水産行政及び食品安全行政について(速報)
中村敦夫参議院議員質疑分

参議院農林水産委員会
(2002年4月18日

      

    

   小川議員の分はここちら→参議院農林水産委員会 水産行政及び食品安全行政について(速報)
                           (2002年4月18日
)
 (小川勝也参議院議員)

                  【経緯説明】

 この4月18日、参議院農水委員会で魚介類中ダイオキシン調査結果及び有害化学物質に関する食品安全行政のあり方について、水産庁長官、農水大臣との間での質疑がありました。その議事録の速報ができあがりましたのでお知らせします。

 この農水委員会における質疑は、もともと平成11年度に水産庁が行った魚介中ダイオキシン類調査で高濃度が検出された近海魚種が平成12年度調査からはずされていたことに端をはっしています。

 水産庁による平成11年度と平成12年度の魚介中のダイオキシン類濃度データ、産地データなどの全データは環境総合研究所の自主研究の魚介中ダイオキシン類の以下ページに掲載してあります。

 水産庁、平成11年度、平成12年度、魚介類中のダイオキシン類の実態調査結果について
(pdfファイル)

 環境総合研究所では、ここ数年水産庁はじめ国、自治体が行ってきた魚介類中ダイオキシン調査結果の評価、とくに米国環境保護庁の魚介摂取警報(指針)や世界保健機構(WHO)のTDIをもとに行政データを評価した研究報告を公表してきました。週刊金曜日がその研究報告特集を組み、編集部独自に行った水産庁取材記事とそれへの摂南大学宮田教授、愛媛大学脇本教授らのコメントを掲載しました。今回の国会質疑はそれらをベースに行われています。

                                  環境総合研究所


○中村敦夫

 まず、水産庁長官に連続して質問したいと思いますけれども、水産庁が行っています一九九九年度、二〇〇〇年度の魚介類ダイオキシン類の実態調査結果というのは、これは先ほどこれに関連して小川委員も質問しましたが、私のところでも資料を要求したものであります。

 それで、小川委員の質問に対して長官の答えでちょっと分かりにくい点がありましたのでお聞きしたいと思いますけれども、一九九九年に調査して、ダイオキシン濃度の高かった魚介類について次の年にはやっていないんじゃないかという質問がありましたね。やっていないのか、あるいはやったのかということだったら、やっているという話になりました。それは後で報告するという話なんですね。これは非常に奇妙ですね。なぜやったんだったらばちゃんと公表しなかったのかということをお聞きしたい。

●木下寛之 水産庁長官(政府参考人)

 一九九九年から四か年の計画で日本の国民が食べている魚介類百種類程度、検体数で四百検体ということで進めてきておるところでございます。

 御案内のとおり、一部の魚種につきましてはダイオキシンの濃度が高く出ているという状況でございますけれども、私ども、冒頭に申し上げましたのは、十一年から四か年計画で全体として四百検体の調査をしているということでございます。

○中村敦夫

 今聞いたのは、魚介類の濃度が高いものを次の年には調べていないと、要するに公表していないんですよね。それは調べてなかったんなら公表できないんだけれども、調べていたと、後で報告すると言ったわけですよ。だったら、なぜ最初から公表していないのかという質問なんです。

●木下 水産庁長官

 今回の調査はダイオキシンの濃度の調査でございます。冒頭ありましたような高濃度につきまして、私どもはどういうメカニズムでその蓄積が行われたかという点について調査を実施をしているというふうにお答えしたところでございます。

○中村敦夫

 私、日本語で聞いてるんですよ。簡単な話をしているんですよ。なぜそれが答えられないんですか。


●木下 水産庁長官

 繰り返して恐縮でございますけれども、具体的な濃度の調査は実施をしたわけでございますけれども、そのような高濃度の水産物がどういうメカニズムでこのような高濃度になったのかと、そういうメカニズムにつきまして調査をしているというところでございます。

○中村敦夫

 もう何語で質問したらいいのか、ちょっと分からないわけですね。

 そういう答え方するというのは、要するに非常に濃度の濃い魚介類が幾つかあるわけですよね。それを余り出していくといろんなところが騒ぎ立てるとか、要するにがんが発見されたのに、それを言ったら家族が騒ぐので、それは困るから何となくすっと過ごしたいと。要するに、隠ぺいしたかったんじゃないですか。

●木下 水産庁長官

 私ども、今回調査をしておりますのは、あくまでも四か年間で全体像を明らかにしたいということと、一部の調査につきましては確かに高濃度でございますけれども、それ自体としては全体のTDIという点からいって問題ないというふうに思っておりますけれども、どのような仕組み、メカニズムでそのような高濃度に至ったのかという点につきまして調査を実施をしているという段階でございます。したがいまして、私ども、今回、十四年度で四百検体の調査が一回終わるわけでございます。

