更新年月日 2000.12.29, 2001.1.10,2002.11.4

集合住宅ベランダからみる土壌浄化プラント解体工事現場

西八王子 農薬工場跡地周辺の
環境中重金属類汚染の現状把握
調査報告書

株式会社 環境総合研究所
所長 青山 貞一 aoyama@eritokyo.jp
副所長 池田こみち ikeda@eritokyo.jp
主任研究員 鷹取 敦 takatori@eritokyo.jp
ホームページ http://eritokyo.jp/

本ホームページの内容の著作権は筆者と株式会社環境総合研究所にあります。複製、転載することを禁じます。

1 調査の目的

 本調査は、東京都八王子市並木町の中央線沿線に立地する農薬工場跡地周辺の土壌及び埃、地下水などに含まれる水銀等の重金属類汚染について、その濃度分布を把握し、同敷地内に建設された水銀汚染土壌浄化プラントの稼働による周辺環境への重金属類の影響を明らかにすることを目的とする。
 なお、本調査は同地域に居住する市民の参加によってサンプリングを行い、市民の健康影響や居住環境との因果関係を把握するための基礎資料とすることも同時に目的とする。


2.測定分析地点

 本調査の土壌試料採取は、発生源である工場跡地の敷地内に建設された土壌浄化プラントを中心に、N(北)、NE(北東)、E(東)、SE(南東)、S(南)、SW(南西)、W(西)、NE(北西)の8方位について、50mおきに各方位6ヶ所ずつ48ヶ所、及びベランダの埃2カ所、窓枠の埃1ヶ所、土壌2カ所、井戸水1ヶ所の合計54サンプルについて行った。(図2−1参照)

表2−1 採取試料の概要及びサンプル番号
方位別・距離別土壌試料 起点からの距離 起点からの方位
N NE E SE S SW W NW
0m N-1 NE-1 E-1 SE-1 S-1 SW-1 W-1 NW-1
50m N-2 NE-2 E-2 SE-2 S-2 SW-2 W-2 NW-2
100m N-3 NE-3 E-3 SE-3 S-3 SW-3 W-3 NW-3
150m N-4 NE-4 E-4 SE-4 S-4 SW-4 W-4 NW-4
200m N-5 NE-5 E-5 SE-5 S-5 SW-5 W-5 NW-5
250m N-6 NE-6 E-6 SE-6 S-6 SW-6 W-6 NW-6
その他試料概要 ERI-523 固体 ベランダの埃 並木町 甲州街道沿マンション6Fの南側ベランダ
ERI-524 固体 窓枠の埃 千人町4丁目甲州街道沿花店2Fの南側窓枠
ERI-525 固体 旧田口宅の土壌 めじろ台4丁目 工場の南南西 1.3km
ERI-526 固体 万葉公園の土壌 めじろ台・散田町境 工場南 750m
ERI-527 液体 民家井戸水 千人町4丁目 甲州街道沿い花店の井戸水
ERI-531 固体 ベランダの埃 並木町 甲州街道沿マンション5Fの南側ベランダ

 なお、方向別・距離別土壌試料の採取にあたっては、事業者敷地内の採取は不可能なため、敷地境界に最も近い地点で採取可能な土壌を採取した。民家については、調査の目的について説明し、採取の協力・了解を求め、合意が得られたものについて採取した。合意が得られない場合には、隣接する民家等の協力を求めた。
 ベランダ及び窓枠の埃は、それぞれ数カ月から1年以上、溜まったものを掃き寄せて採取した。

図2−1 試料採取地点位置図


3.測定分析対象化学物質

 本調査では、重金属類の内、ヒ素(As)、鉛(Pb)、総水銀(Hg)の3種類について測定分析を行った。各物質の特性及び毒性は以下の通りである。

(1)ヒ素

a 物質の同定 元素記号 As
原子番号 1558
分子量 74.92
CAS登録番号 7440-38-2
b 物理的・化学的特性 溶解性 不溶
蒸気圧 1mmHg
蒸気圧の温度 372℃
比重 5.730

  急性毒性物質。外観は銀色又は黒色結晶。酸化剤と反応する。

●有害性情報 急性毒性 ラット、腹腔内、半致死投与量(LD50)13390μg/kg
モルモット、皮下、最小致死量(LDL0) 300mg/kg
男性、経口、TDLo、7857mg/kg/5年
ACGIH発癌性評価 A1(人に対して発癌性が確認された物質)
EPA発癌性評価 A(人に対する発癌性がある)
変異原性 染色体異常試験、マウス(生体内)、陽性
(出典:化学物質安全性データブック、上原陽一監修、化学物質安全情報研究会編平成8年9月10日)
注)ACGIH :アメリカ産業衛生専門家会議、EPA :アメリカ環境保護庁


