焼却炉排ガス濃度測定の課題と
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1.はじめに
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図2−1 排ガス温度とダイオキシン類濃度の相関の概念図 出展:環境総合研究所 |
図2−2 准連続炉の各燃焼段階における ダイオキシン類生成量の割合の例 (出典:手島肇、1977) |
したがって、@どの時点で、A何時間単位で排ガスをサンプリングするか、は排ガス濃度の測定上極めて重要な要素となる。焼却炉、とくにバッチ炉や准連続炉における排ガス中のダイオキシン類の濃度は、図2−1に示すように、たち上げ及び立ち下げ時に高くなる。これはたち上げ、立ち下げ時に、燃焼温度が下がること不完全燃焼となることなどに原因がある。
たち上げ、立ち下げ時にダイオキシン類の排出量全体の約半分が発生するとされている。しかし、厚生省のマニュアルでは、「ダイオキシン類及びコプラナーPCBsの測定は、4時間平均を基準とし炉の焼却状態が安定化した時点から、最低1時間以上経過した後に試料採取を開始する」としており(表2−1)、焼却炉の燃焼条件、燃焼管理が一番良好なときに4時間だけ試料採取することを奨励している。
これでは実際の排ガス濃度を反映した測定にはならない。
ダイオキシン類及びコプラナーPCBの測定は、4時間平均を基本とし炉の燃焼状態が安定した時点から、最低1時間以上経過した後に試料採取を開始する |
いわゆる排ガスの測定時に通常と全く異なるゴミ、すなわち検査用のゴミを使う実態があることが従来から指摘されている。プラスチック系廃棄物、とくに有機塩素系廃棄物が含まれるか否かで、排ガス濃度は著しく異なる。通常はプラスチック廃棄物を焼却しているにもかかわらず、測定分析のときだけそれを分別していれば濃度は1/10〜1/1000に低下する可能性がある。また、測定分析に備えて空炊きをするなど、普段とはことなる操作を行うこともあるという指摘もある。
排ガスを何回か測定分析し、最も低い値だけを報告することなども指摘されている。現状の法律では、立ち入り検査時に排ガスを測定する以外、事業者の自己申告による測定分析データしかなく、これらをチェックすることはきわめて困難である。
環境大気のところで後述するが、排ガス、環境大気中のダイオキシン類の測定分析、とくにサンプリング(試料採取)に関し、米国、カナダなどの諸国では「サンプリング・スパイク」と言って、一旦採取したダイオキシン類が測定分析中に揮散してしまったり、通り抜けてしまう問題を監視するための措置が義務づけられている。とくに長時間にわたり排ガスや環境大気中のダイオキシン類をサンプリングする場合、サンプリングの途中にろ紙やウレタンなどを素通りしたり、一旦採取したものが揮散することを監視するためのものである。日本では永年この「サンプリング・スパイク」の実施が義務づけられていない。これも分析値が低くなることの一因となる。
ダイオキシン類の多くは、廃棄物を焼却処理することにより生じ、当初、排ガス及び焼却灰として地域に排出される。したがって地域におけるDXN汚染状況を把握するためには、本来、環境大気中のDXNを測定分析することが重要なものとなる。しかし、従来、国、自治体などが行ってきた環境大気中のダイオキシン類の測定分析濃度は、1日単位の試料採取による測定分析であるため、調査日の風向、風速と言った気象状況(*1)や焼却炉の稼働率、焼却物の組成などの焼却条件によって測定濃度が著しく変わるので、現状のように年間数日だけ測定しただけでは、地域の正確な汚染状況は把握できない。
(*1) 気象・排出条件と大気DXN濃度との関係
大気に含まれるDXNは、気象条件(風速、風向、日射量、放射収支量、雲量、気圧配置、湿度、温度、降雨など)や、排出条件(焼却量、燃焼温度、燃焼管理状況、焼却廃棄物の組成など)、さらに地形(起伏、高層ビルなど)により著しく濃度が変化する。たとえば、焼却炉などのDXNの排出源の風下に測定点があり、発生源と測定点の距離が一定の場合、大気中のDXN濃度(C)は、排出量(Q)に比例し、風速(U)に反比例する。