 したがいまして、十五年度以降につきましては、更にこのような四年間の知見をベースにして、どのような、メカニズムを含めた構造につきまして更に調査を深めていきたいというふうに考えております。

○中村敦夫

 濃度調査はしていないということ。

★常田享詳 農林水産委員長

 木下水産庁長官、はっきり答えてください、はっきり。

●木下 水産庁長官

 先ほども申し上げたとおり、高濃度のものにつきまして、メカニズムの調査を実施をしておりますけれども、濃度については調査をいたしておりません。

○中村敦夫

 先ほどの小川委員の質問に対する答えはそれじゃ違っていたということですね。

 要するに、これを調査して、それをどういうふうに活用していこうと思っているんですか。

 それから、毎年の調査費用を教えてください。

●木下 水産庁長官

 一九九九年度が五千九百八十四万円、それから二〇〇〇年度が三千三百五十五万円というところでございます。

 この調査の目的でございますけれども、ダイオキシン類対策は非常に重要な政策課題というふうに認識をいたしております。調査の総合的な解析結果を活用をし、魚介類へのダイオキシン類蓄積のメカニズムの解明等を含め、必要な調査を更に進めていきたいということで、国民への分かりやすい情報提供に努めていきたいというふうに考えております。

○中村敦夫

 何か大学の一部の研究室みたいな答えなんですが、この調査に基づいて非常に大きな問題がもう出てきているわけでしょう。それに対する対策をするとか、それからこれの結果に対する危機感というのがどうしても感じられないんですよ。

 で、これは要するに日本食品分析センターなどの三団体ですね、これは天下り機関なわけですけれども、ここにとにかく仕事を与えることが目的でやっているんじゃないんですか。

●木下 水産庁長官

 私どもは、ダイオキシン対策の重要性にかんがみまして、一つは我が国沿岸水域の魚介類の蓄積実態の把握、それから国民の魚介類からのダイオキシン類摂取量の調査、評価を行うことが目的でございます。

 で、この調査につきましては三団体に委託をいたしておりますけれども、これらの三団体、いずれもJAS法なり食品衛生法に基づきます実績のある団体というふうに聞いております。

○中村敦夫

 中央環境審議会環境保健部会、それから生活環境審議会、食品衛生調査会、この三つの機関が合同でまとめて、九九年の六月に「ダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI)について」というものを発表しましたね。そうしますと、日本に住んでいる人々の食品によるダイオキシン摂取量ですね、要するにいろんな食べ物を食べてダイオキシンが摂取されるわけですけれども、そのうちの何と六三%が魚介類によるものだということが明らかになっているわけですね。これは、魚介類というのはほかの食品に比べて圧倒的にダイオキシン濃度が高いというのが一般的にあるわけです、事実としてね。

 アメリカでは十数年前から魚介類について個別の基準を設けたんですね。それから、EUでも二〇〇四年から個別の基準を設けているんですよ。でも、日本では個別の基準や指針というのはないんですね。要するに、魚食文化の日本がですよ、肉食文化の欧米よりももう圧倒的に対策が立ち後れているという事実があるわけですね。

 まず、何よりも魚介類について緊急にダイオキシン摂取の個別基準というのを策定するのが当然じゃないか、遅過ぎるんじゃないか。これをやれないとかやらないという理由は私はないと思うんですね。いかがですか。

●木下 水産庁長官

 現在の耐容一日摂取量、TDI四ピコグラムは、御質問のとおり、厚生労働省なり環境省の審議会の中で決定されたというふうなところでございます。

 確かにいろいろな数値挙がっておりますけれども、人の食生活につきましては相当ばらつきがある、あるいは魚介類のダイオキシン濃度につきましては同一魚種あるいは同一地域でもばらつきがあるというふうに考えております。したがいまして、現段階で魚介類につきまして個別に基準を設定するということにつきましては、私ども、なかなか困難な面があるというふうに私どもは考えておるところでございます。

 個別食品基準の設定の必要性につきましては、今後、我が国におきますダイオキシン対策の進展、あるいは多くのいろいろな情報を現在収集しているわけでございますけれども、その中での検討すべき課題だろうというふうに思っております

○中村敦夫

 ばらつきがあるからこそ個別基準というのは必要なんですよ。そして、困難と言いますけれども、ほかの国がやっているんですよ。どこが困難なんですか、それで。これはやるべきもうはっきりした課題じゃありませんか、農水大臣。

