対テロ戦争とエネルギー権益

                          青山 貞一 環境総合研究所所長 
                                                

本稿は、平和新聞の2002年9月5日号に掲載された記事を掲載したものです

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 まもなく9.11から1年がたちます。アメリカの「テロ掃討」を名目とした
アフガン戦争はいまだに続いています。さらにブッシュ大統領は、イラク
への先制攻撃の準備を進めています。「対テロ」を口実にしたブッシュ戦
略の背景に何があるのか? エネルギー権益を拡大しようとするアメリカ
の野望を指摘する青山貞一さんに話をききました。

                          「平和新聞」編集部のリードより。

 9・11に同時多発テロが起こり、その直後、ブッシュ大統領が犯人をオサマ=ビンラディンと決めつけ、アフガニスタンへの徹底した“テロ掃討”戦争開始を宣言したときに、私は、すぐに「これはブッシュ大統領がいっていること以外の背景があるのでは」という直感がしました。


湾岸の経験から

 私の専門は、ダイオキシンなどの環境調査・研究です。湾岸戦争の時に、油田に火がつき大量の原油がペルシャ湾に流れ出ました。私は、研究者として自分の専門分野で何か出来ないかと考え、戦後すぐに現地に調査団を派遣しました。そこで私は、「戦争こそ最大の環境破壊」ということを実感しました。

湾岸戦争では、父親のジョージ・ブッシュがイラク、イラン以外のクウェート、サウジなどの中東諸国への影響力を強化し膨大なエネルギー権益を手にしました。私は、その経験からも、アフガン戦争は「二十一世紀の新たな戦争」であるとか、「正義の戦い」という、いわば報復戦争を正当化する口実とは別の“隠された”背景があると直感したわけです。

 『非戦』(幻冬舎刊)に収録された「米国のテロ報復戦争の愚」の中で、私は、米国が中東で起こす戦争には、常に石油を中心としたエネルギー権益の確保があると指摘しました。

 アフガン戦争もこの例にもれず、エネルギー資源を支配しようとするアメリカの意思が働いているに違いないと思ったのです。

私は、この“仮説”のもと、インターネットなどを使って具体的なデータと情報を集め、背景を調べることにしました。すると“仮説”を裏付けるような事実が次々と出てきたのです。


9.11直前の隠された会合

まず、これは日本ではまったくと言っていいほど報道されなかったことですが、同時多発テロの五十日前まで、ある秘密裏の会合がドイツのベルリンで数度開催されていたという事実です。フランスの公共テレビ局、チャンネル3が「断片からの確信」という番組のなかで明らかにしました。

その会合にはアメリカ、ロシア、パキスタン、ドイツの高官などが参加し、アフガン内戦を終わらせ、タリバン政権の国際的孤立に終止符を打つ和解案を練っていたといいます。

アメリカはそこで、アフガン国内に巨大なパイプライン敷設するかわりに、何十億ドルもの土地使用料を支払うという提案を行っていたのですが、タリバン側は結局最後までその会合に参加することを拒否し続けました。最後に開かれた会合(二〇〇二年七月中旬)でブッシュの特使は、タリバンに宣戦布告ともいえる「捨てぜりふ」をはいて帰国したそうです。

番組内で、この会合に出席していたパキスタンのナイク元外相が次のように証言しています。

「アメリカのトム・サイモンス元大使が『タリバンが適切に振る舞わず、パキスタンもタリバンに責任ある振る舞いをさせることができなければ、米国はアフガンに対し明白な行動をとることもありうる』と語った。・・・米国が九月十一日よりはるか前からタリバンへの軍事行動を念頭に置いていたことを示すものだった」

ナイク元外相は、帰国すると直ちにこのやりとりを政府や諜報機関に知らせたそうです。実際、二〇〇一年七月末から八月にかけて、パキスタンでは戦争の噂が駆けめぐりました。


パイプライン敷設計画

アメリカがタリバンに要求したパイプライン敷設計画は、実はクリントン政権時代からありました。アメリカの石油メジャーといわれる資本は、カスピ海やアラル海沿岸の中央アジアに埋蔵される莫大な量の石油や天然ガスを掘り、それをアジア諸国に売りさばくという戦略を持っていました。しかし中央アジアで掘削した石油や天然ガスをイラン経由で搬出するのは、リスクが大きすぎる。政情が不安定だと、せっかく手に入れた権益が、いつ何時、水の泡となってしまうか分からないからです。そこでアメリカは、中央アジアから北部アフガン、そして親米国パキスタンを経由してアラビア海に搬出する計画を立てたわけです。


米国メジャータリバンを接待

一九九五年、アメリカ石油メジャーのユノカル社が、カスピ海からアフガニスタン、パキスタンを経由してアラビア海に天然ガスを搬出するパイプライン敷設計画を立てて関係当事者に交渉を始めました。