ヒ素(As)とその毒性  出典:「労働の科学」52巻1号

 ヒ素(Arsenic : As)は,古代から使われてきた半金属性元素で,灰色,黄色,黒色の3種の同素体があり,化学式As,分子量 299.68,比重5.727(灰色)である。ヒ素およびその化合物は無機ヒ素系農薬,工業薬品の原料,木材防腐剤,乾燥剤などとして使われている。

 ヒ素は無機と有機ヒ素化合物およびアルシン(気体:AsH3)に分類され,それらの毒性も各々異なる。3価の無機ヒ素は生体細胞酵素の活性部分に存在するチオール基(SH基)と高い親和性をもち,酵素の活性を阻害し,強い生体毒性を示す。5価の無機ヒ素はSH基との親和性が弱く3価ヒ素より毒性が弱いと考えられている。一般 に有機ヒ素化合物の毒性も無機ヒ素より弱いといわれている。アルシンは自然界には存在せず,鉱石中のヒ素が水素と結合して生成する。アルシンは還元型グルタチオンを減少させることにより,赤血球膜のNa-Kポンプ機能が障害され,溶血を起こす。ヒ素中毒はその成因によって職業性と非職業性とに区別 され,また曝露期間によって急性と慢性中毒に分類される。急性中毒は無機ヒ素による場合が多く,服毒自殺や無機ヒ素が混入した飲食物の摂取により起こる。臨床症状は胃腸障害と頻脈がある。慢性中毒は汚染された飲料水を長期間飲用した場合,あるいは金属精錬,亜ヒ酸や農薬製造のときに三酸化ヒ素を含む粉じんおよびフュームに被曝した場合に起こる。症状としては,色素沈着症,角化症,多発性神経炎,気管支肺疾患,末梢循環障害などがあげられる。アルシンによる急性中毒は非鉄金属製錬所やタンクの清掃現場などで発生し,溶血の結果 ,ヘモグロビン尿,黄疸,腹痛を引き起こす。ヒ素の遺伝毒性は研究により結果が分かれている。発がん性に関して人では呼吸がんと皮膚がんを引き起こし,ヒ素曝露と発がんの因果 関係も疫学的に実証されているが,動物実験では未だに確認されていない。特別な曝露のない場合では,ヒ素は主に食事を介して摂取され,全身各臓器に分布され,尿と糞から排泄される。作業現場気中許容濃度はACGIHの提案ではアルシンは0.05ppm,ヒ素元素と無機化合物(Asとして)0.01mg/m3 (TWA)である。


(2)鉛

a 物質の同定 元素記号 Pb
原子番号 82
原子量 207.19
CAS登録番号 7439-92-1
b 物理的・化学的特性 融点 327.5℃
沸点(1気圧) 1,740℃
比重 11.34
(出典:化学物質の安全性評価−国連IPCS環境保健クライテリア抄訳− 第1集、編集 国立衛生試験所化学物質情報部、化学工業日報社発行、1995年12月27日発行)
●有害性情報 急性毒性 ラット、腹腔内、最小致死投与量(LDLo) 1g/kg
女性、経口、TDLo、450mg/kg/6年
IARC発癌性評価 2B(人に対して発癌性の可能性がある))
EPA発癌性評価 B2(動物試験では十分証拠があるが疫学調査が不十分)
(出典:化学物質安全性データブック、上原陽一監修、化学物質安全情報研究会編、平成8年9月10日)
注)IARC :国際癌研究機関

鉛(Pb)とその毒性 出典:「労働の科学」51巻4号

 鉛(Lead, Plumbum : Pb)は,古代から使われてきた金属元素で,分子量 207.19,比重11.34である。その用途は蓄電池,合金等の原料として幅広く使われている。

 鉛による急性中毒は,鉛の短時間大量曝露によって起きるが,非常にまれである。初期症状は口渇,金属味がみられ,その後悪心,腹痛,嘔吐が続く。感覚異常症,疼痛そして筋力低下等の神経症状もあげられる。急性溶血のため貧血やヘモグロビン尿が認められる。