●武部勤 農林水産大臣

 まあ、いろいろと技術的な困難があるとかばらつきがあるとかということはあるんでしょう。しかし、水産庁としての責任は、国民に安全で安心な水産物を提供するということが水産庁、農林水産省の責務でございます。したがいまして、ダイオキシン類についても重要な政策テーマと私は今後重要に受け止めて、諸外国の政策動向や国際機関の評価動向等も参考にしつつ、積極的な対応、今後の政策の在り方、対応の在り方、どういう対応が望ましいのかということを含めて真剣に検討してまいりたいと、このように思います。

○中村敦夫

 水産庁が積極的な対策とか政策とかもう打ち出せないようですから、これはまあ農水省としてあるいは政府として、こんなもう要するに当たり前の、どの国もやっていることぐらいはきちっとやるように努力していただきたいと、お願いします。

 おととい、農水委員会の休憩時間に大臣にも時間取っていただいて、有明海の漁民たちを紹介して、いろいろと彼らの声を聞いていただきました。また、農水委員会では、ダム排砂による富山湾の漁業被害について質問し、また、夜は有明海の漁民たちの集会にも参加してまいりました。

 彼らはみんな漁業を中心にして生計を立てているんですね。できることならば、子供や孫にもそれを継いでほしいと思っているんです。武部大臣もお会いになったあの漁民たち、みんな働き盛りで、非常にたくましい人々なわけですよ。これこそ水産基本計画が理想的な漁業の担い手として想定している意欲的な漁民そのものなんですね。

 しかし、こうした人々が漁業を続けられないという事態に直面しているんですね。それも、諫早湾干拓事業とか、あるいは出し平ダム、宇奈月ダム、こうしたいずれも役所や公営企業の事業によって被害を受けているということなんですが、これは大きな矛盾があるわけですよね。

 こうしたことに関して、水産庁はこれまで一体何をしてきたのか。つまり、漁民や水産資源保護の観点から、省内あるいは他省庁に対してどのような働き掛けを行ってきているんですか。

●木下 水産庁長官

 水産庁におきましては、ダムなどの事業計画の策定段階におきまして、他省庁あるいは省内も含めまして、事業者などから協議を受けております。周辺漁業関係者の調整なり水産関係施策や漁場環境への影響等につきまして確認をし、必要に応じまして水産動植物の生育環境に配慮するよう求めているところでございます。そのような点を含めまして、関係府省へ要請を行ってきているという段階でございます。

 もとより、水産庁といたしましては、それぞれ各省がそれぞれの所掌の範囲内で実施をしているという事業でございます。率直に申し上げまして、調整権限を有してないというところでございますので、取り得る対応にはおのずと限界があるというふうに認識をいたしております。

○中村敦夫

 最初から限界があると認識しているんじゃこれは何も進まないんじゃないかなというふうに思いますけれどもね。

 水産庁という役所についていろいろ関係者から聞いてみましたら、一般職員なんかも水産大学出身者で大変海が好きだ、魚が好きだ、そして良心的に仕事をしている人が大変多いということなんですね。しかしながら、専門家とか水産関係の人々に水産庁という役所全体についての感想を求めると、非常に評判が悪いんです。

 ある人はこういうことを言っています。特に水産庁とほかの行政機関との関係ということについて、縦割り、下請、露払い、こういう言葉を言ってやゆし、あるいは切り捨てているわけですね。つまり、縦割りというのは、もうとにかく自分の親省庁にもほかの省庁にも何にも物が言えないと。下請というのは、ほかの省庁だとか公的機関だとかが漁場を汚染したときに、とにかく漁業振興策だけやっている下請だと、こういうことなんです。露払いというのは何かというと、ひどい場合には漁民の声を封じる仕事までやっていると。大変にきついそういう評価がどうやら一般的なようなんですね。

 水産庁は、そうした公共事業によって漁場が汚染され、漁民が困るという一つの大きな構図があるんですよ、それで要請していると言うけれども、しかし、おのずと限界があるというのでは何の役割も果たしていないということになるんじゃないですか。もう少ししっかりと自分たちの立場というものを主張して問題を解決していくというような姿勢はないんですか。

●木下 水産庁長官

 私ども、今後の日本の漁業の基本計画を策定したところでございますけれども、そのような漁業となるよう、今後とも、漁業への影響について意見を提出するなど、最大限の努力を払っていきたいというふうに考えております。


○中村敦夫

 そういう一般的な話ではなくて、やっぱりもう何というんですか、水産庁はこんなものだと、全体として。働いている人たちは本当に何かやりたいと思っても、その意欲が生かされていない官庁だと。これは官庁じゃなくて盲腸だと言っている人もいるんですよ。

