地方空港建設事業と財政・環境問題 Financial & Environmental Problem of Local Airport Project in Japan 青山 貞一 環境総合研究所所長 環境行政改革フォーラム代表幹事 |
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本稿は、2000年9月5日の静岡空港建設現場現地視察及び2000年11月25日静岡市にて開催された市民団体主催 「静岡空港シンポジウム」での青山の講演録などをもとに執筆しています。今後、内容を拡充する予定です。 |
1.地方空港(第3種空港)の財政問題
(1)公共事業としての空港建設(造成、滑走路、エプロン、関連施設)投資の原資
@国庫補助:第三種空港の場合、50%から65%が国庫補助の対象となる。その国庫補助は、空港法を上位法とする空港整備法にもとづく空港特別会計から支出される。この特別会計は、ジェット機の空港離発着料を全国にある空港からのプールを原資としている。但し、この国庫補助は滑走路工事など空港本体を対象になされターミナルビル、周辺整備は含まれない。
A他の財源:他方、国からの補助の残りは、県の一般会計から毎年拠出するか、借入金により賄う。空港関連公共事業のうち空港ビル建設などを第三セクターで行う場合の借り入れは、通常、日本政策投資銀行(旧、日本開発銀行)などからとなる。空港建設関連費では、県債、縁故債あるいは民間借り入れはほとんどない。その理由は自治体の財政、実際には債務の状況により国(総務省、財務省)の格付けがあること、また空港建設など長期に渡る公共事業では県による民間からの借り入れが困難であることによる。
(2)空港周辺整備事業
空港事業で財政面から見逃せないのは、国庫補助の対象となる滑走路やエプロン、ターミナルビルなど空港施設以外に、空港周辺の道路、河川改修、下水道事業などのインフラ整備や空港周辺地域における各種面的整備のための財政負担である。これらは、財政的には国庫補助(空港特別会計)、財政投融資などの対象となるターミナルビルなどとは別に、県の単独事業ないし国庫補助下での県、市町などの事業となり、自治体の財政負担を増すことになる。各地の事例をみると、この周辺整備に要する公共事業費が看過できないほど大きなことが分る。
(3)空港の供用(操業)に伴う財政、経営問題
@供用時の費用発生:滑走路のメンテナンス、各種機器のメンテナンス、取り替え、電気代、上下水道代、環境保全対策、各種人件費(管制塔関連の軽費は国が負担)を指す。また空港ビル関連経費については、日本では県と民間企業などによる第三セクターが経営しており、独立採算性となっている。
A供用時の関連費用の原資:空港供用時の原資は、原則としてジェット機の離発料となるが、自治体の一般会計、さらに赤字の場合は国の空港特別会計のプール金からの補助もありうる。
(4)財政負担、財政破綻の原因
@公共事業投資、建設工事
国からの補助:国からの補助(国庫補助)は空港特別会計となっているが、乗降客の少ない空港が増えると結果的に空港特別会計上、国からの借金を増やし、特別会計の財政を悪化させることになる。すなわち、空港特別会計が全国プール制となっていても、いつまでも羽田空港、成田空港、関空空港など特別空港の離発着料に地方が大きく依存(オンブニダッコ)状態となっていることはできない。たとえば、関空は特別空港でありそれ自体、建設投資に膨大な融資を受けている。その借り入れ金の返済に本来の収入の多くを毎年あてても赤字となっているからである。プール金の圧倒的多くの割合は、図1にあるように羽田空港に依存している。
県の支出:乗降客が少なく、ジェット機離発着数が少ないと、建設投資への一般会計からの返済、第三セクターから建設投資の政策投資銀行などへの融資金の返済、さらに、供用段階でのメンテナンス、人件費などの支払い状況が悪化することになり、一般会計からの財政支出が増え、その結果県の財政を悪化させることになる。