一九九七年十二月十七日の英テレグラフ紙には「米石油王、テキサスでタリバンをもてなす」という見出しで、タリバン代表団が米石油メジャーにテキサスに招待され、VIP待遇で接待されている様子が報じられています。

しかし、一九九八年八月、ユノカル社が進めてきたアフガンでのパイプライン敷設計画は振り出しに戻ってしまいました。クリントン政権がアフガン国内のテロリスト訓練キャンプに巡航ミサイル、トマホークを撃ち込み、ビンラディンの引渡しを執拗に迫ったのです。彼が、アフリカ北部諸国における米大使館連続爆破事件の首謀者であるとしたからです。

パイプライン敷設ルート(想定図) 出典:平和新聞

カルザイの素性

アフガン戦争の隠された“背景”を読み解く上で、見逃すことの出来ない事実があります。アフガン、イラン、トルコの政府筋によると、現在アフガン大統領となっているハミド・カルザイが、なんとユノカル社の最高顧問であったというのです。しかも当時、ユノカル社のアフガンでのパイプライン敷設計画に関連し、カルザイ氏がタリバンとの交渉窓口になっていたというのです。

日本のメディアは、カルザイがアフガン復興会議で来日した時に、ベストドレッサーなどとお気楽な報道に終始していましたが、彼ははじめからアメリカ政府、ユノカル社の「手先」であったと十分推察できるでしょう。


米国の思惑どおりに

最終的にアフガン戦争では、誰が一番利益を得たのでしょうか?結論を言ってしまえば、結果的にすべてアメリカの思惑通りになったと言えるでしょう。

暫定行政機構の議長には、米石油メジャーのユノカル社最高顧問のカルザイ氏が就任し、パイプライン敷設計画も再び大きく動き出しました。五月二十九日、カルザイ議長は、パイプライン敷設の調印式に臨むためにパキスタン入りしたのです(五月三十日付・毎日新聞)。

ブッシュ大統領は、湾岸戦争で父親がしたように、対テロ戦争のもとアフガンや中央アジアの莫大な石油天然ガスの権益をしっかりと手にしたというわけです。


ブッシュ政権とエネルギー産業

ブッシュ戦略の「背景」を考える上で無視できないのが、ブッシュ大統領の経歴です。

ジョージ・W・ブッシュは、ハーバード大学経営大学院を卒業した三年後の一九七八年、石油堀削会社、アルブスト・エネルギー社を設立しています。その会社に、オサマ・ビンラディンの長兄であるサレム・ビンラディンが約七万ドルを投資したとされています。それ以来、ブッシュとエネルギー産業、そしてビンラディン一族との間には、「深い因縁」があったことにあります。

また、ブッシュ政権とエネルギー産業との関連を調べてみると、その利権的な性格がはっきりと見えてきます。チェイニー副大統領は、十万人の社員を擁する石油関連企業、ハリバートン社のCEOを歴任しています。ライス安全保障担当大統領補佐官も石油関連産業に関与しています。


真実を明らかにして

これらのような事実を重ね合わせてみるならば、アメリカが「テロ根絶」の名の下に、圧倒的な軍事力を背景にして中央アジアや中東の石油、天然ガスを支配し、経済的にも利権を分配するという側面が浮かび上がってきます。

人口では世界人口の四%程度にすぎないアメリカは現在、世界のエネルギーの約四分の一を消費しています。一方で、軍事費は世界の総軍事費のなんと四割近くを支出しているのです。

ブッシュ政権になって、エネルギーと軍事をめぐる動向はこれまでになく露骨なものになっています。

ブッシュ大統領は現在、「対大量破壊兵器」を口実に、イラクに対する先制攻撃に踏み込む構えを見せています。これにも、アメリカの言う事を聞かない産油国イラクに、武力でアメリカの傀儡政権をうちたててエネルギー権益を拡大するという意図が隠されていると私は思います。

冷戦構造が崩壊し唯一の超大国となったアメリカの暴走を止めることは、究めて難しくなっています。しかし、これに対する批判の声や慎重論も広がりつつあります。ドイツのシュレーダー首相は、アメリカのイラク攻撃には「金も兵も出さない」と表明しました。また、アメリカ国内でも元国務長官のキッシンジャーや、父ブッシュ元大統領の安全保障担当補佐官だったスコウクロフトが相次いでイラクを先制攻撃すべきではないと発言しています。 


日本政府ははっきりNOを!

日本の政府首脳は、まだ是か非かの立場を表明していません。アメリカが日本に対して協力を求めてくるのは明らかです。その時に小泉首相は何と答えるのでしょうか?ドイツと同じように日本がはっきりとNOと言えば、大きな抑止力になるでしょう。

日本でもアメリカでも、最終的に政府を動かすのは国民です。しかし、戦争が起きるときには、いつも真実が隠されます。真実を明らかにして、多くの人々に知らせていくことが重要だと思います。 

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