 慢性中毒では典型的症状は鉛蒼白,貧血,鉛縁,鉛疝痛,伸筋麻痺,コプロポルフィリン尿があげられていたが,最近わが国ではこのような症例はほとんどみられない。胃腸管症状は鉛が胃腸管の平滑筋に作用して食欲不振,腹部不快感,便秘,腹痛などが起こる。末梢神経症状は神経筋症状,手首の伸筋麻痺による下垂手(鉛麻痺)や末梢神経伝導速度の軽度遅延などがある。鉛による血液学的影響は,溶血性貧血とヘム合成系への障害に大別 される。溶血性貧血は主に鉛のトランスフェリン結合鉄および非結合鉄の網状赤血球への取り込み障害,Pyrimidine 5'-nucleotidase活性障害,Kイオンチャンネルの活性低下および赤血球細胞膜のナトリウムポンプ阻害によってもたらされたものと考えられる。ヘム合成の障害は主に鉛のδ-アミノレブリン酸脱水酵素(δ-ALAD)に対する阻害によるものと考えられ,その結果 は,尿中のδ-ALA,コプロポルフィリン排泄が増加し、血中δ-ALAD活性が低下する。これらのパラメーターと血中鉛が鉛曝露指標として用いられている。その他,鉛による腎臓への影響や免疫系への抑制もあげられている。鉛の遺伝毒性が報告されているが,人の発がん性に関する報告は見当たらない。なお有機鉛(四エチル鉛と四メチル鉛)は主に精神・神経症状を引き起こす。鉛は主に呼吸器系と消化器系からも吸収され,全身各臓器に分布されるが,骨組織が最も高い。体内に入った鉛は尿と糞から排泄される。人の鉛の生物学的半減期は約10年間といわれている。作業現場気中許容濃度はACGIHの提案では鉛として無機化合物,粉じん,ヒュームおよび四メチル鉛では0.15,四エチル鉛では0.1mg/m3 (TWA)である。

(3)水銀

a 物質の同定 元素記号 Hg
原子番号 80
原子量 200.59
CAS登録番号 7439-97-6
b 物理的・化学的特性 融点 -38.87℃
沸点(1気圧) 356.72℃
比重 13.534
(出典:化学物質の安全性評価−国連IPCS環境保健クライテリア抄訳− 第2集、編集 国立衛生試験所化学物質情報部、化学工業日報社発行、1996年9月30日発行)
●有害性情報 急性毒性 ウサギ、経気道、最小致死濃度(LCLo) 29mg/m/30h
女性、経気道、TCLo、150μg/m
/46d
男性、経気道、TCLo、44300μg/m
/8h
EPA発癌性評価 D(人に対する発癌性の分類ができない)
(出典:化学物質安全性データブック、上原陽一監修、化学物質安全情報研究会編、平成8年9月10日)


水銀(Hg)とその毒性
 出典:「労働の科学」52巻4号

 水銀(mercury : 以下Hg)は,鉛とともに古代から使われてきた金属元素で,原子量 200.61,比重13.6(0℃),融点(凝固点)-38.85℃,常温で唯一の液体の金属である。金属Hgは各種の電極,金・銀等の抽出,各種計器(温度計,血圧計など),各種水銀化合物の原料,水銀灯,歯科に使われている。

 Hgは無機(金属型とイオン型)および有機Hg化合物に分類され,それらの毒性も各々異なる。金属型Hgの場合,急性中毒は高濃度のHg蒸気に曝露された場合に発生し,主に気管支炎および間質性肺炎を引き起こすが,急性下痢と腎障害の起こることもある。慢性中毒は低濃度のHg蒸気に繰返し長時間曝露された場合に発生し,主に易疲労感,手指振戦,腱反射減弱,構音障害,記憶力減退等の中枢神経の症状が目立つ。無機イオン型Hgはチオール基(SH基)と高い親和性をもっており,酵素などの生体内生理活性物質中に含まれるシステインのSH基と強く結合してその活性を阻害する。その毒性は急性,慢性を問わず腎臓機能障害であり,とくに近位 尿細管に障害を引き起こす。1価と高濃度の2価Hgに被曝した場合,糸球体の障害も認められる。有機Hgにはさまざまな化学形態があるが,環境曝露による健康影響という観点からはメチルHgが重要である。世界でも有名な水俣病はメチルHgによる中毒である。メチルHgの主な標的器官は神経系である。人における症状は感覚鈍麻やしびれ感,言語障害,運動失調,視野狭窄,難聴などである。症状には多少の動物種差があるが,一般 的なものとしては運動失調,歩行異常,四肢反射の異常,末梢知覚障害などである。Hgの体内動態はその種類によって異なり,金属Hgは主に蒸気として肺から吸収され,無機Hgイオンと有機Hgは主に消化器,呼吸器から吸収され,脳(金属Hg),腎臓(無機と有機Hg),肝臓(有機Hg)に蓄積され,尿,糞,毛髪から排泄される。発がん性に関してメチルHg化合物は発がん物質暫定物質(IARC分類の2B)に分類されている。作業現場気中許容濃度はACGIHの提案では金属Hgは0.05,Hgとして無機化合物は0.1,有機化合物は0.01mg/m3 (TWA)である。