したがって、測定時の風速(U)や排出量(Q)により大気中のDXNの濃度(C)は著しく変化する。そのため窒素酸化物(NOx)のような大気汚染物質では年間を通じ1時間単位で濃度を測定し年間、24時間×365日=8760時間分の濃度の実測データをもとに、年平均値や98%値などを算出し、環境基準に対する評価を行っている。
環境大気中のダイオキシン類の測定に関しては、国、自治体とも測定日数は年間を通じ4日、多くても春夏秋冬それぞれ2日、合計でも8日である(東京都では平成13年度から毎月1回の測定に変更されている)。年間数日の環境大気中ダイオキシン類の測定により地域を代表する長期平均的、たとえば年平均の汚染状況を把握することは極めて困難である。まして年平均値で設定されている大気中のダイオキシン類の濃度に関する環境基準への適合性の評価は、非現実的なものとなる。
図2−3は、神奈川県厚木米海軍基地の近傍に立地している産廃焼却炉からのダイオキシン類排ガス問題に関連し、日米両政府が共同して1999年夏に1日単位で56日間、連続してダイオキシン類を測定分析した結果を示している。図より明らかなように、大気中DXN濃度は日により100倍以上も著しく変化していることが分かる。図では1日単位で風速も表示している。風速が高い日は濃度が低いことも分かる。この測定分析では、わが国ではじめて後述する「サンプリング・スパイク」を本格適用しており、信頼できる値である。
図2−3 神奈川県厚木基地における大気中ダイオキシン類の連続測定結果
出典:厚木基地日米共同モニタリング調査より環境総合研究所作成
図2−3に示す厚木基地で56日間にわたり連続測定した分析結果を見ると、仮に春夏秋冬に2日間ずつ行っている環境大気中ダイオキシン類の測定分析を毎月2日ずつ年間24回行って平均をとっても、地域の実態をほとんど反映しないことは明らかである。この場合、大気中DXNの1測定地点の1日当たりの測定分析費用を40万円とすると、24日×40万円=960万円にもなる。
さらに測定分析技術の面から見ると、わが国の環境大気中のDXN測定分析では、最近に至るまで試料採取が適正に行われたかどうかを監視するための「サンプリングスパイク」の適用実施が義務づけられていなかった。米国、カナダでは「サンプリングスパイク」が当然のこととして義務づけられている。図2−4は「サンプリングスパイク」の適用実施を義務づけている場合の標準的な測定分析の流れを示している。
図2−4 標準的な大気中ダイオキシン類の測定分析の流れ |
図2−5 ハイボリュームサンプラー(環境大気試料採取装置) 出典:環境総合研究所、Dioxin Bulletin and Review No.13, 2000.7.1 |
環境大気中のダイオキシン類の試料採取は、図2−5に示すハイボリュームサンプラー(Hv)と言う大気吸引及び採取のための機器を使い現場で行う。試料採取は、通常、1日(24時間)かけ連続作業として行う。問題は、環境中にガス状、粒子状態で存在するダイオキシン類が、Hv機器でダイオキシン類を捕捉すべき「ろ紙」、「ウレタンフォーム」を素通りしたり、毒性の強いTCDD(4塩化物),PeCDD(5塩化物)などが、金属製のHv機器内の温度上昇により揮散し、本来採取すべきダイオキシン類の一部しか捕捉できないことである。
それを防ぐため米国、カナダなどでは試料採取時に採取すべきダイオキシンに類する内標準物質(たとえば、13C12-2378-TCDD)をダイオキシン類の異性体毎に添加(スパイク)し、採取後にそれらの内標準物質を回収することにより、その回収率から試料採取が適切に行われたかどうかを監視する。米国、カナダでは米国環境保護庁、カナダ環境省のマニュアルで、サンプリングスパイクの適用実施が義務づけられている。
しかし、日本では平成11年3月になるまでまともな記述すらなかった(環境庁大気保全局大気規制課、有害大気汚染物質測定方法マニュアル、平成9年10月を参照のこと)。
さらに、仮に「サンプリングスパイク」を適用実施した場合でも、現場で内標準物質の添加に手間取ると、捕捉率を監視すべき内標準物質そのものが気温上昇などにより揮散し、適正な試料採取が不可能となることが1999年夏の環境化学会で発表された。図2−6及び図2−7は温度上昇とともに内標準物質自身が揮散してしまうこと、また内標準物質の添加に時間がかかると内標準物質そのものが揮散してしまうことを示している。Hv機器内部は夏場には容易に40℃以上になる。その場合には、内標準物質は半分が揮散してしまうことが分かる。
