結果をドイツ連邦土壌保護法に規定された予防値(この値を超過している場合、地質上、あるいは広域的に生活圏から生じる有害物質を勘案して、通常、有害な土壌変更の恐れがあるとみとめられる基準)に照らしてみると、その範囲は0.1〜1μg/gとなっており、28調査地点のうち7地点で砂地の予防値である0.1μg/gを超えたが0.5μg/gを上回る地点はなかった。0.1μg/gを上回った[73.いたち川公園](0.36μg/g)、[51.鎌倉第二小学校](0.21μg/g)、[61.上郷市民の森](0.13μg/g)は、いずれもこども達や市民が遊ぶ場であることから、早急に原因を究明し対策を講じる必要があるだろう。なお、[52.今泉清掃工場](0.29μg/g)は清掃工場の足下でもあり、鉛の濃度も高く明かな汚染源であると言える。

 なお、カナダの暫定評価値では土壌については0.1μg/gが評価値となっている。その他、オランダの土壌汚染ガイドラインであるダッチリストでは0.5μg/g、イギリスでは遊び場が0.5〜1.0μg/g、運動場が0.5μg/gとなっており、これと比較すると今回の調査地点では予防的措置(対策)を必要とするほどの高い水銀濃度は検出されなかった。


(2)濃度分布

@濃度分布図1:2000年5月に実施したいたち川流域の土壌データも含めた全35データの濃度分布(図7−12参照)

 35地点のデータの中では、[A.桂山公園]の1.53μg/gが最も高く、鎌倉市の今泉クリーンセンターから北方向に1km程度の位置であることから夏場の卓越風向である南南西の風が主因とも考えられる。
その他の地点としては、今回の調査で最も高濃度となった栄区の西側に位置する[73.いたち川公園(笠原町)]周辺が0.35μg/g前後の濃度分布を示している。
 また、金沢区の臨海部周辺にも0.1〜0.15程度の濃度分布が出現している。

A濃度分布図2:濃度分布図1より飛び抜けて高い[A.桂山公園]を除いた濃度分布(図7−13参照)

 この図では、今泉クリーンセンターから南側に濃度勾配がみられ、クリーンセンターの立地している高台から南側斜面、低地にかけて水銀が拡散していることが伺える。また、栄区の北西に位置する笠間町周辺は、[いたち川公園]を中心に北方向に広がる等濃度線が描かれている。
 栄区の南東側に地区は、北に港南工場、南に栄工場が立地しており、港南工場の南西に位置する[61.上郷市民の森(尾月)]の0.13μg/gからいたち川に沿って濃度がでており、両方の工場の間の窪地にある栄区南東部が二つの工場からの影響を受けていることが伺える。

 以上の結果から、横浜市栄区を中心とする南部地域一帯は地形のが複雑で起伏が多く栄工場を中心に3.5km〜1.5kmの範囲に合計5つもの一般廃棄物焼却施設が集中していることによる環境中の重金属類の濃度は相対的に高くなることが想定される。特に横浜市内の一般廃棄物焼却炉の場合には、プラスチックを含む全量焼却時間連続焼却タイプであり、重金属類が高温燃焼によって排ガスと共に大気中に拡散することが課題となる。各種有害重金属類の微量元素による複合的な健康影響(化学物質過敏症など)も多発する傾向にあることから、廃棄物の焼却処理のあり方について抜本的な対策が必要であろう。

特に、港南工場・栄工場・今泉クリーンセンターに囲まれた栄区の東南部の住宅地一帯は、いたち川流域の低地に密集していることもあり、周辺を囲む丘陵によって大気汚染物質の拡散が阻害されるため、影響を受けやすい地域と言える。
  図7−11 栄工場周辺の焼却施設位置図