図1 日本の空港の年間乗降客数
出典:特集、全国49空港不要度ランキング、2000年度版、週刊ダイヤモンド、2000年3月18日号より筆者が作成
表1 静岡空港概要
静岡空港概要(現地調査訪問時、2000年9月) | ||
事業名 | 静岡県営静岡空港建設事業 | |
事業者 | 静岡県 | |
事業所在地 | 静岡県島田市・榛原町 | |
事業面積 | 約520ヘクタール、滑走路部分約190ヘクタール | |
事業費 | 1900億円(国費250億円、空港整備特別会計より支出) | 滑走路1km当たり約800億円で世界第2位、第1位は関西空港 |
移動土砂量 | 約2700平方メートル | 空港建設工事では国内最高 |
維持管理費 | 年間5億2000万円 | |
着工 | 1998年11月 | |
開港予定 | 2006年 | |
需要予測 | 年間127万人 | 許認可時の予測値は年間178万人 |
主想定路線 | 札幌・福岡・松山・高知・熊本・鹿児島・那覇 | |
競合交通 | 東海道新幹線、静岡県内に6駅 | 羽田空港、名古屋空港(小牧)、中部国際空港 |
用地取得率 | 約80%(現地調査訪問時、2000年9月) | |
静岡県財政 | 債務約2兆円(現地調査訪問時、2000年9月) |
2.【事例】 静岡空港の課題の整理
2−1 現地視察、現地調査からの課題
(1)必要性.............そもそもどこまで必要性があるのか
日本の国土の広さは米国のカリフォルニア州程度、日本は世界に誇る新幹線及び在来線鉄道、高速道路網が完備されている。静岡県は地政学上それら世界に冠たる高速鉄道の恩恵を受けている。日本のどこの知事や経済界も空港、とくにジャンボ(747)級が離発着可能な大空港(2500m以上)を欲しがる。
コミュータ空港ならいざしらず、国、自治体ともに累積債務が増加しているさなか、(報告時:国645兆円、静岡県2兆円弱)になろうとするなか、2500mの滑走路をもつ空港を豊かな自然環境を破壊してまで建設することが必要であるかどうかきわめて疑わしい。当初から赤字が想定されている建設中の中部国際空港と24時間化、国際空港利用が進んでいる羽田空港や成田空港の間にあって、なぜ大空港が必要なのか県民に対する説得力のある説明はない。
(2)航空需要の想定............需要の過大想定ではないのか?
県による当初計画の年間乗降客想定(176万人)はどうみても過大ではないのか? 高知空港の1998年度の乗降客がその規模だが、交通ネットワーク、地政学的にみてまったく状況は異なる。市民団体側の将来需要推定では、富山空港、徳島空港並の90万人がせいぜいとされている。地方空港の1/3以上が乗降客が50万人前後でその存在理由が問われている。空港は地方財政上お荷物となっている自治体が多い。しかも、それらの多くは、当初の将来需要を過大に推定して建設している。たとえば、空港計画策定時に日本のGDPを4%と推定することなど、およびバブル時代の右肩上がりを想定したものであり、21世紀の社会経済状況を見誤っていると思える。
国内線 | 124.1万人 | 新千歳・福岡・長崎・熊本・鹿児島・那覇(6路線) |
国際線 | 41万人 | ソウル・北京・上海・台北・香港・バンコク・シンガポール・グァム・サイパン・ホノルル(9路線) |
合計 | 165.1万人 | |
出典:2000年6月東海道新幹線新駅設置の候補地を選定するに当たっての検証による見込み(静岡県 ) |
出典:読売新聞、2000年11月16日号 |
(3)国際空港 vs コミュータ空港.......2500m級滑走路をもつ空港など不要ではないか?