図2−6 温度の違いによる1234−TCDDの揮散(%)
出典:鈴木滋ら、ダイオキシン類の大気への揮散に関する研究、環境化学会発表論文、1999
図2−7 ろ紙上でのダイオキシン類の揮散(%)
出典:鈴木滋ら、ダイオキシン類の大気への揮散に関する研究、環境化学会発表論文、1999
上述の問題点は、いずれも本来試料採取すべきダイオキシン類が採取されず、結果的にダイオキシン類の濃度の過小評価となることを意味している。このように大気大気中のダイオキシン類を直接分析することに関しては、技術的にも課題が山積している。したがって、地域の平均的、長期的汚染状況を把握、評価することは技術的にまた費用の面からも解決すべき課題が多いことが指摘できる。
ここでは、まず摂南大学薬学部宮田秀明研究室による松葉調査及び環境総合研究所による厚木基地における環境大気及び松葉中ダイオキシン類濃度に関する研究成果をもとにクロマツの針葉を用いた大気中ダイオキシン類の測定分析の有効性について述べる。
摂南大学薬学部食品衛生研究室の宮田秀明教授は、大気中のガス状及び粒子状ダイオキシン類を測定分析する方法としてクロマツの針葉を生物指標(バイオモニター)として用いる方法を提案し実施してきた。宮田研究室では図3−1に示すように、平成8年、同一のクロマツから2週間に1度、1年間にわたり松葉を現地で試料採取し、そのなかに含まれるダイオキシン類(ダイオキシン(PCDD)、フラン(PCDF)、コプラナーPCB(Co-PCB)の実測濃度を測定分析し公表している。
その実態調査の結果、クロマツの針葉中のダイオキシン、フラン、コプラナーPCBは、いずれも新芽が出てから1ヶ月の間には急速に濃度を増加させるが、4ヶ月以降は次第に濃度はゆるやかな波をうつようになり、6ヶ月以降は次第に安定化することが分かった。これは、クロマツの針葉が呼吸、炭酸同化作用を繰り返すなかで大気中のダイオキシン類を組織内部に吸収蓄積するとともに、ある段階に到達するとダイオキシン類を組織に出し入れすることで外界の平均的濃度を反映することを意味している。
図3−1 クロマツの新葉中のダイオキシン類の蓄積経過
出典:Masaru Ikeda, Time trend on accumulation of PCDDs, PCDFs
and Co-PCBs in young pine needle, Setsunan University
環境総合研究所では神奈川県大和市と綾瀬市にまたがる厚木米海軍基地周辺で松葉調査を実施した。目的は大気中ダイオキシン類濃度と松葉中のダイオキシン類濃度との相関関係を明らかにすることにある。これにより松葉濃度が分かれば大気中の年間平均濃度が推定できることになる。
厚木基地に隣接した産廃焼却炉(旧神環保、現エンバイロテック)からの排ガスに含まれるDXNが基地内の家族住宅や労働者を直撃し、健康リスクを高めていると米政府はことある度に日本政府に対して改善を申し入れていた。米政府は定量的にこれを証明するため、ハワイからダイオキシン類の測定分析機関の技術者を厚木基地に呼び、基地内の大気中ダイオキシン類濃度を米国環境保護庁方式で測定分析し、日本政府に非公式に提示した。しかし、厚生省など日本政府はその値を「異常値」であり米国の測定分析方法に疑義があると指摘するなど、日米政府の間にはダイオキシン問題への対応に認識だけでなく、規制、基準などについての顕著な差が生じていたことが明らかとなった。
しかしその後も米政府からの日本政府への苦情は一向におさまらないばかりか、クリントン大統領、オルブライト国務長官、コーエン国防長官(いずれも当時)ら米首脳は、日本政府に産廃からのダイオキシン類の排出抑制、施設の停止などの改善を強行に申し入れた。平成10年9月18日、日本政府はそれを受け、関係省庁あげ問題解決に努力する旨の閣議了解を行うに至った。その一環として日米両政府がダイオキシン類の共同モニタリング調査を行うことになった。
