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2000.5.22(Ver.1.0)/2000.5.22(Ver.1.1)/2000.5.23(Ver.1.2)/2000.5.26(Ver.1.21)

自主調査活動・研究報告(生活クラブ生協事業連合会、グリーンコープ事業連合会、環境総合研究所) 

松葉ダイオキシン類測定分析調査
研究報告

−全国で3万人の住民・消費者が参加−

環境総合研究所(東京都品川区)


 本研究報告の著作権は、筆者、環境総合研究所(東京都品川区)及び松葉ダイオキシン
調査実行委員会にあります。複製、転載することを禁じます。

目 次
1.大気中ダイオキシン類測定分析の課題
2.松葉調査の目的と原理
3.住民参加の全国松葉調査の経緯
4.松葉測定分析の方法
5.全国松葉調査濃度測定分析の速報
6.厚木基地大気及び松葉ダイオキシン調査
7.厚木米海軍基地における松葉調査
8.松葉濃度と大気濃度との関係
9.課題地域への適用例
<参考引用文献>


1.大気中ダイオキシン類測定分析の課題

(1)気象条件及び発生源条件からの課題

 非意図的生成物であるダイオキシン類(PCDD+PCDF,以下単にダイオキシン類と略)の多くは、廃棄物を焼却処理することにより生じ、当初、排ガス及び焼却灰として地域に排出される。したがって地域におけるダイオキシン類汚染状況を把握するためには、本来、環境大気中のダイオキシン類を測定分析することが重要なものとなる。しかし、従来、国、自治体が行ってきた環境大気中のダイオキシン類濃度は、1日単位の試料採取による測定分析であるため、調査日の風向、風速と言った気象状況(*1)や発生源の稼働率、焼却物の組成などの焼却条件によって測定濃度が著しく変わるので、現状のように年間数日だけ測定しただけでは、地域の正確な汚染状況は把握できない。

 大気中のダイオキシン類測定に関しては、国、自治体とも測定日数は年間を通じ4日、多くても春夏秋冬それぞれ2日の8日である。年間数日の大気中ダイオキシン類の測定により地域を代表する長期平均的、たとえば年平均の汚染状況を把握することは極めて困難である。まして年平均値で設定されている大気中のダイオキシン類濃度に関する環境基準との対比は非現実的なものとなる。

 図1−1は、厚木米海軍基地近傍の産廃焼却炉からのダイオキシン類排ガス問題に関連し、日米両政府が共同して1999年夏に1日単位で56日間連続し測定分析した結果を示している。図より明らかなように、大気中ダイオキシン類濃度は日により100倍以上も著しく変化していることが分かる。図では1日単位で風速も表示している。風速が高い日は濃度が低いことも分かる。この測定分析では、わが国ではじめて後述する「サンプリング・スパイク」を本格適用しており、信頼できる値である。

図1−1 厚木基地における大気ダイオキシン類連続測定結果

出典:厚木基地日米共同モニタリング調査より環境総合研究所作成

 図1−2及び図1−3は、東京都環境保全局及び横浜市環境事業局が測定している大気中ダイオキシン類濃度の変化を示している。各測定年次、測定地点とも測定日により著しく濃度が変わっていることが分かる。

図1−2 自治体による大気中ダイオキシン類測定例(1)

東京都環境保全局資料より環境総合研究所作成

図1−3 自治体による大気中ダイオキシン類測定例(2)

横浜市環境事業局資料より環境総合研究所作成

(*1)気象・排出条件と大気ダイオキシン類濃度との関係
 大気に含まれるダイオキシン類は、気象条件(風速、風向、日射量、放射収支量、雲量、気圧配置、湿度、温度、降雨など)や排出条件(焼却量、燃焼温度、燃焼管理状況、焼却廃棄物の組成など)、さらに地形(起伏、高層ビルなど)により著しく濃度が変化する。たとえば、焼却炉などのダイオキシン類の排出源の風下に測定点があり、発生源と測定点の距離が一定の場合、大気中のダイオキシン類濃度(C)は、排出量(Q)に比例し、風速(U)に反比例する。したがって、測定時の風速(U)や排出量(Q)により大気中のダイオキシン類の濃度(C)は著しく変化する。そのため窒素酸化物(NOx)のような大気汚染物質では年間を通じ1時間単位で濃度を測定し年間、24時間×365日=8760時間分の濃度の実測データをもとに、年平均値や98%値などを算出し、環境基準に対する評価を行っている。

(2)試料採取時の技術的課題

 さらに測定分析技術の面から見ると、わが国の環境大気中のダイオキシン類測定分析では、最近に至るまで試料採取が適正に行われたかどうかを監視するための「サンプリングスパイク」(*2)の適用実施が義務づけられていなかった。米国、カナダでは「サンプリングスパイク」が当然のこととして義務づけられている。図1−4は「サンプリングスパイク」の適用実施を義務づけている場合の標準的な測定分析の流れを示している。

図1−4 標準的な大気中ダイオキシン類の測定分析の流れ

現場でのハイボリュームサンプラーによる
大気試料採取(サンプリングスパイク実施

24時間大気を吸引

ソックスレー抽出(ろ紙、ウレタンフォーム)
(クリーンアップスパイク実施)

硫酸処理、シリカゲル、アルミナ、活性炭カラム

濃縮(シリンジスパイク実施)

HRGC/HRMS機器による分析

 環境大気中のダイオキシン類の試料採取は、図1−5に示すハイボリュームサンプラー(Hv)と言う大気吸引及び採取のための機器を使い現場で行う。試料採取は、通常、1日(24時間)かけ連続作業として行う。問題は環境中にガス状、粒子状態で存在するダイオキシン類が、Hv機器でダイオキシン類を捕捉すべき「ろ紙」、「ウレタンフォーム」を素通りしたり、毒性の強いTCDD(4塩化物),PeCDD(5塩化物)などが、金属製のHv機器内の温度上昇により揮散し、本来採取すべきダイオキシン類が一部しか捕捉できないことである。

 それを防ぐため米国、カナダなどでは試料採取時に採取すべきダイオキシン類に類する内標準物質(たとえば、1312-2378-TCDD)をダイオキシン類の異性体毎に添加(スパイク)し、採取後にそれらの内標準物質を回収し、その回収率から試料採取が適切に行われたかどうかを監視する。米国、カナダでは米国環境保護庁、カナダ環境省のマニュアルで、サンプリングスパイクの適用実施が義務づけられている。

 しかし、日本では平成11年3月になるまでまともな記述すらなかった(環境庁大気保全局大気規制課、有害大気汚染物質測定方法マニュアル、平成9年10月を参照のこと)。

図1−5 ハイボリュームサンプラー(環境大気試料採取装置)

 さらに、仮に「サンプリングスパイク」を適用実施した場合でも、現場で内標準物質の添加に手間取ると、捕捉率を監視すべき内標準物質そのものが気温上昇などにより揮散し、適正な試料採取が不可能となることが1999年夏の環境化学会で発表された。表1−1及び表1−2は温度上昇とともに内標準物質自身が揮散してしまうこと、また内標準物質の添加に時間がかかると内標準物質そのものが揮散してしまうことを示している。Hv機器内部は夏場には容易に40゜C以上になる。その場合には、内標準物質は半分が揮散してしまうことが分かる。

表1−1 温度の違いによる1234−TCDDの揮散(%)
 

STD

20℃

40℃

60℃

1234-T4CDD

100

42.7

50.1

4.4


表1−2 ろ紙上でのダイオキシン類の揮散(%)
  0分 30分 1時間 2時間
1368-T4CDD 100 36.2 22.1 10.1
1234-T4CDD 100 36.1 22.5 19.5
2378-T4CDD 100 42.0 36.9 26.1
2378-T4CDF 100 52.3 43.2 28.5
12378-P5CDD 100 65.7 57.9 34.4
12378-P5CDF 100 74.8 74.4 40.9
23478-P5CDD 100 99.4 89.5 52.0

出典:鈴木滋ら、ダイオキシン類の大気への揮散に関する研究、環境化学会発表論文、1999

 上述の課題、問題は、いずれも本来試料採取すべきダイオキシン類が採取されず、結果的にダイオキシン類濃度の過小評価となることを意味している。このように大気中のダイオキシン類を直接分析することに関しては、技術的にも課題が山積している。したがって、地域の平均的、長期的汚染状況を把握、評価することは技術的にまた費用の面からも大きな困難が横たわっていると言える。

