〜戦争の陰にエネルギー利権あり〜

石油小国ニッポンは「ほどほど」の定常社会めざそう
  
環境総合研究所所長 青山貞一さんに聞く

SENKI 2003年3月5日号掲載

本ホームページの内容の著作権は筆者にあります。無断で複製、転載することを禁じます。

イラク攻撃不支持賛同署名

タイトル:イラク攻撃は最大の環境破壊
戦争のにエネルギー利権あり〜

編集部:米軍はイラク戦争の準備を進めていますが、戦争と環境問題、資源エネルギー問題との関連についてお聞きしたいのですが。

■油井引火で東京レベルの汚染源出現

★私はローマクラブの国際事務局に9年ほどいたのですが、ローマクラブはすでに30年以上も前に「成長の限界」という報告書の中で、今のまま先進国が資源・エネルギーを湯水のように使っていれば21世紀の半ばを前後して地球全体のエネルギー危機が来ると警告していました。ブッシュの戦争の背後にも、まさにそうした資源エネルギー問題が存在します。そのことをお話しする前に、まず戦争こそが最大の環境破壊であることを湾岸戦争を例にお話ししましょう。

 環境問題を40年近く専門に研究してきた立場から言わせてもらえば、「戦争こそ最大の環境破壊」です。12年前、父ブッシュの湾岸戦争でも深刻な環境破壊が生じました。実は91年1月に湾岸戦争が始まる前の年の秋、研究所の同僚の池田こみちさんにNASAなど色々なアメリカの連邦機関を訪ねてもらいました。戦争が開始された場合の環境被害についてシミュレーションするためです。

 戦争が起これば、1000くらいあるクウェートの油井に火がつく可能性がありました。その場合、どのぐらいの量の油が燃えると、どのぐらいの環境被害が出るのか。一日単位に燃える油の量が1000万バレル、500万バレル、100万バレルの三つのケースを想定して大気がどれくらい汚染されるのか計算してみたのです。

 そうすると500万バレルという中レベルのシナリオでも、当時ドイツ一国が排出していたのと同じぐらいの量の炭酸ガス排出量となることがわかりました。つまり、突然ある日ドイツ一国が地球上に現れたぐらいの量の炭酸ガスが排出されるわけです。

 500万バレルの油が燃えると窒素酸化物や硫黄酸化物についても、東京中で排出されているのと同じぐらいの量が排出されることがわかりました。つまりペルシャ湾岸地域に、東京と同じぐらいの汚染源が突然出現するということです。ちなみに窒素酸化物というのはディーゼル車などからも排出されるもので、今東京の石原慎太郎知事が騒いでいるやつです。硫黄酸化物というのは、四日市ぜん息などの原因となった物質です。

 以上は、あくまで油井に火がついた場合の話ですが、戦争となればそれにプラスして戦闘行為自体による環境被害も発生します。航空母艦がペルシャ湾まで出撃し、ジェット戦闘機や輸送機が空を飛び回り、M1等の最新鋭タンクが砂漠の辺りを走り回れば、当然大量の炭酸ガスや汚染物質が大気中に排出されます。ダーランの米軍基地からクウェートまでは1000キロぐらいありますから、この距離を毎日ものすごい数の戦闘機・爆撃機が往復すると、ものすごい量のジェット燃料を消費することになります。

 こうして計算した数値を総計した結果私たちは、この戦争(湾岸戦争)は地球温暖化をはじめとする地球規模の環境破壊を一気に加速する可能性があるという結論に達したのです。

 私たちの作成した報告書は『エコノミスト』等にも掲載され、非常に大きな反響を呼びました。当時そんなことを考えた人は世界的にもあまりいませんでしたから。これまで人類は、戦争による環境被害なんてあまり考えてきませんでした。しかし戦争では戦闘行為によって人が死ぬだけではありません。戦争は膨大な資源エネルギーを浪費したあげく、深刻な環境被害を引き起こします。湾岸戦争の場合なら、油井の引火による大気汚染、油流出による水質汚濁です。湾岸諸国には酸性雨が降り、南アジアには「黒い雪」が降りました。

