環境負荷物質の情報をいかに整備するか
−PRTR法の課題−


青山貞一
 環境総合研究所

 初出:日本金属学会、金属学会セミナー、2000年1月27日(東京)

 本講演は、日本金属学会のほか、東北大学素材工学研究所、秋田大学で開催された資源素材学会でも行っています。内容は少しずつ異なります。

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1.はじめに

 「化学物質」が今ほど私達の日常生活と密接に関係する時代はないだろう。家庭用のゴミを燃やすことによってダイオキシンが発生することが分かったのは今からちょうど22年前のことである。にもかかわらず日本のダイオキシン規制が欧米に比べ大幅に遅れたのは、焼却炉からの排ガスデータがつい最近まで公開されなかったためである。技術立国、経済大国と言われながら、世界の先進国で唯一情報公開法をもたない情報公開後進国、日本は世界有数のダイオキシン汚染大国となっていた。今後、有害化学物質の情報公開とその共有化を進めるためにも、PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)などの法整備が急がれる。

 さらに日本の超微量化学物質の測定分析価格が永年、欧米の数倍も高額に据え置かれ、結果的に税金が無駄に使われただけでなくデータ整備と施策がなかなか進まなかった現実がある。日本ではひとの健康や命に関わる有害化学物質の規制や対策が絶えず先送りされ、後回しにされてきた現実があると言っても過言ではない。

 東京など今の大都市では、ひとが深呼吸すれば一度に数100種、また大都市の水道水をコップ一杯飲めば、やはり数100種を超える化学物質を体内に取り込むとさえ言われている。このような多種多様な化学物質の量や質・リスクなどが見極められるようになった背景には、化学物質の分析精度の向上がある。国際的に見ると、その分野の技術進歩はめざましく10年前はもとより5年前と比べても格段に向上しており、今まで「検出されず(N.D.)」とされてきた超低濃度の物質が検出されるようになってきた。
 ダイオキシンは数ある内分泌撹乱化学物質、環境ホルモンのなかで最も毒性が強い化学物質であることが知られているが、従来、ダイオキシン以外の環境ホルモンについては、その実態があまり分かっていなかった。しかし、ここ数年、野生生物などで環境ホルモンの影響と思われる現象が多数報告されるようになった。これは世界中の研究者、環境NGOが環境ホルモンがもたらす生殖毒性や免疫毒性に着目し、集中的に研究と議論を進めてきたからに他ならない。その結果、次第に環境ホルモンの実像が明らかになってきた。

 このようにひとびとをとりまく化学物質は、世界中で10万種以上、日本だけでも5万種以上と日増しに増えている。さらに科学技術の進歩によってそのリスク、ハザードについての情報も一昔前とは比べものにならないほどいろいろなことが明らかになっている。
 21世紀を目前に、化学物質に依存した現代人の生活を改めて見直し、人類にとって貴重な資源でもある化学物質とどのようにつきあっていけばよいのか、また、化学物質をめぐる新たな政策づくりに市民として、また、消費者としてどのように関与していけばよいのか、じっくりと考えてみる時期にあるのではないか。

2.超微量物質分析の進歩と超微量化学物質がもたらす環境・健康リスクの顕在化

 高分解能ガスクロマトグラフィー・マススペクトグラム(HR-GC/HR-MS)による内標準法の飛躍的進歩により、従来見過ごされてきたpptさらにはppqレベルの超微量化学物質の環境や生物中における存在が測定分析が可能となってきた。
 他方、環境ホルモンと呼ばれる外因性内分泌撹乱物質が生物にもたらす生殖毒性や免疫毒性など、超微量の摂取でも深刻な慢性毒性をもたらす可能性も世界中の科学者による集中的な研究により次第に明らかになってきた。
 一部の研究者の間では、1990年前後より環境ホルモンに関連する研究が進められてきたが、1996年3月に出版された“Our Stolen Future”(邦題「奪われし未来」)がきっかけとなって欧米諸国や国際機関において本問題に対する取り組みが本格化した。(表2−1及び表2−2を参照のこと)