2.松葉調査の目的と原理

(1)松葉調査の目的

 松葉調査の目的は、ひとびとが生活する地域の平均的、長期的なダイオキシン類の汚染状況を正確に把握することにより、廃棄物問題、ダイオキシン類など有害化学物質問題の解決に向けひとびとの関心を喚起することにある。そのため本調査では、日本のどの地域にも分布する常緑樹、クロマツの針葉を「環境指標」として松葉中のダイオキシン類濃度を測定分析することにより、地域の年平均レベルの大気中ダイオキシン類濃度を推定することを目的としている。

(2)松葉調査の想定される社会的・技術的成果

 松葉調査は以下のような社会的、技術的な特徴をもつものと想定される。

松葉調査の社会的特徴
@住民ひとりひとりが調査に参加できること
A住民ひとりひとりの経済的負担が大きくないこと
B結果が松葉調査に参加した住民に共有できること
松葉調査の技術的特徴
@松葉測定結果が地域代表性をもつこと
A松葉測定結果が長期平均特性をもつこと
B松葉測定により大気中ダイオキシン類の平均濃度がわかること
C得られた複数の点データから地域全体の面データ汚染状況が得られること


(3)松葉調査の原理(ダイオキシン蓄積過程)

 松葉は従来より大気中の大気汚染、重金属類などの測定分析の環境指標として活用されている。本調査ではクロマツが大気中に存在するガス状、粒子状のダイオキシン類を呼吸(炭酸同化作用)を通じ生物の組織内に長期にわたり蓄積することに着目している。

 摂南大学薬学部宮田研究室が大阪府枚方市で2週間に一度、松の針葉を採取し分析した研究報告によると図2−1に示すように、大気中のダイオキシン類はクロマツの新葉から急速に蓄積され、約4ヶ月以降で濃度変化が少なくなり定常状態に達することが観察、確認されている。図からは、さらに一旦蓄積が安定すると、その後は大気中の平均濃度につれ松葉ダイオキシン類濃度が上下することが確認されている。したがって、4ヶ月以上経過し蓄積量が安定する6ヶ月以降の針葉を試料に用いれば、地域の大気の平均濃度を推定することが可能となるものと考えられる。

図2−1 松の新葉中のダイオキシン類の蓄積経過

出典:Masaru Ikeda, Time trend on accumulation of PCDDs, PCDFs and Co-PCBs
in young pine needle, Setsunan University


(4)松葉濃度と大気濃度の相互関係

 クロマツの新葉から6ヶ月以降経た一定の時期に、地域で採取した松葉に蓄積したダイオキシン類の濃度を測定分析する。一方、ほぼ同じ地域において「サンプリングスパイク」を適用して環境大気中ダイオキシン類の濃度を長期にわたり測定する。両者の相関関係を統計解析し係数化する。これにより、地域の松葉中のダイオキシン類濃度を測定分析し濃度を知ることにより、地域の大気中のダイオキシン類の長期平均(年平均)濃度を正確に把握することが可能となると考えられる。

 図2−2は、環境庁が平成9年度の総合パイロット調査で行った埼玉県内の松葉調査の一部である。ちなみに、土壌中ダイオキシン類濃度は所沢周辺地域の狭山市赤坂が94.5pg-TEQ/g、秩父が7.5pg-TEQ/gであった。

図2−2 汚染地域と未汚染地域の松葉同族体パターン図

<埼玉県所沢周辺(狭山市赤坂)>

<埼玉県秩父>

(出典)環境庁、平成9年度総合パイロット調査

3.住民参加の全国松葉調査の経緯

(1)調査の企画

 平成11年3月、生活クラブ生協の倉形正則氏、槌田博氏、中村秀次氏が環境総合研究所にこられ、住民参加による全国規模のダイオキシン類測定分析調査の可能性について提案、打診された。環境総合研究所では、同年6月、本ニューズレター(Dioxin Bulletin and Review)上でクロマツの針葉を環境指標として地域のダイオキシン類の汚染状況を測定分析する方法を企画提案した。その後、生活クラブ生協連合会だけでなく、グリーンコープ連合会など、環境に配慮した生協活動を行っている消費者団体から提案に賛同の意が表明された。住民、消費者が松葉を採取するとともに、カンパ活動を行い、地域におけるダイオキシンの監視活動を行いたいとのことであった。その後、1999年夏より生活クラブ生協連合会、グリーンコープ連合会、環境総合研究所の3者により実行委員会が設けられ、月1回のペースで委員会を開き松葉調査の企画を実行に移してきた。


(2)調査参加団体

 2000年3月時点で本活動に参加している主な団体は以下の通りである。( )内はサンプル数を示している。

<生協> サンプル数
生活クラブ生協 北海道
生活クラブ生協 千葉
生活クラブ生協 神奈川
生活クラブ生協 東京
生活クラブ生協 群馬
グリーンコープ 福岡
グリーンコープ 佐賀
グリーンコープ 大分
グリーンコープ 鹿児島
グリーンコープ 長崎
グリーンコープ 宮崎
グリーンコープ 熊本
グリーンコープ 山口
グリーンコープ 広島
(19)
(31)
(50)
(36)
( 1)
(24)
( 2)
( 5)
( 5)
( 3)
( 1)
( 5)
( 5)
( 1)

(3)学術・研究支援

 環境総合研究所と摂南大学薬学部宮田研究室も大気中のダイオキシン類の濃度と松葉中のダイオキシン類濃度との相互関係式(係数)を作成のため別途、試料採取を行った。環境総合研究所では厚木基地内4ヶ所、基地外2ヶ所で試料採取を行い分析した。

4.松葉測定分析の方法

(1)試料の採取

 本測定分析では、一市町村(あるいは一地域)から最低10ヶ所、散在する2年物のクロマツの針葉を参加者それぞれが一定量(約10g)現地で採取し、地域全体として「ひとつの試料」としている。この方法により特定地点の濃度ではなく地域平均及び長期平均のダイオキシン類の濃度の把握が可能となる。試料採取及びカンパに参加した住民、消費者の数は合計約3万人に達している。なお試料採取は1999年秋を中心に実施した。

(2)採取試料の調整と輸送

 全国各地から環境総研に寄せられた松の針葉は、1サンプル当たり約100gに混合、調整し一定サンプルをまとめカナダの測定分析機関(Maxxam Analytics Inc.)に数度にわけ冷蔵空輸した。なお試料の輸出に際してはカナダ政府食品検査機関(CFIA)の正式許可を得ている。

(3)抽出溶剤の選択

 松葉からのダイオキシン類の抽出には、トルエンを溶剤に用いた。宮田研究室の研究報告によると、図4−1に示すように、トルエンを使うとn−ヘキサンに使った場合に比べて約8.3倍もダイオキシン類が多く抽出されている。宮田研究室では、松葉だけでなく農作物などの植物についても溶剤の種類による抽出率の違いを研究しているが、同じほうれん草でもヘキサンを用いた場合と、トルエンを用いた場合では8倍も抽出されるダイオキシン類の濃度に差があることが報告されている。

図4−1 溶媒の種類とダイオキシン抽出量の違い

出典:Amounts of PCDDs and PCDFs extracted from pine needle, Setsunan University

(*3) 農作物ダイオキシン類濃度と抽出溶媒
所沢農作物ダイオキシン類汚染問題に関連し埼玉県が実施し公表したほうれん草、煎茶などの分析濃度と、環境総研が公表した濃度が大きく違っていた。埼玉県が平成11年3月に発表した「野菜等のダイオキシン類濃度緊急調査結果について」資料によるとほうれん草、煎茶からのダイオキシン類の抽出にはヘキサンを用いていることが分かる。

(4)松葉試料の前処理

 住民参加による松葉調査では、同時期に多数の試料を採取することになる。その場合、短期間に試料からダイオキシン類の抽出を終えるのは困難となり、松葉の長期保存方法が重要なものとなる。

 そのため本松葉調査では、摂南大学宮田研究室の研究成果から松葉を凍結乾燥し保存する方法を採用した。宮田研究室では、松葉の表皮ワックス層に存在する高塩化物が凍結乾燥及び降雨等による影響をどう受けるかについて検討している。