 湾岸戦争終結後に私たちが行った調査では、実際にクウェートなど戦場近くの住民には、ぜん息などの呼吸器疾患の増加など甚大な健康被害が出ていました。湾岸戦争では戦後劣化ウラン弾被害によるガン患者の増加も明らかとなっています。

 私たちは、戦争が起こる前に「戦争の環境アセスメント」をやったわけですが、戦争がある程度終結した段階で現地での「事後モニタリング」もやりました。戦争終結直後に、私にはビザがおりないので、テレビ局のクルーに測定器を持たせて、使い方を教えてサンプルを採集してきてもいました。彼らが採集してきたサンプルを分析したところ、ほぼ私たちの想定したとおりの環境被害が生じている実態が明らかとなりました。その分析の結果は、「ニュースステーション」などで報道され、湾岸戦争による環境被害の実態に警鐘を鳴らすことになりました。

■メジャーの代理人だったカルザイ大統領

編集部: 坂本龍一監修の『非戦』所収の「米国のテロ報復戦争の愚」で青山さんは、アフガニスタン戦争におけるアメリカのエネルギー権益について言及されていますね。

★9・11以降アメリカの報復戦争はアフガニスタン攻撃から開始されました。その時ブッシュ大統領は「正義の戦争」だといったわけですが、そんな簡単な話にはとても思えなかった。直感的に感じたのは、石油なりエネルギーに関わる利権、権益があるに違いないということです。

 9・11の時点で詳しいことが分かっていたわけではありません。今はインターネットの時代ですから、そうした仮説に基づいてインターネットを検索してみたのです。すると、アメリカの戦争とエネルギー権益を結びつける議論が、欧米では少なからず存在することが分かったのです。

 アフガニスタンそのものにも石油や天然ガスはあるのですが、カスピ海沿岸など中央アジア諸国は、石油や天然ガスなどのエネルギー資源の宝庫です。冷戦構造終結後、トルクメニスタンやカザフスタンなどのカスピ海アラル海沿岸諸国はロシアの支配から脱します。そこに目をつけたのがアメリカです。アメリカは冷戦終結後の早い時期から、カスピ海沿岸諸国のエネルギー開発に様々な形で参入していました。しかし内陸部の天然ガスや石油は、外洋まで輸送する必要があります。そのためのパイプラインをどこに建設するのか。それがアメリカにとって大きな問題だったのです。

 一番いいのは、イランを経由してインド洋に出すことです。しかし周知の通りイランとアメリカは歴史的な問題を抱えています。一方CIS(独立国家共同体)経由だと、将来状況が変化した場合、パイプラインが接収されてしまう恐れがありす。中国に関しても同様です。となると、アフガニスタンを経由してパキスタンからアラビア海に出すしかない。パキスタンはほぼ親米になっていましたから、あとはアフガニスタンのタリバン政権だけが問題だったのです。

 いろんな情報をつなぎ合わせたり、重ね合わせたりしていくと、アフガニスタン戦争の背後で、アメリカのメジャー・石油資本がそういうことを考えているらしいことが分かってきました。
 しかもブッシュ親子、特に現大統領のブッシュは、大学院を卒業してからまず最初は自分で石油会社を創り、そのあとは中規模、大規模の石油会社を渡り歩き、インサイダー取引まがいのことで利益をあげてきた人物です。どうやらブッシュ政権は、9・11を「これ以上またとないチャンス」ととらえてアフガニスタン攻撃にのりだしたふしがある。

 お父さんのブッシュは、湾岸戦争によって世界第1の石油埋蔵国サウジアラビアに米軍を駐留させることに成功しました。その結果アメリカは非常に重要な軍事的拠点をペルシャ湾岸に得ることができました。それと同じように息子のジョージ・W・ブッシュも、9・11を利用してアメリカのエネルギー権益を拡大しようとしているのです。

 アフガニスタン戦争の背後にアメリカのエネルギー利権があるのではないかという私の仮説は、事態の進展によってほぼ裏付けられたと思っています。非常に重要な事実は、タリバン政権崩壊後のアフガニスタン暫定政権の大統領にカルザイが就任したことです。カルザイという人物は、アメリカのメジャーがアフガニスタン周辺で石油を物色したりパイプラインを敷設したりするためのエージェントとしてずっと動いてきた人物です。

