塩ビとダイオキシン

                池田こみち 環境総合研究所
                                    初出:東京都消費生活総合センター発行
                                        ンターブックレット第6号 プラスチックの話

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●塩ビが犯人?

 ダイオキシン汚染の原因解明が進むなか、プラスチック類の中でも塩素を含む塩ビ製品(塩化ビニール樹脂や塩化ビニリデン樹脂)がごみとして焼却された場合、特にダイオキシン類をはじめとする有害化学物質が発生しやすいことが指摘され、「塩ビがダイオキシンの元凶」との認識が高まっていきました。消費者の間では、暮らしの隅々で使われている塩ビ製品の見直しや排除・返却、他の素材への変更を求める運動も活発化しています。
 こうした動きを受け、塩ビ工業会では「塩ビ工業・環境協会」という組織をつくり、「昨今の塩ビ非難は情報不足による非科学的な主張である」として塩ビの正当性について大々的なキャンペーンを展開しています。塩ビ業界は、ダイオキシンが発生するのは塩ビが原因ではなく、焼却方法や燃焼管理に問題があると主張しています。
 塩ビはダイオキシン問題以前から、ごみ焼却炉における塩化水素の発生と鉛やカドミウムなどの重金属を含む安定剤の問題、フタル酸エステルによって肺を犯される問題、塩ビモノマーによる肝血管肉腫(肝臓癌)の発生の問題などさまざまな課題が指摘されている素材なのです*1)。ダイオキシン問題を契機に改めて「塩ビ」について見直してみる必要がありそうです。

●塩ビはどこに使われている?
 戦後50余年の間にプラスチックの生産量は飛躍的に伸び、1950年に全国で1.7万トンだったものが、今日では約1,500万トンと900倍近くにまで増えています*2)。その中で、塩ビの割合は18%程度を占め、日用雑貨品(10%)、容器・包装材(10%)から農水産業(6%)、電気機械(5%)、自動車・車両(6%)、工場設備(10%)など様々な用途に使われていますが、土木・建築資材として使われる量が53%と半分以上を占めています*3)。ダイオキシンとの関係では、所沢周辺地域の例をみても明らかなように、建設廃材に含まれる塩ビなどプラスチック類が産業廃棄物として不適切に焼却されることによって発生することが問題となっています。

どんな条件でダイオキシンが発生する
 ダイオキシンが発生する原因の9割以上が廃棄物の焼却によることが明らかとなっています。我が国は国土も狭く、埋め立てる場所がないことに加え、衛生面からも焼却することが望ましいとしてこの間、廃棄物を焼却し、その灰を海や谷戸に埋め立てるという方法をとってきました。そのため、廃棄物の焼却率は75%程度と世界でもトップレベル、また、焼却施設の数もけた外れに多いため、煙突から排出されるダイオキシンの量、また、大気中の濃度も欧米に比べて10倍程度も高いというダイオキシン汚染列島となっていたのです。ダイオキシン類は、大きく分けて、つぎのような場合に発生しやすいことが指摘されています。

(1)燃やすごみの組成:プラスチック類が混入していたり、生ゴミの水分が高いなどごみが適切に分別されていないと発生しやすい
(2)焼却方法や炉の型:つけたり消したりする小型炉では不完全燃焼を起こしやすいので、高温連続炉に比べて発生しやすい
(3)排ガス対策の有無:焼却炉にあった適切な集塵機が設置されていない場合に発生しやすい
(4)焼却炉の燃焼管理:焼却炉にあった適切な燃焼管理(温度管理やごみ量の管理と維持管理など)や設備の維持管理を行っていないと発生しやすい

●塩ビなどプラスチックを分別すればダイオキシンは減らせる?