 図4−2はその結果を示している。図より凍結保存試料、水洗試料、未処理試料を比較すると、大きな差異は認められず、採取した松葉試料を一旦凍結乾燥したのち、低温保存することにより、腐敗、カビなどの影響を受けることなく長期保存可能なことが確認できた。カナダへ送付された松葉試料は凍結保存後、測定分析されている。具体的にはクロマツの針葉試料50gを12時間凍結乾燥したのち、図4−3の流れに沿い環流抽出、精製(クリーンアップ)及び分析をおこなっている。

図4−2 凍結乾燥、水洗による影響の評価

出典:Effect of lyophilization and water washing on amounts of PCDDs and PCDFs, Setsunan University

(5)測定分析方法の流れ

 測定分析方法については、上記以外にも摂南大学薬学部宮田研究室との間で事前に技術上の課題を検討し解決した。また実際の測定分析を行うMaxxam Analytics Inc.との間でも綿密に協議し、最終的に確定した方法を英文マニュアルとしカナダ側の了承を得た上で着手した。最終的に用いた測定分析方法の概要を図4−3に示す。

図4−3 松葉ダイオキシン類測定分析手順の概要
乾燥試料 50g(湿重量もチェック)
  ↓
トルエン中で粉砕(高速撹拌機利用)
  ↓
還流抽出(全量500mlのトルエンで4時間)
  ↓
抽出後ろ過
  ↓
脱 水(抽出溶液にシリカゲル50gを添加し、一昼夜放置)
  ↓
再度ろ過
  ↓
溶媒置換(ろ液を濃縮後 n-ヘキサン10 mlに)
  ↓
抽出液にクリーンアップスパイク添加
(13C-PCDDsおよび13C-PCDFsを1,000pg(一部2,000pg))
  ↓
多層カラムクロマトグラフィー
(上から10%硝酸銀シリカゲル 8g、シリカゲル 0.8g、22%硫酸シリカゲル4g、44%硫酸シリカゲル 4g、シリカゲル 0.8g、2%水酸化カリウムシリカゲル 3g、カラム内径2.5 cm、n-ヘキサン溶出量 210 ml)による精製
  ↓
アルミナカラムクロマトグラフィー
(活性アルミナ、中性、活性度1)により、2分画しPCDDおよびPCDF画分を分取。
  ↓
最終的にn-デカン20ulに濃縮
  ↓
高分解能GC−MSで分析
(GC-MSのコンディションは環境庁から出されている マニュアルに準拠)一部改良点は下記の通り
  • 4〜6塩化の分析をsp-2331(スペルコ)キャピラリーカラム(60m x 0.32mm,0.20um)で昇温プログラムは140℃(1min)-200℃(10℃/min)-255℃(3.5℃/min, 13min)
  • 7〜8塩化の分析ではDB-5(J&W)キャピラリーカラム(30m x 0.32 mm,0.25 um)で昇温プログラムは140℃(1 min)-220℃(20℃/min)-310℃(8℃/min, 2min)

 これは先行して宮田研究室が測定した松葉の測定値との整合性を保つこと、また測定分析方法の違いにより結果が異なることを未然に防ぐための措置でもある。


5.全国松葉調査濃度測定分析の速報

(1)都道県別の最低・最高・平均濃度

 現在までに東京都、千葉県、神奈川県、北海道、九州等の各地の測定分析が完了している。東京都は最低濃度が1.58pg-TEQ/g、最高が6.86pgとなった。地域別では立川市、保谷市、清瀬市、八王子市、東村山市など多摩地域及び杉並区、練馬区西の濃度が高い。千葉県は最低濃度が1.29pg、最高が8.02pgとなった。地域別では沼南町、印西市、船橋市、習志野市、佐倉市、市川市の濃度が高い。神奈川県は最低濃度が1.43pg、最高が10.48pgとなった。地域別では特定地域の相模原新磯野、地域平均では愛川町、相模原市、川崎市麻生区、横浜市中区の濃度が高い。北海道は最低濃度が0.29pg、最高が1.04pgとなった。九州では、最高値が特定の産業廃棄物の影響を把握するために採取された福岡県筑穂町が5.43pg-TEQ/g、最低値は鹿児島川内市の0.39pgとなった。行政区では、下関市、佐賀市、福岡県宗像郡福間町、久留米市などが上位に位置した。平均値では首都圏の3割から4割強と低いが、北海道と比べると倍以上の濃度となっている。

 表5−1に東京都、千葉県、神奈川県、北海道、九州の4地域の平均濃度等を示す。表より明らかなように北海道は東京、千葉、神奈川の松葉濃度の1/5から1/7の低さにあることが分かった。

表5−1全国松葉調査の概要 単位:pg-TEQ/g 2000.5.20現在
  最低値 最高値 平均値 中央値 試料数
東京都 1.58 6.86 3.98 3.73 39
千葉県 1.29 8.02 4.48 4.31 31
神奈川県 1.40 10.48 3.05 2.66 50
北海道 0.29 1.04 0.63 0.65 19
九州
(沖縄を除く。山口・広島を含む。)
0.39 5.43 1.39 1.09 51

注)九州及び各都道県データとも特定地域を対象とした測定データを含む。
但し神奈川県データには厚木基地データは含まず。

(2)汚染発生源との関係

調査結果からは、一般廃棄物の焼却施設からの影響に加え、産業廃棄物焼却施設や野焼きがある地域、またそれらの施設の風下にある地域の濃度が高くなっている傾向が明らかになった。

 東京都の場合、産廃焼却施設が集中立地している埼玉南部(所沢周辺)に隣接する市の濃度がいずれも高い。また都内で産廃焼却施設が集中している八王子市の濃度も高いことが分かった。具体的市区町では、東京では八王子、立川、保谷、清瀬、東村山など多摩地域及び杉並区、練馬区西部などの濃度が高い。千葉では沼南町、印西、船橋、習志野、佐倉、市川などの濃度が高い。また神奈川では相模原新磯野、愛川町、相模原市、川崎市麻生区、海老名、横浜市中区などの濃度が高い。さらに調査結果からは平均濃度が高い地域は、一般廃棄物の焼却施設からの影響に加え、産業廃棄物焼却施設や野焼きなどの発生源があること、また自分の地域になくともそれらの施設の風下に位置する地域の濃度が高くなっていることが分かる。一般廃棄物焼却との関連では東京、千葉、神奈川、北海道ともに連続燃焼、高煙突となっている大都市中心部の濃度が平均濃度よりも低い傾向を示している。

(3)都道県別同族体量及びパターン分析

 図5−1は、都道県別のダイオキシン類の同族体パターンを示したものである。北海道、九州を除くいずれの地域もダイオキシンよりフランの同族体の方が多いことが分かる。これは通常、廃棄物の焼却由来の排ガス、大気中のダイオキシン類ではダイオキシンよりフランの総量の方が多いことを反映しているものと考えられる。

 一方、どの地域でもダイオキシンは4塩化物が多い。これは4塩化物のように塩素数の少ない同族体の方が気化しやすく、ガス状物質として植物の気孔を通過しやすいことに関係しているものと考えられる。排ガス中のダイオキシン類の同族体には高塩化物の量が多いものもあることから、図5−1は塩化物の数の多い同族体や粒子状物質として存在するダイオキシン、フランは気孔から組織内部に入りにくいことも分かる。