静岡空港ではジャンボが離発着する2500m級の大規模空港が建設されている。なぜ、現状でジャンボ級の空港設備が必要なのかについての合理的な説明がない。これはバブル時代にどこの自治体でも国際化、国際化と地元から海外に飛べる航空機と空港を建設あるいは拡張する計画が相次いだことに関連している。現在の最新の中型ジェット機であるB767、B777などは2000m級の滑走路で十分離発着できる。このように空港計画の技術面でも静岡空港はバブル時代の設計そのままの無駄な投資が行われていると言える。
(4)航空会社経営からの課題
近年、航空会社は、厳しい競争原理にさらされており、地方空港への就航については費用対効果からみて、合理性がない路線には、すべてに費用がかかる747等の大型ジェット機の就航に難色を示す、というより明確に断るケースが増えていると言う。実際、日本の航空会社は、いずれも今までにないほどの競争にさらされており、航空需要が少ない空港にジャンボを就航させることについては、さもなくとも悪化している経営を極端に悪化させることから経済合理性の観点から明確に固辞している。もちろん、図1にあるように、実需要がある新千歳や福岡のようなドル箱路線は別格として、第2種の地方空港にジャンボを就航させることにはきわめて消極的である。
合理性のない理由で就航させると、半分以下が空席となり、ジェット機離発着料、整備料、客室乗務員いずれも767や777などの中型機に比べ格段に費用がかかるジャンボでは、とばせばとばすほど当該路線の赤字が累積することになり、それらを多くかかえることにより国内路線経営全体が悪化することになる。
(5)航空機の技術面での課題
技術面でも、B747等の大型ジェット機は、燃料満タンでたとえば成田からニューヨークや欧州までノンストップ就航が可能となっている。したがって、日本国内のように、一部を除き、離陸してからすぐに着陸するにはもともと不向きである。また燃料の使用効率も極度に悪くなる。さらに、離発着時の車輪の使用頻度も多くなり、メンテナンス費もかさむ。
要約すれば、現在は以前のように自治体、地元経済界さらに政治家の論理ではなく、あくまでも航空会社(エアライン)側、すなわち経営側の論理、費用対効果分析によって、中型ジェット機であっても地方空港への就航の是非を評価している。ましてジャンボ就航の是非を経済、技術以外の要因で決められるということにはきわめて慎重であるということである。
(6)首都圏の第3空港足り得るか
静岡県は首都圏第3空港ないしその補完となりうると言う提案もある。しかし、航空会社の側から見ると、搭乗乗客数はもとより、国内、国際便への相互連結や有機的な交通機関連結を重視するから到底首都圏第三空港とはなりえない。静岡空港は首都圏からの距離の問題だけでなく、国内外からの航空機への連結、また新幹線への有機的な連結などの観点から見て補完たりえないと言える。航空会社が搭乗率の悪い路線を容赦なく廃している現状からみても、また新幹線網との競合の関連からも静岡空港の乗降客数、搭乗率を当初予想を満たす要因は少ないと思える。
(7)新幹線との連結.............物理的に不可能ではないのか?
静岡空港が首都圏第3空港の補完となるためには最低限新幹線新駅が必要となる。JR東海の幹部が静岡空港の現地を訪れた国会議員やわたくしたちに配布した資料において、新幹線の新駅を設置することは物理的にも不可能であると言明した。その意味で、新幹線との連結を冒頭議員らに述べた知事の発言はJR東海がいうように誤解をあたえるものである。事実、JR東海が配布した副知事あて文書にも静岡県が県民などに誤解をあたえていること言及している。
(8)用地買収..................年内買収完了はまず不可能と思えるが?
空港施設内の共有地、トラストの現状からみて知事が公約している年内の全面用地買収は不可能と思える。住民側資料(用地買収地図)からみて最短でも、あと数年はかかるだろう。静岡県知事が政府、自民党に土地収用法の改正を要望していることが地元新聞に報じられていた。今まで建設省に土地収用法改正の要望をだしている機関は、厚生省(現在、環境省リサイクル部)、東京都、長野県(田中康夫知事誕生以前)であり、いずれも廃棄物の最終処分場、幹線道路、ダム建設などの公共事業を強引に押し進めている国や自治体ばかりである。
用地取得率(県公表) | 本体部 97% | 全体88% | |
空港設置許可処分の取消訴訟 での原告調査 |
本体部 90%程度 | 全体80% | つまり同意しても県と売買契約していない土地が存在する |
(9)静岡県財政への影響.......さもなくとも財政悪化となっている
静岡県の財政は、累積債務(県債、縁故債など)が2兆円弱あることに象徴されるように、財政の健全性に乏しい。今後はどうみても右肩上がりの経済は望めない。また少子化と高齢化がすすむなかで、累積債務をどう返済して行くかが問われている。地方空港(第三種空港)への補助が増えれば、特別会計の支出が結果的に特別会計が赤字となり、国の債務が増える可能性もある。建設費、第三セクター、空港供用管理などでの県からの一般会計支出が増えることは、県の財政の硬直性を増すことになる。
(10)当初予算の増加............どうみても当初予算の1900億円では無理ではないのか?