重金属の毒性について(出典:国立公衆衛生院

重金属―カドミウム、鉛、水銀

重金属、カドミウム、鉛、水銀、が内分泌撹乱物質の候補として挙げられている。(文献1)
これらの金属に関しては非常に多くの研究が行なわれており、生体に対する毒性のメカニズムについても、分子レベルのものも含めて詳しい報告がなされている。(文献2、3、4、5、6)

カドミウム、鉛、水銀の毒性のメカニズムは次のように考えられている。
体内に摂りこまれたカドミウム、鉛、水銀は、2価の陰イオンに変換され、タンパク質やアミノ酸のsulfhydryl(SH)基と結合し、通常は吸収されることなく代謝、排泄される。しかし短期的に高濃度に、あるいは低濃度でも中、長期的に摂取した場合には、過剰の金属イオンが遊離の金属イオンとなり、これが生体に損傷を与える。遊離金属イオンはSH基との親和性が強いことから、細胞内、外の膜や器官に広く存在する、構造や機能に重要なタンパク質と結合する。その結果、多くの酵素が不活性化し、構造タンパク質の形成異常や、細胞の膜透過性の変化がおき、造血系、細胞内伝達系、遺伝子系、免疫系などあらゆる機能に影響が現れる。また遊離金属イオンは生体内のカルシウム恒常性を変化させ、カルシウムに依存する反応(細胞内情報伝達系、神経伝達系など)を阻害することが知られている。

以上のことから、カドミウム、鉛、水銀については生殖器官はもちろん、体内のさまざまな器官、機能におよぼす影響について、血液―脳関門を通過した後の脳内での作用や、胎盤を通して胎児や新生児に現れる影響についても詳しい研究が進められつつある。

今回、カドミウム、鉛、水銀が内分泌撹乱物質に該当するかどうかを確かめるために、多くの文献を調べた。その結果、生殖器官、内分泌器官が影響を受けることが確認された。そしてほとんどの場合、臓器の細胞そのものの変化(変性、壊死、炎症、浮腫など)によるものであることがわかった。これは従来から重金属の毒性として報告されているものであり、現時点では特に内分泌撹乱作用によるものと定義づけられるものではないという結論を得た。

なお、現在これらの重金属については、環境庁の法令により基準値(排水、排出、水質汚濁、土壌環境汚濁などについて)が定められ、厳しく規制されている。

(参考文献)

1. Colborn T, vom Saal FS, Soto AM. Developmental effect of endocrine-disrupting chemicals in wildlife and humans. Environ Health Perspect 101, 378-384,1993.
2. 和田 攻 . 金属とヒト . 朝倉書店 . 1985 .
3. ATSDR. Toxicological Profile for Cadmium. Atlanta, GA: Agency for Toxic Substances and Disease Registry, 1998.
4. ATSDR. Toxicological Profile for Lead. Atlanta, GA: Agency for Toxic Substances and Disease Registry, 1998.
5.
ATSDR. Toxicological Profile for Mercury. Atlanta, GA: Agency for Toxic Substances and Disease Registry, 1998.
6. Goyer RA. Current concerns. Environ Health Perspect 100, 177-187, 1993.


<参考>
ATSDR. Toxicological Profile for Arsenic. Atlanta, GA: Agency for Toxic Substances and Disease Registry, 1998.


4.現地試料採取方法

採取日: 2000年12月5日(火)午前10時〜午後4時
採取者: 地域住民協力者 6名
株式会社 環境総合研究所 研究員 2名

(1)土壌試料

 土壌試料の採取に際しては、できるだけ踏み固めや踏み荒らしのない場所を選び、土壌の表土(5cm以内)をおよそ50g〜80gずつ採取した。

(2)埃試料

 農薬工場跡地に南面するマンション南側のベランダに数カ月から1年以上たまった埃を箒や刷毛などで掃き寄せたもの及び、同じく工場跡地の北東に位置する花店2Fの窓枠に溜まった埃を集めたもの。試料重量はおよそ20g程度。