 上記の同族体の傾向は、地域に共通となっている。

図5−1  都道県別PCDD,PCDF同族体パターン
PCDD 単位:pg/g


PCDF 単位:pg/g


PCDD+PCDF 単位:pg/g

(4)市区町別の平均濃度

図5−2 松の針葉中のダイオキシン類濃度測定分析結果速報 2000.5.20現在
<東京都>

図5−3 松の針葉中のダイオキシン類濃度測定分析結果速報<濃度順>
<千葉県>


<神奈川県>


<北海道>


<九州・中国>

* 九州とは沖縄を除く。山口・広島を含む。 

測定結果一覧 2000.5.20現在
注)濃度の単位はpg-TEQ/g、 評価は、ND=1/2MDL(WHO方式) を採用
測定対象地域 濃度
pg-TEQ/g
 <生活クラブ東京>
世田谷区(東側) 2.79
世田谷区(西側) 2.83
目黒区 3.27
品川区 3.21
大田区(北側) 3.59
大田区(南側) 2.72
板橋区 4.26
中野区 4.24
練馬区(東側) 3.28
練馬区(西側) 5.14
杉並区 5.80
江戸川区 3.61
江東区 4.34
保谷市 5.78
田無市 4.19
東久留米市 3.72
清瀬市 5.60
武蔵野市 2.97
東村山市(全市) 5.48
 秋水園工場周辺 3.07
小平市(全市) 1.98
 小村大工場周辺 3.87
小金井市 3.54
国分寺市 3.42
立川市 6.86
昭島市 4.36
三鷹市 3.73
府中市 3.70
調布市 2.32
狛江市 1.58
稲城市 1.61
多摩市 4.15
日野市 1.78
町田市 4.79
八王子市 5.54
武蔵村山市 3.90
<東京グループ参加>
大田区(海側) 6.86
<東京ERI実施>
足立区 5.94
葛飾区 5.59
<生活クラブ群馬>
前橋市 3.68
<生活クラブ千葉>
千葉市 美浜区全域 5.16
真砂中央公園 3.76
若葉区(一定エリア) 4.36
緑区全域 1.29
花見川区全域 4.87
稲毛・中央区全域 4.31
市川市(一定エリア) 3.32
船橋市A(一定エリア) 6.96
船橋市全域 5.52
習志野市A(習海地区) 6.22
習志野市B(東部地域) 3.30
沼南町A(北部) 7.82
沼南町B(南部) 8.02
柏市A(松葉町) 3.22
柏市B(北部)  4.32
野田市(山崎・瀬戸地区) 4.25
流山市全域    5.34
我孫子市全域 5.57
松戸市(新松戸地区) 4.56
八千代市全域 3.40
鎌ヶ谷市(一定エリア) 3.27
四街道市全域 2.58
印西市(特) 7.14
八街・山武(一定エリア) 2.59
八日市場市(特) 1.83
佐倉市A(東側)  2.47
佐倉市B(西側) 6.05
市原市A(全市)  3.55
市原市B(特) 4.29
浦安市全域    6.07
木更津市全域 3.36
生活クラブ千葉の凡例
(特)  :焼却工場周辺
(一定エリア):市内平均でなく
  一定の限られた地域
<生活クラブ北海道>
札幌市 厚別区 0.37
北区 0.66
白石区 0.72
中央区 0.55
手稲区 0.74
豊平区 0.38
西区 0.38
東区 0.74
南区 0.41
清田区 0.74
石狩市  0.98
岩見沢市 0.64
恵庭市  0.37
江別市  0.65
当別町  0.51
北広島市 0.75
篠路清掃工場周辺 0.97
発寒清掃工場周辺 1.04
駒岡清掃工場周辺 0.29
測定対象地域 濃度
pg-TEQ/g
<生活クラブ神奈川>
横浜市 青葉区 2.66
緑区 2.69
都筑区 3.26
港北区 2.51
鶴見区 2.00
旭区 3.95
瀬谷区 2.20
保土ヶ谷区 1.43
神奈川区 2.05
中区 4.51
泉区 1.60
西区 2.41
港南区 2.65
金沢区 2.57
戸塚区 1.76
栄区 1.53
南区 3.01
磯子区 1.84
川崎市 多摩区 3.61
麻生区 4.89
高津区 2.24
宮前区 2.95
中原区 2.65
幸区 2.46
川崎区 4.06
鎌倉市 2.00
逗子市 1.86
葉山町 3.23
横須賀市 1.75
三浦市 1.63
藤沢市北部 3.09
藤沢市南部 2.25
茅ヶ崎市 3.54
寒川町 4.32
平塚市 3.35
小田原市 1.77
秦野市 2.01
大磯町 3.39
二宮町 2.64
大和市 4.19
厚木市 1.94
海老名 4.60
綾瀬市 2.68
伊勢原市 2.04
愛川町 5.98
座間市 4.27
相模原市 5.43
<神奈川県自治会参加>
野七里(横浜市栄区) 3.44
新百合が丘自治会 3.81
新磯野の環境を考える会 10.48
<グリーンコープ連合>
北九州市 若松区 2.23
八幡西区 1.20
小倉北区 0.70
小倉南区 0.99
福岡市 早良区 0.79
城南区 0.90
南区 1.41
東区 1.24
福岡県 行橋市 0.95
田川市・田川郡 1.44
直方市 1.00
飯塚市 2.12
春日市 2.26
筑紫野市 1.86
太宰府市 0.94
前原市 0.79
甘木市 1.35
久留米市 2.63
八女市 1.10
大牟田市 0.93
遠賀郡岡垣町 0.91
遠賀郡水巻町他 1.87
宗像郡福間町 2.84
嘉穂郡筑穂町 5.43
佐賀県 佐賀市 2.89
唐津市 0.46
長崎県 佐世保市 0.56
長崎市他南西部 0.98
諌早市他南東部 2.45
大分県 日田市 0.63
中津市 1.14
別府市,速見郡他 0.49
大分市 0.45
津久見市 0.69
熊本県 菊池郡他 1.11
玉名市他県北 0.89
熊本市他県央西 2.28
熊本市他県央東 1.56
八代市他県南 1.71
宮崎県 宮崎市他 0.50
鹿児島県 川内市 0.39
姶良郡,国分市他 0.54
鹿児島市北部 0.83
鹿児島市南部 1.07
鹿屋市 0.40
広島県 廿日市 2.35
山口県 東部:岩国市他 1.56
周南:徳山市他 0.71
中部:山口市他 0.74
県南:宇部市他 1.57
西部:下関市 3.84


(5)2次元スプライン解析による地域濃度の推定

 市区町村単位の平均濃度をもとに2次元スプライン補間法(*4)を用いて都道県全体の濃度分布を解析した例をに示す。 

(*4) 2次元スプライン補間法とは
 点データとして存在する複数の測定値から地域全体の地理的濃度分布を推定するための物理数学的解析手法。補間手法には、スプライン法以外に巾乗型、統計的内挿法、移流分散型内挿法など多くの手法が提案され利用されている。

図5−4  2次元スプライ補間解析による首都圏の松葉ダイオキシン類濃度分析結果速報
(東京都)

図5−5 2次元スプライ補間解析による首都圏の松葉ダイオキシン類濃度分析結果速報
(千葉県)

図5−6 2次元スプライ補間解析による首都圏の松葉ダイオキシン類濃度分析結果速報
(神奈川県)

図5−7 2次元スプライ補間解析による首都圏の松葉ダイオキシン類濃度分析結果速報
         (首都圏) 
 

図5−8 2次元スプライ補間解析による松葉ダイオキシン類濃度分析結果速報
(北海道)

図5−9 2次元スプライ補間解析による松葉ダイオキシン類濃度分析結果速報
(九州等)

6.厚木基地大気及び松葉ダイオキシン調査

(1)調査の目的

 環境総合研究所では神奈川県大和市と綾瀬市にまたがる厚木米海軍基地周辺で松葉調査を実施した。目的は大気中ダイオキシン類濃度と松葉中のダイオキシン類濃度との相関関係を明らかにすることにある。これにより松葉濃度が分かれば大気中の年間平均濃度が推定できることになる。


厚木基地上空からエンバイロテック焼却炉(写真中央やや左)2000/5/9環境総合研究所撮影


(2)厚木米海軍基地ダイオキシン類問題の経緯

 厚木基地に隣接した産廃焼却炉(旧神環保、現エンバイロテック)からの排ガスに含まれるダイオキシン類が基地内の家族住宅や労働者を直撃し、健康リスクを高めていると米政府がことある度に日本政府に改善を申し入れていた。

 米政府は定量的にこれを証明するため、ハワイからダイオキシン類の測定分析機関の技術者を厚木基地に呼び、基地内の大気中ダイオキシン類濃度を米国環境保護庁方式で測定分析し、日本政府に非公式示した。しかし、厚生省など日本政府はその値を「異常値」であり米国の測定分析方法に疑義があると言明するなど、日米政府の間にはダイオキシン類問題への対応に認識だけでなく、規制、基準などについての顕著な差が生じていたことが分かる(*5)

 しかしその後も米政府の日本政府への苦情は一向におさまらないばかりか、クリントン大統領、オルブライト国務長官、コーエン国防長官ら米首脳は、日本政府に産廃からのダイオキシン類影響の改善を強行に申し入れた。平成10年9月18日、日本政府はそれを受け、関係省庁あげ問題解決に努力する旨の閣議了解を行うに至った。その一環として日米両政府がダイオキシン類の共同モニタリング調査を行うことになった。

