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第1次研究報告を公表(1月24日)したと同時に、ペルシャ湾に原油が流出したとの報道があった。本研究では、その経緯を追うとともに生態系への環境影響を推定する。
1) 1月24日から1月26日で最大300万バーレルが流出しているという報道があった。 2) 流出場所は、シーアイランドというクウェートの積み出し基地近くでの流出の可能性が大きいとのこと。 3) 共同通信によると油膜の厚さは流出点近くで最大3m位とのことであった。 4) 1月27日の報道ではさらに1日当り10万バーレルが流出しているという。 5) 流出域は、湾岸にそって50km長、14km幅となっており、湾岸を南下している。 6) 報道されている最大流出量から判断すると、アラスカ沖で座礁し原油を流出させたバルデイーズ号(エクソン社)の1,100万ガロンの10倍〜20倍の規模と考えられる。 7) 1月28日、600万バーレルに流出量が増加と報道がある。 8) 1月30日、1,100万バーレルと流出量が増加。 9) 1,100万バーレル規模でバルディーズ号の流出量の20〜30倍規模となっている。(1バーレルは、アメリカの単位では、35ガロン、159リットル) 10) 2月1日現在、サウジアラビア気象環境省によると流下距離は200kmにも達していると言われる。 11) 流出量については、いろいろと腑に落ちない点が多い。日量300万バーレルで増加しているとの報道があり、1,100万までいったが、一方シーアイランドでの流出量は10万B/日といわれており、計算が合わない。
1) ペルシャ湾は・閉鎖性水域であり潮がオマーン湾など外洋に出にくい。 2) 水深が30〜50mと浅い。 3) 気象(風向・風速)との関連では、時計と左回りの潮流となっており、時間の経過とともに、クウェートからサウジ方面に流れる。 4) 流速は、時速20〜30km程度。
図2-1 ペルシャ湾の海洋地形と潮流の特徴
1) 植物性及び動物性プランクトンなど海洋徴生物への影響 2) 貝、魚、エビなど魚介類、海洋水産物への影響 3) 養殖魚介類への影響 4) 鳥類など野生生物への影響(水面と間違え飛来する。重油の粘性で飛び立てなくなる。揮発性物質の毒性による中毒。) 5) イルカ、クジラ等の大型ほ乳類への影響、(重油で呼吸が困難となり窒息する) 6) アオウミガメ、ウミヘビ、ジュゴン等稀少生物への影響 7) 藻場、サンゴ礁などこわれやすい海洋生態系全体への影響 8) 長期的には食物連鎖によって食物への影響(発癌性物質等)
1) 炎上した場合には、沿岸地域(〜10km)で最大で10ppm以上のいおう酸化物、窒素酸化物など大気汚染が発生(硫黄酸化物の場合の1時間環境基準は0.1ppm)。 2) これらは酸性雨の原因となる。対流圏で輸送されると地球全体の酸性雨のバックグランド濃度を高める。 3) 炎上した場合には、沿岸地域(〜10km)で有毒ガスである一酸化炭素(CO)が発生する可能性が高い。 4) 炎上した場合には、膨大な二酸化炭素(CO2)が発生し、対流圏・成層圏に達すると長期的には温暖化への影響がでる。 5) 炎上した場合には、ばいじん(スス)が太陽光線を遮る可能性がある。粒子の大きさにもよるが、成層圏までチリが達すると、いわゆる「核の冬」現象を呼び起こす可能性もある。
1) 湾岸諸国の飲料水を提供する淡水化施設が使えなくなる可能性がある。 2) 淡水化施設は、取水口が海面から3から5mの位置にある。潮の干満によっては流出重油が取水口に流入する可能性がある。 3) 淡水化施設は、目本企業が受注しているが、有事を想定おらず、オイルフェンス等が施設周辺に用意されていない。
1)量が膨大過ぎて通常の対策が通用しない可能性が高い。 2)物理対策: オイルフェンス、回収船によるポンプによる汲み出しオイルフェンスは、20m長、海面上は30cm、下が40cm程度であるが、膨大な量が必要となる。
波が高いとくぐりぬけが起こる。
回収船の処理能力は、1時間600バーレル程度。
600万バーレルでは、1000台の船でフル操業して10時間程度がかかる。2日位たつと凝固してゆく。
オイルボール化すると沈殿して行く。3)化学対策: 薬品(油処理剤)による固形凝固化、中和剤等の対策は、副作用が多く使えそうもない。また、費用がかかる。
回収量は10%程度、最大で15%位か。
油処理剤の使用は、油を乳化し、分散させ、浄化を進めるが魚介類への影響がある。4)生物処理: バクテリアを使った微生物処理は、効果的だが、これだけ大規模だと果たして効果があるか否か分からない。