表2−1 環境ホルモンへの取り組みの国際動向例
年月 国・機関 環境ホルモンへの取り組み内容
1991年 米国 ・コルボーンらが専門家会合を開催し、ウイングスプレッド宣言を採択
1996年 3月 米国 ・コルボーンら、“Our Stolen Future”を出版    http://www.ourstolenfuture.org/
6月 米国 ・EPAが食品品質保護法、飲料水安全法に基づき、環境ホルモンのスクリーニング手法の開発に着手
11月 OECD ・環境ホルモンの試験法の開発に着手
12月 英国 ・欧州委員会及びWHOが英国Weybridgeでワークショップ開催
1997年 1月 米国 ・ホワイトハウスがEPAと共同で、スミソニアンでワークショップ開催
2月 IFCS ・IFCS(化学物質安全政府間フォーラム)で検討開始
3月 日本 ・環境庁が研究班を設置
5月 G8 ・G8環境大臣会合において環境ホルモン問題について議論され、子供の環境保護の宣言を採択
7月 日本 ・環境庁の研究班が中間報告書を公表
1998年 3月 OECD ・環境ホルモンの試験法の開発に関する専門家会合を開催


表2−2 野生生物への影響
生物 場所 影響 推定される原因物質
貝類 イボニシ 日本の海岸 雌性化、個体数の減少 有機スズ化合物
魚類 ニジマス 英国の河川 雌性化、個体数の減少 ノニルフェノール 断定されず
ローチ 英国の河川 雌雄同体化 ノニルフェノール 断定されず
サケ 米国の五大湖 甲状腺過形成、個体数減少 不明
爬虫類 ワニ 米フロリダ州の湖 オスのペニスの矯小化卵の孵化率低下、個体数減少 湖内に流入したDDT等の有機塩素系農薬
鳥類 カモメ 米国の五大湖 雌性化、甲状腺の腫瘍 DDT、PCB 断定されず
メリケンアジサシ 米国ミシガン湖 卵の孵化率の低下 DDT、PCB 断定されず
哺乳類 アザラシ オランダ 個体数減少、免疫機能低下 PCB
シロイルカ カナダ 個体数減少、免疫機能低下 PCB
ピューマ 米国 精巣停留、精子数減少 不明
ヒツジ オーストラリア(1940年代) 死産の多発、奇形の発生 植物エストロジェン(クローバ由来)


3.日本で内分泌撹乱作用が疑われている原因物質の用途と規制

 表3−1は、現在、日本の環境庁が環境ホルモンとリストアップしている67種類の化学物質の用途内訳とその既存の法律での規制状況を示したものである。

表3−1 日本で環境ホルモンとリストされている67種の用途内訳
主な用途 物質概数 主な規制等
農薬 殺虫剤 22 毒劇法、食品衛生法、化審法、POPs、土壌残留性農薬、家庭用品法、水濁性農薬
殺ダニ剤 1 食品衛生法
除草剤 7 毒劇法、食品衛生法、海防法、水濁法、廃掃法、水道法、地下水・土壌・水質環境基準、水濁性農薬 ・ ・工業製品
工業製品 電気製品 1 地下水・土壌・水質の環境基準、POPs
ノンカーボン紙 1 化審法、生産中止、水濁法、海防法、廃掃法、
難燃剤 1
殺菌剤 9 化審法、POPs
有機合成原料 1
防腐剤、漁網防腐剤 1 水質汚濁性農薬、毒劇法
分散染料 1
樹脂の硬化剤 1 食品衛生法
船底塗料 2 化審法、家庭用品法
界面活性剤の原料 2 海防法
分解生成物 2 海防法
樹脂原料 1 食品衛生法
プラスチック可塑剤 5 水質関係要監視項目、海防法
染料中間体 1 海防法
医療品合成原料、保香剤 1
スチレン樹脂の未反応物 1 海防法、毒劇法、悪臭防止法
非意図的生成物/重金属 1 大防法、廃掃法、POPs