 カルザイは、セントガス(中央ガス会社)に身を置いて、しかもアメリカのユノカル社というメジャーのトップの顧問も兼ねていた。ですから9・11以前からアメリカにはしょっちゅう行っていたし、CIAともツーカーでした。

 こうした情報から私は、アフガニスタンにアメリカの傀儡政権ができたら、多分このカルザイという人物が大統領になるなと思っていました。案の定その通りになりましたね。先ほどお話しした中央アジアからアラビア海に至るパイプラインも、カルザイが大統領についたあと着工式が行われています。数千億ドルの敷設料は、2国間援助みたいな格好でカルザイ政権に支払われましたが、その額も事前に私が調べていた額とほぼ同じでした。

 中央アジアからアラビア海にいたるパイプラインの敷設という石油メジャーの永年の懸案の「解決」。これこそがアフガン戦争の隠された本当の意味なのです。

■軍需産業は米国最大の公共事業

★日本の政治家や評論家は「中東の安定と平和」とか分かったようなことをいいますが、人類の過去の歴史を見てみても、お金や権益・利権的なものから戦争をみた方が、よっぽど真実が見えてくる。今回の米軍によるイラク攻撃の理由の一つも、間違いなくイラクの石油です。日本国内の公共事業の問題でも、鈴木宗男事件に端的にあらわれているように、お金の流れ利権・権益から見るといろんなことが見えてくる。国際政治も同じです。

 それに加えて9・11と報復戦争の開始以降、世界中の人々が分かってきたことは、アメリカが世界の総軍事費の40%を占めるダントツの軍事大国になっていたという事実です。世界30カ国に米軍が駐留しているという実態も、9・11以前は世界の人々はそれほど重大なこととは認識していなかったのではないでしょうか。ところが気づいてみたら、「ガリバー」のように唯一の超大国として巨人化したアメリカが見えてきた。だから、ガリバー化したアメリカに対する警戒感は世界中に強く存在するのだけれども、その一方で誰も正面から反対できない構造が生み出されてしまった。

 ブッシュ政権はイラクや北朝鮮によるの大量破壊兵器の開発・輸出を非難していますが、膨大な軍需産業を持ち、しかも大量な武器弾薬を他の国に売っているのはアメリカ自身です。いまや軍需産業はアメリカにとって最大の公共事業です。アメリカは軍需産業を、日本は土建業界を、税金で食わしているわけです。

 石油メジャーをはじめ巨大なエネルギー産業がアメリカを支配しています。周知の通り、アメリカの一人当たりのエネルギー消費量は世界最大で、日本やドイツの倍以上です。アメリカはエネルギー多消費型で環境に悪い国なのですが、生活の質を下げないで今のままのエネルギー消費を続けていきたいから、中央アジアやアフリカなど、中東以外の石油・天然ガスにも手を出したい。しかしアメリカが一番の本命の場所、世界最大の石油産出地域であるペルシャ湾岸地域に手を着けないということはあり得ません。それが今回のイラク攻撃です。

 現在のブッシュ政権の政策について政治学者は「単独行動主義」といっています。ラムズフェルド国防長官などをはじめとするネオコン=新保守主義の人たちの背後には、アメリカ・エネルギー産業と軍需産業という二つの巨大な産業がひかえていて、彼らの意向が強く影響していることを忘れるわけにはいきません。この二つの巨大産業はアメリカの税金をむしりとるだけではなくて、他の国の税金にまで手を出しているんです。アメリカは、湾岸戦争の戦費の70%〜80%をアメリカ以外の国に出させました。日本も130億ドルもの膨大な戦費を支払いました。

 アメリカという国は市場至上主義を一見装いながら、実は大統領が中心になって利権を食い物にする構造がある。だからアメリカにも土建国家日本とはまた違った意味で「官僚社会主義」的な側面がある。口では民主主義とか自由とか言いながら、スターリン時代のソ連の国家社会主義に近いような政策を力ずくでやっている。私はそうした現在のアメリカを、「エネルギー植民地主義」あるいは「新帝国主義」と呼んでいます。

■脱欧入亜、定常状態の社会へ

編集部: エネルギー資源をめぐる争いだとすると、今後も紛争は続くと?