(*5) 日米の人体へのダイオキシン類リスク評価の差異
 日米でのダイオキシン類問題への対応の差には、ダイオキシン類のリスク評価に対する差がある。米国は環境保護庁(EPA)がいち早く、人間のダイオキシン類摂取につき発ガンリスクを考慮した世界一厳しいVSD(実質安全量Virtual Safety Dose)を設定している。これはひとが一生摂取しても100万人に1人の発ガンリスクを与えない1日、体重1kg当たりの摂取量である。ちなみにEPAのVSDは、0.01pg-TEQ/kg・日であり、日本政府がダイオキシン対策特別措置法で設定したTDI(耐用1日摂取量)の4pg-TEQ/kg・日と比べ400倍も厳しいものとなっている。
 これはEPAがすでに設定している単品の食品摂取警告、たとえば魚介類摂取ガイドラインや水質ダイオキシン類基準の数値にも象徴的に表れている。たとえば、魚類単品についてのダイオキシン類摂取制限警告によれば米国環境保護庁は、1.2pg-TEQ/g超の魚類は食用不可、0.62〜1.2pg-TEQ/gは月に半回、0.31〜0.62pg-TEQ/gは月に1回と警告している。また米国の人体の健康を考慮した水質基準は、1リットあたり、0.013〜0.014pg-TEQである。わが国の場合、1リットあたり、1pg-TEQであり非常に厳しい値となっている。
(参考文献)
EPA Office of Water 4305 ,EPA-823-F-99-015 September 1999, Polychlorinated Dibenzo-p-dioxins and Related Compounds Update:Impact on Fish Advisories


(3)日米共同モニタリング調査結果(超高濃度検出)

 日米共同モニタリング調査では、大気及び土壌中のダイオキシン類濃度分析を平成11年7月7日から9月1日の56日間にわたり実施することになった。その共同調査では、自治体が年間4日、多くても春夏秋冬それぞれ2日、年間8日行っている大気中ダイオキシン類の測定を基地に風が卓越する夏場、56日間連続して行うなど前代未聞の長期連続調査となった。しかも基地内3ヶ所で実施され大気濃度測定に冒頭に述べた「サプリング・スパイク」が本格的に適用された。

 平成11年10月25日環境庁が結果を速報した。表6−1と図6−1は連続測定した大気濃度である。期間中の最高値は大気B地点で58pg-TEQ/m(平均値で8pg-TEQ/m)であった。大気濃度は日により100倍以上も著しく変わることも明らかになった。最高値の58pg-TEQ/mはもとより平均値の8pg-TEQ/mもおそらく日本の大気中ダイオキシン類濃度測定史上最高値である。ちなみに国の環境基準は0.6pg-TEQ/mであるので最高値では97倍、平均値でも13倍となった。表6−1に最高濃度を記録した大気B地点の56日間の濃度推移、図6−2に調査期間中の風配図を示した。図から風速が高い日は、濃度が低いことが良く分かる。風配図からは夏場に共同調査が実施されたこともあり、南の風が61%と圧倒的に卓越していることがわかる。(厚木基地内での大気ダイオキシン類調査地点は松葉測定地点図に並記したあるので参照のこと)。

表6−1 大気中のダイオキシン類濃度 単位:pg-TEQ/m
  ダイオキシン類 コプラナーPCB含
最小値 最大値 平均値 最小値 最大値 平均値
大気A地点 0.085 3.3 0.59 0.092 3.5 0.64
大気B地点 0.097 53 7.4 0.100 58 8.0
大気C地点 0.031 1.5 0.28 0.037 1.6 0.29

 出典:厚木基地日米共同モニタリング調査(大気、土壌)結果、1999.10

図6−1 厚木基地B地点大気中ダイオキシン類濃度(再掲) 単位:pg-TEQ/m

図6−2 夏期測定期間中の風配図

出典:厚木基地日米共同モニタリング調査(大気、土壌)結果、1999.10より環境総合研究所作成


(4)神奈川県による秋冬季の基地外での大気調査

 その後、神奈川県環境農政部が平成11年10月26日から11月2日までの1週間、厚木基地外の綾瀬市深谷地区の7地点で大気中のダイオキシン類の測定を行った。結果を表6−2に示す。この調査は秋に行われたこと、連続測定期間が短いこと、さらにサンプリングスパイクの適用有無が不明なことなどから共同モニタリング結果と同列に評価するには無理があるものと思われる。

表6−2大気中のダイオキシン類濃度 単位:pg-TEQ/m
調査地点 最小値 最大値 平均値
深谷A 0.43 1.5 0.94
深谷B 0.16 0.88 0.52
深谷C 0.29 0.92 0.68
深谷D 0.28 1.0 0.65
深谷E 0.19 0.68 0.47
深谷L 0.15 1.4 0.53
本蓼川A 0.12 0.56 0.35

 さらに、平成11年27日から平成12年2月21日にかけ連続56日間の日米共同モニタリング調査が行われた。調査地点は、北風系が卓越することから基地外の綾瀬市深谷地区の3地点である。実際の測定分析は環境庁と神奈川県が共同で行っているが、夏場の日米共同モニタリング調査と分析会社は別となっている。なお、サンプリングスパイクの適用の有無は現在のところ不明である。表6−3に結果を示す。北風系と言うこともあり、基地の南側の綾瀬市深谷地区の工業団地で21pg-TEQ/m、平均でも1.4pg-TEQ/mの高濃度が検出されている。


表6−3 大気中のダイオキシン類濃度 単位:pg-TEQ/m
調査地点 最小値 最大値 平均値
工業団地 0.11 21 1.4
本蓼川A 0.062 1.3 0.50
住居地域 0.081 1.2 0.38


7.厚木米海軍基地における松葉調査

(1)基地内外での松葉試料採取

 平成11年12月9日、環境総研は米政府からあらかじめ許可を得、神奈川県大和市、綾瀬市にまたがる厚木基地内で松葉の現地試料採取を行った。松葉試料の採取場所は、図7−1にあるように、国内最高値58pg-TEQ/mを記録した大気B地点の南東側の松葉B地点、高層住宅棟近傍の大気A地点の北東の松葉A地点大気C地点の北側で産廃焼却施設脇の松葉C地点、さらに背景濃度測定用として産廃施設から1.6km北北西に離れた地点の4ヶ所を、さらに基地内とは別に焼却炉から170〜200m離れた綾瀬市深谷地区の2ヶ所(松葉D地点松葉E地点)でも行った。いずれも地上約1.5m高のクロマツの針葉を採取の対象とした。採取の当日は冬だというのに強い南風が吹いており、夏の日米共同調査とほぼ同じ気象状況となっていた。厚木基地側の米海軍住宅地も高濃度のダイオキシンを含む煙につつまれており、屋外で遊び場の利用など外出が制限されていた。


厚木基地内の松葉採取、奥は米軍住宅棟(平成11年12月9日)


(2)松葉濃度測定分析結果

 結果は、表7−1に示すように、焼却炉の風下の松葉からは夏場で53.0pg-TEQ/g、冬場で30.6pg-TEQ/gという高濃度のダイオキシン類が検出された。表からは松葉の濃度は発生源からの距離だけでなく風向、風速などの気象条件や地形条件によって大きな影響を受けることが分かった。

表7−1 松葉中ダイオキシン類濃度 単位:pg-TEQ/g
地 点 名 距離(m) 方位 松葉濃度 備考
厚木基地内A 280 北西 4.1  
厚木基地内B 250 53 夏場風下
厚木基地内C 180 11.0  
厚木基地内E 1500 北北東 2.4 背景濃度
基地外綾瀬市A 170 30.6 冬場風下
基地外綾瀬市B 200 南東 7.7  
大和市平均値 - - 4.2 住民採取
綾瀬市平均値 - - 2.7 住民採取

 一方、厚木基地が含まれる大和市、綾瀬市の住民参加による松葉調査結果(地域平均値)をみると大和市が4.2pg-TEQ/g、綾瀬市が2.7pg-TEQ/gとなっており、厚木基地に隣接する超高濃度の産廃焼却施設が地域全体の平均値に大きな影響を及ぼしていないことを示している。逆説すれば、松葉を地域平均的に採取する今回の住民参加の方法では高濃度の産廃施設の影響を見逃す可能性があることを示唆している。