日米共同モニタリング調査では、大気中のダイオキシン類の濃度を平成11年7月7日から9月1日の56日間にわたり基地内の3ヶ所(図3−2中、A-A,
A-B, A-C地点)で実施している。A-は、環境大気の採取地点を意味している。一方、後述する松葉は、P-で採取地点を表示している。
図3−2 厚木基地内外での環境大気ダイオキシン類サンプリング位置図
出典:池田こみち、青山貞一、鷹取 敦、宮田秀明他、松葉中ダイオキシン類と大気中ダイオキシン類
濃度の相関関係に関する研究、国際ダイオキシン会議提出論文、2001.4
日米共同モニタリング調査では「サプリング・スパイク」が本格的に適用されている。結果は平成11年10月25日環境庁より速報された。表3−1は連続測定した大気濃度の地点別最高値、最小値、平均値であり、図3−3は、産廃焼却炉に最も近いB地点における56日間の環境大気中のダイオキシン類濃度である。
地 点 | ダイオキシン類 | コプラナーPCB含 | ||||
最小値 | 最大値 | 平均値 | 最小値 | 最大値 | 平均値 | |
A-A地点 | 0.085 | 3.3 | 0.59 | 0.092 | 3.5 | 0.64 |
A-B地点 | 0.097 | 53 | 7.4 | 0.10 | 58 | 8.0 |
A-C地点 | 0.031 | 1.5 | 0.28 | 0.037 | 1.6 | 0.29 |
図3−3 厚木基地B地点大気中ダイオキシン類濃度(再掲) 単位:pg-TEQ/m3(再掲)
出典:厚木基地日米共同モニタリング調査(大気、土壌)結果、1999.10より環境総合研究所作成
さらに、厚木基地では平成11年12月27日から平成12年2月21日にかけて、同じく連続56日間の冬期日米共同モニタリング調査が行われた。調査地点は、北風系が卓越することから基地外の綾瀬市深谷地区の3地点である。実際の測定分析は環境庁と神奈川県が共同で行っているが、夏場の日米共同モニタリング調査と分析機関は異なっている。なお、冬期調査については、サンプリングスパイクの適用の有無は現在のところ不明である。表3−2に結果を示す。
採取地点用 | 調査地点 | 最小値 | 最大値 | 平均値 |
A-D | 本蓼川A | 0.062 | 1.3 | 0.50 |
A-E | 工業団地 | 0.11 | 21 | 1.4 |
背景濃度 | 住居地域 | 0.081 | 1.2 | 0.38 |
平成11年12月9日、環境総合研究所は、米政府からあらかじめ許可を得、神奈川県大和市、綾瀬市にまたがる厚木基地内で松葉の現地試料採取を行った。松葉試料の採取場所は、図3−2にあるように、日米共同モニタリング調査及び神奈川県モニタリング調査における測定地点にできるだけ近い地点を基地の内外で選定した。図中、P-a, P-b, P-c, P-d, P-eが実際の松葉採取地点を示している。
表3−3は、松葉のダイオキシン類濃度の毒性等量濃度を示している。表中の距離、方位は焼却炉からの距離、方位を表す。濃度は、焼却炉から1500m離れたバックグランド地点で2.4pg-TEQ/gとなっている。これに対し焼却炉北側のP-bで53.1、南側のP-eで30.6と高濃度である。他方、P-a,P-c,P-dは焼却炉からの距離はP-b, P-eと比べそれほど違わないが、濃度は4.1、7.7, 11と低くなっている。これは松葉濃度が焼却炉からの距離だけでなく、地形や年間を通じての気象条件に大きな影響を受けるためと考えられる。
地 点 名 | 地点略称 | 距離(m) | 方位 | 松葉濃度 | 備考 |
厚木基地内 | P-a | 280 | 北西 | 4.1 | |
厚木基地内 | P-b | 250 | 北 | 53.1 | 夏場風下 |
厚木基地内 | P-c | 180 | 東 | 11.0 | |
厚木基地内 | 背景用 | 1500 | 北北東 | 2.4 | 背景濃度 |
基地外綾瀬市 | P-d | 200 | 南東 | 7.7 | |
基地外綾瀬市 | P-e | 170 | 南 | 30.6 | 冬場風下 |
大和市平均値 | - | - | 4.2 | 住民採取 | |
綾瀬市平均値 | - | - | 2.7 | 住民採取 |