図7−12 いたち川流域を含む全地点の濃度分布

図7−13 2000年5月の桂山公園のデータを除いた濃度分布

8.諸外国の土壌汚染評価指針等

 以下に、鉛、水銀など土壌中の重金属の含有濃度についての諸外国の指針、基準の主なものについて示す。

8−1ドイツの連邦土壌保護法における土壌中の重金属等に関する各種指針

表8−1 基準値の類型
1.試験値(Prufwert) この値を超過している場合、個別サイトの調査が行われ、汚染の有無が判断される基準
2.措置値(Mabnahmenwert) の値を超過している場合、これまでの土壌利用を勘案して、通常土壌汚染が存在するものとみなしうるとされる、浄化措置の発動基準
3.予防値(Vorsorgewert) この値を超過している場合、地質上、あるいは広域的に生活圏から生じる有害物質を勘案して、通常、有害な土壌変更の恐れがあるとみとめられる基準。
(出所)Bodenschutz-und Altlastenverordnung Anhang 2


表8−2 土壌保護令に定める試験値(曝露経路:土壌→人体) mg/kg 乾量 含有濃度
子供の遊び場 住宅地 公園・余暇施設 産業用地
200 400 1000 2000
水銀 10 20 50 80
(出所)Bodenschutz-und Altlastenverordnung Anhang 2


表8−3 予防値
○金属 (mg/kg=μg/g 乾量、細砂、王水溶解) 含有濃度
カドミウム クロム 水銀 ニッケル 亜鉛
地質 白土 1.5 100 100 60 1 70 200
地質 粘土 1 70 60 40 0.5 50 150
地質 砂 0.4 40 30 20 0.1 15 60
自然的に、又は広域的な居住圏の影響でベース値が高い土壌の場合 当該有害物質を放置しておくことや、法規命令第8条第2項、2項で定める追加的な物質投入によって、土壌機能に負の効果がない限りにおいて対象外
(出所)Bodenschutz-und Altlastenverordnung Anhang 2

 ドイツ連合土壌保護法・汚染跡地令では、予防値の形で要求事項を具体化しており、有害物質がこの予防値を超えて検出された場合、または、その他の有害物質の含有量が際だって高く、その物質特性から判断して有害な土壌変更を引き起こす場合が、予防義務発生の要件とされている。
(出典:調査 1999.10 No.3 わが国環境修復産業の現状と課題−地下環境修復に係る技術と市場−、
    日本政策投資銀行 竹ヶ原啓介)


○有機物
(mg/kg 乾量、細砂) 含有濃度
ポリ塩化ビフェニル
(PCB6)
ベンゾピレン PAH16
腐植土含有>8% 0.1 1 10
腐植土含有<=8% 0.05 0.3 3
(出所)Bodenschutz-und Altlastenverordnung Anhang 2


8−2 オランダのダッチリストをもとにした再開発汚染土壌国際委員(ICRCL)
    における土壌中の重金属に関する各種指針(Recommendation Level)

( )内がICRCLのガイドライン値 対象はすべて含有濃度 単位:mg/kg
遊び場 庭 園 運動場 公 園 農 地
水銀 0.5〜1.0 2
(1)
0.5
(20)
5
(20)
10
200 200〜300
(300)
200 500 500
ICRCL:International Committee on the Redevelopment Contaminated Land, UK body,
which set guideline values for contaminated land in 1987

    注)ICRCLリストは、砒素、カドミウム、クロム、鉛、水銀について、汚染により
ハザードがもたらされる値を示したものである。銅、ニッケル、亜鉛については植
       物の成長に対しては有害だが、通常は人の健康へのハザードはないとされている。


9.謝辞

 本調査は、横浜市南部地域、横須賀市、鎌倉市、逗子市等の市民団体及び市民からの分析調査費用カンパと現地土壌試料採取における横浜市栄区の西岡政子氏、逗子市の松本真知子氏らの市民参加の重金属調査を企画された方々、さらに東久留米市の青木 泰氏ら地域外からの支援があってはじめて実施できたものである。
 それらの方々に深く感謝の意を表したい。  


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