注)物質数は用途で重複カウントしているため、70より少ない。このほかに、カドミウム、鉛、水銀も内分泌撹乱作用が疑われている。化審法:化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律、大防法:大気汚染防止法、水濁法:水質汚濁防止法、廃掃法:廃棄物の処理及び清掃に関する法律、毒劇法:毒物及び劇物取締法、家庭用品法:有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律、POPs:陸上活動からの海洋環境の保護に関する世界行動計画に指定された残留性有機汚染物質、土壌残留性農薬・作物残留性農薬・水質汚濁性農薬:農薬取締法に基づく


4.日本における環境ホルモン研究の今後

 これまで得られている知見からは一般生活環境において環境ホルモンが人に影響を及ぼしているか否かを判断することは困難でとされ、今後、国などで次の調査研究を推進することとなっている。

表4−1 日本における環境ホルモン研究の今後
実態調査 環境モニタリングの充実 調査対象の化学物質数、調査地点の充実
調査する生物種の拡大
鳥類やほ乳類などの野生生物の影響調査
人の健康影響調査 環境ホルモンと関係が指摘される疾患についての疫学的調査
精液性状に関する経年的なモニタリング調査
研究解明 生殖、神経、免疫等の影響に関する動物実験
レセプター等を介した作用メカニズムの解明
毒性の決定時期を特定するための研究
動物の種差を利用した比較内分泌学的研究
バイオマーカーの開発
スクリーニング手法を含めた試験法の開発
体内動態に関する研究、予防法に関する研究
リスク評価
研究情報 国内外にわたる研究情報交換の仕組みが必要であり、具体的には;
・研究者間の連携のためのワークショップの開催
・国際的、学際的な共同研究の推進等


5.化学物質と情報公開  PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)とは

 正式名称は、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」、いわゆる「化学物質排出管理促進法」を指す。PRTRは、Pollutant Release and Transfer Register の略。

 OECDによれば、PRTRは「潜在的に有害な物質の様々な排出源から環境への排出又は移動の目録もしくは登録簿」を意味し、PRTR制度構築の目的は、「汚染物質の排出や移動に関する情報の入手を容易にすることで市民の知る権利を認めること」、「潜在的に有害な排出及びまたは移動によるリスクの削減を促進するためにPRTRを利用すること」とされている。地球サミット(1992年リオデジャネイロ)で採択されたリオ宣言を実施に移すための行動計画、アジェンダ21に「化学物質全般についての世界各国の取り組むべき方向性(第19章)」として提唱されたことを踏まえ、OECDが制度化のためのガイドラインを作成し、先進各国に導入を求める勧告を行ったことが我が国における法制度化のきっかけとなっている。

 第143回通常国会(平成11年1月〜8月)では、環境庁と通産省の共管により閣法(政府提案)として法案が提出され、市民案骨子を基にした民主党案(議員立法案)と並行して審議された結果、若干の修正を加えて政府案が3月に閣議決定された。

 法案の目的は、事業者による化学物質の自主的管理の改善及び強化の側面が強く、環境保全上の支障の未然防止としての役割は小さい。対象事業所、対象化学物質など詳細は政令で決められる。骨子は次のとおり。

@企業に化学物質の環境中(大気・土壌・水)への排出量や廃棄物としての移動量を把握し、都道府県を経由して国(事業所管官庁)に届けることを義務づけ。
A業所管官庁は自治体経由で報告されたデータを通産省と環境庁に報告する。
B通産省・環境庁は物質ごとに、業種別、地域別、媒体別などに集計し公表するとともに都道府県に関係データを通知する。
C国民からの請求があれば、国(業所管官庁)は営業秘密の保護を確保しつつ、個別事業所のデータを公表するが、手数料を徴収する。
D原料や中間製品に含まれる化学物質については、性状や取り扱いを記載したデータシート(MSDS:Material Safety Data Sheet)を添付するよう事業者に義務づけ。