 ダイオキシンは非意図的生成物と言われ、塩素を含む廃棄物が不完全燃焼する過程で意図せずに生成されるやっかいな化学物質です。そのため、燃やすものがきちんと分別されているかどうかがダイオキシンの発生に大きな影響を与えます。産業廃棄物の種類によってダイオキシンの発生がどの程度違うかを測定した結果をみると、木くずや紙くずを燃やした炉では、排ガス中のダイオキシン濃度は10〜20ngだったのに対し、塩ビの血液バッグなどを大量に含む病院の廃棄物を燃やした炉ではフィルター(ろ過式集塵機)の後でも600ngと高くなっています*4)。また、大阪府が実施した焼却物の違いによるダイオキシン類の排出実態調査結果(表1)をみると、廃プラスチックを焼却
した場合、排ガスと飛灰のダイオキシン類の濃度が極めて高くなることがわかります。

表1 産廃の種類別ダイオキシン類発生

焼却対象物 排ガス 焼却灰 飛灰中
(ng) (pg) (pg)
汚    泥 0.16 0.2 2.6
 廃    油  1.10 180 1,300
廃プラスチック 20.0 67 100,000
木 く づ 6.3 330 69

出典:大阪府環境局資料、1998年5月より作成


 一方、プラスチックごみの分別を徹底することによってダイさせた自治体もあります。下図に示した久喜宮代町や大磯町の例からも明らかなように、プラスチックの分別はダイオキシンの排出削減に大きな効果をもたらしました。

図1:埼玉県久喜宮代町での分別効果


図2 大磯町での分別効果

出典:あれも塩ビ!これも塩ビ!塩ビ製品&代替品リスト,「塩ビとダイオキシンを考える」東京市民会議実行委員会 より作成

 さらに東京都の研究所であります、東京都環境科学研究所は最近になって、大気環境学会誌に小型焼却炉の焼却物中にPVCの混入率別の排ガス及び焼却灰中のダイオキシン類の濃度についてのデータを公表しました。図3が実験結果です。図よりわかるように、わずかな混入率でも排ガス及び焼却灰中に高濃度のダイオキシン類が含まれることが分かります。

図3 焼却物中のPVC(塩ビ)混入率と排ガスおよび灰中ダイオキシン類濃

●塩ビはリサイクルすればよい?
 それでは、塩ビは分別してリサイクルすればいいのでしょうか。塩ビ工業・環境協会の資料によれば、年間排出量100万トンのうちリサイクルされる量は約30%となっています。塩ビは実に様々なものに使われています。これらをすべて分別することは不可能なのでプラスチック全般を不燃ごみとして分別している自治体が多いのが実態です。一部には、マークがついているものもありますが、表示の義務づけがないため、現状では塩ビを素材として使う製品メーカーの判断に任されています。仮に、すべての塩ビ製品にマークがついたとしても、それらを塩ビ工業会や製品メーカーがすべて回収・リサイクルする仕組みや制度がないため、結局、自治体の一般廃棄物焼却施設や埋立処分場に持ち込まれたり、産業廃棄物として焼却・埋立されたり、または、家庭の焼却炉などで焼却されることが多いのです。
 農業用ビニールハウスなど一部塩ビ製品がリサイクルされ、卵パックなど別の塩ビ製品になって再び消費者のもとに戻ってくるという現実があることも知っておく必要があります。塩ビがリサイクルされてできた塩ビ卵パックや消しゴムなどの文具類には塩ビのマークがないものも多く、使用後はそのまま家庭ごみとして焼却されることになります。

●塩ビを含め、プラスチック全体を見直そう
 ダイオキシン汚染の問題を契機に、これまで安くて軽くて丈夫という素材の性質から何気なく日常生活で使ってきた塩ビをはじめとするプラスチック類ですが、その選択は正しかったか、改めて問い直してみる必要がありそうです。製造→使用→廃棄の各段階でダイオキシン以外にも有害な化学物質を発生させ、リサイクルにも膨大なエネルギーと費用がかかる塩ビは、リサイクルにも不向きな素材です。製品の選択・購入にあたって、より厳しい目を持つことにより市場を変えていくことが次世代によりよい環境を残すことにつながります。

参考文献
*1) ダイオキシンと塩化ビニル、(株)循環資源研究所長 村田徳治、月刊廃棄物1999年  1月号
*2)論座 1998.7月号 安全神話の崩壊プラスチックの墓場と化した海、小城春雄 北海道  大学水産学部教授
*3)塩ビの使用比率 塩ビ工業・環境協会 塩ビとリサイクルパンフレットより
*4)1998年7月、環境庁資料
*5)あれも塩ビ!これも塩ビ! 塩ビ製品&代替品リスト、「塩ビとダイオキシンを考え る」東京市民会議実行委員会
*6)もっと知りたい 環境ホルモンとダイオキシン、株式会社 環境総合研究所編、
 (株)ぎょうせい発行

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