表3−4は松葉濃度と大気中濃度の両方を示したものである。
松葉に含まれるダイオキシン類が長期平均濃度を反映するのに対し、日米共同モニタリング及び神奈川県のモニタリングのダイオキシン類データは、それぞれ夏、冬56日間の濃度であるため、そのまま松葉と大気のダイオキシン類濃度の相互関係を求めることはできない。両者の定量的な関係を把握するためには、時間的、空間的な平均を求める必要がある。
松葉と大気の濃度の関係を明らかにするため、表3−4の大気と松葉それぞれの平均値の比をもとめ比をとった。ここで、大気中ダイオキシン類の単位をpg-TEQ/m3、松葉中のダイオキシン類濃度の単位をpg-TEQ/gとすると、両者の比は1:10.7となった。
大気 | 松葉 | 比 (B)/(A) |
|||||
地点略称 | 最小 | 最大 | 平均 | 採取期間 | 地点略称 | 濃度 | |
A-A | 0.085 | 3.3 | 0.59 | 夏期 | P-a | 4.1 | |
A-B | 0.097 | 53 | 7.4 | 夏期 | P-b | 53.1 | |
A-C | 0.031 | 1.5 | 0.28 | 夏期 | P-c | 11.0 | |
A-D | 0.062 | 1.3 | 0.50 | 冬期 | P-d | 7.7 | |
A-E | 0.11 | 21 | 1.4 | 冬期 | P-e | 30.6 | |
平均 | 2.0(A) | 21.3(B) | 10.7 |
次に、松葉採取別の大気と松葉濃度の関係を解析した。具体的には、地形と気象を考慮し3次元大気拡散シミュレーション手法を用いて地点別の大気の年間平均濃度を求めた。このシミュレーションでは、夏、冬各56日間の大気実測濃度データを基に、年間気象データと地形データを用い松葉採取地点の年平均濃度を推定した。拡散モデルは3次元流体モデルである。結果を表3−5に示す。両者の比は6.8〜12.8となり、平均でも10.9となり、表3−4の10.7に非常に近い値となった。このように本研究では、同一地点の大気と松葉の年平均濃度は、大気の1pg-TEQ/m3が松葉のほぼ10〜11pg-TEQ/gに相当するものと推定された。
環境大気 | 松の針葉 | 松葉/大気 | |
Site P-a | 0.60 | 4.1 | 6.8 |
Site P-b | 4.75 | 53.1 | 11.2 |
Site P-c | 1.19 | 11.0 | 9.2 |
Site P-d | 0.80 | 7.7 | 9.6 |
Site P-e | 2.40 | 30.6 | 12.8 |
Ave. | 1.95 | 21.3 | 10.9 |
ここでは、松葉及び環境大気中のダイオキシン類濃度から産業廃棄物焼却施設の排ガス濃度を推定する方法を示す。
図4−1に示すように、通常、ダイオキシン類排ガスは、煙突からの風下方向の距離が遠くなればなるほど濃度は低くなる。また煙突からの距離が同一の場合であっても、煙突の風下からy軸方向及びz軸方向に離れれば離れるほど濃度は低くなる。さらに、有効煙突高(排ガスで押し上げられる高さ)が高く風が吹いている場合には、ダイオキシン類は煙突の真下に落ちず、風下のかなり離れた場所に最大の濃度が表れることになる。これを最大着地濃度という。
大気汚染の広がり方は、上記の要因に加え、地形・建築物・構造物等や、大気の乱れ度合いや逆転層の存在によっても大きく影響をうける。その大気安定度は、風速、雲量、日射量、温度などにより影響を受ける。この大気の乱れ度合いは、1日にあっても昼と夜、また季節によっても大きく異なることがある。
表4−1には地形が平坦で建物・構造物がない場合について、有効煙突高別の最大着地濃度と煙突からの距離の例を示す。
実際の焼却炉周辺においては、地形の起伏、低層・中層・高層の建築物、高架道路等の構造物が、風の流れ、大気の拡散に影響を与えるため表4−1とは異なる結果となる。従って個別の焼却炉については地形・建築物・構造物を考慮した大気拡散シミュレーションを行うことによって拡散の状況を把握する必要がある。
図4−1 水平および垂直面の大気汚染の拡散の物理モデル化 |
He:有効煙突高(単位:m) |