(3)井戸水試料

 個人宅の井戸水を直接蛇口より2リットル採取。


5.測定分析の方法(全含有濃度分析)

5−1  重金属類の測定分析方法

・共通手法(原子吸光法:Atomic Absorption Method) 
・米国環境保護庁(EPA) Method 7000A シリーズ

5−2 個別手法

(1)ヒ素(Arsenic) 米国環境保護庁(EPA) Method 7060A, Method 7061A
手法詳細 Method 7060A: [PDF Format 83 KB]
Arsenic (Atomic Absorption, Furnace Technique)
Method 7061A: [PDF Format 143 KB]
Arsenic (Atomic Absorption, Gaseous Hydride)
(2)鉛(Lead) 米国環境保護庁(EPA) Method 7420A, Method 7421A
手法詳細 Method 7420: [PDF Format 108 KB]
Lead (Atomic Absorption, Direct Aspiration)
Method 7421: [PDF Format 164 KB]
Lead (Atomic Absorption, Furnace Technique)
(3)水銀(Mercury) 米国環境保護庁(EPA) Method 7470A, Method 7471A
手法詳細 Method 7470A: [PDF Format 94 KB]
Mercury in Liquid Waste (Manual Cold-Vapor Technique)
Method 7471A: [PDF Format 98 KB]
Mercury in Solid or Semisolid Waste (Manual Cold-Vapor Technique)

5−3 精度管理・定量下限値等

(1)ヒ素(As)     GRAPHITE FURNACE(原子吸光法)

表5−1 本分析における精度管理関連データ
N-1
〜NE-6
E-1 E2
〜S1
S2
〜SW-5
SW-6
〜NW-5
NW-6
定量下限値 1 μg/g 1 μg/g 1 μg/g 1 μg/g 1 μg/g 1 μg/g
METHOD BLANK <1 μg/g <1 μg/g <1 μg/g <1 μg/g <1 μg/g <1 μg/g
SPIKED BLANK 回収率 95 % 81 % 95 % 81 %
MATRIX BLANK 回収率 106 % 107 % 106 % 106 % 92 % 92 %
QC Standard 回収率 96 % 92 % 96 % 96 % 92 % 92 %

ERI-523
〜ERI-526
ERI-527:
井戸水
ERI-531
定量下限値 1 μg/g 0.002 mg/L 1 μg/g
METHOD BLANK <1 μg/g <0.002 mg/L <1 μg/g
SPIKED BLANK 回収率 81 % 81 % 100 %
MATRIX BLANK 回収率 107 % 92 % 88 %
QC Standard 回収率 92 % 92 % 104 %


(2)鉛(Pb)     GRAPHITE FURNACE(原子吸光法)

表5−2 本分析における精度管理関連データ
N-1
〜NE-6
E-1 E2
〜S1
S2
〜SW-5
SW-6
〜NW-5
NW-6
定量下限値 1 μg/g 1 μg/g 1 μg/g 1 μg/g 1 μg/g 1 μg/g
METHOD BLANK <1 μg/g <1 μg/g <1 μg/g <1 μg/g <1 μg/g <1 μg/g
SPIKED BLANK 回収率 97 % 86 % 97 % 97 %
MATRIX BLANK 回収率 95 % 91 % 95 % 95 % 95 % 95 %
QC Standard 回収率 99 % 104 % 99 % 99 % 99 % 99 %

ERI-523
〜ERI-526
ERI-527:
井戸水
ERI-531
定量下限値 1 μg/g 0.002 mg/L 1 μg/g
METHOD BLANK <1 μg/g <0.002 mg/L <1 μg/g
SPIKED BLANK 回収率 86 % 102 % 102 %
MATRIX BLANK 回収率 91 % 98 % 80 %
QC Standard 回収率 104 % 110 % 97 %


(3)水銀(Hg) Cold Vapor AA(冷却蒸気原子吸光法)

表5−3  本分析における精度管理関連データ
N-1
〜NE-6
E-1 E2
〜S1
S2
〜SW-5
SW-6
〜NW-5
NW-6
定量下限値 0.05μg/g 0.05μg/g 0.05μg/g 0.05μg/g 0.05μg/g 0.05μg/g
METHOD BLANK <0.05μg/g <0.05μg/g <0.05μg/g <0.05μg/g <0.05μg/g <0.05μg/g
SPIKED BLANK 回収率 N/A 87 % 94 % N/A
MATRIX BLANK 回収率 99 % 81 % 99 % 101 % 91 % 99 %
QC Standard 回収率 100 % 93 % 100 % 107 % 107 % 100 %