 なお、事業所等の固定発生源からのデータに加え、非点源(自動車排ガス、農薬散布、家庭からの排出等)からの排出量・移動量についても、別途国が統計データを基に集計し公表することとなっている。


【化学物質管理法の要旨】 【総則】

1条 略、
2条 第1種指定化学物質(第1種物質)は政令で定める。同物質は(1)当該物質そのものや、化学的変化で容易に生成する物質が人の健康を損なったり動植物の生息や生育に支障を及ぼす恐れがある(2)オゾン層を破壊し、太陽紫外放射の地表に到達する量を増加させることにより人の健康を損なう恐れがある−−に該当し、製造、輸入、使用または生成の状況などからみて、相当広範な地域の環境に継続的に存在が認められるもの。第1種物質等取扱事業者(取扱事業者)とは第1種物質の製造事業者、使用者などのほか、事業 活動に伴い付随的に第1種物質の生成や排出が見込まれる者で、取扱量などを勘案して政令で定める要件に該 当する者。

3−4条 略
【排出量の届け出など】

5条 取扱事業者は、第1種物質の排出量、廃棄物としての移動量を把握し、物質や事業所ごとに毎年度、前年度の排出量、移動量を主務大臣に届け出なければならない。届け出は企業秘密として請求する場合(6条の場合)を除き、事業所所在地の都道府県知事を経由して行う。知事は届け出事項に関し意見を付することができる。

6条 取扱事業者は企業秘密に該当するとして、化学物質の名称に代え化学物質の属する分類名で通知するよう主務大臣に請求できる。

7条 主務大臣は取扱事業者からの届け出があったときはその内容を環境庁長官と通産相に通知する。化学物質の属する分類名での請求があったときは分類名で通知するが、環境庁長官と都道府県知事は主務大臣に対し説明を求めることができる。請求を認めない場合は化学物質名を通知する。

8条 環境庁長官や通産相は、通知した事項を電算機のファイルに記録し、記録事項は事業所の所在地の都道府県に通知するとともに公表する。

9条 環境庁長官と通産相は届け出以外の環境に排出されていると見込まれる第1種物質の量を算出し、その結果を集計して公表する。

10−11条 公表日以後、だれでも主務大臣にファイル記録事項の開示請求ができ、主務大臣は開示請求者に速やかに開示しなければならない。

12−13条 略
【取扱事業者による情報の提供など】

14条 取扱事業者は、化学物質を他の事業者に譲渡したり提供するときは、相手方に物質の性状や取り扱いに関する事項を記載した文書などを交付しなければならない。

15−22条 略

【罰則】
23条(1)排出量などの届け出をしなかったり、虚偽の届け出をした者(2)通産相が求めた性状や取り扱いなどの報告をせず、または虚偽の報告をした者−−は20万円以下の過料に処する。

【付則】
政府はこの法律施行後7年経過後、施行状況について検討し必要な措置を講ずる。

6.PRTRおよびMSDS対象物質選定の基本的考え方

 「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(以下、「法」という。)」は、特定の化学物質の環境への排出量等の把握に関する措置(以下、「PRTR 」という。)並びに事業者による特定の化学物質の性状及び取扱いに関する情報の提供に関する措置(以下、「MSDS 」という。)等を講ずることにより、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止することを目的としている(法第1 条)。

 このPRTR 及びMSDS の対象化学物質となるのが「第1 種指定化学物質」であり、法においては、
@当該化学物質が人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがあるもの、
A当該化学物質の自然的作用による化学的変化により容易に生成する化学物質が@に該当するもの、
B当該物質がオゾン層を破壊し、太陽紫外放射の地表に到達する量を増加させることにより人の健康を損なうおそれがあるもののいずれかに該当し、かつ、