 どうですか、水産庁を見て、農林大臣。

●武部 農水相

 水産庁としましても、包括的に考えて、農林水産省といたしましても重大な転機だと、私はこう認識しております。でありますから、私どもは消費者に軸足を置いて水産行政を変えるという決意表明をしているわけでございます。

 水産庁としての基本理念といいますか、資源の適切な保存とか管理とかいう漁場環境の保全、改善や魚介類の安全性の確保とか意欲のある担い手の確保育成と経営の安定と、こういった崇高な理念に基づいてこれまでも努力はしてきていると思うんですけれども、今後は、私は率直に申し上げまして、私も地方議会議員やっていましたから、もう水産庁まで行かなければ問題解決できるのになと思うことも間々ありましたね。そういう意味では、中央省庁の縦割りの問題だけじゃなくて、地方分権というそういう考え方も取り入れていかなきゃいけないんじゃないかと、このように思います。

 同時に、その反対もありますね。非常に国際化の中で広域的な観点から資源管理も考えていかなきゃなりませんし、漁業調整の必要性もありますし、そういう意味では、私自身といたしましては、おのずから限界があるなどとは思っておりませんで、不可能を可能にするような決意で、やはりあるべき水産行政、農林水産政策に向けて大胆な見直し、改革を進めていきたいと、このように考えている次第でございます。


○中村敦夫

 前回も今回も農水委員になって初めて水産庁長官の答弁をまともに聞いているわけですけれども、その答弁を聞けば聞くほど、どうしても水産庁というものの存在意義というものに疑問を感じざるを得ないんですね。

 要するに、水産庁の最も死守しなきゃいけない目的というのは、漁民の生活と権利を支えること、それから豊かな漁場を守ること、安全な魚介類の供給を確保することという物すごい大きな役割があるわけですよ。ところが、農水委員になって関係者からいろんな声が届きますけれども、漁業権だとかそういうもろもろの漁民の権利が侵されている、それから漁場が公共事業の汚染で破壊されている、そして魚介類がかなり汚染されているという、そういう事実ばかりで、この大きな目的の遂行に水産庁が本来の役割を実質的に果たしているのかどうかということが大変疑問に思うんですね。

 長官自身、こういうことに対して、水産行政に関する哲学というものはおありでしょうか。


●木下 水産庁長官

 私ども、水産業を活力ある産業として発展をさせたい、あるいは国民に対して安全で新鮮な水産物を安定的に供給していくというのが私ども水産庁の責務だというふうに考えております。水産基本法の中でも、水産物の安定供給の確保、水産業の健全な発展というところでございます。

 したがいまして、私ども、このような水産基本法に掲げられている二つの理念を的確に達成していくために、一つは日本の周辺水域の資源の適切な保存の管理、それから二つ目といたしましては、漁場環境の保全の改善、また魚介類の安全性の確保、また漁船につきましては、意欲のある担い手の確保育成、あるいは経営の安定化等につきまして、我が国水産の持っております力を十分に発揮することにより将来の可能性を最大限追求していきたいと、このように考えているところでございます

○中村敦夫

 抱負だけがいつも同じように一般論で語られるだけでは私は国民も納得しないし、漁業関係者も納得しないんじゃないかなと。水産庁は何をやっているかというと、「おさかな天国」の曲を作ったということしか何か一般の人は思い浮かばないというようなのが現実であります。

 質問はちょっと変わりますが、大臣にお聞きしたいんです。

 私は、新たに設置する食品安全機関について、公正取引委員会のようにその時々の政権や他省庁、業界などから独立性を保ったものができるべきだというふうに考えておるんですよね。新たな食品安全行政を検討するに当たり、新組織は独立性の高い合議制の行政機関として内閣府に設置すべきであるというふうに考えるんですが、いかがでしょうか。

●武部 農水相

 先般のBSE問題に関する調査検討委員会の御提言でも、やっぱり独立性、一貫性という、そういう御提案でございます。私も、先ほど来ダイオキシンの問題の議論も含めまして、やっぱり専門的に科学的にきちっとリスク分析に基づく評価ができるような、そういう独立したものがまず必要だという認識でございます。しかし、今、五日に関係閣僚会議が設置されまして、そこで六月中を目途に議論することになっておりますので、その場では私としてはそのような主張を申し上げたいと、こう思っておるわけでございまして、更に検討を進めていきたいと、このように考えております。

○中村敦夫

 是非とも、新組織が独立性の高い合議制の行政機関として内閣府に設置するという、そういう考えもあるということをこの関係閣僚会議で是非発言していただきたいと思います。

 質問を終わります。