ERI-523
〜ERI-526
ERI-527:
井戸水
ERI-531
定量下限値 0.05μg/g 0.0001 mg/L 0.05μg/g
METHOD BLANK <0.05μg/g <0.0001 mg/L <0.05μg/g
SPIKED BLANK 回収率 87 % 100 % 104 %
MATRIX BLANK 回収率 81 % 109 % 80 %
QC Standard 回収率 93 % 101 % 101 %

 上記の精度管理データから、本分析の精度は適切に管理・保証されていることが示されている。


6.測定分析機関

Maxxam Analytics Inc.(カナダ・オンタリオ州)


7.測定分析結果

土壌・埃・井戸水等の重金属類含有濃度測定分析結果
速 報 値

2000.12.29, 2001.1.10
株式会社 環境総合研究所/Maxxam

分析結果データシート
PROJECT #:ERI-12-2000-125, 129(ERI-531)
MAXXAM JOB#:A025295, A025862(ERI-531)

表7−1 土壌等に含まれるヒ素含有量(固体試料)
起点からの距離 ヒ素 As [μg/g]
N NE E SE S SW W NW
方向別
距離別
0m 8 8 6 14.9 5 5 8 8
50m 9 7 10.5 6 5 4 9 5
100m 10 9 13.6 7 6 6 7 6
150m 7 13.6 7 9 6 6 5 8
200m 8 6 6 5 9 6 6 7
250m 8 9 9 7 5 5 4 4
その他の
地点
ERI-523 ベランダの埃 5 (並木町 甲州街道沿マンション6Fの南側ベランダ)
ERI-524 窓枠の埃 3 (千人町4丁目甲州街道沿花店2Fの南側窓枠)
ERI-525 旧田口宅の土壌 5 (めじろ台4丁目 工場の南南西1.3km)
ERI-526 万葉公園の土壌 4 (めじろ台・散田町境 工場南750m)
ERI-531 ベランダの埃 7 (並木町 マンション5Fの南側ベランダ)
定量下限値(MDL) 1


表7−2 土壌等に含まれる鉛含有量(固体試料)
起点からの距離 鉛 Pb [μg/g]
N NE E SE S SW W NW
方向別
距離別
0m 177.0 165.0 42.2 80.3 72.5 36.5 178.0 77.1
50m 92.1 32.8 32.8 26.5 42.6 20.7 116.0 62.4
100m 108.0 59.3 44.0 28.5 92.1 34.2 44.0 105.0
150m 67.1 52.2 47.3 73.1 38.8 40.9 58.5 71.6
200m 25.3 17.3 35.1 42.6 24.6 29.9 58.3 31.6
250m 46.8 54.6 43.7 35.7 98.7 53.7 78.2 58.2
その他の
地点
ERI-523 ベランダの埃 53.1
ERI-524 窓枠の埃 224
ERI-525 旧田口宅の土壌 23.0
ERI-526 万葉公園の土壌 16.8
ERI-531 ベランダの埃 136
定量下限値(MDL) 1


表7−3 土壌等に含まれる水銀含有量(固体試料)
起点からの距離 水銀 Hg [μg/g]
N NE E SE S SW W NW
方向別
距離別
0m 2.96 1.45 0.27 0.85 0.30 0.51 1.99 1.20
50m 0.56 0.78 0.17 0.14 0.45 0.22 0.95 0.17
100m 0.55 7.46 0.11 0.22 0.16 0.24 0.37 0.45
150m 0.51 0.40 0.17 0.18 0.22 0.23 0.10 0.26
200m 0.16 0.09 0.12 0.12 0.24 0.24 42.60 0.16
250m 0.33 0.47 0.31 0.27 0.21 0.06 0.78 0.09
その他の
地点
ERI-523 ベランダの埃 0.52
ERI-524 窓枠の埃 0.42
ERI-525 旧田口宅の土壌 <0.05
ERI-526 万葉公園の土壌 <0.05
ERI-531 ベランダの埃 0.95
定量下限値(MDL) 0.05


表7−4 井戸水に含まれる重金属含有量(液体試料)
ヒ素 As [mg/L] 鉛 Pb [mg/L] 水銀 Hg [mg/L]
ERI-527 花屋の井戸水 <0.002 <0.002 0.0010
定量下限値(MDL) 0.002 0.002 0.0001


 