水温、気温が高いのでバクテリアの繁殖速度は高い。
生物処理は、水温、気温が高いのでバクテリアの繁殖速度は高く有効だが、処理量が膨大で果たしてどの程度かかるか分からない。5)洋上炎上: 燃やすことによる処理は、大気汚染の発生、揮発性部分がなくなってからの炎上では時間がかかり影響が大き過ぎる。
1) 影響は、10年から1世紀も続くと指摘する海洋専門家もいる。 2) ホルムズ海峡、オマーン湾を経由しインド洋まで流出する可能性もある。 3) 最終的には、北極、南極の氷に重油がはさまれる。
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本報告は1月下旬ペルシャ湾に流出した原油の流れを予測し、サウジアラビア沿岸の主要地点への到達時期を推定することを目的としている。ペルシャ湾は大規模な閉鎖性水域であり水深も浅い。流下する原油は沿岸域のプランクトン、魚類、ほ乳類などの海洋生物や海洋生態系に影響を及ぼすことは避けられない。したがって、いつどこに流出原油が到達するかについて予測することは、オイルフェンスはじめ対策を講ずる際に重要なものとなると思われる。
本調査では流況予測にコンピュータシミュレーションを用いている。その予測過程で国運機関(IMO)、アメリカ沿岸警備隊、アラムコ(石油会社)、キングファハド石油鉱物資源大学、などによる流出原油追跡調査情報が得られた。ここではそれらの情報を含めて解析している。
環境総合研究所(ERI)では1月20日前後にカフジ周辺の製油所から流出したと思われる原油及び1月24目にクウェートの原油積出港(シーアイランド)から流出したとされる原油がその後どう海面を流れてゆくかを予測するため、ペルシャ湾の海洋地形データ、気象(風向、風遠)、」主要地点での海流(Tidal Range)などの基礎的なデータを収集した。その一方でコンピュータシステムの整備も行った。
4月以降は大西行雄氏(滋賀県琵琶湖研究所に勤務)から技術支援を受け本格的な3次元潮流予測を行った。コンピュータシステムもわが国で入手可能な高速ワークステーションを導入し、リアルタイムでの詳細な予測が可能となった。
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図4-3は潮流計算において用いた海洋地彩の3次元ワイヤーフレーム表示である。但し、図ではz軸方法は強調して表示してある。一方、図4-4は、水深をコンター表示したものである。
ペルシャ湾の海洋地形はサウジアラビア側沿岸では水深がきわめて浅い。湾全体の平均水深は約30m、最大水深は91mである。ペルシャ湾の面積は日本の本州とかわらない(24万平方キロ)が、容積は日本海のわずか0.44%にすぎない。閉鎖性水域となっているペルシャ湾の入り口ホルムズ海峡は一番狭いところで65kmである。
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図4-4 ペルシャ湾海洋地形のコンター図 |
気象条件は、大気予測において得た資料によれば、年間を通じて最も卓越する風向は西から北西(WないしNW)であって、ときおり南(S)の風も吹く。海上での平均風速は約3.1m/sとなっている。
差分モデルと海洋地彩及び気象データとともに、実際の予測では各種のパラメータが必要となる。表4-1はペルシャ湾における原油流出予測の典型的なパラメータ設定例を示している。
表4-1 潮流計算に用いたパラメータ
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図4-5に潮流の予測結果の一例を示す。
予測結果からサウジアラビア沿岸における潮流の流遠は最大で20cm/秒、最低でも14cm/秒である。これを1日単位の直線到達距離にすると17.3km〜12.1km/日となる。
予測結果からカフジ近辺の製油所からの流出を1月19日、クウェート領内シーアイランド(原油積出港)からの流出を1月24日と仮定すると、貴重な海洋生物の生息地として知られるアブアリ島(Abu Ali)及びカタール(Qatar)までの最短到達時間は以下のように予測される。
潮流の予測結果からシーアイランド沖流出原油のアブアリ島及びカタールヘの直線的な到達日数を予測した結果を表4-2に示す。
到達地名 | 直線距離 | 到達日数 | 実時間期日 |
---|---|---|---|
アブアリ島 | 約192km | 11.1日〜15.9日 | 1月30日〜2月4日 |