Cその有する物理的化学的性状、その製造、輸入、使用又は生成の状況等からみて、相当広範な地域の環境において当該化学物質が継続して存すると認められる化学物質で政令で定めるものとされている(法第2条第2 項)。
 また、MSDS のみの対象となる「第2 種指定化学物質」は、上の@からBのいずれかに該当し、かつ、
C’その有する物理的化学的性状からみて、その製造量、輸入量又は使用量の増加等により、相当広範な地域の環境において当該化学物質が継続して存することとなることが見込まれる化学物質で政令で定めるものとされている(法第2 条第3 項)。
 なおここでいう化学物質とは、元素及び化合物(それぞれ放射性物質を除く)となっている(法第2条第1項)。

7.現時点での排出量公開対象物質と対象業種規模すそ切り案

 化学物質を製造、使用している事業者に、大気中や河川への排出量を公開させ、削減に結びつける特定化学物質の把握と管理・促進法(PRTR法)の施行を2001年に控えて、環境庁と通産省は、対象物質を356種類とし、取扱量の少ない企業まで対象事業所に含めるとの案をまとめた。
 国民の意見を募集しており、それをもとに来春政令で決める予定。産業界は、対象事業所の範囲を狭めるよう求めており、原案通り決まるかどうかは微妙である。両省庁は中央環境審議会と化学品審議会の合同会議で検討してきた。物質選定の基準として、一定以上の毒性があり、年間の製造・輸入量が100トン以上、発がん性があったり農薬だったりするものは10トン以上とした。対象物質は発がん性のあるベンゼン、塩化ビニルモノマー、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニール(PCB)など356物質。また、将来対象物質に格上げされる可能性のある候補としてパラクロロフェノールなど83物質が別に選ばれた。
 一方、PRTRの対象業種は47業種。対象物質を年間1トン以上扱い、従業員が21人以上の事業所に報告義務を課す。全国で数万事業所が見込まれる。両省庁は、これで全国の取扱量の9割以上、排出量の8割以上を把握できると見ている。産業界側から「取扱量の規模が小さすぎ、企業の負担が大きい」との反発が出ていることについて、環境庁環境安全課は「排出量を正確に把握するために必要だ」と話している。

【対象業種案】 

D 鉱業のうち次に業種 金属鉱業、原油・天然ガス鉱業

F 製造業(全業種)食料品製造業、飼料・たばこ・飲料製造業、繊維工業、衣服・その他の繊維製品製造業、木材・木製品製造業、家具・装備品製造業、パルプ・紙・紙加工品製造業、出版・印刷・同関連産業、化学工業、石油製品・石炭製品製造業、プラスチック製品製造業、ゴム製品製造業、なめし革・同製品・毛皮製造業、窯業・土石製品製造業、鉄鋼業、非鉄金属製造業、金属製品製造業、一般機械器具製造業、電気機械器具製造業、輸送用機械器具製造業、精密機械器具製造業、武器製造業、その他の製造業、

G 電気・ガス・熱供給・水道業のうち次の業種、電気業、ガス業、熱供給業、下水道業

H 運輸・通信業のうち次の業種、鉄道業、倉庫業

I 卸売・小売業、飲食店のうち次の業種、各種商品卸売業のうち石油卸売を行う者 石油卸売業、鉄スクラップ卸売業(*)、自動車卸売業(*) 、燃料小売業

L サービス業のうち次の業種 洗濯業、写真業、自動車整備業、機械修理業、商品検査業、計量証明業、廃棄物処理業のうち以下の業種 ごみ処分業、産業廃棄物処分業、特別管理産業廃棄物処分業、高等教育機関(大学等)、自然科学研究所

公 務  公務についてはその行う業務によりそれぞれの業種に分類して扱うため、分類された業種が上記の対象業種であれば同様に届出対象となる(例:印刷工場:印刷業、下水処理場:下水道業、ごみ焼却場:廃棄物処理業、各種の国公立の自然科学系研究所:自然科学研究所)。また、自衛隊も届出対象となる(車両の  整備に伴う溶剤、塗料の使用、燃料供給時の燃料中の化学物質の揮発等)。
 