 つまり、住民参加による地域平均値が高くないからといって安心はできないことになる。逆に住民参加による松葉調査の平均値が高い地域には、産廃、一般廃棄物の焼却施設、野焼き、その他の発生源があること、高濃度排出源があることを示唆している。なお、厚木基地調査では松葉B地点についてはダイオキシンだけでなくコプラナーPCBも測定分析した。値は11.7pg-TEQ/gであり両者を加えた値は64.8pg-TEQ/gである。

図7−1 厚木基地松葉調査地点図および濃度


(3) 厚木基地松葉の異性体、同族体データ

 図7−2及び図7−3に厚木基地B地点の松葉調査におけるダイオキシン類及びコプラナーPCBの異性体、同族体データを示す。なお、図におけるTEFはWHO−1997を、また定量下限値以下の扱いは、ND=定量下限値/2のWHO方式の結果を示している。

図7−2 基地B地点松葉ダイオキシン類(PCDD+PCDF)データ
異性体・同族体 測定値
pg/g
WHO-TEF
(1997)
TEQ
pg-TEQ/g
ND=WHO
PCDD+PCDF
  PCDD
  2,3,7,8-TCDD 1.6000 1 1.600
1,2,3,7,8-PeCDD 6.2000 1 6.200
1,2,3,4,7,8-HxCDD 8.6000 0.1 0.860
1,2,3,6,7,8-HxCDD 15.0000 0.1 1.500
1,2,3,7,8,9-HxCDD 14.0000 0.1 1.400
1,2,3,4,6,7,8-HpCDD 88.0000 0.01 0.880
OCDD 180.0000 0.0001 0.018
Total Tetra CDD 190.0000
Total Penta CDD 98.0000
Total Hexa CDD 320.0000
Total Hepta CDD 210.0000
PCDF
  2,3,7,8-TCDF 41.0000 0.1 4.100
1,2,3,7,8-PeCDF 17.0000 0.05 0.850
2,3,4,7,8-PeCDF 32.0000 0.5 16.000
1,2,3,4,7,8-HxCDF 80.0000 0.1 8.000
1,2,3,6,7,8-HxCDF 39.0000 0.1 3.900
2,3,4,6,7,8-HxCDF 59.0000 0.1 5.900
1,2,3,7,8,9-HxCDF ND 0.1 0.210
1,2,3,4,6,7,8-HpCDF 160.0000 0.01 1.600
1,2,3,4,7,8,9-HpCDF 11.0000 0.01 0.110
OCDF 83.0000 0.0001 0.008
Total Tetra CDF 550.0000
Total Penta CDF 350.0000
Total Hexa CDF 200.0000
Total Hepta CDF 210.0000
Total PCDD+PCDF (TEQ) 53.136


図7−3 基地B地点松葉ダイオキシン類(Co-PCB)データ
異性体 測定値
pg/g
WHO-TEF
(1997)
TEQ
pg-TEQ/g
ND=WHO
PCB
33'44'-TCB(77) 140.00 0.0001 0.01400
344'5-TCB(81) ND 0.0001 0.00425
233'44'-PeCB(105) 130.00 0.0001 0.01300
2344'5-PeCB(114) 55.00 0.0005 0.02750
23'44'5-PeCB(118) 300.00 0.0001 0.03000
2'344'5-PeCB(123) ND 0.0001 0.00040
33'44'5-PeCB(126) 110.00 0.1 11.00000
233'44'5-HxCB(156) ND 0.0005 0.02000
233'44'5'-HxCB(157) 71.00 0.0005 0.03550
23'44'55'-HxCB(167) ND 0.00001 0.00070
33'44'55'-HxCB(169) 52.00 0.01 0.52000
233'44'55'-HpCB(189) 44.00 0.0001 0.00440
Total PCB (TEQ) 11.66975


(4)厚木基地周辺の松葉の同族体パターン

 以下に、厚木基地のB地点及びD地点の同族体解析パターンと厚木基地を含む自治体(大和市、綾瀬市)の同族体パターンを示す。解析図からは両者は非常に類似していることが分かる。

図7−4 厚木基地内松葉B地点(53pg-TEQ/g)  ダイオキシン類(PCDD+PCDF)

図7−5 厚木基地綾瀬側松葉D地点(31pg-TEQ/g) ダイオキシン類(PCDD+PCDF)

図7−6 大和市(4.2pg-TEQ/g) ダイオキシン類(PCDD+PCDF)

図7−7 綾瀬市(2.7pg-TEQ/g) ダイオキシン類(PCDD+PCDF)

図7−8 厚木基地内松葉B地点(11.8pg-TEQ/g)  コプラナーPCB


8.松葉濃度と大気濃度との関係

(1)広域自治体の平均値対比

 表8−1は、全国松葉調査結果を都道県、政令指定都市別に濃度平均したものと、それに対応する自治体の大気ダイオキシン類測定分析結果の平成10年から平成11年についての濃度平均を対比したものである。表からは大気平均濃度と松葉平均濃度は、1:6から1:28にわたり広く分布していることが分かる。一方、夏季56日、冬季56日、年間を通じ112日間大気中のダイオキシン類を測定分析した厚木基地内外それぞれの濃度の単純平均比は1:9.7となっている。

表8−1 自治体単位の大気平均濃度と松葉平均濃度との比
測定地 大気濃度 pg-TEQ/m3 松葉濃度 pg-TEQ/g 参考
B/A比
(1:x)
測定
地点数
最大値 最小値 年平均値
測定
日数
測定値
地区
東京都(平成10年)
23区 11 1.00 0.044 0.309 8 3.78 13 1:12
多摩部 9 1.50 0.002 0.389 8 3.82 23 1:10
全東京 20 1.50 0.002 0.349 8 3.81 36 1:11
東京(平成10年+11年の平均)
23区 11 1.30 0.0021 0.267 8+6 3.78 13 1:14
多摩部 9 1.50 0.002 0.294 8+6 3.82 23 1:13
全東京 20 1.50 0.002 0.280 8+6 3.81 36 1:14
千葉(平成10年)
千葉市 10 1.9 0.044 0.637 4 3.79 5 1: 6
全千葉 26 1.4 0.100 0.500 - 4.48 31 1: 9
神奈川(平成10年)
横浜市 9 1.1 0.073 0.32 8 2.48 18 1: 8
川崎市 3 0.50 0.091 0.28 4 3.27 7 1:12
神奈川 6 0.92 0.06 0.35 4 3.42 25 1:10
全神奈川 18 1.1 0.06 0.317 - 3.06 50 1:10
神奈川(平成10年+11年)
横浜市 9 1.1 0.019 0.227 8+3 2.48 18 1:11
川崎市 3 0.50 0.025 0.223 4+2 3.27 7 1:15
神奈川 6 0.92 0.040 0.265 4+3 3.42 25 1:13
全神奈川 18 1.1 0.019 0.238 - 3.06 50 1:13
北海道(平成10年)
札幌市 3 0.19 0.00036 0.034 4 0.57 8 1:17
北海道 3 0.19 0.00036 0.034 4 0.62 19 1:18
福岡県(平成10年)
福岡市 4 0.16 0.071 0.099 - 1.085 4 1:11
北九州市 4 0.08 0.01 0.045 - 1.28 8 1:28
全福岡 12 0.23 0.01 0.0975 - 1.58 24 1:16

表8−2 厚木基地の大気平均濃度と松葉平均濃度との比
測定地 大気濃度 pg-TEQ/m 松葉濃度pg-TEQ/g B/A比
(1:x)
最大値 最小値 年平均値
A
測定日数 測定値
B
地区数
@基地内 53.1 0.085 7.4 56 53.14 1 1:9.7
A基地内 3.3 0.097 0.59 56 4.11 1
B基地外 21 0.11 1.4 56 30.63 1
C基地外 1.3 0.062 0.50 56 7.68 1

*厚木基地周辺は、大気の平均値と松葉の平均値を対比している。
*定量下限値処理方法:大気、松葉ともにWHO方式を採用。但し大気は推定。

<注記>
  1. 測定分析対象物質:ダイオキシン類(PCDD+PCDF)、コプラナーPCBは含まず。
  2. 自治体の大気ダイオキシン類分析濃度値:地域内測定点における測定値期間平均値。
  3. 松葉採取時期:東京(H11.9)、千葉(H11.10)、北海道(H.11.10)、神奈川(H.11.10-11)、九州(H11.10-11)
  4. 厚木基地関連データ:(大気:サンプリングスパイク使用:H11.7-9, H12.1-3)、(松葉:H11.12.9)
  5. 定量下限値処理方法:自治体の大気データは厚生省方式、本調査の松葉データはWHO方式を採用。
    但し、神奈川県は平成11年度途中からWHO方式。松葉はWHO方式を採用。