表7−5 土壌試料50サンプルの結果
(単位:μg/g)
ヒ素 水銀
最高値 14.9 178.0 42.60
最低値 4 16.8 <0.05
平均値※ 7.2 59.9 1.42
中央値 7 47.1 0.25
※:定量下限値未満は
定量下限値の1/2として計算した。
上記の結果より、土壌試料50検体について、最高値、最低値、平均値、中央値を表7−5に示した。ヒ素、鉛、水銀の3項目とも最高値は、極めて高く諸外国の基準値、ガイドライン値を大きく上回っている。


8.評 価

 上記の結果について、JR中央線北側と南側に区分し、各方位別に濃度勾配を示す。

8−1 方向別距離別土壌試料

 我が国には、土壌中の鉛の含有濃度についての環境基準は存在していないが、この分野の法制度整備が進んでいるドイツをはじめヨーロッパでは、土地利用や地質に応じてきめ細かい規制値やガイドライン値が設定されている。(表8−1参照)

表8−1 諸外国の土壌汚染評価値
単位:μg/g
凡例 諸外国の評価値 適用地 ヒ 素 水 銀
G試 ドイツ 連邦土壌保護法 試験値 遊び場 25 200 10
G予 同        予防値 砂 地 40 0.1
オランダ  ダッチリスト評価値 20 50 0.5
スウェーデン 一般ガイドライン値 1997年 敏感な土地
*3
15 80 1.0
カナダ 連邦政府暫定評価値 1991年 5 2.5 0.1
E勧 英国 ICRCL*1勧告値 遊び場 20〜25 200 0.5〜1.0
Eガ 英国 ICRCL*2ガイドライン値 庭 園 10 200〜300 1.0
注) *1 イギリス汚染土壌地再開発国際委員会(ICRCL)による土地利用別重金属類勧告値の中の遊び場用の勧告値(Recommendation Level)   
*2 イギリス汚染土壌地再開発国際委員会(ICRCL)による土地利用別ガイドライン値の中の庭園用のガイドライン値
*3 住宅、公園、農地などの敏感な用途に使用されている土地についての基準値

なお、図中、太線で諸外国のガイドライン値、基準値等を示した。

(1)ヒ素

 JR中央線の北側の範囲では、北西(NE)方向の150m地点と西(W)及び北西(NW)の250m地点の3地点を除き、すべての地点で5.0〜10.0μg/gの範囲にあり、上記の中では最も厳しいカナダ連邦政府の基準を超えていることになる。
 一方、JR中央線の南側の範囲では、南東(SE)の起点、東(E)方向の50m及び100m地点、南西(SW)の50m地点の4地点を除いて同様に5.0〜10.0μg/gの範囲に集まっている。起点からの距離による減衰など濃度勾配は明確にはみられていない。

図8−1 JR中央線北側地域の濃度勾配(土壌中のヒ素含有濃度)

図8−2 JR中央線南側地域の濃度勾配(土壌中のヒ素含有濃度)

(2)鉛

 JR中央線北側の範囲では、北(N)、北東(NE)、西(W)の3方向の起点で150μg/gを上回り、50m地点で下がるという同様の傾向を示している。100m地点で若干横這いないし、上向くものの、全体として、起点から200m地点にかけて距離減衰の傾向が見られる。各地点とも、最も厳しいカナダの暫定評価値である2.5μg/gを大幅に上回っており、また、工場跡地に隣接する地域では100μg/gを超える濃度となっており、公園や学校を含む住宅地としては好ましくない状況であると言える。

図8−3 JR中央線北側地域の濃度勾配(土壌中の鉛含有濃度)

 JR中央線南側の範囲については、全体として北側の範囲より濃度が低いものの、カナダの暫定指針値はすべて上回っており、ドイツの予防値の40μg/g〜スウェーデンのガイドライン値の80μg/gの範囲に集中している。北側同様、公園、学校などを含む住宅地としては決して良好な状況とは言えない。これは、南風による影響を受ける北側の範囲の方が南側の範囲より高濃度となっていることを意味しており、並木町周辺での健康被害の多発とも符合する。

図8−4 JR中央線南側地域の濃度勾配(土壌中の鉛含有濃度)


(3)水銀

 水銀については、JR中央線北側の範囲では、工場跡地に接する起点の部分でいずれも1.0μg/gを上回っている。特に、北東側(NE)の100m地点では7.5μg/g、西側(W)の200m地点では42.6μg/g
という高濃度が検出されており、原因の究明が必要である。これらの特異な地点を除けば、いずれの地点も起点から距離を減るにしたがって濃度が低下する傾向が見られる。各地点とも、ドイツ連邦土壌保護法に定める予防値(砂地用)やカナダの暫定指針値の0.1を上回っていることから何らかの対策が求められる。