8.PRTR法の課題

(1)情報公開の保証、とくに情報開示請求手続、手数料額について
(2)企業、事業者と地域住民,NGOとのリスクコミュニケーションについて
(3)諸外国制度との比較における個別工場、事業所単位のデータ公開手続について、
(4)営業秘密による適用除外評価の第三者性、とくに対象物質や対象事業所の基準等選定の透明性について
(5)素材、材料、中間部品、部品、製品、廃棄物とPRTRの対象の有無
(6)点源(個別工場、事業所等)、非点源(道路等)からの排出量と濃度、環境リスク、健康リスクとの関連性について
(7)PRTRにおける「排出」、「移動」の範囲が狭すぎることについて
(8)PRTRの対象となる「もの」の範囲が狭すぎることについて

図8−1 排出量、移動量の把握
 


図8−2 対象製品について(案)


9.化学物質データベースとアクセス

 以下は、環境総合研究所編、青山貞一著者代表の「もっと知りたい環境ホルモンとダイオキシン」(出版社ぎょうせい、の大西行雄執筆分からの引用である)

 化学物質の安全管理のためには、膨大な数にのぼる化学物質に関して、環境濃度、発生源、物理化学性状、有害性、処理技術、規制法規などについての情報を収集する必要がある。このような情報収集のためには、まず、情報公開されていなければならないのは言うまでもないが、一方で、すでに公開されている情報を効果的に収集することも必要である。まず、化学物質の名称はひとつではない。同じ物質について、日本語での名称、英語名、慣用的な呼び名、商品名など10をこえる呼び方があることはめずらしくない。たとえば、あるデータベースでは「ダイオキシン」で検索してもヒットしない。「2,3,7,8-テトラクロロ-p-ジベンゾオキシン」で検索するとヒットする。これはダイオキシンがいくつかの化学物質の総称であるからである。「ダイオキシン」ではだめでも「dioxin」でヒットするデータベースもある。

 データベースにアクセスするには、その名称が総称なのかそれとも慣用名なのかなどの情報をまず知る必要がある。欧米のデータベースにアクセスするには英語名を知る必要がある。その目的では社団法人日本化学工業協会のホームページhttp://www.jcia-net.or.jpが便利である。その他、試験運用中だが神奈川県環境科学センターのホームページhttp://www.k-erc.pref.kanagawa.jp/も利用できる。物質の英語名がわかっている場合には、その物質の物理化学性状やCAS番号などの概要情報はhttp://chemfinder.camsoft.com/から得ることもできる。。その他の情報源としては国立医薬品食品衛生研究所のホームページhttp://www.nihs.go.jpも有効である。

 無料のホームページ以外にいくつかの商用データベースが利用できる。まず、物質の日本名と英語名、化学式、CAS番号などの関係を調べる辞書として日本科学技術情報センターが提供するJICSTデータベースの中の「JCHEM化学物質辞書名称ファイル」が便利である。同じJICSTの中に科学技術文献情報もありおもな科学雑誌の論文の検索も可能である。化学物質商用データベースにはCIS(Chemical Information System)がある。CISは、別表のように化学物質に関する複数のデータベースをまとめてアクセス方法を統合したもので、それぞれの得意分野に応じて使い分けると、効果的な情報収集が可能となる。これらの専用データベースを利用するときには、名称で検索するよりもCAS番号を使って検索した方がはるかに速く、確実に検索できる。CAS番号をしるためには上述のホームぺージで事前の検索をしておく。

表9−1 CISを構成する個別データベースと、それぞれの得意分野
CIS database 物化性状 毒性 環境動態 法規 分析法 産業 処理方法
RTECS -
OHMTADS -
IRIS -
MERCK - - - -
AQUIRE - - -
ENVIROFATE - - -