(2)統計解析結果

 次に、都道県の平均値対比ではなく、市区町単位で大気濃度と松葉濃度の平均を標本として両者の統計解析(回帰分析)を試みた。用いた標本データを表8−3に示す。高濃度データとして厚木基地の大気、松葉濃度を用いている。全標本数は63である。

(3)評価について

 表8−4に統計解析の結果を示す。図8−1及び図8−2にグラフを示す。相関係数は0.9097156であり両者の相関は非常に高い。回帰係数を用い松葉濃度から大気の平均濃度を推計すると、大気平均濃度と松葉平均濃度は1:10となることが分かった。

 あえて評価上の課題をあげるとすれば、(1)の単純平均比較結果と(2)の統計解析結果と比べると、松葉で1pg-TEQ/g以下、大気で0.1pg-TEQ/m以下大気、松葉ともに低濃度領域で1:10より比が大きくなる傾向があることが分かった。

 その理由として考えられるのは、未汚染地域などで大気が低濃度の場合は、大気中ダイオキシン類の試料採取の精度、測定分析の精度が低くなる可能性が高くなることが想定される。気象条件以外に夏場の調査でサンプリングスパイクを実施していない場合これは顕著となる。また低濃度領域では定量下限値以下の扱い、すなわちND処理方法による誤差が顕著となる。大部分の自治体の大気ダイオキシン類分析では、NDとなった場合、定量下限値以下を切り捨てるいわゆる厚生省を最近まで採用しており、この傾向が強くでる。一方松葉では、定量下限値を可能な限り低く設定し、しかもWHO方式を採用していることからそれによる誤差はほとんどないものと考えられる。


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表8−3 回帰分析用大気濃度、松葉濃度データ
単位:大気 pg-TEQ/m3、松葉 pg-TEQ/g
大気 対象地区   大気 対象地区   大気 対象地区
0.67 4.69 千葉市美浜区A 0.38 5.14 東京都練馬区A 0.27 3.61 川崎市多摩区
0.67 3.76 美浜区B 0.29 3.61  江戸川区 0.11 1.75 神奈川県横須賀市
0.96 4.87 花見川区 0.63 5.54  八王子市 0.08 3.09  藤沢市@
0.52 1.29 緑区 0.3 6.86  立川市 0.08 2.25  藤沢市A
0.58 4.36 若葉区 0.33 2.97  武蔵野市 0.21 5.43  相模原市
0.59 2.58 四街道市 0.30 4.79  町田市 0.28 2.68  綾瀬市
0.59 2.47 佐倉市A 0.49 3.54  小金井市 0.38 2.68  綾瀬市
0.59 6.05 佐倉市B 0.57 5.60  清瀬市 0.59 4.19  大和市
0.51 6.96 船橋市A 0.15 1.86 神奈川県逗子市 0.052 0.38 札幌市西区
0.51 4.82 船橋市B 0.41 1.94  厚木市 0.028 0.74 東区
0.55 4.56 松戸市 0.4 2.01  秦野市 0.021 0.38 豊平区
0.35 3.84 市原市A 0.35 2.00 横浜市鶴見区 0.16 1.24 福岡市東区
0.35 4.29 市原市B 0.30 2.41 西区 0.092 1.41 南区
0.61 3.40 八千代市 0.23 4.51 中区 0.071 0.79 早良区
0.19 3.27 東京都目黒区 0.37 3.95 旭区 0.01 0.99 北九州市小倉南区
0.24 3.59  大田区@ 0.22 2.51 港北区 0.08 2.23 若松区
0.24 2.72  大田区A 0.24 2.66 青葉区 0.01 1.20 八幡西区
0.21 2.79  世田谷区@ 0.22 1.76 戸塚区 0.19 1.44 福岡県田川市
0.21 2.83  世田谷区A 0.19 1.53 栄区 7.40 53.14 厚木米軍基地@
0.33 4.24  中野区 0.27 2.20 瀬谷区 0.59 4.11 厚木米軍基地A
0.28 4.26  板橋区 0.27 4.06 川崎市川崎区 1.40 30.63 厚木米軍基地B
0.38 3.28  練馬区@ 0.19 2.65 中原区 0.50 7.68 厚木米軍基地C
  1. 測定分析対象物質:ダイオキシン類(PCDD+PCDF)、コプラナーPCBは含まず。
  2. 自治体の大気ダイオキシン類分析濃度値:1市区に2以上の測定点がある場合にはその平均値。また自治体の大気濃度データは市区単位で大気測定期間中(夏冬あるいは春夏秋冬)の全データを平均化したものを用いた。
  3. 自治体の大気ダイオキシン類の試料採取期間(サンプリングスパイク不使用)
    東京都(H10+H11の平均)、千葉県(H10の平均)、神奈川県(H10+11の平均:逗子市、厚木市、秦野市、横浜市、川崎市、横須賀市、鎌倉市)、H11の平均(藤沢市、相模原市、平塚市、茅ヶ崎市)、北九州市・福岡市・福岡県(H10の平均)
  4. 松葉採取期間:東京(H11.9)、千葉(H11.10)、北海道(H11.10)、神奈川(H.11.10-11)、九州(H11.10-11)
  5. 厚木基地関連データ:(大気:サンプリングスパイク使用:H11.7-9,H12.1-3)、(松葉:H11.12.9)。また厚木基地の濃度データは、大気、松葉ともに夏期、冬期データを平均化して用いた。

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表8−4 回帰分析出力結果
標本数 63
独立変数個数 1
自由度 61
重相関係数(^2) 0.9097156
Y評価値の標準誤差 0.1669823
回帰係数 α0 α1
-0.000918 0.10270968
回帰係数の誤差 0.00414286
標準回帰係数 0.95379010
標準回帰係数の誤差 0.03847172
偏相関係数 0.95379010
F値 614.642386

図8−1 回帰分析結果のグラフ化(1)

図8−2 回帰分析結果のグラフ化(2)

表8−5 計算例
(大気濃度)=A(松葉濃度)+B

大気濃度=0.10270968×松葉濃度−0.000918

例1: 松葉濃度=7.20 pg-TEQ/g
    大気濃度=0.74 pg-TEQ/m3

例2: 松葉濃度=3.50 pg-TEQ/g
    大気濃度=0.36 pg-TEQ/m3

例3: 松葉濃度=1.50 pg-TEQ/g
    大気濃度=0.15 pg-TEQ/m3

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(4)松葉濃度と大気ダイオキシン類環境基準との関係

今回の全国松葉調査では、1市区町で原則10の子サンプル、最大300もの子サンプルを採取し、それを調整して1サンプルとし地域のダイオキシン類の平均濃度を測定している。ダイオキシン対策法では、コプラナーPCBを含めているので、実際には2、3割松葉からの濃度を増やす必要がある。それを考慮した場合、松葉濃度が5pg-TEQ/gを超す地域は年平均値で環境基準である(0.6pg-TEQ/m)を超す可能性がある。


(5)産廃焼却炉周辺の大気濃度の推定

 一方、産廃焼却炉の風下などで測定した松葉は容易に5pg-TEQ/gを越し、厚木基地や所沢のくぬぎやま地区などでは50pg-TEQ/gを超える超高濃度であり、明らかに環境基準を超過しているものと推察される。


9.課題地域への適用例

(1)所沢周辺産廃集中地域への適用

 摂南大学宮田研究室では、所沢北部の産廃焼却施設の集中地域を対象に、土壌とともに松葉中のダイオキシン類及びコプラナーPCBを測定分析し公表している。表9−1は、1996年に測定分析した8検体の濃度結果を示している。値はコプラナーPCBを含め28pg-TEQ/gから108pg-TEQ/gと高濃度である。宮田研究室では1997年にも所沢市内の松葉を測定分析し30pg-TEQ/g〜60pg-TEQ/gを得ている。表では本調査研究で設定した松葉と大気の表8−5の濃度換算式より大気中の平均濃度を計算した結果を示している。結果は厚木基地の日米共同モニタリング調査結果と比較してもきわめて妥当な値であると考えられる。