従来の進捗状況と予算消化率からみると、おそらくこのまま進むと当初予算の2倍近くとなる懸念がある。その場合には国からの特別会計の補助を増やさずを得なくなる。また第三セクターによるビル建設、設備関係費用が増えると、その分、融資が増えることになる。その結果、一般会計からの返済額も増え、結果的に国、自治体の財政も悪化する。日本各地で見られる必要性に乏しい大規模公共事業による財政悪化の典型ここにも見られる。
(11)地場産業への影響...........茶業など静岡県の代表産業をつぶしていいのか?
静岡空港建設により70ヘクタール弱の茶畑が空港施設用地ないにあるとされている。もっとも大切な地場産業を大規模に破壊して社会資本整備することは問題ではないのか。
(12)空域設定の安全性...........航空自衛隊の空域と接近しており安全性に問題は無いのか?
航空自衛隊基地から離発着する航空機の空域との関係は安全上重要な点となる。関連資料によると静岡空港では、きわめて無理は空域の設定がされている。静岡空港を利用する航空機は、航空自衛隊の航空機の離発着により、プロファイルそのものが空域設定により著しく制約をうけることになる。気象条件次第では、離発着できない可能性もあると思う。空港の供用ができないなど、致命的となる可能性もある。
1−2 環境影響評価や環境配慮は適正に行われたか?
図2 静岡空港完成予定モンタージュ図 | |
(1)里山、自然環境への影響..... 未曾有の自然環境破壊ではないか? 静岡空港は愛知万博で問題となった「海上の森」地域を2つ潰すくらいの造成工事規模となっている。しかも植生自然度が「9」と、「海上の森」よりも高い地域もある。静岡空港は県民にとってかけがえのない里山を壊し造成している。左の竣工予定写真をみても、里山をそっくり切断し滑走路を建設していることが分る。 |
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出典:静岡県空港建設局パンフレットより |
(2)猛禽類(オオタカなど)への影響 空港施設整備予定地に、貴重な鳥類、猛禽類のオオタカの営巣が見つかった。ところが、貴重種の保護をはかる対策を検討すべき「オオタカ保護対策検討委員会」の委員長は、同時に「静岡空港環境監視機構」の委員長も務めている。しかも、県知事のオオタカの営巣の撤去命令がそれらの委員会や機構の提言や承認のもとに出されているとされている。 (3)航空機騒音のWECPNL......アセス段階でのWECPNLは信用できるか? 航空機騒音は空港事業の環境アセスで実施されるが、通常、その予測、評価は運輸省の外郭団体が一手に行っている。そのWECPNLアセスは、実際に航空機が離発着した場合の航空機騒音と著しく異なっている可能性がある。それが原因となり、多くの地域紛争や民事訴訟も起こることもある。 |
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出典:静岡県空港建設局パンフレットより |
(4)新幹線上を滑走路が通る問題..世界にも例がない工法を採用するらしいが新幹線の安全性確保上問題はないのか?
これについては工法の技術論そして財政面からも課題があると思う。100%安全ということはありえない。わたくしたちの現地調査時に会ったJR東海も静岡県幹部も問い詰められ自信がなさそうであった。図2にある滑走路の真下(地下)を東海道新幹線が通過する予定となっている。
(5)住民との合意形成........財政、環境、安全などを憂慮する住民団体との議論が不充分、みきり着工となっていないか?