凡例:◎とくに有効、○有効、-対応なし

 CIS(Chemical Information System)は米国NIH(National Institute of Health)を中心にEPA,/NIOSH/NBS/FDAなど米国の政府機関がもっている情報を検索するオンラインシステムとして1975年に発足した。その後、レーガン緊縮財政のあおりで1983年にこのプロジェクトは打ち切りになるが、その翌年に民間会社がこのシステムを買い取って再スタートして、現在は英国のOxford Molecular GroupがCISを運用している。ホストコンピュータは米国メリーランド州にあり日本からの場合には国際VANであるVenus-PまたはSprint-Netを経由して9,600bpsの速度でパソコン通信でアクセスするか、あるいはインターネット(TELNETプロトコル)でアクセスすることも可能です。CISは化学物質の毒性・安全性・法規制などについてのEPAのデータが充実していて、これらの情報を扱うものにとっては必須といってよいほど重要なデータベースである。

 以下にタイトルとレコード数、紹介物質数などを示す。物質数はパンフレットによるもので現在はそれより増えていると思われる。

AQUIRE/Aquatic INFORMATION Retrieval
1
37,542 records,物質数:2,600、 真水と海水中の生物における化学物質の毒性影響

ENVIROFATE/Enviromental Fate
15,400 records, 1,600物質、 環境中に放出された化学物質の変化や分解などの情報

IRIS/Integrated Risk Information System
680物質、 発芽婦負に主眼をおいたリスクアセスメントのための基本情報

MERCK/Merck Inex Online
11,000物質、 化学薬学情報辞典、商品名、用途、主な薬学作用、毒性


OHMTADS/Oil and Hazardous Materials/ Technical Assistance Data System
1,402物質、有害物質の流出、廃棄にかかる緊急対処に必要な技術情報

RTECS/Registry of Toxic Effects of Chemical Substances
139,571物質、化学物質の毒性情報。急性および慢性毒性値、皮膚と目の刺激データ、発ガン性、突然変異性などの情報

10.化学物質総合管理・環境影響評価システムについて

 以下は、事業者が化学物質情報管理及び地域社会、住民との間でのリスクコミュニケーションを計る上で必要となる関連情報の管理システムについて環境総合研究所が現在開発しているシステムの概要である。

(1)物質収支情報管理機能に関連する情
   本システムで取り扱う情報は、原料、製品等に含まれる有害物質の「種類別」が、事業所へ入ってくる量、形態、出ていく量、形態である。

 事業所情報等
・報告年度/・事業所の名称/・事業所の所在地/・業種(一覧から選択)/・主要製品/・従業員数
・年間工場出荷額/・担当者氏名/・担当者連絡先(住所、電話番号、ファックス番号)/・一体として報告される事業者名/・当該事業所の工程分担

 物質別集計データ
・化学物質名/・CAS NO./・整理番号/・大気への排出量(年間排出量[kg or g]、主たる算出方法、主たる排出先)/・公共用水域への排出量(年間排出量[kg or g]、主たる算出方法、海域・河川等)/・下水道への排出量(年間排出量[kg or g]、主たる算出方法、下水道等の名称)
・水域への排出量(年間排出量[kg or g]、主たる算出方法、主たる排出先)
・土壌への排出量(年間排出量[kg or g]、主たる算出方法、排出先市町村)
・排出量合計(年間排出量[kg or g]、主たる算出方法、主たる排出先)
・廃棄物としての移動量(年間移動量[kg or g]、主たる算出方法、移動先市町村、廃棄物の形態、主たる処分方法)
・自ら行う廃棄物の管理型埋立処分量(年間埋立量[kg or g]、主たる算出方法)
・リサイクルのための移動量(年間移動量[kg or g]、主たる算出方法)

(2)製品入出庫・廃棄情報管理機能

(3)PRTR法による報告出力機

図10−1 環境総合研究所(ERI)化学物質総合管理・環境影響評価システムの概要

opyright by 株式会社 環境総合研究所

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