表9−1 所沢周辺産廃集中地区(三富)の松葉中ダイオキシン類の測定分析結果(摂南大学宮田研究室)
  試料1 試料2 試料3 試料4 試料5 試料6 試料7 試料8
C1  C2  C3  C4  C5  C6  C7  C8 
PCDD+PCDF+(Co-PCB)
  PCB
  33'44'-TCB(77) 271 368 325 124 404 221 138 366
33'44'5-PeCB(126) 143 173 178 64.9 235 125 85.9 190
33'44'55'-HxCB(169) 19.9 31.1 54.5 19.1 79.3 30.0 27.7 49.1
Sum of Co-PCBs 434 572 558 208 718 376 252 605
TEQ of Co-PCBs 14.6 17.8 18.6 6.74 24.5 12.9 8.94 19.6
PCDD
  2,3,7,8-TCDD 1.47 1.47 5.23 0.788 3.10 0.791 1.02 2.56
Other TCDDs 620 1010 1310 361 992 603 362 1070
1,2,3,7,8-PeCDD 3.46 6.83 12.8 2.64 12.6 5.22 5.63 13.1
Other PeCDDs 376 909 794 303 737 510 415 671
1,2,3,4,7,8-HxCDD 4.10 4.62 15.4 6.30 8.01 8.90 3.73 9.78
1,2,3,6,7,8-HxCDD 5.79 11.0 6.99 7.30 15.6 5.01 8.23 17.5
1,2,3,7,8,9-HxCDD 4.59 5.96 13.3 2.48 13.7 4.31 4.38 12.8
Other HxCDDs 182 517 503 231 401 315 238 414
1,2,3,4,6,7,8-HpCDD 53.7 118 114 69.7 102 64.4 62.4 94.4
Other HpCDDs 53.3 154 144 87.5 127 88.7 88.4 106
OCDD 105 236 14.5 132 226 104 115 209
Sum of PCDD 1410 2970 2930 1200 2640 1710 1310 2620
TEQ of PCDD 5.29 8.45 16.3 4.53 14.4 5.97 6.21 14.3
PCDF
  2,3,7,8-TCDF 17.1 45.1 60.1 14.8 38 26.8 16 43.8
Other TCDFs 1010 1690 1950 717 1810 1150 756 1930
1,2,3,7,8-PeCDF 30.7 54.4 93 22.7 51.7 40.9 24.7 66.8
2,3,4,7,8-PeCDF 20.2 39.9 77.5 16.2 47.1 33 19.4 48.1
Other PeCDFs 501 790 1090 313 903 668 403 1060
1,2,3,4,7,8-HxCDF 23.7 32.8 64.9 13.7 51 33.1 28.1 52.8
1,2,3,6,7,8-HxCDF 33.7 43.5 72.4 18.5 56.4 46.6 32.3 68.1
2,3,4,6,7,8-HxCDF 0.849 5.38 2.47 nd 0.603 2.34 0.56 3.29
1,2,3,7,8,9-HxCDF 43.1 60.0 100 24.7 74.9 70.3 45.7 75.9
Other HxCDFs 247 376 548 155 442 380 285 509
1,2,3,4,6,7,8-HpCDF 139 232 281 112 243 185 151 173
1,2,3,4,7,8,9-HpCDF 2.91 10.0 8.39 2.83 7.48 8.08 6.2 7.63
Other HpCDFs 33.3 58.0 52.5 21.9 74.4 40.5 44.2 74.7
OCDF 25.8 66.6 37.1 22.2 49.9 31.5 30.2 65.5
Sum of PCDF 2130 3500 4440 1450 3850 2720 1840 4180
TEQ of PCDF 23.5 41.6 73.5 16.4 48.4 36.6 23.3 52.0
Sum of CoPCB/DD/DF 3970 7050 7930 2870 7210 4800 3400 7400
松葉毒性等量 pg-TEQ/g 43.4 67.8 108 27.7 87.3 55.5 38.4 85.9
以下は、大気濃度推計値
推定年平均大気濃度 pg-TEQ/m 4.5 7.0 11.1 2.8 9.01 5.7 3.9 8.8
所沢市三富の松葉データの原典:
 池田勝、黒松針葉を環境指標としたダイオキシン類の大気汚染評価法構築のための基礎的研究、
 摂南大学大学院修士論文、1997年2月。


(2)大気濃度と土壌濃度との関係

 今回の調査研究で明らかになったことは産廃焼却炉周辺での松葉濃度から換算した大気平均濃度と土壌汚染濃度との関係である。厚木基地での土壌の最高値は330pg-TEQ/gであった。この値は表9−2にある所沢三富地域や茨城県竜ヶ崎などの高汚染地域で検出されるレベルと同等値である。

 逆説すれば松葉で50pgを超えたり土壌濃度で300pgを超過するような地域の大気ダイオキシン類濃度は厚木基地日米共同の大気調査値に比肩するはずである。しかし、表9−2にある所沢地域の大気濃度は一桁も低い。その意味でも従来の大気中ダイオキシン類濃度の測定方法は致命的な欠陥をもっていると言わざるを得ない。このように松葉濃度を測定することにより地域のダイオキシン類の汚染状況を多面的に把握することができ、発生源の把握、課題の発掘そして問題解決に敏速に対応することが可能となるはずである。これほど費用対効果に優れた指標はないと思われる。

 このように松葉濃度を測定分析することで地域の平均大気濃度を推定することがかなりの精度で可能となる。米政府が実施し日本政府が「異常値」とした大気濃度は30pg-TEQ/mであったが、異常なのは実は「サンプリングスパイク」を適用せず、年間数日測定して、年平均濃度としてきた日本側の測定分析方法である。

表9−2 産廃焼却場近傍での松葉・大気・土壌調査結果
  松葉調査
pg-TEQ/g
最高大気濃度
pg-TEQ/m
期間大気平均値
pg-TEQ/m
最高土壌濃度
pg-TEQ/g
厚木米海軍基地内 11〜53(*1) 58(*2) 8.0 (*2) 330 (*2)
基地外瀬市深谷地区 8〜31(*1) 21(*3) 1.4 (*3) 180 (*4)
所沢市三富周辺地区 28〜108(*5) 0.47〜3.1(*6) - 448 (*5)

出典:

*1:環境総合研究所松葉調査、1999.11-12分析、但し大気の30pgは米海軍が測定分析分。 
*2:日米共同モニタリング調査、1999.7-9分析
*3:神奈川県環境農政部、1999.12-2000.2分析
*4:神奈川県環境農政部、1999.10-11分析  
*5:摂南大学薬学部宮田秀明、1996-1998分析
*6:関連自治体(県市町)、1997-1998分析 
注1)大気中ダイオキシン類測定分析でサンプリングスパイクを実施しているのは推定日米共同のみ。
  2)環境総合研究所の松葉調査とくぬぎやまの自治体調査はダイオキシン類のみ。
   他はコプラナーPCBを含む値。


(3)謝辞

 最後に、技術面でご指導頂いた摂南大学薬学部宮田研究室、また企画提案を頂き、約3万人の住民、消費者に参加を呼びかけいただいた生活クラブ、グリーンコープの方々にこの場を借りて感謝の意を表したい。


<参考引用文献>

  • 池田 勝、黒松針葉を環境指標としたダイオキシン類の大気汚染評価法構築のための基礎的研究、摂南大学大学院修士 論文、1997年2月。
  • 環境庁、平成9年度ダイオキシン類総合パイロット調査、1998年
  • 環境総合研究所、「松の針葉」を環境指標とする住民参加によるダイオキシン全国調査についての提案 Dioxin Bulletin & Review NO.3 June 1999
  • 青山貞一、大気中ダイオキシン、松葉による計測の可能性、厚木米軍基地汚染で立証、住民参加で政策提言も、サイアス(旧科学朝日)、2000年6月号、朝日新聞社
  • 環境総合研究所、松葉ダイオキシン類測定分析調査<研究報告>−全国で3万人の住民・消費者が参加−Dioxin Bulletin & Review NO.12, 20 May 2000
  • なくせ!ダイオキシン汚染監視運動、全国調査結果報告書、−市民が測ったダイオキシン濃度−、なくせ!ダイオキシン汚染監視運動実行委員会、2000年5月


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