カタール | 約385km | 22.3日〜31.8日 | 2月10日〜2月20日 |
潮流の予測縞果からシーアイランド沖流出原油のアブアリ島及びカタールヘの直線的な到達日数を予測した結果を表4-3に示す。
到達地名 | 直線距離 | 到達日数 | 実時間期日 |
---|---|---|---|
アブアリ島 | 約250km | 14.5日〜20.7日 | 2月8日〜2月14日 |
カタール | 約460km | 26.5日〜38.0日 | 2月20日〜3月2日 |
図4-5 コンピュータシミュレーションによるペルシャ湾潮流予測結果例
図4-6 流出原油到達月日予測結果図
環境総合研究所が入手した関係機関の情報には表4-4のものが含まれる。
なお、図4-7から図4-9にIMOの情報を、また図4-10に米国沿岸警備隊の情報を示す。
調査機関名 | 調査資料名 | 観察年月日 |
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リモセンセンター | ランドサット画像 | 1991/2/16 |
国連 IMO | Gulf Oil Spills Information Bulletin No.1 | 1991 14th Feb |
国連 IMO | Gulf Oil Spills Information Bulletin No.5 | 1991 13th March |
国連 IMO | Gulf Oil Spills Information Bulletin No.6 | 1991 28th March |
米国沿岸警備隊 | Overflight Update Arabian Gulf Spill(1) | 1991 27th March |
米国沿岸警備隊 | Overflight Update Arabian Gulf Spill(2) | 1991 27th March |
米国沿岸警備隊 | Overflight Update Arabian Gulf Spill(1) | 1991 3rd April |
米国沿岸警備隊 | Overflight Update Arabian Gulf Spill(2) | 1991 3rd April |
サウジアラムコ | Shoreline Sensitibity Chart | 不明 |
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図4-9 国連(IMO)の流出原油情報(3) 1991年3月28日 出典:Gulf Oil Spills Information Bulletin No.6 IMO Co-Ordination Centre London |
図4-10 アメリカ沿岸警備隊によるペルシャ湾岸(3月27日現在) 出典:米国沿岸警備隊、1991年3月27日 |
関係機関資料、画像を分析すると、流出原油のアブアリ島、カタールなどの地域への到達月日は次のようになる。
2月中旬までに アブアリ島の10km点前まで到達していた。 2月下旬 アブアリ島に到達する。アブアリ島とサウジ本土との間が狭いこともあって原油は一時閉鎖領域に留まる。 3月上旬 一旦アブアリ島沖に押し流された後、ジュベール方面に南下する。 3月中旬 アブアリ島の先端を抜け出しジュベール沖まで到達する。 3月下旬 カタール沖まで到達。
流出原油の予測値と観測値を比べると、アブアリ島までの経路では予測値と観測値との間に大きな差はないが、カタールまでの経路では予測値の方が観測値よリも20日程度早く到達することになっており大きな差が認められる。
考えられる理由は、予測値は直線距離として流出点と到達点との距離関係を考えていること、流遠及び流況に大きな影響を与える海面風の風向、風遠を予測値では予測期間中一定としているが、実際は南風などによりイラン側に原油が押し流されている可能性が高いことなどが考えられる。これらの点については、図4-11に示すキングファハド石油鉱物資源大学研究所が実施した詳細予測結果を見るとよく分かる。図では、アブアリ島まで到達した原油が何回か押し戻されている。
図4-11 キングファハド石油鉱物資源大学によるペルシャ湾流出原油の詳細予測値
1 | 大西行雄、海洋環境保全の基礎的研究(数値研究、沿岸)、昭和52年度文部省科学研究研究費補助金による特定研究 |
2 | 大西行雄、乱流拡散と密度流、昭和57年度土木学会関西支部講習会テキスト |
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