煙突から排出されるダイオキシン類、大気汚染等の排出濃度と最大着地点の環境大気濃度との比を通常、希釈拡散倍率と呼んでいる。
<希釈拡散倍率>=<排ガス濃度[ng-TEQ/m3N]>÷<大気中濃度[pg-TEQ/m3]>×1000 [ng/pg]
この希釈拡散倍率は、本来、実測やコンピュータシミュレーションにより求めるものであるが、旧厚生省生活衛生局(現環境省)は生活環境審議会廃棄物処理部会のなかで20万倍程度となると述べている。しかし焼却炉周辺の地形に起伏がある場合、団地等の建物や高速道路などの構造物がある場合には風の流れ、大気汚染の拡散が影響を受け、拡散倍率はこれよりも小さくなり大気中の濃度は相対的に高くなる。
上述のように<希釈拡散倍率>は本来シミュレーション、それも地形・建築物・構造物などを考慮したシミュレーションにより求めるものである。
地形・建物・構造物を考慮したシミュレーションを行うことにより希釈拡散倍率が分かれば、環境大気中のダイオキシン類濃度から、次式により排ガス濃度を推定することが出来る。
<排ガス濃度[ng-TEQ/m3N]>=<大気中濃度[pg-TEQ/m3]>×<希釈拡散倍率>÷ 1000 [ng/pg]
ただし環境大気中の濃度の実測値は2−2に示した課題があり信頼できないことから、3−4に示した環境大気中ダイオキシン濃度と松葉中ダイオキシン濃度の関係(1:10)より、大気中濃度の代わりに松葉中濃度を用いる。従って次式により、松葉中の濃度と希釈換算倍率を用いて環境大気中の濃度を推定することが可能となる。
<排ガス濃度 [ng-TEQ/m3N]> ↓シミュレーションより推定 =<松葉中濃度 [pg-TEQ/g]>÷ 10× <希釈拡散倍率>÷1000 [ng/pg] ↑松葉濃度と大気濃度の換算係数
ただし、主要な発生源以外からの影響も考えられることから、松葉中濃度としては、発生源周辺で影響を受けやすい地域の濃度と、発生源の影響を受けにくい地域の濃度(背景濃度)の差を用いることとなる。
排ガスの大気拡散予測モデルとしては、有限差分法(FDM:Finite Difference
Method)によって汚染物質の移流拡散を記述する方程式であるSIMPLE(Semi-Implicit
Method for Pressure Linked Equations)法およびこれを改良したSIMPLER法、SIMPLEST法を用いる。
本モデルのシミュレーションプログラムは、国立環境研究所研究員により開発され、環境総合研究所(東京都品川区)青山貞一所長によりブラッシュアップされ、2次元および3次元のグラフィックによる解析プログラムが開発された。このモデルは国立環境研究所研究員により風洞実験で検証されている。
なお、有限差分法は、風速場の解法および濃度場の解法の双方に用いられている。
地形・建築物・構造物を考慮した3次元流体大気拡散シミュレーションモデルを用いた調査の手順を図5−1に示す。
図5−1 3次元流体モデルによる大気拡散シミュレーションの調査手順の概要
3次元流体シミュレーションに用いた地形データの例を図5−2および図5−3に示す。
図5−2 厚木基地に隣接した産業廃棄物焼却炉周辺の地形と風の流れのシミュレーション結果の例
出典:エンバイロテック社焼却炉排ガス中ダイオキシン類濃度の推計および周辺環境への影響調査報告書、
2000年9月7日、(株)環境総合研究所(東京都品川区)
図5−3 大牟田RDF(ごみ固形化燃料)発電所予定地周辺の地形の例
出典:大牟田市RDF発電事業市民アセス調査報告書、2001年5月、(株)環境総合研究所(東京都品川区)
2次元流体シミュレーションによる地形・建築物による影響予測の例を図5−4に、低層・中層建築物による影響予測の例を図5−5に示す。
図5−4 プリュームモデルと2次元流体シミュレーションモデルの比較
出典:渋谷地区清掃工場に関するダイオキシン類大気拡散調査報告書、
1999年11月1日、(株)環境総合研究所(東京都品川区)
図5−5 2次元流体シミュレーションによる建築物の影響予測の例
出典:(株)環境総合研究所(東京都品川区)自主研究調査
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