図8−5 JR中央線北側地域の濃度勾配(土壌中の水銀含有濃度)

 一方、JR中央線の南側の範囲では、やはり起点部分は若干濃度がたかいものの、殆どの地点で、0.1〜0.5μg/gの範囲にあり、JR中央線の北側の範囲に比べて濃度が低いことが分かる。とはいえ、カナダ及びドイツの厳しい基準値を超えていることから北側範囲と同様な対応が求められる。

図8−6 JR中央線南側地域の濃度勾配(土壌中の水銀含有濃度)

図8−7 JR中央線南側地域の濃度勾配(土壌中の水銀含有濃度:縦軸拡大)


8−2 背後地の土壌

 本調査では、背後地の試料として、工場跡地の南側およそ750〜1,300m離れた目白台地区の2地点(旧田口宅北側と万葉公園北側斜面)から土壌を採取して分析した。その結果、ヒ素はそれぞれ4μg/gと5μg/g、水銀はいずれも0.05μg/g未満と大きな差がなかったが、鉛については、旧田口宅(750m地点)が23.0μg/g、万葉公園が16.8μg/gと若干ではあるが、旧田口宅の方が高くなった。
 これを、先の方向別距離別の土壌試料の結果と比較すると、ヒ素と鉛については、250mまでの範囲の濃度と比べても最も低い濃度の範囲にあり、距離による減衰が認められる。また、水銀についても、0.05の定量下限値未満となっており、250mまでの範囲に比べてかなり低く、距離による減衰が認められる。

8−3 埃の濃度

表8−1 埃試料3サンプルの結果 (単位:μg/g)
サンプル番号 ヒ素 水銀 採取場所
ERI-523 5 53.1 0.52 マンション6Fベランダ、工場跡地敷地境から約80m北
ERI-531 7 136 0.95 マンション5Fベランダ、同上
ERI-524 3 224 0.42 花店2F窓枠、工場跡地敷地境から約100m北東
平均 5 137.7 0.63

 上記の結果より、ヒ素は方向別距離別土壌試料の北方向100〜150mとほぼ同じ程度の濃度となっている。また、鉛は、花店2F窓枠の埃が最も高く、次いでマンション5Fのベランダの埃が高い濃度となっており、方向別距離別土壌試料と比較すると北方向の起点〜100mの地点と同様の濃度となっている。マンション6Fの埃の濃度は大幅に下がっていることから、鉛直方向への飛散の状況や遮蔽物等についても考慮する必要がある。

 水銀については、マンション5Fの濃度が最も高くなっている。この濃度はJR中央線北側の範囲の起点から50〜100mの地点で検出されている濃度であり、水平方向の距離では土壌と似通った濃度となっていることがわかるが、鉛同様、鉛直方向への飛散条件や遮蔽物についても考慮する必要がある。


8−4 地下水の濃度

 花店の井戸水については、日本の地下水の水質汚濁環境基準と比べると、ヒ素と鉛は0.01mg/Lの基準値を下回っているものの、水銀は、0.0005mg/Lの基準値に対して、今回の濃度は0.0010mg/Lと基準値の倍の濃度となっており、早急な対応が必要である。


9.濃度分布図の分析

 以上の各地点の濃度をスプライン補間法を用いて綿的な濃度分布を分析した結果を図9−1〜図9−3に示す。

(1)ヒ素  ヒ素の濃度分布は、起点の東〜北東方向の範囲に高濃度地域が分布している。特に東方向では、起点から25mの地点と100mの地点、北東方向では、200m地点付近で高濃度が見られる。
(2)鉛  鉛の濃度分布は、ヒ素とは異なり、北方向から西方向にかけて高濃度地域が広がっている。距離的には、起点から50m〜100mの範囲で高濃度がでている。
(3)水銀  水銀は、処理工場の中心である起点からの濃度の影響が最も顕著に現れている。北東〜北〜北西〜西の範囲にかけて敷地境界から100mまでの範囲で高濃度が分布している。

 以上より、鉛と水銀については、浄化プラントの北側に高濃度が分布しており、遮蔽されたプラントの開口部が北側にあることから南風による影響を北側の地域が受けやすい状況があるものと思われる。ヒ素については、鉛、水銀とは全く異なる分布を示していることから、発生源についてのさらなる調査・検討が必要である。

図9−1 ヒ素濃度分布図

図9−2 鉛濃度分布図

図9−3 水銀濃度分布図


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