★おっしゃるとおりです。鉱物資源にせよ石油天然ガス資源にせよ、ウラン鉱石ですら早晩枯渇します。とりわけ日本は中東に85%の石油を依存している国です。この不景気の中、さらに原油価格が2倍3倍になったら、それこそ大変です。そういう意味でも「アメリカ言いなり」は非常にまずい。

 今先進国は毎年の成長率がゼロとかマイナスになっています。しかしそれは前の年に比べて成長率が下がっているだけで、国民総生産じたいが減っているわけではありません。毎年、膨大な物量の生産は続けているのです。

 しかし、社会も人間と同じように、あるところまでいったら成長を止め、ほどほどのところで定常状態といいますか、安定状態に移行する必要があります。資源やエネルギー、食料が無尽蔵にあるわけではないからです。このまま大量生産・大量消費・大量廃棄・大量焼却を続けるのには無理がある。とりわけ日本の場合、世界で一番ゴミを燃やしてきました。その結果「ダイオキシン大国」になってしまった。国連環境計画のデータによると、世界で排出されるダイオキシンの半分は日本で排出されています。

 今私たちは、「経済の成長」と「生活の豊かさ」との関係について考え直さなければならないところにきています。私が一番心配なのは、今の日本では自民党から共産党まで、政治家はみな「個人消費をのばす」「経済成長を回復する」とかしか言わないことです。そう言わないと選挙で当選できないからでしょうが、これほど物があふれている今の日本で、これ以上の経済成長が必要でしょうか。

 今の日本は「官僚社会主義」国家です。地方自治体の予算の7割から8割が中央からの補助金で、地方が独自になにかやろうと思っても、ほとんどで何もきない。霞ヶ関の官僚が、補助金や特別地方交付金を餌に、地方を従わせているというのが日本の「地方自治」の実態です。選挙で選ばれたわけでもない霞ヶ関の官僚が膨大な権限と裁量権をもって日本を支配しているのです。

 私が調べたところ、日本の公共事業は世界と比較して2倍から3倍も高い。そうした無駄遣いの結果、ついに今年、日本の国家財政の半分が借金になってしまいました。日本という国の信用だけでそういうことが可能になっているわけですが、その日本国の信用も、国際的な「格付け」はどんどん落ちてきています。このままでは日本は世界から見放されてしまうでしょう。このままでは欧米に「アッシー君」みたいに、いいように利用されたあげく、最後には放り出されてしまいかねません。

 もういい加減私たち日本人も、経済成長の指標でものを考えるのをやめ、本当に自分たちが生き残ることができる「戦略」を考えるべきです。そうすれば、資源小国日本にとって農業と自然エネルギーが極めて大切なものであることが見えてくるはずです。

 なんだかんだ言っても日本の政治家はみな、アメリカにくっついていけばどうにかなると思っているようですが、私は東アジアでもEUのようなものを作って、そこで日本もドイツなりフランスなりの立場・役割を果たしていく方向へと転換していくべきだと思います。EU圏内では、ビザもパスポートもいりません。通貨もユーロに統一されて便利です。いろんな民族も一緒になって生活していこうとしています。東アジアもこのEUを見習ったらどうでしょうか。

 アジアを単に市場として見たり、指導の対象として見るのではダメです。脱亜入欧ではなくて脱欧入亜。もちろんアメリカやヨーロッパと仲悪くするということではありません。比重や軸足をもっとアジアに持ってくるということです。アジアにもEUみたいに共同体を作って、いろんな意味で「ほどほど」のレベルで行く定常状態の社会を考えたい。

 私たちの生活水準をもう少し落とすことも可能だと思います。私は仕事柄世論調査的なこともやるのですが、「物の豊かさ」よりも環境や心の安らぎのほうが大切と答える人がこの10年ぐらいで確実に増えています。ところが日本の政党や政治家はみな、あいもかわらぬ経済成長第一主義で考えている。長野県の田中康夫知事は、いろいろフリクションを生み出しながらも、地域から世の中を再編成しようとしています。「脱ダム宣言」のように公共事業を返上していこうとする田中知事の行動に私はすごく関心を持っているのです。

 
本ホームページの内容の著作権は筆者にあります。無断で複製、転載することを禁じます。